鉄拳7のイラストを手掛けるjbstyle.氏の素顔に“MASTERCUP”のまさかり仁が切り込む【前編】

まさかり仁
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“LIMITS(リミッツ)”という大会をご存じだろうか。LIMITS Digital Art Battle、通称リミッツとは、限られた時間の中、PCと液晶タブレットを使用し、完成した作品を制作過程も含めて審査員評価で勝敗を競う“競技性デジタルアート”だ。

選手に与えられる時間はわずか20分。イラストといえば時間を掛けて完成させるイメージが強いが、この大会ではその常識は通用しない。彼らはこれまでのアートとは全く違う土俵で評価を競い合っているのだ。その規模と勢いは留まるところを知らない。第2回となる世界大会では総額1000万円を超える賞金が用意されている。

「イラストを描く」と聞いてピンと来る人は少ないかもしれないが、PCを前に奮闘している様子を見れば、どこか見覚えがあると感じる方も多いことだろう。そう、まさにesports。ゲームの大会で見られるワンシーンだ。

ゲームだけがesportsではない。自分の技術を与えられたツールで表現するリミッツも、esportsと呼ぶに相応しい競技ではないだろうか。そこで、今回は“リミッツ絶対王者”の称号を持つjbstyle.氏にインタビューを行った。

jbstyle.氏は「鉄拳」のキャラクターイラストを手掛けるイラストレーターでもあり、ゲームに対する理解も深い人物だ。ゲームとアート、両方の魅力を知る彼には、現在のesportsはどう見えているのだろうか。聞き手は、「鉄拳」の世界最高峰5on5イベント「MASTERCUP」の主催者としても有名な、ウェルプレイド所属のまさかり仁が務める。

聞き手:まさかり仁
執筆:セスタス原川

 

■jbstyle.氏 プロフィール
2006年独立後、アパレル、ゲームなどをメインに活動。hide(X JAPAN)、J(LUNA SEA)などの公式アイテムの他、今年6月に発売された鉄拳7のアートワーク、アパレルブランドRUDIE’S、格闘技イベントRIZINのメインビジュアルなど、ジャンル問わず幅広く活動中。

世界最速(スピードスター)と呼ばれるライブパフォーマンスでは国内外問わず出演。デジタルアートバトルLIMITSでは現在世界ランキング1位。サンディエゴにて開催されたアメリカ最大のコミコンSDCCへの招待や、マイクロソフトsurfacePro4発売日デモンストレーション、G-SHOCK REAL TOUGHNESS2016、国民文化祭あいち2016など。絵描きとライブアーティスト、この二本柱で世界を目指す。


名前:jbstyle.
Twitter:jbstyle222
公式サイト:jbstyle.jp

大会実績
2016年 DLP-Battle 8位タイ
2016年 LIMITS JAPAN FINAL 優勝
2016年 LIMITS Digital Art Festival ~Summer~ 優勝
2016年 LIMITS Digital Art Battle TGS Edition 優勝
2017年 LIMITS World Grand Prix 準優勝
2018年 LIMITS JAPAN FINAL 3位

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リミッツ絶対王者jbstyle.氏の驚きのゲーム人生とは

――:本日はよろしくお願いします。月並みな質問からで恐縮ですが、はじめにjbstyle.さんのゲーム歴についてもお伺いできればと思います。

jbstyle.:
最初にゲームに触れたのは、うちの叔父さんがスーパーカセットビジョンをやっていて、そこの叔父さんの家で遊んでいたときですね。
 
 
――:またマニアックですね(笑)。ファミコン(ファミリーコンピュータ)とかではないのですね。

ええ。ファミコンが小学4年生のときに発売したのですが、僕の誕生日である2月にそのファミコンが買えなかったんですよ。また、今でも覚えているのが、当時のファミコンはソフトと抱き合わせで売られていることが多かったんですよ。なので要らないソフトが付いてくるという……。でも、自分がやりたいソフトは「ドルアーガの塔」だったから、誕生日にソフトだけ叔父さんに買ってもらい、その説明書を本体買うまでずっと読んでいました(笑)。
 
