esportsを盛り上げたい中高生のための人生ガイド:なぞべーむトーク【Vol.1】

謎部えむ

まず、この記事のタイトルを見て、ピンと来た読者のみなさんがどういう立ち位置にいるのかを確かめましょう。

みなさんはこの記事が掲載されるよりも早く行動し始めている人たちに比べて、一歩も二歩も遅れています。例えば、すでにプロゲーマーとして活躍している人がいるかと思えば、esportsビジネスで起業している人もいます。ゲーミングチームを作って大会に出場したり、チームに加入して積極的に活動したりしている人もいますね。ブログなどで情報発信している人もいるでしょう。

幸か不幸か、そういう人たちは少数派です。そして何より幸運なことは、この記事を読み終わると、みなさんはこの記事の存在に気づいていない人たちよりも半歩だけ先に進むことができます(やった!)。

ということで、この記事では「プロゲーマーにはなれないけど、esportsを盛り上げたい! でも、何をしたらいいのかわからない」という中高生のみなさんのために、現時点で僕が思いつく限りのアドバイスをしたいと思います。大学生は、もう大学生にもなったんですから自分で考えてください。

ちなみに、なぜプロゲーマー以外の話をするのかと言うと、プロゲーマーになるのはわかりやすいからです。好きなゲームで圧倒的なプレイスキルを身につけ、大会に出場したりゲーム実況配信をしたりして注目を集めます。そうなれば、自分からスポンサーやプロチームにアプローチすればいいですし、どこかのチームから声がかかる可能性もあります。

しかし、プロゲーマーにはなれないと思っている人も多いはず。だからこそ、そういうみなさんのためにこの記事を書きました。ちょっと長めなので、じっくり読んでください。

道に沿って歩き、終点から開拓していく

最近は流行語大賞のトップ10に入賞するほどesportsに注目が集まっており、Gzブレインも2018年の市場規模を48.3億円と試算しました。2024年にはその2倍、99.4億円規模になるそうです。つまり、5年後にはそれだけ仕事が増える、活躍できる場が増えるということです。

今esports業界にいる人たちは、中高生がこの分野に興味を持ち、盛り上げたいと思ってくれることを心の底から喜んでいます。ですが、「じゃあ雇おう、頼りにしよう」とは思いません。なぜなら、みなさんには仕事をこなすスキルと経験がないからです。雇っても役に立ちません。

彼らが喜ぶのは、皆さんがesportsタイトルを熱心にプレイしたり、大会などを視聴したりしてくれるのはもちろんですが、数年後に業界を支えてくれるに違いないと思っているからです。

ゲーム好きの大人たちは、今死に物狂いでこの新しい市場を作ろうとしています。それこそ余暇も休日も捧げて、esportsの世界を切り開こうとしています。このウェルプレイドジャーナルを支える人たちもそうです(僕は土日はゆっくり休んでいますが)。

みなさんも今すぐそこに加わりたいでしょう。そのために行動してもいいと思いますし、おそらくそのために行動したい人はこの記事を読む前に行動しているはず。ですが、「esportsを盛り上げたい」と考える全員がそうできるわけではありません。

ですから、みなさんは大人たちが今作っている道に沿って歩くべきです。そして、彼らの屍を乗り越え、道の終点に行き着いたとき、未開拓の荒野をみなさんの手で切り開いてください。市場規模が100億円、1,000億円と成長していくのだとしたら、開拓できる領域はいくらでも残っているはずです。

焦らない!3年後を見据えて行動しよう

急いては事を仕損じる。これは真実なので、焦らないことが大切です。でも、焦らずにできるだけ素早く行動する必要があります。そのために、まずは目的を定めましょう。

目的とは、みなさんが将来成し遂げたいことです。esportsを盛り上げたいと言っても、実際にやれることはさまざまです。みなさんは本当は何がしたいのでしょうか。ここではひとまず、3年後に成し遂げたいことを自分の胸に問いかけてみてください。

