Dasherが日本で見つけた幸福と最高の仲間
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長らく無風だった「LJL最強のトップ争い」に波乱が起きた。波乱の主は福岡ソフトバンクホークス ゲーミング(以下、SHG)のDasher選手だ。
DetonatioN FocusMe(以下、DFM)とのゲームで、トップレーンの絶対王者であるEviを1対1で倒し、会場をどよめかせた。その試合を解説していたLillebeltコーチは、Dasher選手の動きに呆れるようにこう言った。
「わ……あんなサイドステップあります?」
2019年にLJLへやってきてMIDのパワーバランスを塗り替えたDasher選手が、今シーズンはまさかのTOPコンバート、そして昨年以上の真剣度で日本一を目指す矢先の衝撃だった……。
Dasherが日本での1年で感じたこと、TOPコンバートの理由、そして新チームソフトバンクホークスゲーミングの充実度。そんな話を聞いてみたかった。
※この取材はLJL 2020 Spring Week 2終了後の2月1
チームの提案でシーズンオフにMIDを練習
――はじめまして。今年もLJLでDasher選手が見ることができてうれしいです。
Dasher:
うふふ、ありがとうございます。
――去年初めてLJLを1シーズン戦ってみて、率直な感想としてはどうですか?
Dasher:
私が韓国にいた頃も、日本のチームと練習試合することはあったんですよ。でも、そのときよりどこのチームも強くて、特にチームゲームがうまかった。来る前は「自分1人でどこまでやれるかな」って思ってたけど(笑)、想像以上に怖さがあるリーグでした。
――でも、Dasher選手のMIDはめちゃくちゃ強く見えてましたよ。
Dasher:
(満面の笑みで)うれしいです!
――その分、TOPへのロールチェンジはびっくりしました。MIDの自信がなくなった、というわけではないですよね?
Dasher:
んー自分で言うのは恥ずかしいですけど、韓国のときからShowmaker選手とかDove選手とかと当たってたから、LJLのMIDもみんなうまいですけど誰が来ても怖くはなかった。だから去年は、自分でも結構うまくできたかなって思ってます。
――そんな自信のあるMIDから、TOPへロールチェンジしたのはどうしてだったんでしょう。
Dasher:
言っていいのかな?(チームスタッフが頷くのを見て) シーズンオフに入ってしばらくはMIDの練習をしてました。TOPも前にやってたからソロランクではたまに行くけど、LJLでやるつもりはそこまでなかったんですよ。
――ということは、チームからの提案?
Dasher:
そうですね。最初は驚いたけど、考えてみたらLJLにはEvi選手やapaMEN選手のような強いTOPがいて、そこでやられちゃうとゲームの展開がキツくなる。MIDの方がもちろん得意だけど、TOPもちょっとだけ自信があったから、じゃあ私がTOPで勝てばチームが楽になるんじゃないかなって思いました。
――確かに、TOPは影響力がないってよく言いますけど、LJL見てると全然そんな感じしませんよね。
Dasher:
そうですよね。Evi選手はタンクからディーラーまでうまくて韓国でも有名だったし、apaMEN選手もミスしないで駆け引きもうまいし。TOPで勝つのはLJLではすごく大事だと思います。
――Dasher選手にとってTOPはどういうロールですか?
Dasher:
TOPは、相手の顔だけを見て「来いよ来いよ」って1対1で戦う場所だから、ミニマップはあんまり見なくても大丈夫(笑)。集団戦ではダメージっていうより、チームの前にでて「私を見てー」って旗を振る感じかな。
相手の注意を引いて味方に安全に攻撃してもらって、自分はやられるギリギリで下がる。そこからもう1回入っていけたら最高です。
――もうすでに、いろんなタイプのチャンピオンを使ってますよね。
Dasher:
まだ出してないのもあるし、いろいろ出せるのが楽しみです。
コールもプレイも上手いRamune、パパの風格のPooh
――今回のコンバートはRamune選手にMIDを任せた形になりますけど、MIDレーナーとしてのRamune選手はどうですか?
Dasher:
コールもプレイもうまいから、試合ではすごい信頼してます。勝ったら「神様!」です。練習ではときどきミスすることあるけど、やっぱり私より経験もあってベテランだから本番に強くてかっこいい選手ですね。
――せっかくなので他の3人の選手も紹介してもらえますか。
Dasher:
Tussle選手は一番遅くまで練習して、一番早く起きるんです。家族もいるしゲーム以外にも考えること多いはずなのに、頼りになるしなんでも教えてくれて、本当にすごい人です。
――BOTの2人はどうでしょう。
Dasher:
Honey選手は私がチームに誘ったんですよ。でも、一緒にチームでゲームをやるのは初めてだったから心配してたけど、メンタルも強いし、一番年下なのに「俺がキャリーするから」って強気なところもあるし、いい感じです。
――Pooh選手は風格がすごいですよね。
Dasher:
うん、Pooh選手はパパです(笑)。顔もパパだけど、精神的にも他の誰よりも安定してるし、ゲーミングハウスでもちゃんとしてます。すごいです。
――そういえば年齢ってどういう順番なんですか?
