どうなる日本のesports 識者が語る過去と未来【黒川塾】

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新聞やテレビなどのマスメディアでもesportsが報道される機会が増え、ゲームファン以外にもその存在の認知が広がっている。
参入する企業やチーム、選手もたくさんいて、大会などのイベントも多く開催されるようになった。各ゲームタイトルのファンを中心に、大会観戦や選手、ストリーマーの配信などが毎日のように楽しめるようにもなった。
それでも、日本のesportsは成長段階で、参入企業もビジネス的にはまだ投資段階だという声もある。
メディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏が主催するエンタテインメントの未来を考える会「黒川塾」では、これまでにもさまざまなゲストを迎え、esportsについて語られており、9月に開催された第63回黒川塾でも「海外eスポーツ事情とeスポーツの未来に向けて」というテーマでセッションが開かれた。
本記事では、そこで展開されたトーク内容を、黒川氏に追加でお聞きしたesportsへの見解を交えまとめていく。
世界で戦うことを選んだ先人たち
ゲストの1人谷口純也氏は、Noppoのプレイヤーネームで知られる元FPSプロゲーマー。
2003年に東京都蒲田で営業していたLEDZONE(※)で「Counter-Strike」に出会い、その楽しさにのめり込んでいく。
当時、勉強が得意でなかった谷口氏は「このまま勉強しててもいいのか、何か突出したものが手に入るのか疑問があり、それだったら自分の得意な分野を伸ばしたほうが将来何かになるんじゃないか。」と思い、高校卒業後にスウェーデンへ留学する決意をする。
というのも、高校在学時に出場した世界大会でレベルの差を思い知るとともに、日本ではモチベーションの高いチームメイトを探すことが困難だったことから、当時もっとも強いとされていたスウェーデンへ気持ちが動いたのだという。
スウェーデンは税金が高い国なのだが、移民も多い。税金が移民対策に使われるので、中には外国人に厳しい人もいて留学生活は大変だったと振り返る。
現地でアパートを借りるためには、日本でいうところのマイナンバーに当たるものを持っている必要があるため学校の寮を頼ったり、PCも友人経由で使わせてもらうなど、自身のコネクションを使って生活していたそうだ。
※LEDZONE:「Counter-Strike NEO」専門のゲームセンターのような施設で40台を設置。大会の会場としても使われていた。
その後、CSの本場で実力を磨き、Asia E-sports Cup 2012での優勝をはじめ、数々の世界大会で活躍。
プロゲーマーとして日本で成長することに限界を感じて、世界へ飛び込む決意をし、実際に行動に移すことができたバイタリティが実を結んだのである。
谷口氏と同じように、世界で戦う道を選んだのはプロゲーミングチームDeToNatorを率いる江尻勝氏だ。
日本のesports市場が大きくないことを感じていた江尻氏は、自分たちから大きな世界市場へ打って出るしかないと、2016年から海外に拠点を置き、プロリーグに参戦している。
常にいろいろタイトルで世界のど真ん中で戦うことが、江尻氏にとっての”世界”なのだという。
ゲーミングハウスを用意したり、給料制で生活の保証をしてくれるチームも出てくる中、各種メディアでもっと環境を要求したり海外の環境をうらやむようなことを選手が発言するのを見かけると、「だったら彼(谷口氏)みたいに、単身でいいから海外に行けばいい。」と憤る。
そこで挑戦する姿に、見る人は熱狂しファンが生まれるのではないだろうか。
もちろん、大きな大会で優勝するような選手にファンは集まるが、それは優勝したからでなく、それまでの苦悩や勝つための努力など、人間性に惹かれるからだ。
黒川氏も、キャリアや戦績は重要ではあるとしつつも、人柄を強く感じさせることが自身が注目するプロゲーマーの理由になるといい、その面から板橋ザンギエフ選手に注目しているという。
また、江尻氏は、日本ではストリーマーを育て、より多くの人にゲームを知ってもらうことに注力。
