esportsって儲かる?業界関係者が現状と展望を語る【TGS2018】

東京ゲームショウ2018のビジネスデイ期間中に行われたTGSフォーラムでは、ゲーム業界の新しいビジネスや技術、トレンドについて、その分野に精通した人物が登壇する専門セッションが行われた。
5GやVTuberといった最近よく耳にするトピックがテーマのセッションが多い中、特に注目を集めたのがesportsだ。
ビジネスデイ初日に行われた基調講演は「eスポーツが“スポーツ”として広がるためのロードマップ」というテーマで行われ、さらに、異なる切り口の2つのセッションを実施。会場には、多くの業界関係者が会場に集まっていた。
この記事では、esportsの大会企画・運営や配信プラットフォーム、プロチーム運営、選手のマネジメントなどを事業としている5名の人物が登壇した「eスポーツのチームやプロ選手が続々誕生!プレイヤーとゲーム会社、eスポーツ大会の幸せな関係とは?」のセッション内容をお届けする。
[登壇者]
- CyberZ 取締役 青村陽介氏
- DetonatioN Gaming CEO/Sun-Gence 代表取締役 梅崎伸幸氏
- ウェルプレイド 代表取締役/CEO 谷田優也氏
- RIZeST 代表取締役 古澤明仁氏
- よしもとスポーツエンタテインメント 代表取締役社長 星久幸氏

写真左から、青村陽介氏、梅崎伸幸氏、谷田優也氏、古澤明仁氏、星久幸氏
日本独自のesports作りが急務
まずはじめに、日本のesportsシーンが海外のように熱狂的なムードになるのか、日本独自のものになるのか、各自が現状で抱いているイメージについて投げかけられた。
日本においても、先のTGS2018で行われたe-Sports Xなど、esportsの大会やイベントが多く開催されるようになり、高額な賞金が設定されているものはメディアを介してファンの注目を集め始めている。
一方で、海外に目を向けると、賞金額や大会の動員数は日本よりも大きい規模で展開されている。
esportsイベント「RAGE(レイジ)」や、ゲーム動画配信プラットフォーム「OPENREC.tv(オープンレックティービー)」を手がけるCyberZの青村氏は、海外の熱量を羨ましいと感じているが、「そのまま日本に持ってこなくてもいい。」と話す。
たとえば、PC向けタイトルがメインの海外に反して、日本は家庭用ゲーム機やスマートフォン向けタイトルが多く、さらに大会を視聴する側の環境も異なることから、番組の画作りもそれに合わせて行われるという。
そもそものユーザーの趣味趣向やゲームのプレイ、動画視聴の環境という面ですでに違いが生まれており、必ずしもあの海外の形に寄せていくのではなく、日本らしい盛り上がりを作っていくべきだと見解を述べた。
この意見には、esports大会・イベントの企画や運営を手がけるRIZeSTの古澤氏も賛同。億単位の賞金が出るなど、華やかな海外シーンに日本も近づいてはいるが、ユーザーが受け入れられる部分と受け入れられない部分があると分析している。
日本人が好むエンターテイメントとして磨いていける余地を感じており、そこにビジネスチャンスがあると指摘。
プロゲーマーチーム、DetonatioN Gamingを運営する梅崎氏も、「大会の企画・運営をもっとエンターテイメントに寄せていってもいいと思う。」と話しており、子どもたちにプロゲーマーが格好いいと思ってもらえる大会を目指すことで日本のesportsが加速すると考える。
いずれも、海外と同じ道をたどるのではなく、日本なりのesportsを作っていくことに勝ち筋を見ていると捉えることできるだろう。
また、梅崎氏は選手やチームに関わるスタッフがお金を稼ぎ、生活していける環境を整備していくことを課題に挙げている。
現在、日本には約45チームのプロチームが存在するが、マネタイズできている、平たく言うと「飯を食っていける」チームは上位3~5チームほどにとどまるという。
また、よしもとスポーツエンタテインメントの星氏は、esportsを観戦する観客が育っていない現状があると指摘する。
