ゲンヤ×ふーひ対談(前編)実況を通して感じたこれまでとこれから:ふーひーブレイク【第4回】

ふーひ

これまで、自分自身の経験や出来事を元にいろんな角度で話をしてきてこの連載。今回は趣向を変えて、同じウェルプレイド所属のゲンヤさんにゲストとしてお越しいただきました。「鉄拳」のイベントや大会でMC、キャスターを務めるゲンヤさんに、同じキャスター目線でいろいろ聞いてみます!

 

現場スタッフは観戦者としての経験値が最強

ふーひ:今回、インタビューということでお越しいただきましたが、あんまり堅苦しくならずに普段どおりに話していければと思っています。よろしくお願いします。

ゲンヤ:
こちらこそ、よろしくお願いします。でも、僕たちは普段から割と真面目な話してますよね。

ふーひ:そうですね。その度時間が足りなくなって、今度ご飯でも行ってゆっくり話そうぜみたいな空気に落ち着くんですけど、結局お互いバタバタして次に会うのはまた現場、みたいな感じですもんね(笑)。

ゲンヤ:
言ってしまえば、今日のこの場もそうですもんね。ありがたいことだとは思いますけど。

ふーひ:仕事の場でまた会えるっていうのは、僕もすごくうれしいですね。それこそ僕は、ゲンヤさんに初めてお会いしたときはまだ全然お仕事として実況をしていなかったので。

ゲンヤ:
あれ、闘神祭とかいました?

ふーひ:いましたよ。でも、僕が実況した「ディシディア」は初日、ゲンヤさんの「鉄拳」は2日目だったので、直接はお会いしませんでしたね。

ゲンヤ:
そっか、そういうパターンもあるね。そしたら、直近で会ったのはEVO Japanかな?

ふーひ:そうですね。あのときはおつかれさまでした。

ゲンヤ:
おつかれさまでした。すでに2月の出来事ですが(笑)。ふーひさんはソウルキャリバーでしたよね。

ふーひ:ですね。どういうイベントになるんだろうと思ってたところもあったんですけど、今思えばほんとに行けて良かったです。各部門の決勝から、最後の「スト5」の決勝まですごく良い試合でしたし。大会、それも合同の大会はやっぱり良いですね。

ゲンヤ:
ゲームの内容は絶対良いものになると思うんですよ。今は選手のレベルもすごく高いし、見てる人もどんどん楽しみ方がわかってきてて。だからこそ、僕らも含めて後付けになる者たちがどうがんばるかって話でもあるとは思うんですけど。

ふーひ:僕が2日目の予選を実況したときの配信スタッフさんは、どういう形が良いかなどすごく積極的にコミュニケーション取ってくれたことを覚えてます。スタッフさんたちともしっかりやり取りできたのはうれしかったし、大事だなとも思いました。

ゲンヤ:
そうだね。実況解説やってると、どういう人たちが運営やってて……みたいな部分もわかってくるのは、普通にしてたら得られない経験だなと思います。現場に入るまでは誰がいるのかとかわからない部分もあるんですけど、見知った運営の人がいると「あ、いるわ」みたいな。一種の安心感みたいなものはありますね。

ふーひ:たぶん、意識的に交流取らないと繋がらない部分でもありますよね。僕ら実況する人間は、運営会社さんからお仕事いただくことも多いので、スタッフの方たちとも繋がりやすい立ち位置ではあるかもしれません。

ゲンヤ:
いわゆる「演者」と呼ばれる人間の中では、特にそうですよね。普段見えにくいところも見えてくると思います。

ふーひ:EVO Japanの会場でも、当日予選を回している人たちの中には、普段いつも東京でお見掛けしている方たちも多かったですね。

ゲンヤ:
どこにいってもいらっしゃいますよね。

ふーひ:最近は特に運営会社の人たちに会う機会も増えてきましたね。僕たちが所属しているウェルプレイドもそうですし、グルーブシンクさんとか、ユニバーサルグラビティーさんとか。