現時点のスキルや経験は関係ありません。ノートに自分のやりたいことを書き出し、最も成し遂げたいことを見つけてください。ポイントは「esports」ではなく、「好きなゲーム」について考えることです。

  • esportsとしてプレイされるゲームを作りたいのか
  • 好きなゲームのプレイヤーを増やしたいのか
  • 選手の活動をサポートしたり、健康を支えたりしたいのか
  • 大会を企画・運営したり、映像や生放送を作ったりしたいのか
  • 好きなゲームの大会の観戦者を増やしたいのか
  • 好きなゲームのことをもっと多くの人に知ってもらいたいのか
  • 選手や大会のスポンサーになりたいのか
  • esports市場のデータを調べたり分析したりしたいのか
  • esportsシーンで役立つサービスやスキルを提供したいのか
  • そのほか諸々

みなさんがこれから3年間で目指す大きな目的は見つかりましたか? 今後は「esportsを盛り上げたい」とは絶対に言わないようにしましょう。みなさんが掲げる目的を語れば充分ですし、それが重要です。

実際のところ、esportsシーンにおいて最も大事な存在は、それぞれのゲームのプレイヤーです。プレイヤーを増やし、長く楽しんでもらうために、ゲーム会社以外の人でもやれることがたくさんあるはずです。それを探して取り組んでみるのも面白いかもしれません(プロゲーマーやストリーマー、動画クリエイターはその手段の1つでもあります)。

目的ができたら、目標を立てる

さて、次はみなさんの目的を3年後に達成するために何をしていけばいいのか、逆算で目標を立てていくことにしましょう。

例えば、esportsとしてプレイされるゲームを作るには、ゲーム会社に入社するか、自分でゲーム開発をする必要があります。では、どういうゲーム会社があるのでしょうか。これを調べないといけません。また、ゲーム開発するにはどんなスキルや経験が必要でしょうか。おそらくプログラミングやイラストレーション、3Dモデリングといったスキルです。プラニングやマーケティング、ファイナンスの知識も必要かもしれません。

大会の企画や運営をするにはどうすればいいでしょうか。今すぐ自分で企画して開催することもできますし、そこで失敗しながら学ぶのが手っ取り早いのは間違いありません。しかし、失敗しすぎると信用がなくなります。だとすると、誰かが開催する大会のお手伝いをするのがよさそうです。そのとき、どういうコミュニティや企業が大会を開催をしていて、スタッフを募集しているのかを調べる必要があります。

学校の文化祭で大会を開催してみるのもありですね。大会の企画や運営にどんなスキルが必要なのか、あるいはどうやって観客を集めればいいのか、調べて研究すべきことがたくさんあるでしょう(マーケターが学園祭の模擬店を出すとしたら、と考察した記事がとても参考になります)。あるいは、部活や同好会を作るのもいいと思います。

ところで、まだ日本ではそれほど盛んになっていないのが、一般プレイヤーなどを対象にした新しいサービスの開発です。大会のチケット販売プラットフォーム、大会の配信をしやすくするツールなど、ICT系のサービスやプロダクトを狙うのはけっこうおすすめです(どういうサービスがありうるかは、調べたり考えたりしてください)。

もし、好きなゲームのプレイヤーを増やしたいという目的を持ったとしたら、知り合いにゲームをおすすめしやすいサービスを作るのがよさそうです。例えば、クーポンをプレゼントできるサービスなどがありえますね。それを作るには、プログラミングを勉強しなければいけません。ふさわしいプログラミング言語は何なのか、サービスをリリースするにはどうしたらいいのか、起業するにはどうしたらいいのか、はたまたそれらができる人を見つけてパートナーになってもらうにはどうすべきか、と疑問が次々に湧いてくるでしょう。

