ぷよぷよ史最高の名試合 ALF VS かめ100本先取を科学する

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「ぷよぷよ」シリーズの長い歴史の中で、数多くの大会やリーグが開催されてきた。

中には名試合と称されるものもあり、歴史に残る1戦としてYouTubeなどに記録が残っている。

この記事では、ぷよぷよのプロライセンス所持プレイヤーであり、シリーズのイベント企画や運営、実況解説などでも精力的に活動するlive選手にご協力いただき、名試合の解説をしていただいた。

ぷよぷよを観戦するときに、どこをどう見ればいいのか。積み方以外にも、見どころがあるぷよぷよの世界が伝われば幸いだ。

伝説のALF対かめ ぷよぷよ通100本先取

今回ピックアップした試合は、2010年3月22日に行われた、ALF対かめの100本先取。

この試合が行われた前日には、ぷよぷよ通の最強プレイヤーを決める「第1回ぷよマスターズ大会」が開催され、そこで優勝したのがALFさん。対するかめさん(現Kamestry)は、その前年に行われた第0回ぷよマスターズ大会の優勝者です。第0回大会は試験的な意味合いが強かった大会で、今回取り上げるALF対かめは優勝者同士による真の全1を決めた試合になります。

この1試合を皮切りに、全1が1試合ごとに変動するのは非効率、対戦しなければ己の地位を守れる、といった問題点にメスが入り、AC版ぷよぷよ通S級リーグの開催へと繋がっていったという、歴史的に重要な意味を持つ1戦でもあります。

100本選手の終盤の映像。1P(左)がALF、2P(右)がかめ

2:30~:互いの盤面を見合う激しい心理戦

ぷよぷよの上級者同士の戦いの駆け引きにおいてよく話題となる要素が「自分だけではなく、相手のフィールドを見ながら戦っている」という点です。これはぷよぷよ対人戦における専門用語で、「凝視」と呼ばれています。

自分の連鎖を組みながら、相手をずっと凝視するのはさすがに最上級者でも不可能です。では、一体どういうタイミングで、何を見ているのか。

例えばこの場面、ALFさん側の形をよく見ると、連鎖の形が右折(右側から折り返す形)になっているのですが、緑発火から赤・黄・赤・緑とつなげるつもりが、上のほうにある緑のせいでつながらない形になっています。

緑の丸で示した部分が発火点。赤丸のところのぷよが赤であれば、下のL字の赤まで連鎖がつながっていた

かめさんはそれを見切って、大きく崩したらALFさんは困るだろう、という考えで攻めに転じたという格好ですね。

最近のぷよぷよと比べるとわかりにくい形が多いという印象を受ける方が多いと思うんですけど、この頃は難しい形を組むのが普通だったんです。その中で自分と相手の組み方を比較して、ハイレベルな判断をしているという、この時代のプレイヤーの凄さが現れた場面と言えるでしょう。

上級者は中盤以降、「本線」と呼ばれる大きな連鎖と、「副砲」と呼ばれる小さな連鎖に分けて連鎖の構築を行っています。

今回のALFさんの形は本線を組みながらもどこかで副砲も作らなければいけないという意識が働いたせいか、一度連鎖を止める緑を置いた。これを後から修復する腹づもりでいたのでしょう。

しかしかめさん側は当然、相手の本線と副砲がどこかを都度探りながら動いているわけです。それは自分の連鎖を作る際に思考を止めても問題のない一瞬であったり、あえて自身の手を止めて確認をする場面などに行われます。凝視を怠ることなく相手が副砲作成のために本線を切る一手を置いた、という隙を見逃さなかったのが、この試合におけるかめさんの勝因と言えるでしょう。

14:40~:視点の切り替えの早さ光る終盤の大乱戦

なんといっても着目すべきは本線を全て副砲として消費しきってしまうほどの激しい攻防です。

最上級者同士の戦いにおいて、本線を先に打ってしまうことは不利と言われています。連鎖が消えている間に相手にさらに連鎖を付け足されて、さらに大きな連鎖で返されてしまうからですね。

そういった先打ち回避の手を打ち合う結果こそが、この大乱戦に繋がっているわけです。

97-97になってもなお、お互いに安易な本線先打ちという天運に身を委ねない。自身の選んだ手で勝ちを取りたいという意志力が伝わってくるかのような副砲合戦です。

そしてALFさん側が2段ほどかめさん側におじゃまぷよを送り、有利を取った状態でさらに5連鎖での追い打ち。これで趨勢は決したかとも思われましたが、なんと非常に難しい盤面からかめが8連鎖を組みあげて大逆転。持ち前の連鎖技術の高さが光り、この僅差においては精神的にも大きな一本だったことでしょう。