ゲンヤ:
3強ですよね。僕たち実況解説者としての対談とはズレてしまうかもしれないけど、その3社は人の色がそれぞれきれいに分かれているなと思います。

ふーひ:そうですね。職種的には競合だと思うんですが、うまく被っていないように見えるというか。現実的には、被ってないことはないと思うんですけど。

ゲンヤ:
言いたいことはすごくわかります。少なくともこっちからすると、そういう風には見えますよね。ノウハウというか、長所が違うというか。それはもちろんいい意味で。

ふーひ:僕は結構スタッフの人たちとお話するのが好きなんです。僕たち実況者は基本プレイヤーとゲームの魅力を視聴者に伝える存在ですけど。その意識とは別に、やっぱりスタッフのがんばりでイベントは成り立っているので。せっかくならスタッフの人にも、この人が実況で良かったなと思ってもらえると良いなとは思いながらやっています。

ゲンヤ:
ああ、それは良いですね。仕事とは別の、そもそもの自分にとっての「好き」の部分ってことですよね。僕にとってはですけど、やっぱりスタッフさんたちっていわば現場のプロで。普通の観戦者さんたちよりはるかに「観る人」として成熟していると思っているんですよ。

もちろん、仕事内容によるとは思いますけど、現場を回す人たちの中には、自分の仕事がない間はずっと試合を見れるって人たちもいるじゃないですか。

ふーひ:確かにそうですね。

ゲンヤ:
そういう人たちって、多分観戦者としての経験値が最強なんですよ。実況解説をやってると、誰がそういう人かっていうのもわかってくるんです。付き合いが長くなると特に。

その人たちが、「今日は面白い」「あの試合良かったね」とか言ってくれたり、実況中にもその人らがすごく盛り上がったりしていたら、「やっぱ今日の試合イケてるんだな」って思うんですよ。1つの判断基準になる。彼らは正しいというか、信頼できるリアクションをしてくれると思うので。

ふーひ:必ずではないですけど、運営スタッフをしている人たちも、もともとはプレイヤーからスタートしている人は多いと思います。だから、どう見たらいいかわかるってところはありますよね。
僕もゲンヤさんもそれは一緒だし、それぞれのタイトルでスタッフとしての経験も少なからずあるじゃないですか。だから気持ちは共有しやすいし、一緒にがんばろうって気持ちも持ちやすい。

ゲンヤ:
逆に、僕は結構後ろめたいですよ。彼らだってがんばっているのに、なんでこっちだけ注目されるんだ、みたいな。だから、彼らからどういう風に見られてるんだろう、思われてるんだろう、ってイメージを持つことも実はありますね。

ふーひ:それはすごくわかります。なんていうか、スタッフの人たちって超すごいじゃないですか。

ゲンヤ:
そう、超すごいんすよ!

ふーひ:ずっと言ってるんですけど……。選手の方々はもちろんすごいんですけど、それと引けをとらないくらいスタッフの人たちはすごいんですよ! もっと知られてほしいですね。

公式のイベントでもそうだし、コミュニティーイベントとして自分たちで大会開く人もいっぱいいるじゃないですか。どちらにしても、ものすごい技術と熱意を持った人たちがいっぱいいるのに、スタッフの人たちが表に出て名前を知られるシステムが今はないじゃないですか。これは由々しき事態ですよ。

ゲンヤ:
やっぱり、会社や団体の名前になっちゃうんですかね。そういうときは。

ふーひ:あとは代表の方の名前とかですかね。でも、やっぱりそこにいる方々それぞれに役割があるわけじゃないですか。その人らは間違いなくみんなすごいんですけど、名前は出ないんですよね……。

ゲンヤ:
そうなんです。でも、そこが民衆に評価されるようになるシステムは果たしてeスポーツの成熟とともに確立されるのかって言ったら、結構難しい問題ですね。

それに、スタッフの人たちが注目されたいと思ってその仕事をしているかはまた別だから。

ふーひ:それはそのとおりですね。僕ら自身の「すごい人のことを知ってほしい」っていうエゴの面はあると思うし。スタッフの人たち自身に「オレのすごさを外に伝えてくれ」って思ってる人は、今すぐは思い当たらないですね。というか、彼らも自分らのことをすごいと思ってないというか。

自分から見た実況と観戦者から見た実況

ふーひ:最近思ったことがあるんですけど、すごい人たちって自分をすごいと思ってなくて、でも周りの人たちを超すごいと思ってる説ありませんか?