このようにして「○○○するためには□□□をする」「□□□するためには△△△をする」と目標を順番に立てていくと、みなさんが「今」すべきことが見えてきます。そう、今日からそれに取り組めば、3年後もしくはもっと早くesportsを盛り上げることに携われるようになるのです。繰り返しますが、焦る必要はなく、無理して背伸びするよりも、今やれることをやるのが実は最短の方法です。

esportsのことだけやってもダメ

少し脱線しますが、esportsを盛り上げるために最も必要なことは何でしょうか。もちろん、みなさんが好きなゲームに対する「好き」を突き詰めることです。何千時間もプレイする、隠し要素をすべてコンプリートする、ものすごいスコアを達成する、などなど。

ですが、ここでその次に大事なことを伝えておきましょう。esportsを盛り上げるには、esportsのことだけ突き詰めてもダメなのです。先ほども書いたように、ゲームを作るならプログラミングができなければなりませんし、ライターになりたいなら文章が書けていろんな物事を知っていなければなりません。

esports業界に飛び込もうとしている人の多くも「esportsがものすごく大好き」な人が多いですが、ではどんなことができるのかと尋ねると「特別なスキルはないですが、やる気は誰よりもあります」と答えてしまいます。残念ながら、現在のesports業界はみなさんよりもはるかにやる気があり、ゲームやesportsが好きな人であふれ返っているので、やる気しかない人の居場所はありません。

もちろんやる気は大事ですが、やる気にプラスしてみなさんだけのオリジナルな特技やスキルが求められています。映像を作るスキル、いろんな人に大会の魅力を伝えるスキル、海外のゲーム会社とコミュニケーションするスキル、大勢の人たちの仕事を管理するスキルなど、esports以外のスキルが必要です。

こうしたスキルはゲームをプレイしているだけでは身につきません。授業が終わり、部活が終わり、宿題が終わり、あとの時間をすべてゲームのプレイや動画の視聴に費やしているとしたら、もしかしたら目的達成に時間がかかってしまうかもしれません。esportsを盛り上げるには、esportsが好きなだけでは叶わないのです。このことはよく覚えておいてください。

みなさんがプレイしているゲームも、観戦している大会も、実は担当している人がesports以外の仕事や学習で培ったスキルを駆使して作られています。

大人たちがみなさんの歳の頃にはesportsなんてありませんでしたし、それが仕事になることすら誰も知りませんでした。ですから、大人たちはゲーム好きの心を持ちながら、さまざまな職に就き、仕事をこなしてきました。そんな折、esportsが注目されるようになってきたわけです。

ゲーム好きの大人たちがesportsの周りにわっと集まり、それまでの仕事で身につけたスキルを活かして大会を開催したり、チームを運営したりしているんですね。

学校の勉強を優先する

しかし、esportsを盛り上げたいと思ってしまうと、途端にespotrs業界に携わることが唯一絶対に見えて、目の前のこと――例えば、学校の勉強や習い事を疎かにしてしまいがちでしょう。esportsやesportsに活かせることを学ぶのも大事ですが、優先すべきは学校の勉強です。

少なくとも学年10位には入る、あるいはそれくらいの意気込みで勉強してください。似たようなスキルや経験を持つ学年1位の人とそうではない人、esports系の企業がどちらを採用したくなるかは聞くまでもないでしょう。起業する場合も、知識の有無が成功率を左右します。

esportsの仕事をするために学校の勉強は関係ないように思えますし、実際にプロゲーマーを目指すために退学した人もいますが、学校の勉強は大切です。学校教育が完璧な学習方法だとは露ほども思いませんが、少なくとも学校の勉強にはこれまで人類が発展させてきた叡智が凝縮されているのは間違いありません。

esportsもまた人類の叡智の結晶です(コンピューターを始め、挙げればキリがありません)。業界で最大限に仕事をするには数学、物理学、生物学、倫理や経済の知識も必要です。自分の思考や経験を下支えしてくれるのが学校の勉強なのです。

当然、今後のesports業界では英語と中国語が不可欠でしょう。僕は英語の読み書きしかできないので、僕と同じスキルを持ってかつ英語でコミュニケーションできれば、いくらでも僕の仕事を奪うことができます(みなさんの将来性が恐ろしいので、僕は別の勉強もしています)。ちなみに、英語を効率よく学ぶには日本語の読み書き、つまり国語をきっちり勉強するのをおすすめします。