日本のesportsイベントは、選手のプレイそのものよりも、新しいキャラクターや機能の発表で盛り上がっていることが多い。こういった、観客が盛り上がる要素を理解し、演出していかなければならないのは課題であると星氏は認識している。
これに対し、よしもとが持つタレントやメディアとの関係性を活用し、選手がどんな想いで戦っているのか、といった裏側のストーリーを伝えていくなどの取り組みを通じて、観客を作り育てていくことが必要だという。
課題だらけのイベント運営マネタイズ
マネタイズという問題は、選手・チーム側だけでなく、大会・イベントの運営側にもさまざまな課題を抱えている。
RIZeSTと同様にesports大会・イベントの企画や運営を展開するウェルプレイドの谷田氏が最重要課題としているのが、ゲームIPがメーカーの所有物であることだ。
コンソール向けタイトルであればパッケージが1本でも多く売れること、スマホ向けタイトルであればユーザーの継続率を担保することが、メーカーの課題。
しかし、メーカーが予算や人材といったリソースを投入して開発するゲームは「面白くて当たり前」の領域に突入しており、ゲームを始めるきっかけ、さらには続けるためのコンテンツ作りをメーカーは必要としているという。
そして、ユーザーはゲームを続けて売上が伸びていく中で発生する、視聴コンテンツや興行の売上を、IPを所有するメーカーとどのように分配するかという課題もでてくるのだが、谷田氏はテレビアニメなどの製作委員会のような構造の必要性を説いた。
また、興行の売上分配に加え、ゲームIPがメーカー所有であることで発生するもう1つ課題として、「サッカーや野球は、50年前もサッカー、野球であったし、50年後もそうあり続ける。しかし、ゲームIPは一般的に長く続いているものでも10年くらい。コミュニティが形成されても、ゲームなくなったときにその人たちはどうするのか、というところは海外でも課題に挙げられている。」と古澤氏は話す。
特に日本においては、IPホルダーであるゲームメーカーのプロモーション予算などが大会の賞金に充てられている。しかし、高額の予算を割り当てられるメーカーは限られるため、賞金以外のゲームを続けるための理由作りを、イベント会社やメーカー、チーム、選手が一緒に作っていく必要があるという。
その例として、「勉強もせずにいつまでゲームをやっているんだ。」と家族からネガティブなことを言われていた香港のゲーマーが、香港代表になったことで逆に家族が応援するようになったというエピソードを明かした。
賞金ではなく、名誉などの戦う理由を作っていくことが重要というわけである。
また、海外のesports興行の収益は、
- 放映権販売
- グッズ販売
- チケット販売
- スポンサー収入
が大部分を占めているが、現状の日本においては、母数が圧倒的に足りず、成立しない。
古澤氏によると、行政や公的な機関を巻き込んで予算を確保する「esports+地方創生」「esports+雇用創出」といった「esports+α」の考え方が重要になる。
大規模な大会だけでなく、気軽にesportsに触れられるインフラ整備を進めることが、日本のesportsが成長するきっかけになるのだという。
知らなくても観ていいesports
続いて、各社が現在進行系で注力して取り組んでいること、さらにこれから力を入れていくことについて話題が展開した。
各自から具体的なプランが明かされたのだが、今のところ各社が尽力しているのは、esportsを身近に感じられるようにすることと言えるだろう。
例えば、CyberZがRAGEという名称にこだわってイベントを展開するのは、「RAGEだったら楽しそう、観に行きたい。」という身近な視聴文化を作り、メーカーにとっても頼りになる存在になることを目指してのこと。
青村氏自身も、幼少期に視ていた「TVチャンピオン」(※)を例に出し、大食い選手権やスニーカー王選手権など、それまで興味を持つことのなかったものを知るきっかけになったという。RAGEも、そうなりたいと考えているというわけだ。
