だいこく噺 第三回「EVO噺」

「ストリートファイターV」トッププレイヤー兼プロゲーマーのだいこくが綴るコラム「だいこく噺」。第3回は、格闘ゲームの祭典「EVO 2018」(※)に参戦したときの様子を語ってくれた。特別な想いで臨んだ今年のEVO。「ストリートファイター5アーケードエディション」(以下、スト5 AE)部門は2,500人近くのプレイヤーが参加したとのことだが、果たして……。
※EVO 2018:格闘ゲームの祭典にして、世界最大級のesportsイベント。1995年から開催されているEVOは、アメリカの格闘ゲームコミュニティが“自分たちの好きなゲームを盛り上げる”ために生まれた。昨年開催の「EVO2017」では、述べ1万人以上が参加。本年度「EVO 2018」は、日本時間の8月4日(土)から8月6日(月)まで開催された。
【BACK NUMBER】
・第一回「働くという事」
・第二回「フランス遠征」
昔からの格ゲー友達と、格ゲー最高峰の地へ
今年のEVOは、自分にとって一つの大きな分岐点だと思っていました。というのも、EVOで結果を出さなければ、今後の「CAPCOM Pro Tour」(※)で厳しい戦いが予想されるからです。だからこそ、半年間で得たものをすべてぶつける覚悟で参加しました。
※CAPCOM Pro Tour:1年を通して世界で行われる大会群の総称。地域ランキング大会やグローバルプレミア大会に参加するプレイヤーは、勝負結果によりグローバルランキングポイントを獲得可能。年末にポイント順位のトッププレイヤーや地域決勝大会の優勝者は、CAPCOM CUP 2018の出場枠を確保できる。当然「EVO 2018」もポイント獲得の対象。
EVOの会場であるラスベガスには、開催の2日前から現地入り。いつもは仲間のプロゲーマーの方々と一緒に行くのですが、今年は俺が格ゲーで初めてできた友達の“えだまこと”と、「ウルトラストリートファイターIV」からずっと一緒にやっていろいろ教えてくれてた“unsung”と旅を共にしました!
まさか、昔から格ゲーをやってきた仲間たちと一緒にEVOへ行ける日が来るなんて……。本当に胸が熱くなりました!

左からだいこく選手、えだまこと選手、コサク選手、unsung選手
大会当日までのコンディションを整える
滞在1日目、難なくラスベガスに到着。さすが世界一の格ゲー大会EVOに向かう飛行機、周囲を見渡してみると多くのプレイヤーたちが搭乗していて、内心ウキウキしていました。
ラスベガス到着後は、これまたウル4時代から俺を育ててくれた“コサク”と合流して食事へ。とりあえず、“アメリカ飯”を求めて覇権ハンバーガー屋こと「Shake Shack」を堪能。語彙力が無さ過ぎて申し訳ないが、「さすが覇権!」という感じの美味さでした。来年EVOに行く機会がある人は、ぜひ訪れてみてほしい。
その後はホテルの部屋に戻り、持参したモニターとPS4をセッティングして、仲間たちとガチガチに対戦を繰り返しました。もう慣れたものですが、やはり海外大会に行く際は、プレイ環境を整えられるゲーム一式は持って行って損はないです。試合前に触れられるのは本当に大事。初日は遅くまで対戦したあとに熟睡しました。