 
――:本体を購入していなくてもソフトは買ったのですね。でも、説明書を読みながら待つの、すごくわかります。

jbstyle.:
いざファミコンが来たときは楽しくて楽しくて、親に怒られてもずっと遊んでいましたね。そこからはもうゲーム人生スタートです。ファミコンからスーファミ(スーパーファミコン)。そこからメガドライブ、Vサターンと続きました。

うちの親父が電気屋で、その関係でウチが選んだのは電気屋で売っていたVサターンでしたね。買った理由は「バーチャファイター」をやりたくて。メガドライブも「獣王記」がやりたくて買いました。やりたいゲームで本体を買うっていう感じです。PCエンジンも買ったし、ネオジオもあったし、ほとんどは網羅していたと思います。
 
 
――:当時衝撃的だったゲームはありますか。

jbstyle.:
やはり「バーチャファイター」を家で遊べるのは衝撃でしたね。ポリゴンの格ゲーで、モーションキャプチャーも出始めて人間みたいにヌルヌル動くし、2Dの格闘ゲームしか知らなかったので「なんだこれは!」ってなりました。
 
 
――:ということは格闘ゲームに触れたきっかけは「バーチャファイター」ですか。

jbstyle.:
いえ、最初は「ストリートファイターII」ですね。高校生のときに、学校サボってゲームセンターに行って遊んでいました。
 
 
――:では、仕事として携わることになる「鉄拳」はいつ頃から?

jbstyle.:
「鉄拳」は、「バーチャファイター」をやっているとき、近くに筐体が置かれるようになりました。第一印象は「なんだ、このアクの強いキャラクターは…」と最初は興味本位で遊んでいましたね。今となっては家庭用も買って遊ぶほどですが、正直なところ当時は「バーチャファイター」寄りでしたね。
 
 
――:自身の中で「鉄拳」が流行し始めたのはいつ頃でしたか。

jbstyle.:
「鉄拳 TAG TOURNAMENT」あたりでしょうか。リリース当時は「バーチャファイター」の後追い的な印象もありましたが、そこが払拭され、シリーズとしての進化を感じさせてくれました。オープニングのCGもすごくてね。水の表現とか、アンノウンの滴っている感じを見て「ナムコやべえ!」って。本当にキャラクターが格好良くなりました。そこから「鉄拳」が好きになり、ゲームセンターでも遊ぶようになったんです。
 
 

王者が語る、リミッツとesportsの共通点は

LIMITSのデジタルアートバトル。アイデア、速さ、テクニック、完成までのプロセスが求められる

――:ここからはリミッツについてもお伺いします。リミッツでは“絶対王者”と呼ばれているjbstyle.さんですが、その由来をお伺いしたいです。

jbstyle.:
そういう肩書きはありますが、決して初代王者というわけではないですね。2017年の「JAPAN FINAL」で優勝させてもらって、その後「summer」という別の公式戦も優勝させてもらいました。2連覇はしていたのですが、世界大会ではアオガチョウさんに負けて準優勝でした。
 
 
――:では由来はどこから?

jbstyle.:
大会とは別に勝率などで順位を決めるランキングがあり、そこでは1位を取っています。これは試合数が多いからというのもあるのですが、今までの試合数と勝利数を罫線すると、勝率が8~9割近いので、負ける試合の方が圧倒的に少ないですね。そういうところから絶対王者と言われるようになりました。
 
 
――:リミッツは20分間のアートバトルということで、絵を早く描く必要があります。jbstyle.さんは作品を素早く完成させますが、やはりスピードは意識されているのでしょうか。

jbstyle.:
独立してからは、家で描く絵に加えて、自分の武器が何か欲しかったんです。そこで、ライブアートに目を付けました。

ライブアートではお客さんに立ち止まってもらうわけにはいかないから、スピードが勝負になります。それこそ30分から60分で絵を完成させる必要があります。そういうところでスピードを求める世界にはずっといたので、リミッツが生まれてくれたのは好都合でしたね。色々な企業さんから「人を立ち止まらせてください」という依頼はこれまでにも多かったので、パフォーマンス的な魅せ方に関しては、あらかじめ場数は踏んでいました。
 
