「国民的スターを生み出す」RAGEプロデューサー大友真吾の思想

キズグチアロエ

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現在日本では、eスポーツ大会と言えば「RAGE」の名前が挙がるのではないだろうか。それぐらい、RAGEはeスポーツの発展を支える大きな要素の1つであると言えるだろう。

しかし、eスポーツの発展とともに、観戦モラルを始めとしたさまざまな問題も起こりつつある。

本稿では、RAGE総合プロデューサーであるCyberZの大友真吾氏に聞いたeスポーツの現状や、eスポーツが抱える問題への考えを紹介する。

eスポーツ界の羽生結弦を生み出したい

――最初に、大友さんがeスポーツ業界に足を踏み入れたきっかけを教えていただけますか。

大友:
僕は2007年にサイバーエージェントに入社して広告代理店事業(部門)の営業として経験を積んで、2009年にはCyberZの立ち上げメンバーになりました。そして会社を立ち上げると同時に、CyberZをサイバーエージェントを超えるようなメガベンチャーにしたいという気持ちがあったんですよね。

そこで今後成長していくにはどうするべきかを考えたら、主な事業であったスマートフォン広告事業だけではなく、何か新しいことに挑戦しないといけないと思いました。その結果、広告事業と掛け算的にシナジーを生めそうな配信サービス「OPENREC.tv」をCyberZとして仕掛けることを決めました。

これからはゲーム配信が伸びるだろうという考えから、OPENREC.tvをライブストリーミング中心のゲームに特化した配信サービスにしようと決めていたんですが、OPENREC.tvを伸ばすためにはイケてるコンテンツを自社で持っていたほうが強いと気づきました。

そこでゲームで人気のコンテンツは何だろうと調べたときに、海外ではeスポーツの大会配信がよく視聴されていると知りました。

当時の日本ではeスポーツ大会がまだ数少なかったので、じゃあCyberZが一番イケてるeスポーツ大会の「RAGE」を作って、その後対戦型ゲームが登場したときにRAGEで大会をやりたいと、そしてeスポーツ大会といえばRAGEだよねと言われるために、eスポーツへの参入企業がまだ少ない2014年末にCyberZは足を踏み入れました。

――プロライセンスやJeSUのような団体が出てくる見通しはありましたか?

大友:
ある程度想定できていましたね。

なんとなく描いていたのが、eスポーツはプロの格闘技やサッカーのような興行として発展していくことだったので、トップオブトップを決める大会もあれば、国ごとのリーグやコミュニティ大会が今後出てくるのも予想できていました。

eスポーツのコンテンツを作って丸4年が経とうとしていますが、OPENREC.tvやRAGEも描いていたとおりに展開できています。eスポーツを文化にしていくという目標についても順調ですね。メディアの取り上げられ方を考えると、現在は少しバブル的な状態だと思いますが。

――2014年末にeスポーツ事業を立ち上げた翌年の2015年1月には、最初のRAGEとなる「RAGE vol.1 ~Vainglory Japan Cup」が開催されました。RAGEを作る上で、どんな苦労がありましたか?

大友:
RAGEを作るまでに大会運営をしたことがなかったせいか、新しい大会をやるぞと発表したら、意外と批判コメントが多かったんですよ。ですので「CyberZわかってるじゃん」と既存のeスポーツコミュニティに認められるような、ポジティブな意見が挙がるようにしていきたいとは思っていました。

未経験者だけで大会運営をすることになるので、始めにOPENREC.tvで活動しているゲーマーやゲームに携わるさまざまな方に「どんな大会がよくて、どんな運営は嫌だ?」と話を聞き、それを元に設計したんです。でも、ゲーマーの意見に忠実なだけの大会では興行として発展していくのは難しいとも考えていたので、ゲーマーの理想をバランスよく取り入れるように思考錯誤していました。

――その後はeスポーツコミュニティ出身の人が運営チームに加わったとお聞きしています。

大友:
そうですね。2016年ぐらいから元ゲーマーや、ゲームが好きな人が運営チームに増えたので、ゲームに詳しい人とそうでない人のバランスはよくなったと思います。eスポーツの興行をマスに広げていくためには、ゲームのプロフェッショナルだけでなく、興行やプロモーションのプロが運営チームに必要だと考えていますね。

――RAGEは、スター選手の育成や創出にも力を入れているとお聞きしています。具体的には、どんなことをしているんでしょうか?

大友:
チーム運営をしているわけではないので、何か専門的なことをしているわけではないです。

ただ、RAGEのチャンピオンやファイナリストをスターにしてあげたい気持ちは強かったので、以前まではRAGE関連の撮影会に足を運んで「これからは多くの人にこれまでとは違う角度で見られることになる」と、選手としての意識を持ってもらうために私が自らアドバイスをしていました。絶対スター選手になれというわけではないですが、今後OPENREC.tvの番組に出演することもあるからと、意識付けをしていましたね。

あとは、自然とその意識を芽生えさせるためにRAGEの演出面には特にこだわりました。壇上の位置が観客席よりも高くて、照明もすごく当たっている豪華な大会で優勝したということを意識してもらえれば、自ずとかっこつけてくれるようになるかなと。

一体どこからその予算が出ているんだと思われるぐらい、華やかな演出の大会を実施し続けたので、出場選手にスターの自覚を持ってもらうことに成功したと思っています。

――スター選手とは、具体的にどんな存在だと考えていますか?