だいごく選手が滞在したホテルの部屋の様子
本番を前日に控えた滞在2日目も、初日とあまり変わりません。起床→カジノ→飯→大会エントリー→対戦→対戦→対戦→飯→カジノ→寝る……みたいな1日でしたね。
EVOは人数の関係で前日にエントリーを済ませておくとスムーズですが、改めてホテルから歩いて会場に向かう道では、「EVOに来たんだな。明日からついに始まるんだな ……」という期待感に包まれ、心身ともに引き締まりました。やはりEVOの雰囲気は違いますね。
この日は、スト5のゲーミングチーム「不動」の若手たちや、ときどさんの支援でEVOに参加したSCARZの水派君やぷげらも交えて、みっちり対戦しました。大会当日に対戦するかもしれないプレイヤーたちと練習に励み、意見を出し合うのは格ゲーならではかもしれませんね。また、自分の仕上がりとしては、“とりあえず持てるだけのカードを持ったし、やれるだけのことはやった想い”でした。大会前にしては、かなり良い流れを創れました。
海外の強豪プレイヤーとまさかの対戦相手と……
滞在3日目、いよいよEVO開幕。
自分の試合は16時と遅かったため、ゆっくり寝て、ギリギリまで対戦し、最終調整を行いました。なにより2日前に現地入りできたおかげで、心配していた時差ボケ対策もでき、体調は万全!
飯も入れて適度な眠気がきたので少し仮眠とって大会に挑むぞ。
いつもは朝イチとかだったからむしろ調整むずいわ笑。
忘れかけてた天下の大将軍に俺はなる pic.twitter.com/xuBXf6YPr5
— WP│DaikokuGO(だいこく) (@daikokuGO) August 3, 2018
スト5 AE部門のRound 1には、A~IまでのPOOLが存在。各アルファベットには、12ものトーナメントが用意されており、それぞれのトーナメントでは23人ほどが凌ぎを削ります。俺はPOOL F 105となった。最高の状態で試合に臨めたこともあり、無事にWinners Roundとして抜けることができました。

多くの方から声援を受けて快勝。
ただ、心境としてはぬか喜び出来ませんでした。というのも、次の日のRound 2では、アメリカ最強のラシード使いと謳われているJBや、EVO JAPANで優勝を果たしたInfiltrationとの試合が待っていたので、どちらかというと“これから始まる”感じが強かったです。

POOL F 105トーナメント表(Winners Round)。制したのはだいこく選手。
詳細はsmash.gg「EVO 2018」SF5AE – Round1 – POOL F 105で閲覧可能。
滞在4日目、スト5 AE部門のRound 2が始まる。
この日はお昼から試合のため、これまたゆっくり寝て、ギリギリまで部屋で対戦していました。ただ、Round 2は初戦からJBとの対戦のため、自室にラシード使いのガチくんを招いて対戦を繰り返し、対策を立てました。
普段からラシード戦は相当数こなしているし、自信がある組み合わせなのですが、最近は結果が本当に良くない……内心不安でもありました。そんなときにガチくんとコサクは俺を励ましてくれた……あの時はほんまにありがとうな。
そして、会場到着。開幕から配信台で試合をしたのですが……
バッキバキに動いてくれて内容も相当良かったと思います。差し返しも出来たし、対策もかなり出せたし、なにより本当に集中出来たのでコンディションは抜群でした。
次も勝利すれば、Round 2をWinnersで抜けられるのですが、相手はInfiltration。そして、バーディーの最も苦手とするキャラクター「メナト」の使い手です。加えてInfiltrationはVトリガーIIを使用してきて、動揺しました。それでもがんばって挑みましたが、結果は負け。
この組み合わせ、メナト側は相手に触れられずに上手く処理し、バーディー側はなにかしらの攻撃を当てて火力と二択で倒し切らなければいけません。正直Infiltrationのメナトに対しては、あまりにも期待値が低かったため、負けたあとも「ここからなんとか上がるぞ」という意気込みで気持ちを切り替えていきました。
■【感想戦】もけが振り返る EVO JAPAN ストV部門の優勝者・Infiltration×だいこく戦 教訓は“攻める=前に出る“という考え方の見直し

編集部注:だいこく選手はEVO JAPANでもInfiltration選手と対戦している。この感想戦記事では、PONOS所属のプロゲーマーもけ選手を聞き手に、実際に試合を展開しただいこく選手本人を迎えて詳細に振り返っている。また、Infiltration選手の強さも窺い知れる。ぜひ併せてチェックしてほしい。
試合内容は、普段から対戦しているプレイヤーなので、読みもかなり上手くいったし、是空への対策も機能したので、かなり良い展開で押し進めることができました。
結果は俺の勝利。試合後、unsungに「絶対負けるなよ!!」と声をかけられました。恐らく悔しさを滲ませながら言ってくれたのだろう。そんな彼の気持ちを思うと、俺は泣いてしまいました。熱い試合でした。