Dasher:
Pooh選手が一番上で、Tussle選手、Ramune選手、私、Honey選手の順番です。
――韓国では年上、年下が厳しいと聞きますけど、SHGではどうですか?
Dasher:
んー、みんな友だち、かな? あんまり気にしないで同い年みたいな感じでしゃべってますね。
――確かに、すごく雰囲気よさそうです。
Dasher:
いい感じです。BOTの2人はチームゲーム初めてだし、私もTOPでは初めてだから新人3人みたいなものなんですけど、組んでみたらメンバーのシナジーがすごくよくて、これからもっと強くなりますよ。
Fakerへのリスペクトが起源の「Dasher」
――今シーズンの目標はもちろん……。
Dasher:
優勝!(笑) USGのときもあのメンバーで世界の大会に出たいと思ってたけど出られなかったので、今年は絶対出たい。日本に来た理由はたくさんありますけど、世界大会に出るのがやっぱりドリームだから。
――そのために意識してるチームはありますか?
Dasher:
私が意識してるのはDFMだけです。他のチームも強いけど、やっぱりDFMが一番強いから。序盤負けてても最後には勝つし、不思議な強さがあるチームですよね。去年のSpringで決勝戦で負けたときも、「今回は相手の方が強かった」って納得しました。でも同じくらい練習すれば、次は私たちが勝てると思う。
――SHGはその可能性を持ったチームに見えます。
Dasher:
そう思います。ひとりひとりも強いし、チームのシナジーが最高。負けてもTussle選手が励ましてくれるからすぐ雰囲気も前向きになる。実は髪の毛を染めたのも、Tussle選手の真似です(笑)。このメンバーで優勝したいですね。
――国際大会で活躍したら、韓国や中国へのステップアップも視野に入りますよね。
Dasher:
うーん、今は韓国に移籍したりは考えてないんです。LJL優勝が一番。
――あまり移籍は考えていない?
Dasher:
日本で僕を応援してくれる人たちもできたし、日本語を勉強するのも好き。それに今のチームの選手もスタッフもみんな優しくしてくれて幸せだから(笑)。
もし、私がAria選手やHoney選手と同じ歳だったらわからないけど、韓国には兵役もあってそんなに時間がないなら、LCKへ行ってイチからやるよりは、とにかくLJLで優勝するのが今の一番の目標です。
――楽しみです。それにしてもDasher選手は日本語とんでもなくうまいですね。
Dasher:
えー下手ですよ(笑)。
――いやいや、1年とは思えないです。
Dasher:
日本語はいろんな人が教えてくれたんですよね。Enty選手とKeymaker選手が英語で日本語を教えてくれたり、Tussle選手が何を聞いても教えてくれるからちょっとずつわかるようになってきました。
――Enty選手は韓国語も勉強してましたよね。
Dasher:
実は、オフシーズンにSengoku GamingのBlank選手とHoney選手と3人で大阪のUSJへ行こうっていう話になったときも、Enty選手が一緒に来てくれて、ホテルの予約とか電車とかしてくれたんですよ。ほんとにいい人です。
――Enty選手、かっこいい。移籍しても関係性が続くのっていいですよね。そういえば1つ聞いてみたいことがあったんですけど、「Dasher」っていうサモナーネームはどうやって決まったんですか?
Dasher:
それはですね、MIDならみんな憧れるFaker選手がいるじゃないですか。他にもうまいMIDレーナーは名前の最後に「er」がつく人が多くて、だから私もプロになるときに何かに「er」をつけようかなって考えたんですよ。
――Faker選手へのリスペクトが入ってるんですね!
Dasher:
そうです。Faker選手はみんなのドリームですから(笑)。それでうまいプレイヤーは前に出て攻撃するから、そのイメージでDashに「er」をつけてDasherになりました。
――めっちゃ面白いです。聞いてよかったです。じゃあDasher選手のDash、楽しみにしてますね。
Dasher:
ふふふ、がんばります!
話している40分余りの間にも、Dasher選手はこちらの使った言葉をすぐに自分で使ってみたり、ものすごい速度で日本語を吸収していたのが印象的だった。
隣で練習しているプレイヤーに気をつかいつつ、取材に訪れた私たちに応対しつつ、真剣な話をしたかと思えば、「私のメンタルは実はめっちゃ弱いです」と言いながら本当に楽しそうに笑う。ちなみに、好きな漫画は『約束のネバーランド』だそうだ。
たとえその何割かがプロフェッショナリズムだったとしても、天性のオープンマインドも間違いなく持ち合わせているのだろう。そんな彼が、異国である日本であっという間にチームに溶け込んでいるのはなんとも納得的だ。
一度観た人を引き込む華やかなプレイはもちろん、一度会った人を虜にする人間性。Dasherというプレイヤーのことがとても好きになった。
写真・BUN