1万人以上が参加する世界最高峰格ゲー大会「EVO」、実況・解説者のUltraDavid氏にアメリカの格ゲーコミュニティ誕生秘話を聞いた【前編】

格闘ゲームの祭典にして、世界最大級のesportsイベントである「Evolution」(以下、EVO)。1995年から開催されているEVOは、アメリカの格闘ゲームコミュニティが“自分たちの好きなゲームを盛り上げる”ために生まれた。昨年開催の「EVO2017」では、述べ1万人以上が参加し、「ストリートファイターV」部門では東大卒プロゲーマーのときど選手が優勝したことが記憶に新しい。
さて、その中でも、“EVOの立役者”と言える人物が多数存在する。
今回WELLPLAYED JOURNALでは、EVOの関係者やアメリカの格闘ゲームコミュニティを盛り上げることに注力している人物、そして大会参加者を数回に渡って取り上げていく。今の格闘ゲームコミュニティがどのように形成されたのか、そして彼らがどのように関わってきたのかを訊いてきた。
記念すべき1人目は、Capcom CupやEVOの解説でお馴染みのUltraDavid氏。弁護士という地位を持つ彼が、FGCに対し何を思うのか。日本のコミュニティに対してはどう感じているのか。彼の格闘ゲーム、そしてコミュニティへの思いを全3回に渡って伝えていく。
▼実況・解説者のUltraDavid氏 独占インタビュー 関連記事
【中編】EVOが世界最高峰格ゲー大会まで成長した理由
【後編】EVO JAPANの功績 そして日本のesportsシーンがEVOから学べることは
名前:UltraDavid
Twitter:@UltraDavid
Twitch:UltraChenTV
事務所:DPG AT LAW
アメリカの格闘ゲームコミュニティ、誕生秘話
——:本日はよろしくお願いします。最初にDavidさんについてお伺いできればと思います。そもそもDavidさんがアメリカの格闘ゲームコミュニティ(Fighting Game Community – 以下、FGC)に興味を持ったのはいつ頃だったのでしょうか。
David:
格闘ゲームの大会に参加するなど、本格的にのめり込んだのは2002年頃だったと思います。私は2001年に大学に入学したのですが、キャンパス近くに強いプレイヤーがたくさん通うゲーセンがあって、そこでよくプレイしていました。
そのゲーセンには、Ricki Ortizさん(※)やJohn Choiさん(※)のようなプレイヤーも対戦しに来ていました。最初のころはよく負けていましたが、自分は負けず嫌いなため粘り強くやりつづけては、最終的に自分が納得できるくらいまでには強くなりましたね。このころは、よく「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」と「スーパーストリートファイターII X」をプレイしていました。
※Ricki Ortiz : Capcom Cup2016 準優勝という実績を持つプレイヤー。世界的な春麗使いとして知られている。
※John Choi : “アメリカのリュウ”とまで言われた強豪リュウ使い。現在はNorCal Regionalsという大会の運営に注力している。
その後、大学院の勉強のためにアメリカの東海岸に数年間引っ越しました。東海岸では、さらにスキルを磨き、次第に大会でも優勝できるようになりました。そして2008年ころ、生まれ育った地元の南カリフォルニアに戻りたくて、また西海岸へ引っ越したのです。ちょうどそのころには「ストリートファイターIV」がリリースされて、たくさんの大会に参加しては、優勝を果たしていました。
そして、大会に参加したことによって、Alex Valleさん(※)と彼の会社であるLevel Upのメンバーたちにも知り合う機会を得ました。Alex Valleさんは、配信ライブストリーマーがまだ少ないころ、真っ先に配信をしていた方です。私のトーク力と深いゲームの知識がAlex Valleさんに認められ、解説を頼まれました。そして現在に至るという形です。
※Alex Valle : Final Roundという世界でも有数の規模で開かれている大会の主催者。彼自身も格闘ゲーマーであり、ストリートファイターZERO3で梅原大吾選手と対戦した模様はテレビ番組でも取り上げられた。
――:そもそもDavidさんが格闘ゲームをプレイするようになったきっかけは何だったのでしょうか。また、いつから「エンジョイ勢」から人生をかけて情熱を注ぎこむような「ガチ勢」になったのですか。
David:
じつは大学に通い始めていたころから、もう熱狂的なガチ勢でした。先ほど申し上げたように、大学近くのゲーセンに通っていて、国内上位ランクのプレイヤーであるRicki OrtizさんやJohn Choiさんらとよく対戦していましたね。