 
――:絵を見る際、完成したものを見ることがほとんどだと思いますが、やはりライブアートなどでは変わってくる部分が多いのでしょうか。

jbstyle.:
例えば、上から順番に書いていっても面白くないので、バラバラで書いていき「最後にどう繋がるのかな?」と思わせたり、完成したものを見た人が「この人ここから描き始めたんだよ!」って言いたくなったりするような描き方を心がけていました。なので、パフォーマンスに関してそこまで考えず、今まで通りという感じです。


 
――:リミッツでは、配信を見ている人と審査員による評価で採点を行いますが、その方式についてはどう思っていますか。

jbstyle.:
リミッツの投票のシステムは組織票などもやりにくく、平等でわかりやすいと思います。これが数字によって点数が上乗せされるなら、大人数が有利になりますが、そういうシステムではないので。審査員の評価は個人のセンスにも寄ってきますが、これは他の競技でも同じことが言えるので、好みで評価が変わるのはしょうがないかなと思います。
 
 
――:デジタルな競技ということもあり、アートバトルはesportsと言える部分があると感じています。

jbstyle.:
あれはesportsだと思いますよ。運営の人がどう思っているのかはわかりませんが、デジタルツールを使うし、事前に申請しておけばガジェットも使えるし、そういう意味ではesportsらしいデジタルな競技だと思います。

それをわかりやすくバトル形式にして、お客さんが投票する……まさにesportsじゃないですかね。何かしらの大きなイベントのオープニングとかで採用される可能性もあるので、将来化けるかもしれない競技ではないかと思っています。
 
 
――:アートバトルは世界大会も行われ盛り上がりを見せていますが、国としてはアメリカと日本が中心というイメージがあります。他にも盛り上がっている国はあるのでしょうか。

jbstyle.:
ほかの国では聞いたことがないですね。そして、アメリカではアナログなアートバトルが多いです。デジタルでのアートバトルというのは前例がないですね。アナログで競うアートバトルはニューヨーク発祥のものになりますが、デジタルと言えば日本という感じです。日本人の手先が器用とか、ツールを他の国の方よりも早く使っているとか、色々なことが影響しているとは思いますが。
 

jbstyle.氏がリミッツで勝利した際のイラスト。


 
――:とても斬新なことをやっているので、やはり風当たりが強い部分もあると思いますし、評価されているところもあると思います。そこはesportsの取り上げられ方と似ているのではないかと思います。

jbstyle.:
物珍しさだったり、これから来そうな匂いだったりはありますよね。
 
 
――:ただ、魅せ方が違うだけで「絵を描くことはすごい」というのをパフォーマンスで見せるということですよね。

jbstyle.:
参加者のほとんどが仕事を求めて出ていると思うので、だからこそ自分のスタイルを崩してまでテーマに持って行っても意味がないんですよね。どんなテーマでも普段から自分が描いている絵を20分で描いて「僕はこういう絵を描いています」というコマーシャルをする場だと考えています。

そこに遊びがあった方がお客さんも見てくれるし、気にもなってお客さんも来るからエンタメになっているし、その辺は気楽に見てもらったほうがいいと思います。出る側も同じで「自分から営業するの難しいな」となったらイベントに出ればいいんですよ。都内に住んでいれば出る交通費とかのリスクもかからないですし、1勝するごとにお金が貰えるので。
 
 
――:ファイトマネーということですか?

jbstyle.:
そうですね。都内に住んでいればプラスになる金額を貰えます。主催者も将来はそういう形を作っていきたいと言っていましたね。そこからさらにエキシビションに呼んでもらって、いくらいくらですって対外的に営業を掛けていくんでしょうね。プロアーティストならぬ、プロリミッツァーみたいな形になるんじゃないでしょうか。
 
 

これまでのアートの枠を大きく外れた表現の形

惜しくも敗れてしまった、去年のLIMITS World Grand Prix。あまりにも凄まじい両者の画力に圧倒される。

――:先ほどもお話していましたが、去年の世界大会で優勝したのが……

jbstyle.:
去年優勝したのは、大阪のアオガチョウさんですね。突然新星のように現れたので、こちらも全く対策ができませんでした。どういう人なのか、どういう世界観で来るのかとか、予習ができてなかったので呑まれたのが敗因です。
 