大友:
わかりやすく言えば、フィギュアスケート界の羽生結弦さんですね。羽生さんの大会結果と演技だけは見るとか、何ならフィギュアスケートには興味ないけど羽生さんだけは追いかけるみたいな。それぐらい注目されるような国民的スターをeスポーツ界で生み出したいと考えています。

――現状では、まだ国民的とも言えるスターは誕生していないように思えます。これからはどのようにして実現していきますか?

大友:
RAGEは2019年7月よりテレビ朝日さんとパートナーを組ませていただいたので、地上波放送を通じてスター選手を生み出せないかと考えています。テレビ朝日さんはフィギュアスケートをメジャースポーツにした存在だとも言えますし、水泳のイアン・ソープ選手と日本の北島康介選手をライバル関係に見立てて、両者をスターに担ぎ上げています。

そして地上波のノウハウが詰まったドラマの作り方や演出、そしてドキュメンタリーなどは僕らがトライしていきたいことの1つですね。

――スター選手には、活動を見届ける観客の存在は必要不可欠だと思います。しかし、日本と海外では歓声などの観客のリアクションに差があると思います。日本の観戦文化を盛り上げるために、何か工夫はされていますか?

大友:
確かに日本だと、まだまだ海外と比較すると歓声は上がりにくいですね。ただ、日本ではまだ観戦をするためだけにイベントにいく文化は、一部のゲームでしか成り立っていないと考えています。

これはトライ&エラーしながら気づいたことなんですが、一般来場者でも参加できるようなイベントが併設されていたほうが、圧倒的に来場者が増えるんですよね。ですので、大会を観戦する文化がまだないタイトルでは、まずは参加型のイベントを用意することをおすすめします。そして、イベントに参加するついでに大会の様子も見て、上手いな、かっこいいなと思ってもらえるのが理想ですね!

配信コメントでの誹謗中傷は絶対に許さない

――eスポーツの発展には現地の観戦だけでなく、オンライン配信での観戦も欠かせません。ですが、最近は心無いコメントが目立っていると思います。見つけ次第コメント削除、もしくはアカウントを規制するという後手に回る対策しかできていないのが現状だとは思うのですが、今後はどんな対策をしていきますか?

大友:
この問題、なかなか難しいんですよね。僕らとして一番悲しいのは、僕らが注目してスターにしていきたい選手が配信で心無いコメントを浴びせられて、もうRAGEに出たくないと感じさせてしまうことなんですよ。その話を聞くたびにすごくショックで、悔しくてやるせない気持ちになってしまうので、なんとしてでも選手や演者を守りたいなという気持ちがあります。

Cygamesさんも先日、Shadowverseの観戦に関するルールを発表しましたし、OPENREC.tvでもチャット制限対策などはしているんですが、いたちごっこになっているのが現状です。

とにかく僕らが誹謗中傷は絶対に許さないぞというスタンスを持つことが、現状でできることなのかなと考えています。コメントやアカウント規制についてはやりすぎとの声も出ているんですが、それぐらい運営が誹謗中傷に対して敏感で、本気で対策しているというメッセージを伝えたいがために厳しめにしています。

ですので、現在のコメント欄は以前に比べると平和な状態だと思うんですよね。この調子で平和な観戦コメントになっていけば、コメントの規制を緩和しようとは考えています。おそらくですが、誹謗中傷コメントが書かれてしまうのは、コメント欄がすでに荒れてしまっている場合だと思うんです。逆に平和なコメント欄だと誹謗中傷のようなコメントをしにくくなると思うので、まずは観戦チャットを淀みない池にしてから経過を見守りたいと思います。

――なぜ、ゲーム配信はこうも荒れ気味になってしまうんでしょうか?

大友:
僕が業界関係者に相談したときは、ゲームにかぎらずネットのオンライン配信は昔からこんなもんだよという結論になりましたね(笑)。

どんなコメントする場なのかの空気感が大事なので、もし少しふざけた発言が出ても大喜利で終わるようなコメントが望ましいです。

個人の配信では変なコメントがきたら視聴者がそのユーザーをBANをして、ファンが配信を守っている場合が多いですね。もちろんオフラインの場でヤジが出るのはスポーツでもよくあることですが、一部は許容できないと思います。度を超えたコメントが続くという状態はどうにかしていきたいですね。

具体的にしてきたことと言えば、ノーモア映画泥棒の動画を参考にした映像を流したこともあったんですけど、効果は一瞬だけでした。あとは、啓蒙系の心に訴えかけるような映像も流してみようかなと検討したこともあります。「軽はずみなコメントで人を傷つけているかもしれません。それでもこの送信ボタンを押しますか?」みたいな(笑)。

まとめると、運営ができることはできるだけポジティブなコメントが飛び交う空気感のあるコメント欄を作ることなのかなと考えていますね。


コメントは節度を持ってと呼びかけるだけでなく、具体的な施策を実践してきた大友真吾氏。普段している何気ないコメントでも、一度内容を見返してみてはいかがだろうか。

後編では、eスポーツ業界で働くために必要なことが語られた。

写真・大塚まり

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CyberZの大友真吾氏は、大会運営プラットフォーム「PLAYHERA」を通じて地方のオフライン大会の活性化も狙っているそうです。そして、日本にeスポーツの聖地ができることを期待しています。

記者プロフィール
キズグチアロエ
「#コンパス」にどっぷりハマり、「#コンパス」に人生を捧げると決めた、傷口だらけのアロエ。
「#コンパス」に携わるクリエイターたちと、仲良くなりたいフリーライター。
どんなヒーローでもそこそこ扱え、特定のヒーローというよりもヒーロー全員が好き。

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