ゲンヤ:
どうやら、そうっぽいですよね。同意できます。

ふーひ:僕が大会とかコミュニティーイベントで会ってきたすごい人たちは、誰ひとり自分をすごいと思ってないんですけど、なんか僕に対しても「ふーひは実況ができてすごいなあ」みたいに言ってくれるし、他の人も自分以外の役割のすごさをずっと話してる。それで自分のことはなんか、只者ですみたいなスタンス。

ゲンヤ:
これは人によるとも思うんですけど、ゲームのプレイングについてもそうですね。僕は今でも鉄拳をプレイしてますけど、すげえ下手だと思ってるんですよ自分では。見苦しいと思う。でも、「いや、言うて強いじゃん」みたいに言ってくれる人はいっぱいいて。
もちろん、お世辞も入ってるんだろうけど、でも中には本気で言ってくれてる人もいると思うんです。そこの認識、つまり自分での評価と外からの認識にズレがあるのは、思うようになってきました。

コメンタリーについても、この認識のズレは以前からありますかね。自分の実況は普通だと思ってますから。

ふーひ:自分のパフォーマンスに対してそう思う気持ちは、わかる部分があります。僕はゲンヤさんよりずっと活動歴が短いので、簡単にわかりますなんて言うべきではないんですけど……。

 

ゲンヤ:
自分のことは普通だと思ってるんだけど、外から見たときには普通じゃないらしいってことを言われて、なんだろうなってこの10年間思ってきたんですよ。

以前に好きなミュージシャンのインタビューを見たんですが、その人が「自分は普通なんですけどね」というようなことを言ったら、インタビュアーの人が「普通の人は、自分のこと普通って言わないですから」っていう返しをしてて。「あ、そうなの?」と思って。

表現者であるのに、自分のことを普通だというのは、どうやら普通ではないらしくて。最近ずっと考えていることの1つなんですよね。

ふーひ:表に立って喋らせてもらってる以上、変に自分は全然なんでみたいなスタンス取るのもあんまり良いことではないなと思っていて。

ゲンヤ:
それはそうですね。

ふーひ:向こうは向こうで自分の腕を信頼して仕事をくれているわけだし、それに対して評価をしてもらってるから次も続いてくれている訳で。
そこは客観的事実として良いと言ってくれる声を素直に受け止めようっていう気持ちはありつつ。でも、自分で考えるとやっぱり主観の話になってくるじゃないですか。自分から見た自分を理想で評価してしまうというか。
そうなると結局、実況だけで見てももっとすごい人はいるし、誰かと比べなくても実際に画面の中で喋っている自分を見直したときに、理想とズレているみたいなのはすごくあるから……。

ゲンヤ:
そうなんですよね。僕が一番思うのは、そのときですよ。画面に映ってる自分が、自分の理想から結構落ちてるというか。満たしてない、達してないっていうシーンを見るときに、そんなに評価されるものなのか?とは思ってしまうのはありますね。

ふーひ:実況そのものが終わったときに、なんとなく自分の中で自己採点ができると思うんですよ。これくらいできたな、みたいな。それは単純に終わったときの自分の素直な手ごたえで感じている部分なんですけど。それに対しても下振れているケースみたいなのが、見返すととやっぱりある。そういうときは結構考え込んじゃいますね。

ゲンヤ:
終わった後に「70点だったな」と思っても見返してみると、「65点やんけ」みたいな感じってことか。

ふーひ:そう。ここでは盛り上げれてよかったなとか、ここではちょっと喋り切れなかったなみたいに、よかったとこ悪かったとこはなんとなく覚えてるんですけど、それに対してですね。なんとなく覚えてる時点で、ダメなんだなとは最近思い出したんですけど。

ゲンヤ:
なんとなく覚えててダメっていうのは、どういうのが良いんですか? ちゃんと覚えてろってこと?