※TVチャンピオン:1992~2006年、テレビ東京系列にて放送されたバラエティ番組。毎週、さまざまなテーマの達人、専門家たちが真剣勝負を繰り広げチャンピオンを決定する人気番組
TVチャンピオンの例と同様に、谷田氏は「アメトーーク!」(※)も知らないことを知るきっかけになっていると語る。
「〇〇芸人」という立て付けで、野球やプロレスなど幅広いテーマでトークが繰り広げられる同番組をきっかけに、新しいことを知るという人も多いことだろう。最近では、漫画「キングダム」を扱った「キングダム芸人」で同作を知り、コミックスを読んでみたという人もいるはずだ。
※アメトーーク!:テレビ朝日系列で放送中のトークバラエティ番組。共通の趣味を持つお笑い芸人を集めて、マニアックなトークが行われる「くくりトーク」で人気を博す
esportsに関しても、最初は何も知らないで観てもいい、「どのくらいの知識を持って観ればいいの?」という感覚すら思わないムードはどうやったら作れるのかを日々考えているという。
プロゲーマーたちがどんな想いを込めてゲームをやっているのか、どんな人なのかを知る、言い換えると「人に触れる」ということを谷田氏は大事にしていると話す。
また、ウェルプレイドでは、観るきっかけを作るための取り組みとして、全国3箇所のイオンシネマにて、「クラッシュ・オブ・クラン」のリーグコンテンツ「ウェルプレイドリーグ」のライブビューイングをスタートさせたほか、人気バーチャルYouTuberのキズナアイをサポートするActive8と業務提携を結び、イベントや動画配信の領域での連携を進めている。
タレントを活用したビジネスに長けるよしもとの星氏も、「知ってもらうことは一番大事。」と話す。テレビ局を中心としたメディアに、タレント起用をアプローチできる関係性を活用し、露出を増やしていくことに尽力中だ。
また、よしもとが渋谷に所有するヨシモト∞ホールは、esportsイベントが実施できるよう改装中。ゆくゆくは大きな興行を展開することを見据え、実験的にいろいろと試していくという。
セッションの最後には、「esportsは儲かるのか?」という誰もが気になる話題へ。
CyberZの青村氏は「チケッティングやスポンサーさんについていただいていたり、グッズ販売をしたりしていますが、まだまだ投資フェーズ。」と語るほか、イベント事業はプランニングから入金までの期間、つまりキャッシュになるまでが長い労働集約型になりがちだと古澤氏。
業界が健全に育っていくためには、労働集約型の収益モデルからの脱却が、ひとつのキーワードになりそうだ。
そんな古澤氏から「この中でいちばん儲かっているのは梅崎さんでは?」と暴露。
auなどの超有名ブランド、企業がスポンサーについているDetonatioN Gamingだが、それでも海外のチームと比較すると雲泥の差があるとのこと。海外では、都市から30億円規模の支援、スポンサー1社あたりの支援も1億円規模に達する事例があるとし、日本と世界の資金力の差は広がる一方であるという。
日本においても大手資本の参入により、チームの平均給与が上がり、選手の確保や環境の整備が進んではいるが、それだけでマネタイズすることは難しい現状があるようだ。
次世代の選手を育てるスクール事業など、+αの何かをする必要があると梅崎氏が語りセッションを締めくくった。
TGS2018ではesportsが大きく注目され、大会各種では選手の活躍が眼前で繰り広げられた。その裏には、選手を輝かせようする本セッションの登壇者やそれぞれの企業の社員、関係者が多くいる。
日本のesportsが独自の形で発展し広がっていくかは、選手の活躍はもちろんのことだが、そんな彼らの働きによるところも大きいだろう。esportsファンの方においては、各社の動向にも期待しつつ、大会観戦やイベントを楽しんでみてほしい。
選手ありきのesports配信を行う各社の工夫【TGS2018】

ひと口に「esports」といっても、1人のプレイヤーとして参加して楽しむ、現場に出向いて楽しむ、オンライン観戦で楽しむなど多種多様なスタイルがある。オーディエンスへの伝え方にフォーカスし、TGS2018で集めた情報を多角的にまとめ、現状と展望を探る。