握手を交わすだいこく選手(写真左)とunsung選手(写真右)。想いを紡いでいく。
そしてRound 2は、無事にLosers抜けを果たしました。

Round2 POOL J 101トーナメント表。だいこく選手はLosersで突破。
詳細はsmash.gg「EVO 2018」SF5AE – Round2 – POOL J101で閲覧可能。
その後は、次の試合まで数時間空いていたので会場内を散策。見渡していると、「プレイヤーはこういう気持ちで参加しているのか」「勝つ度にいろいろな人たちの思いを超えていかなければならないのか」……と改めて気付かされることが多々ありました。
大会の重圧はもとより、第一線で勝ち続ける“プロ”は本当にすごいものだと……ひとりしんみり思っていたのです。
さて、そんな気持ちを切り替えて、Semi-Finals(Round 3)が開幕。Losersからスタートした初戦は、ベガ使いのToi。ベガ戦は組み合わせとしてかなり自信があったのですが……負けました。内容は、常に相手に攻められる試合作りにさせてしまい、そこに対して出すカードがなかったことです。
単純な実力負けをしてしまい、ここで俺のEVOは終わりました。
悔しさの果てに
試合を終えて、しばらくは呆然としていました。意外と落ち着いているものだな、と思っていたのですが、席を立った瞬間に涙がボロボロこぼれ落ちてきました。そして、会場の隅でひとり泣いていました。本当に悔しかったです。
いろいろな人の気持ちがかかっていたし、これまでも相当練習してきたのでダメージは半端なかったですね。部屋に帰ってからも、泣いて、泣いて、泣き疲れて、いつの間にか寝てしまい、この日は終わりました。
そして滞在5日目、EVO最終日。寝て起きれば気持ちも晴れるものかと思っていましたが、まったくならず。むしろ、この世の終わりみたいな気持ちが続いていましたね(笑)。まあ、それでもたくさんのプレイヤーが会場にいるし、次につなげるために練習しようと、たくさんの野良試合に参加しました。
最終日の試合は、ベスト8から始まりました。俺も含めて、同行者全員が観戦チケットを購入していたので、「観に行こう」という流れになりました。しかし、どうしても俺は悔しくて、とてもじゃないけど観戦を楽しむ心境ではありませんでした。
と、一度は観に行かないと決めたのですが、Twitterでお世話になっている方からの意見を貰ったことで、気持ちを切り替え、結局観に行くことにしました。
悔しくても今回勝ったやつの動きを見ろ。次対戦する時に使える癖やキズを見つけろ。俺だったらそうする。
— こく兄、こくじん (@kokujind) 2018年8月5日
悔しいなら見に来なよ。悔しさを最大で受け止めるべき。
— アカホシ/谷田優也 (@akahossy) 2018年8月5日
会場に入ると圧巻。やはり規模がすごいです。最初は「ドラゴンボールファイターズ」などの試合を全力で応援していましたが、スト5 AE部門の選手入場が始まると、やはりキツかったですね。爪が食い込むほどの握り拳を作り、本当に、本当に悔しかったことを痛感しました。今思えばそれだけ懸けていたのでしょうね。
ベスト8以降の試合内容は、俺がここで触れるよりも観る方が早いので省略します。Problem X、すごかったですね。
EVO 2017 49位タイ
EVO JAPAN 49位タイ
EVO 2018 49位タイ
まさかの3連続同じ順位。このままじゃ終われねぇ……! 来年もがんばって参加したいと思っています。応援してくれた方々、本当にありがとうございました。
だいこく:ウェルプレイド所属のプロゲーマー。強気な攻めと大舞台でも萎縮しない強靭なメンタルで戦うプレイヤー。豊富な実戦経験から繰り出される一撃で数々の強豪プレイヤーを沈めている。
名前:だいこく
Twitter:daikoku_GO
Openrec:WP|だいこく
Blog:配信者だいこくのブログ
大会実績(一部抜粋)
2017年 ThaigerUppercut Championship 2017 7位
2017年 Manila Cup 2017 9位
2017年 TWFighter Major 2017 5位
2018年 ストリートファイターV ARCADE EDITION 闘会議GP大会 9位
■成長を続ける男、「ストV」トッププレイヤー“だいこく”に迫る

Capcom Cupに出場するため、そして優勝するために海外大会を遠征している猛者がいる。その名も「だいこく」。ストリートファイターVにおいてトッププレイヤーであり、強気な攻めと大舞台でも萎縮しない強いメンタルで強豪プレイヤーたちと日々戦っている。