けん玉×eスポーツ:DENDAMAの開発からeスポーツ化の軌跡

Mako(WPJ編集部)

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一節によるとフランスにルーツを持つというけん玉。日本では江戸時代から、現代に至るまで人々に親しまれてきた。そんな歴史ある遊びであるけん玉だが、今や1人で遊ぶものではなくなった。

IoT技術によってスマートフォン連動を実現し、世界中のプレイヤーと遊ぶことができるスマートけん玉「DENDAMA」が登場したのだ。このDENDAMAを開発するAXELLは、eスポーツ大会の開催、DENDAMAが楽しめるカフェバー「DENDAMA&DARTS RE/D(リード)」(以下、RE/D)の運営なども手掛けている。

今回、けん玉×eスポーツの世界やけん玉の魅力を探るべく、AXELL代表の大谷宜央氏、3人組ガールズユニット「MELLOW MELLOW」のメンバーでけん玉好きとして知られるHINAさん、プロけん玉パフォーマーのイージーさんへインタビュー。

前編では、大谷氏へDENDAMAの変遷や展望を聞く。

伝統と技術のコラボで生まれたDENDAMA

――最初に、DENDAMAを開発するきっかけから話をうかがいます。

大谷宜央氏(以下、大谷):
きっかけは、ご高齢者との会話です。「若い人と遊びたいけど、一緒に楽しめるいいおもちゃがないよね」という話がありました。

この会話から、世代を超えて遊べる「けん玉」という昔ながらの遊びを進化させてゲームとコラボすることで子どもからお年寄りまで誰もが遊べるものができるんじゃないかなと。

――けん玉×IoTという発想に至ったということは、もともとけん玉はやられていたんですか?

大谷:
もちろんやったことはあるんですけど、本格的に始めたのはDENDAMAを作り出してからですね。DENDAMAを最初に着想したのが2015年の9月なので、もう4年半近くになりますね。

――開発中で苦労した点は?

大谷:
いろいろありますが、このボディーサイズで玉が乗ったとか動いたとかを感知する機構を埋め込むのが大変でした。第1号モデルは、現行モデルよりひと回り大きかったんですよ。

今は競技としてもやりやすい現行サイズになったんですけど、小型化するのも大変です。Bluetoothのモジュールが入っているんですが、本体サイズを小さくするとそれも小さくなるのでアンテナ性能が弱くなります。接続が切れてしまったり、アプリに技の情報が届けられなかったり……。

耐久性にも苦労しました。けん玉ほどぶつかる電子機器なんて他にないですからね。

――最初はクラウンドファンディングで資金を集めたわけですが、目標金額を達成するかどうかの見込みはあったのですか?

大谷:
最初はスタートアップ支援のプログラムの「KDDI∞Labo」に入っていて、記者や投資家の前で発表する機会がありました。その流れでMakuakeでチャレンジしますよっていう流れを作ったので、露出としてはそれなりにできてる感じはありましたね。

ただ、けん玉の魅力をちゃんと面白いものと思ってもらえるのかという不安はありました。

――開発当時、けん玉愛好家の方からの意見を聞くことはありましたか?

大谷:
開発段階でいろいろ聞いていました。

当初はアプリだけではなく、ハード面でもいろいろ考えていたんです。例えば、「皿がいきなり回転する」「皿から棒が飛び出て玉を乗せようとすると邪魔される」などです。

その後の試行錯誤の上、ちゃんと技を判定できてコミュニケーションが取れて遊べる方が楽しいよねという結論に至って、「けん玉としてきちんと遊べて、データが取れてその先でどういう風に遊んでもらうか?」に方向転換しました。

eスポーツ大会やカフェバーでDENDAMA拡大を目指す

――プロライセンスやeスポーツ大会「DENDAMA JAPAN CUP」は、DENDAMAで遊んでもらうきっかけ作りが目的ということでしょうか。

大谷:
そうですね。RE/DはDENDAMAを実際に体験できるスポットではあるんですが、その一方で1つのスポーツとして競技性を高めていって、賞金で生活できるような状況を作っていきたい思いがあります。

スキルをちゃんと磨いていけばお金がもらえて、「職業」と言えるようなものにしていこうと考え、プロ大会などを作りました。

――今回の取材場所のRE/Dは2019年にオープンしましたがこの施設はどういった意図で?