そして、学校の勉強と並行して、3年後に達成したい目的のために勉強しましょう。本(小説や漫画ではなくできれば専門書)を読み、誰かと考えをぶつけ合い、少しずつ実際の行動に繋げていくということです。

今できること、やるべきことをやる

この記事を読んだみなさんは、読んでない人より半歩だけ先に進みました。ここから考え、行動することでまた半歩進んでいけるでしょう。

もしかしたら、ほかの人たちが先にesports業界に入ってしまうかもしれませんが、焦る必要はありません。2024年には100億円市場となっており、その先はさらに成長が見込まれています。スキルさえ身につければ、いつでも歓迎されるのがesports業界です。

すでに活躍してる同世代のキラキラした姿を見ると、自分はこのままでいいんだろうかと焦りが募ると思います。でも、焦らないこと、やっぱりこれが一番大事です。高校プロゲーマーや高校生起業家を羨ましく思うのは当然です。それならそのための行動に出ればいいだけですが、それができないからこそ、みなさんはこの記事を読んでいるはず。ここで伝えたいのは、ひと言、「いまできることをやる」ということだけです。

毎日新聞が全国高校eスポーツ選手権を開催しましたが、みなさんは参加しましたか? していない? そういうところから取り組んでいきましょう。「esportsを盛り上げたい」と言いながら何も行動していない中高生を大人たちは温かい目で見てくれますが、それ以上のことはしてくれません。たとえゆっくりでも行動している人を応援しています。

先に挙げた勉強や目標に取り組むだけでなく、好きなesportsタイトルを友だちに教えて一緒に遊ぶ、チーム活動をしてみる、大会にも出場してみる、そういうことも「いまできること」です。両親や先生にesportsのことを知ってもらうのもいいですし、esports業界の人に話を聞くのも面白いことだと思います。

業界の人は地道に活動する中高生に弱いので、Twitterで話しかけたらすぐOKをくれるはず(怪しい人には近づかないで!)。ただし、それはみなさんが将来業界にしてくれるであろう貢献に対する報酬の前借り、言わば借金です。焦げつかせないようにしましょう。

現実として、中高生のみなさんはこれからどんな道も目指せるので、途中で夢や目的が変わることもあるはずです。esportsを盛り上げるために勉強したことが、別の分野で活かされるのはすばらしいことです。逆に、esportsとは無関係な進路に進んだとしても、将来ふとしたきっかけでesportsに関わったり、会社で急に近しい仕事をしたりするようになるかもしれません(プロチームに協賛してプロモーションしようなど)。いずれにせよ素敵なことです。

さて、希望を見せるような、辛辣なような、そんなアドバイスとなりました。僕は実際に「esportsを盛り上げたい」と口で言うだけの人をたくさん見てきたので、つい指が勝手に動いてしまいました。個人的にはコンピューターが肉体の一部に、インターネットが脳の一部になっている若い人ほど優秀だと考えていますので、みなさんにesports業界を支えてもらえれば嬉しく思います。

この記事が、いくらかでもみなさんの役に立つことを願います。もし難しかったところやもっと知りたいことがあったら、Twitterで僕にリプライを。もしくは、DiscordのEsportsの会で質問してください。でも、「どうしたらいいか」といった何も考えていないような質問には答えません。目的と目標を決めて、そのうえで何を訊くべきかしっかり考えてから質問してくださいね。

記者プロフィール
謎部えむ
2016年から個人でesports業界向けのメディアとして「happy esports」を運営。業界分析やマーケティング手法、関係者インタビューなどをテーマに記事を書いている。esportsプレイ遍歴はまばらだが、大会はほとんどのタイトルを観戦。
【happy esports】https://note.mu/nasobem
【Twitter】https://twitter.com/Nasobem_W

注目記事

新着記事