「プロは賞金稼ぎの資格があるだけ」今池壁ドンズαが考えるモンストのesports【前編】

WPJ編集部

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全8チームある「モンスターストライク」(以下、モンスト)のプロチームで、もっとも知名度があるのはどこかと聞かれたら、今池壁ドンズαだろう。

日本eスポーツ連合(JeSU)のプロライセンス発行タイトルになる以前から大会で活躍し、実績は群を抜いている。

そんな彼らに、2018年10~12月に開催された「モンスターストライク プロフェッショナルズ2018」のツアーファイナル直前と、優勝を獲得した直後に現場でインタビューをした。

インタビュー後の音声を聞き返して思うのは、モンストの選手の代表格とも言える彼らの、試合に臨む準備やチームとしての在り方が、今の地位を築いているのかもしれないということだ。

プロツアー優勝チームのピック戦略

――さっそく今池壁ドンズαの強さに迫っていきたいのですが、モンストの試合はピックシステムが(※)特徴です。そこの戦略はどう考えているのでしょう? 例えば、1~4番手の順番が選ぶキャラクターに影響することはないですか?

※ピックシステム:モンストの試合で、使用キャラクターを対戦相手と取り合うルール

なんとかキララEL:
番手による基準というよりは、相手チームと同じキャラが使えないというルール上、「1番手にはこのキャラクターしかいない」というオンリーワンのキャラクターであったり、逆に代用キャラクターがいたりする場合などで、ピックの優先度の基準が決まってきます。

例えば「放電」という友情コンボを持つのは「刹那」というキャラクターしか存在しないので、放電が有効なステージでは刹那を取る優先度が高くなります。

相手に取られてしまうと自分たちは使えない、というところがピックシステムの特徴です。

ステージごとのキーとなるキャラクターを把握した上で、

  • 相手に取られた場合
  • 自分たちが取れた場合
  • 相手が先攻ピックなのにあえて取らなかった場合

という場合分けをして、ピックの方針を考えています。

そふぁ。:
相手に取られてしまったら自分たちがやりたいことができないので、自分たちがベストだと思う立ち回りと、オンリーワンのキャラクターを取られたときの立ち回りを用意しないといけないというのは、ピックシステムならではです。

どのキャラクターを取られたら戦略を切り替えるのか、あらかじめ柔軟に対応できるピックを考えておくのか、オンリーワンのキャラクターが取られてしまったら相手の邪魔をするのか、もしくはガチンコでやるのか、というところまで深く考えているのは、うちのチームの特徴だと思います。

――あらかじめステージごとに戦略を深く詰めていくというわけですね。当然、ステージによって考えやすいものとそうでないものがあると思うのですがどうでしょうか?

なんとかキララEL:
そうですね。

それと、相手が何をしたいのかを瞬時に判断しないといけないので、あらゆる可能性を研究しておきます。

まったく知らないパーティーを相手にするのは、めちゃくちゃ不気味なんですよ。どういうペースで攻めればいいのかわからなくなりますし。

――その「攻める」というのは、ピックで相手が狙っているキャラクターを取りにいくということなど?

なんとかキララEL:
いや、プレイ中ですね。

――プレイ中? モンスタ(※)ってタイムアタックですよね?

なんとかキララEL:
本当に細かいことなんですけど、撃つのを早くすればするほどミスをする確率が上がるんですよ。その反面、遅くすれば精度が上がって、考える時間も少しできるので、ミスが少なくなる。

相手より速くクリアするのが勝つ条件なので、そのバランスがすごく大事になります。

自分たちがミスをしなければ勝ちが確定するのであれば、どれだけ時間をかけてもいいわけじゃないですか?

ただ、相手の戦略が見えてこないと、丁寧にやっていいのか、ミスのリスクがあっても早撃ちするべきなのかがわからなくて気持ち悪い感覚を持っていて、そのためにいろいろな戦略を知っておくことは大事なのかなと思います。

※モンスタ:モンストの大会で使用されるesports専用アプリ「モンスターストライク スタジアム」のこと。

――リスクをとって早撃ちするのか、確実に進めるのかの判断材料が、相手の戦略ということでしょうか。では、今までこれは予想していなかった戦略を立ててきた相手はいましたか?

なんとかキララEL:
これ面白いなー、みんななんて答えるんだろう(笑)。

べーこん:
はなっぷじゃないですか?

なんとかキララEL:
はなっぷだよね?

僕ら、トーナメントツアー3戦目(福岡)では初戦で負けてしまったんですけど、その相手ですね。

そふぁ。:
多くのチームが貫通キャラクター4体で組んでいたんですけど、はなっぷだけが3体目に反射キャラクターを採用していたんです。

「炎撃の凶弾」というステージだったんですけど、反射タイプを使うのはリスクがあります。

そのリスクを以前の大会を経験して知っていたんです。

なんとかキララEL:
その時の常識にとらわれていましたね。

そふぁ。:
すごくリスキーな立ち回りだという認識があって、まさに想定外でした。

「カグツチ」というキャラクターを使ってきたんですけど、そこで初めて「あ、カグツチでいけるんだ。」って思ってしまって。

なんとかキララEL:
ピックの4順目で、相手がカグツチを取った瞬間に、自分たちではやったことはないけど、どういう戦略なのか想像がついて、すごく気持ち悪い不気味な感覚になりました。

想定していなかったというより、失念していたって感じですかね……。「それあったかー!」って。

こちらが該当のシーン(44:08~)。カグツチで、壁やブロックの隙間を利用してすばやくクリアしている

プロより上手い?ありすぅが今池壁ドンズαを導く

――戦略を練っていく部分では、チームメンバーの4人の他に、協力してくれるアナリストのような人がいるところもあるみたいですが、今池壁ドンズαはどうなんですか?