さらに、水泳やそろばん塾などの子どもの習い事のように、ゲームを習い事として子どもたちへ指導するDETONATOR塾を展開。ゲームの上達だけでなくマナーやモラルも教え、努力をすることでの達成感やゲームへの理解を広げる取り組みを行っている。
このような他の選手やチームとは違った切り口の活動は、「未来を見据えている展開」と黒川氏も評しており、DeToNatorの動向に注目しているようだ。
オリンピックはゴールではない
esportsといえば、オリンピックの競技として採用されるかどうかということも賛否あるが話題にあがる。
これには、カジノ研究家の木曾崇氏が、乗り越えなければならない3つの壁をあげた。
1.暴力や性に関する表現
銃で撃ち合うFPSタイトルや、女性キャラクターの露出が激しいタイトルなどはオリンピック競技になり得ない。
2.統一ルールを管理する管理団体の組成
どんなゲームであるにしろ、国ごとによって異なるルールで運用されていると国際競技にならない。そのため、国際的な統一ルールを管理する管理団体を作り、その団体が最終的にオリンピック公式ルールを作っていく必要があるという。
実は、2022年に開催される北京オリンピックでは、麻雀を競技にしようとする動きがあるという。しかし、麻雀は国や地域によってルールが異なるため、国際麻雀連盟が国際統一ルールを作り、普及させているそうだ。
しかし、esportsにおいては、競技タイトルとなるゲームの権利を持っているのはパブリッシャーであり、ルール制定を統一団体に移管できるのかは課題である。
3.知的財産
特定の企業が持っているゲームタイトルは知的財産であり、これを使って大会を開いたり放映したりするためには、必ず知財の保有者の許可が必要だったり使用料が必要になったりする。
この構造が、放送権を売って収益を得るオリンピックのビジネスモデルに合わないというのだ。
また、選手やチーム側からすると、競技となるゲームタイトルが決まったとしても、それが永久に続くかどうかはわからない。
黒川氏は、esports業界はオリンピックを目標にすることはナンセンスだという。
オリンピックは、開催国事情が加味される国際的なイベントであるがゆえに、開催国に配慮したコンテンツが選択される可能性があり、それよりも、自身が好きなゲームをきっかけにそれを突きつめて、世界に自身の腕を問うという姿勢が大切であると考えている。
esportsはゲームビジネスの新たな活路
63回もの回数を重ねてきた黒川塾で、初めてesportsをテーマに開催したのは2017年1月のこと。
きっかけは、ゲームビジネスが斜陽化する中で、ライブコミュニティビジネスとしての新しい活路を感じているからだという。
音楽産業がCDなどのパッケージビジネスが斜陽化しても、ライブ、コンサートビジネスなどのライブコミュニティビジネスは反比例して収益化が促進できていることから、コミュニティビジネスとして新しい一面を開拓することでゲームの面白さ、楽しさ、対戦する喜びを伝えられる可能性を感じているのだ。
そのためには日本独自の成長が求められる。
「世界の大会とは一線を画した日本独自の展開が有るべき姿ではないでしょうか。本気でesportsで賞金やブランディングでトップを目指すならば、必然的には世界に打って出る必要があり、League of Legends、Dota 2などのレベルは生易しいものではありません。それはそれとして、日本独自の格闘ゲーム文化など独自の世界観を持ったものは日本で醸成すればよいと考えます。」
esportsをテーマにした回は、だんだん参加者は増えており、会場で実施しているアンケートでもesportsをテーマにしてほしいという要望は多いとのことだ。今後も、開催するタイミングで価値のある内容やゲストを招いて、esportsに関するセッションが随時開催される。
直近では、11月23日(金)には、黒川氏が企画、司会進行を務める松戸市コンテンツ事業者連絡協議会のトークイベントが開催。谷口氏をゲストに迎え、「esportsプロゲーマーを目指す君に!」というテーマでトークセッションが行われる。興味のある方は参加を検討していただきたい。
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