 
――:そういう個人に向けた対策のようなものがあるのでしょうか。

jbstyle.:
もちろん。相手がどうお客さんに見せに来るかとかは、ある程度対策しておく必要があります。向こうがキャラで来るならこちらもキャラで対抗したいし、同じもので勝ちたいものですよね。

決勝のときは、自分がキャラで挑んで、向こうは盛大なスケール感で勝負という戦法でした。そのときは日本王者の肩書きで参加したので、そのプレッシャーを乗り越えることで必死だったんです。ひとまず決勝まで行けたっていう安堵感もあり、その安堵した状態で自分の描きたいものを書くスタンスで決勝に挑みました。

そのせいもあり、アオガチョウさんの対策が全くできてなかったんですよね。スケールの大きいものを見た方が一般のお客さんはすごいと感じるので、スケール感で勝負したあちらに票が流れてしまいました。
 
 
――:既に世界大会の第2回が始まっていますが、今回は賞金総額が1000万円になっているそうです。

jbstyle.:
ええ。総額が1000万円で、優勝したら500万円。8位まで賞金が出るそうです。そこにさらにスポンサード企業の製品が加わるんじゃないでしょうか。
 
 
――:ちなみに去年は?

jbstyle.:
優勝が100万円でした。準優勝が50万円。総額は300万円くらいだったと思います。
 
 
――:かなり大規模な大会に成長しているのですね。さらに、今回は会場も大きいということで。

jbstyle.:
今回の会場は渋谷のヒカリエホールですね。1日1500人で両日合わせて3000人の方が入る箱です。
 
 
――:普段の箱が100人くらいですよね。いきなり1500人入るところでやるっていうのが、一気にステップアップしたのは何かきっかけがあったんですか。

jbstyle.:
わかりません(笑)。それは運営の方の話ですからね。でもやっぱり、選手としてはテンションあがりますよ。人が多い分緊張もしますけど、それをバネにできるので。お客さんが多かったり、配信だったりメディアの取材があったりとか、そういうものが絡んで来るとアガりますね。
 
 
――:絵を描く人は基本的に成果物に対して評価をもらいますが、リミッツではその過程も評価基準になっています。これは絵画業界の中でとても新しいことをやっていると思います。それについて何か反響はありましたか。

jbstyle.:
絵を評価するということ自体がタブーと言えばタブーですよね。ゲームだったら勝敗が出るじゃないですか。絵描きの場合は、誰がジャッジしているのかとか、それを決めていいものなのか、その前提から来るものがあります。

でも考えてみると、お笑いやダンス、ラップだって、どっちが優れているかははっきり出ないじゃないですか。漫才が好きな審査員もいるわけですし、ラップもどういう韻が好きとかのセンスが分かれます。

リミッツはお客さんを楽しませるためのエンタメという面に加えて、絵描きの間口を広げて需要を生むという役割も持っています。絵描きの間口を下げるためにエンタメとして、勝敗を付けるゲームをやっている感じです。

だから、本来家で絵を描いている脳みそと、リミッツに使うための脳みそは別物なんですよ。作品についても全く別物なので、そこは分けて考えて欲しいと思います。
 


 
第一線のライブアーティストとして駆け抜けているjbstyle.氏。下積みをしっかり積んできた彼だからこそ、後輩達に伝えたいことがある。そして、ゲームとライブペインティング、ジャンルは違えど同じesports。彼の願うesports像、悩みに悩んだ鉄拳という仕事、そして同じ道を目指す後輩達へのメッセージを後編で語ってもらった。

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記者プロフィール
まさかり仁
バンダイナムコエンターテインメント「鉄拳」シリーズの世界最高峰5on5大会「MASTERCUP」主催者。無類の大会好きで、鉄拳&ソウルシリーズをこよなく愛する。自身も鉄拳歴24年のプレイヤーであり、メインキャラは風間仁。

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