大谷:
RE/DではDENDAMAのアーケード版「DENDAMA+」をダーツと一緒に設置しているのですが、ビジネスモデル的にはダーツを真似して拡大を狙っています。

他の飲食店やダーツバーに置いてもらうことでプレイ人口を増やしてアプリ連動で自分の成績を見たり、アプリでマネタイズして、機械のレンタルでもちょっとずつマネタイズして、大会の規模もどんどん大きくしていく……。ここがそのモデルとなる店舗の位置づけで営業しています。

――アーケード版「DENDAMA+」はRE/Dここ以外には置いていないんですか?

大谷:
今はまだないです。設置させてほしいという声はいただくのですが、現状はまだブラッシュアップをしているところです。

筐体をもっとちょっとスリムにした方が置きやすいですし、バーに置くには賑やかなLEDがあった方がいいかなとか、細かな改善ポイントがあるかなと。

――けん玉とDENDAMAでは材質が違ったりしてやりにくいということはないのですか?

大谷:
やりやすい/やりにくいは、けん玉の種類によっても全然違うんです。

あまり知られてないですが、けん玉は年々流行りの形状が変わっていくので、毎年新しいモデルが発売されるんですよ。ですので、「材質がプラスチックだからやりにくい」ということはなく、どの技が比較的やりやすいかみたいな特徴があるという感じです。

職業けん玉プレイヤーの実現に向けた基盤づくり

――プロライセンス制度で意識していることは?

大谷:
eスポーツ業界でも共通する部分はあると思いますが、大会をやって賞金を出してっていう点で、風営法に抵触しないだったりとか、賭博にならないようにケアをする。

こういった点を意識しながら、一定のスキルを持つプレイヤーにライセンスを発行することで、「特別な選手として活躍している」っていうのを対外的にアピールできることを意識しています。

今後DENDAMAをスポーツとして広げていくために、一般の人もチャレンジできる部門とプロとして認められた人が参加してプロ同士の戦いをみんなで観る、そういうイメージを具現化できるといいなと思ってます。

大会はまだ1回しか実現できていないのですが、ゆくゆくはプロダーツと同じようにリーグをやったり、プロプレイヤーがDENDAMA設置店舗にいて、コミュニティーができて、定期的に店鋪間対戦するというような世界を目指しています。

また、アプリを通じて離れたところから観戦できたりすると面白いかなと思ってます。

ダーツはハードダーツがソフトダーツに変わって、プレイ情報が取れるようになって、オンラインでつながって広がっていき、プロ化して大会実施という経緯で広がっているので、この成功事例を参考にしたいですね。

――DENDAMAは海外にも展開しています。

大谷:
去年の年末くらいからようやく海外にも出せるようになりまして、今はヨーロッパ圏とアメリカで販売しています。

――その地域はもともとけん玉が盛んだったのですか?

大谷:

アメリカにけん玉が持ち込まれて、爆発的にヒットした現象が起きたんです。「KROM」というけん玉のメーカーがあるんですけど、これはデンマークのメーカーですし、去年はラトビアでもブームが起きましました。

それぞれの国の上手い人をDENDAMAでつないで対戦できたり、世界大会とかができたりしたら面白いですね。

――そこまで実現できるととても面白くなりそうですね。今年の展望はどのように考えていますか?

大谷:

今年はまずアーケード版を完成させて、他の店舗に卸して、まったく知らなかった人が飲みに行ったらDENDAMAで遊んでいるみたいな状況を作って裾野を広げたいです。

DENDAMAはパフォーマンス性が高いので、それを見てもらいながらゲームの勝敗を楽しむというパフォーマンスショーみたいなものとして成立させられればと。

去年の大会もですが、けん玉をやる人しか観戦に来なかったのが、わざわざ大会をショーとして観に来てくれる人を増やしていく。そういう基盤づくりを今年はやっていければいいかなと思ってます。


昨今eスポーツでプロゲーマーが活躍しているのと同様、DENDAMAプレイヤーもプロとして活動して生活できる環境作りに取り組んでいる。続く後編では、けん玉パフォーマーのイージーさん、けん玉愛好家でガールズユニット「MELLOW MELLOW」のメンバーとしても活動するHINAさんも交え、けん玉業界について教えてもらった。

写真・大塚まり

記者プロフィール
Mako(WPJ編集部)
スマホゲームの攻略サイト、情報メディアを渡り歩いてウェルプレイドジャーナルに流れ着いた超絶新進気鋭の若手編集者。イベント取材では物販やコスプレイヤーに釘付けになりがち。

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