なんとかキララEL:
ちゃんとしたアナリストみたいな人はいないですね。

そふぁ。:
ありすぅさん(※)が僕らにとってその役割を担っている気がします。

僕らに「こういうやり方あったけど、これ超えられますか?」みたいな感じで動画を送ってくる。

※ありすぅ:モンスト有名プレイヤー。その腕前は、プロや他の有名プレイヤーからも上手いと称される。

なんとかキララEL:
僕らはそれをヒントにして、実際に相手が同じピックをしてきたらどうするか考えていきますが、メンバー以外の誰かにお願いして調べてもらっているってわけではないです。

べーこん:
ありすぅさんのプレイは予想できないパーティーを使うことがあって、もはや天啓みたいな感じですね。

なんとかキララEL:
僕らが戦略を考える場合は、運の要素をなくしていくなど、とことん追求していくんですけど、ありすぅさんはプロの我々よりも上手い部分があって、「相手にこんなことされたらたまらんよな。」というようなものを出してくるんですよ。

ただ、本番の試合ではリスクがありすぎて出来ないと判断するんですけど、ありすぅさんだったらそういった舞台でもやっちゃうんだろうなって気がします(笑)。

そもそも、ピックでリスクがあるようなパーティーなこともありますし。

――やはりピックが重要ですよね。

なんとかキララEL:
そうですね。

ピックを極めたチームが勝つと思ってます。

そふぁ。:
ステージによって変わってくる気もしますね。

ピックで相手の邪魔をしようにも代用できるキャラクターがいたり、ピックするキャラクターの組み合わせが重要なステージもあったり、その中間のようなところもあるので。

プロライセンスは賞金稼ぎの資格?

――普通にモンストをプレイするのと、モンスタを使った競技としてのモンストってやっぱり違うものですか?

なんとかキララEL:
たぶんみなさんが思っているほど違うものではないんですけど、モンスタでは、より詳細を詰めていく部分はありますね。

モンストはいくら新しい降臨を早くクリアしても、賞金は出ませんから。

でもモンスタでは、戦略を詰めていって勝ち上がっていけばプロになれて賞金が出るという座組になっていて、そこには戦略が求められているので練習するんだと思います。

――2018年にモンストがJeSUのプロライセンス発行タイトルになって、プロツアーという競技シーンができたわけですけど、モンストやって食っていく気持ちが芽生えたことはありますか?

pkrn:
ないですね。モンスト1本でやっていけるほどの感じではないです。

なんとかキララEL:
ある意味、もらえるもんはもらっとくみたいな。

べーこん:
たとえば固定給がいただけるとかだったら変わってくると思いますけど、今は下手したらほとんど稼げない可能性もありますから。

なんとかキララEL:
プロの選手というよりは、賞金稼ぎの資格を持ってるという感じだと思ってます。

絶対に勝てるチームなんて存在しないと思っていて、そんな状況でこれ1本で食っていくということはすごくリスキーな選択なんじゃないかと。

もちろん、やるからには全力でやるんですけど、それとこれとは話が別ですね。

そふぁ。:
個人的には、専業のプロが増えていくよりも、今の僕らみたいな賞金稼ぎの権利は持っていて、仕事をしつつゲームでも賞金を獲得できる形は良いなと思っています。

もちろん、大会で賞金を得て、スポンサーさんもついて生計を立てているプロゲーマーの方がいらっしゃるのは知っていますけど、プロとそうでない人の中間が増えてほしいですね。

なんとかキララEL:
今のところはモンストのプロチームといえば今池壁ドンズαだと正直思うんですよ。

それくらい、いろいろな人に知ってもらっているので、これからプロになりたいという人たちに、プロになるためには仕事や学校をさぼってモンストばっかやってればいいと推奨する立場にはなりたくねーなと考えています。

――プロという肩書があくまで賞金が得られる資格というのは、今までなかった新しい考え方のように思います。

なんとかキララEL:
ただ、優勝賞金が1人10億円出るってなったら話が変わってきますよ(笑)。

pkrn:
そうなったらプロ1本でいいわってなりますよね(笑)。

なんとかキララEL:
みんなに聞きたいんだけど、優勝賞金1億円だったら仕事やめる? やめれんよね?

そふぁ。:
1億円だったらやめられないですね。

pkrn:
僕はやめます。


スポンサーがついているわけではない彼らは、賞金だけがプロゲーマーとしての収入。だが、その専業プロゲーマーではない形があってもいいと語る。

仕事もしっかりこなして、ゲームでも頑張って賞金を稼ぐことがかっこいい世界を体現してくれるのではないだろうか。

続く後編では、練習の様子やチーム結成の経緯について話してくれた。

写真・大塚まり

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記者プロフィール
WPJ編集部
「ゲームプレイに対する肯定を」「ゲーム観戦に熱狂を」「ゲームに、もっと市民権を」
このゲームを続けてよかった!と本気で思う人が一人でも多く生まれるように。
ゲームが生み出す熱量を、サッカー、野球と同じようにメジャースポーツ同様に世の中へもっと広めたい。
本気で毎日そのことを考えている会社の編集部。

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