そのゲーセンに通うまでは、正直自分はまあまあ強いプレイヤーであると思い込んでいたのですが、そこで彼らにボコボコに……。自分の人生の中でも本当に驚いた出来事のひとつでしたよ。
――:Davidさんは、解説者のみならず、格闘ゲームのコミュニティにも多大な影響を与えている存在です。たとえば、若手プレイヤーたちが有名になっていく過程で、法律的なアドバイスも提供しています。こうしたコミュニティへの貢献に至った経緯や理由は何だったのでしょうか。
David:
ゲームを遊ぶ前から、“人を助けること、何かに貢献すること”はずっと大切にしていました。もちろん、ある程度私の育ち方にも関係するのでしょうが、私にとって人を助けることは昔から大切にしている価値観です。たとえば高校時代では、ボランティアで地域政党を手伝ったり、それこそ友達のイベントやスケジュール管理、宿題の手助けまでもしていましたね。
また、私が格ゲーをやり始めたときには、周囲の方がいろいろなサポートをしてくれました。格ゲー仲間が自身の家に招いてくれて、ゲームのスキルアップとなる練習・勉強のために先導してくれたのは今でも覚えています。
私がゲーセンで対戦したときにも、格ゲー仲間たちがその場で意見やアドバイスをくれたり、苦手なキャラの倒し方や対策なども教えてくれました。その友達からの優しさを一生忘れません。皆がいなかったら、格ゲーを今までやりつづけているとは思えませんね。
そもそも物心ついたころから、“還元”することが私のライフゴールでした。その最初のチャンスがやってきたのが、格闘ゲームのコミュニティサイト「Shoryuken.com」(※)だったのです。
※Shoryuken.com : 格闘ゲームの最新情報をはじめ、攻略ガイド、データベースなど、多くのプレイヤーが利用するアメリカ最大の格闘ゲームコミュニティサイト。
私はそこでゲームの攻略、アイディア、対策方法などをよく投稿していました。他のプレイヤーの感想戦も、メールやSMSにメモとして残していました。これは全て解説を務める前に行ってきたものです。ですので、「実況・解説をやらないか」と誘われたときも自然と承諾できました。
当時のFGCシーンは小さかったし、誰も私が実況・解説をやることが大きな貢献という捉え方もしていませんでした。ただ、実況・解説を通して、FGCに還元することは確かにありました。これは、善事ではなく、ただやるだけで自身の心が温かくなります。本当にそれだけのことですが、これからもやりつづけるつもりです。
というのも、誰かに何かを教えているときや手伝っているときほど、私自身たくさんの新しい学びを得ています。もし私がここまでやらなかったら、逆に現在までの経験はできていないと思いますね。ちなみに法律的な貢献ですが、こちらは……まぁ、弁護士としての本業でもありますから(笑)。
——:実況・解説というポジションに魅せられたきっかけは何だったのでしょうか。個人的に英語実況のなかでもDavidさんの実況には、私自身も大変魅せられています。
David:
理由はシンプルで、“楽しくて面白い”からです。先ほどもお話した通り、私は過去に「Shoryuken.com」において、解説・分析・感想戦を投稿していたので、解説すること自体は好きでしたし、抵抗感なく臨めています。そもそもハイレベルなプレイを分析することが本当に楽しく大好きなのです。
ただ、実況・解説をはじめてから、きちんとお金を貰う正式な“仕事”と言える形になるまでは、かなり時間がかかりました。私とJames Chenさん(※)と番組をやっていた最初の2~3年は、費用などは自腹で負担していました。スポンサーによる金銭負担などは一番多くても、渡航費や航空券の提供くらいでした。かなり珍しかったですが。
※James Chen : EVOをはじめ英語圏での格闘ゲームの実況・解説を行っている人物。情熱的かつ実況中に感極まるなど、その人間味あふれる実況・解説が多くの観客を惹きつける。
とはいえ、私がやりつづけて来た理由はやはり楽しかったし、大好きだったからです。何より当時は、「ストリートファイター」などの解説をやっていた人が少なかった。決して先駆者ではなかったのですが、将来的にブームになること、また活動の初期から貢献できたことについては大変光栄に思っています。
その貢献ができる機会でしたし、私が趣味としてやりたかったこともあって、今までやりつづけて来れたのだと思います。
James Chen氏(左)とUltra David氏(右)。ストリートファイターの実況・解説といえばこの二人。
「Shoryuken.com」の誕生。ここから加速していく