当然、乱戦後においても本線先打ち不利の原則は適用されます。ALFさん側は相手の形の難しさから5連鎖で十分量だと思い発火することを選択したわけですが、ここまでもつれ込むほどのハイレベルな相手にその判断は甘えとなりました。いついかなるときも油断ができないという好例と言えます。

18:27~:ALF、念願の発火色を引く

伝説の1先です。実況のTomも「ぷよぷよ界の歴史に残る」と言った通り、今なお語り継がれる1本となりました。

かめさんが1連鎖6連結を打ってからの2連鎖ダブル。(※1)これは連携と呼ばれる技術で、1連鎖で相手におじゃまぷよが降る時間を利用して2連鎖ダブルが直撃する成功率を跳ね上げています。目論見通り、ALFさん側は3段以上のおじゃまぷよを直撃してしまうこととなり、一見勝負は決まったかのようでした。

しかし、受ける形となったALFさんのネクストは緑ゾロ(※2)の2連続。彼はまだ諦めていません。

※1 2連鎖ダブル:2連鎖目で2組同時消し(ダブル)をすること
※2 ゾロ:2つのぷよが同色のツモのこと。緑ゾロは緑2個の組み合わせを意味する。

実況のTomはそれを見逃していませんでした。

「しかし、まだ掘れるぞ!」

かつて同じゲームセンター内で、師弟にも近かったALFとTomの関係。心なしか、Tomの気持ちはALFに傾いていた部分もあったのでしょう。

かめの追い打ちの3連鎖中に、青が2つくるかどうか。かめ側としてもここまで大きく崩して攻めてしまった以上、潰し切って勝つほかありません。十分勝率は悪くない賭けです。ここに来て最後の一本は、ツモという天運に委ねられました。


「青が2つ来れば!青が2つ来れば!来たあああああ!!」
今まで確率の壁に翻弄され続けたALFに、勝利の女神は微笑みました。悲願の全国1位の座は、ようやく彼の手に渡ったのです。


この1戦は、私もちょうどリアルタイムで見ていた試合でした。確かに熱狂した試合ではあったのですが、10年前のあの日にはこの試合が今なお語り継がれ、神格化されているなんてことは夢にも思っていませんでした。

関東のACぷよ通対戦会の支柱となってきたALF。

名古屋のACぷよ通対戦会の支柱となってきたかめ。

自身も最上級プレイヤーとなり、実況解説において大きく頭角を現したTom。

それらを見て最上位の背中を追い、肩を並べ、今ここに文を記しているlive。

何気ない日常のワンシーンは、いつの間にか素晴らしい競技シーンとなり、その積み重ねが今なお羽ばたき続ける人材を輩出しているのです。続けてきた人間が、歴史こそが、ようやく価値のあるものとなる。

今、自分の対戦技術が大したことない、取るに足らないと感じている方でも、10年後には「自分にもこんな時代もあったな」と笑えるようになっている。それこそが、ぷよぷよの競技シーンの歴史の長さによる面白さと言えるでしょう。だからこそ、続けることには大きな意味があるのです。

これは観戦する方にとっても同じことです。続けて追っていくことで、プレイヤーの来歴、関係、性格や理念を知ることができる。

そうするとただのパズルゲームと思っていたぷよぷよは、いかようにもその見え方が変わります。スポーツ観戦と同様、試合内容は深く理解できなくとも、その人が好きだから応援する、というケースは少なくないでしょう。

歴史の1戦を紐解くことで、技術的な部分のみならず、少しでもぷよぷよプレイヤー達の人間としての魅力を理解してくれる人が増えることを願っています。

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記者プロフィール
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ぷよぷよJeSU公認プロライセンス保持者。「覇王」の異名で親しまれる。 EVO2018のぷよぷよテトリス大会にて、ぷよぷよ部門とスワップ部門の2分野で優勝。 実況解説も手掛ける他、ゲームや選手の魅力やプレイヤー視点でのeスポーツ業界への意見を綴るブログ「清濁のるつぼ」を運用。 上野Buzz esportsにて開催される「飛車ぷよ!」の広報及び、平日ぷよぷよ対戦会(上野BPT)の主催を行う。

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