ふーひ:逆ですね。みんなが良かったって言ってくれて、自分でも後から見返したときに納得できるときって、思い返しても実況中何喋ってたかなんて覚えてないんですよ。
動画を見返して、「こんなこと言ってたのか」って気分になる。夢中なのかなんなのかはわからないけど、そういう時は終わった直後はだいたいふわふわした感覚に陥ることが多いです。

ゲンヤ:
なるほど、確かに思い当たる節があります。これは体感的なものなんですけど、今までで一番「良かったね」って言ってもらえた回数だったり、言ってくれた人の熱量だったりが一番多かった大会って割と内容覚えてなくて。
なんで、あのときあんなに言ってもらえたか不思議だったんですけど、多分同じ感覚ですねそれは。今言われて思いました。

ふーひ:いつも「良かった」って言ってくれる人はいるけど、それよりも、もっとガッと反応を頂けるときは、だいたいそうですね。

ゲンヤ:
だって、基本的に人間関係うまく構築しようと思ったらこっちに対して「ダメだった」なんて言ってくるやつなんているはずないんだから、良かったよって言ってもらえるのは普通なんですよね。そりゃそうでしょ。
100人いて、良いと悪いが五分五分だったらそれは50の良かっただけが基本飛んでくるから満足しちゃいがちなんですけど。でもそれは違うから。だけどたまに、あれ、「マジでよかった」が85来たぞ! みたいなことがあって。そのときは、確かに内容覚えてなかったですね。入り込んでたんだろうな。

ふーひ:だからあんまり悪い意見は飛んでこないから、逆に自分の実況をどう改善していくべきかわからないって前にお会いした時話したことありましたよね。

ゲンヤ:
それも無関係な話じゃないですよね。悪い所は飛んでこないから。まあ、見たら見たで「まじかー」みたいになっちゃうんですけどね。わかった覚悟決めるから待って……よし来い! みたいな(笑)。

それが陥れようとする声ではなく、こっちのことを思ってくれる批判であれば最強なんですけど、まあそうもいかないですよね。

ふーひ:聞きようによっては、かなり贅沢な悩みにも聞こえがちかもですね。だから自己採点で改善をしていくんですけど、そうするといろいろと細かい所も気になって、キリがなくなることもありますね。

ゲンヤ:
細かい改善については常にあるし、掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げられますね。で、掘り下げすぎると忘れる。次こうしよ、みたいなのが10個くらいあると3個くらいしかできなくなるんですけど、5個やる! って決めといた方がちゃんと5個できる。

ふーひ:そういった意味では、格ゲーと一緒な部分がありますね。他が疎かになってもこのコンボだけは絶対やるぞ! みたいな上達の仕方。

ゲンヤ:意識配分だね(笑)。そういうのは確かにありそうだな。

【あわせて読みたい関連記事】

ゲンヤ×ふーひ対談(後編)実況を通して感じたこれまでとこれから:ふーひーブレイク【第4回】

ゲンヤのゲームキャスターの始まりから、後進者に関する意見まで、第一線で活躍中の2人がいろんな切り口で熱いディスカッションをする後編。

記者プロフィール
ふーひ
ウェルプレイド所属のMC・実況解説者。
ゲームイベントの場において、公式大会・ユーザーコミュニティ問わず実況をしています。
得意なジャンルは格闘・対戦アクションゲーム。
イベント運営やコミュニティスタッフとしても活動中。

関連記事

注目記事

新着記事