――:IRCのCapcomチャンネルから「Shoryuken.com」が登場し、全世界のプレイヤーと試合をするためのつながりができました。他のコミュニティサイトに比べ、「Shoryuken.com」が特別大きく、人が集まった理由は何故でしょうか。
David:
個人的にですが、ひとつの成功要因として、大会「Bシリーズ」(後にEVOシリーズになった)の創業者であるキャノン兄弟(※)が立ち上げたのが理由でしょう。キャノン兄弟については、恐らくFGCで彼らのことを知らない人は、ひとりもいないくらい大きな存在です。まずはその立ち上げた方の知名度が大きなプラスに働いたと思います。
※キャノン兄弟 : Tom&Tony Cannon兄弟。現在はEVOシリーズの販促などを行っている。彼らが作った「Bシリーズ」がなければ現在の格闘ゲームシーンはここまで育っていなかったのではないだろうか。
また「Shoryuken.com」は開設時からすでにFGCに重きを置いた活動を積極的に行っていました。それも関係してか、「Shoryuken.com」は瞬く間に口コミで広がっていったのです。
というのも、私自身もゲーセン仲間に「Shoryuken.comって知っている? 見るといいよ!」と教えられたのが最初の知るきっかけでした。そして、私自身もゲーセン仲間に「Shoryuken.com」の話をして広めていきました。そういう意味では、一切広告を活用せず、大衆の口コミだけで成長したコミュニティサイトでもあります。
他の掲示板やWebサイトも存在していましたが、カプコンタイトルを含む複数の格闘ゲームに特化したサイトは「Shoryuken.com」だけでした。「鉄拳」や「ソウルキャリバー」、「モータルコンバット」などの専門サイトもありましたが、「Shoryuken.com」とはタイトルも異なるため、そこは共存できたのだと思います。
ただ、アメリカで一番人気なのはカプコンタイトルが圧倒的でしたので、結果的に同タイトルを扱っていた「Shoryuken.com」が、最もプレイヤーが集まる場所となりました。そして、それ以降も「Shoryuken.com」を超えるコミュニティサイトは、私の知る限り出てきていません。

Shoryuken.comは、草の根活動を経たからこそ、今のような大衆的な盛り上がりがあるのだろう。
なお、「Shoryuken.com」は何も英語圏の国だけではなくて、世界の国の人々にとっても欠かせない大事なサイトです。私は何度か旅行や留学をしたときに「Shoryuken.com」を利用していました。
たとえば、ある日パリに行ったとき「Shoryuken.com」の掲示板に「私は今パリにいます。格ゲーの対戦に付き合ってくれる仲間はいませんか?」と投稿したところ、すぐ現地のプレイヤーから返信があり、私を迎えに来てくれて一緒にゲームが出来る場所に連れてってくれて、さらに対戦までもできました。ロンドンに留学したときも同じことをして、「イギリスに来ました! 会いましょう!」という投稿だけで人が集まりました。彼らともすぐに友達になることができました。
私にとって「Shoryuken.com」は、必要不可欠な存在です。私が世界のどこの片隅に行っても、私と同じ趣味を持つ現地の仲間たちが集まる場所は常にあったのです。
私が南カリフォルニアからアメリカの西海岸、東海岸に横断し、ニューヨークに勉強しに引っ越したときにも、掲示板に投稿しただけでたくさんの会ったことのない仲間が集まってくれました。もし「Shoryuken.com」がなかったら、そもそも集まること自体が難しかったでしょう。本当にコミュニティの強みを感じられた瞬間でしたね。
一方で「Shoryuken.com」には、強くなるためのさまざまな情報も溢れていました。界隈では「強くなりたかったら、Shoryuken.comを見ろ!」というのが常識なほどです。コミュニティの“強い絆”と、プレイヤーとしても“強くなれる情報の場”。それが「Shoryuken.com」なのです。
アメリカの格闘ゲームコミュニティに大きな貢献をしたUltraDavid氏。彼のルーツについて、そして「Shoryuken.com」という存在、これからも成長していくFGC。
【中編】では、EVOという大会について、そしてEVOに足りていないものについて語ってもらった。世界最大級のesportsイベントの運用から学べるコミュニティ作りなどインタビューの内容は多岐にわたっていく。
class="p-emBox">■成長を続ける男、「ストV」トッププレイヤー“だいこく”に迫る

Capcom Cupに出場するため、そして優勝するために海外大会を遠征している猛者がいる。その名も「だいこく」。ストリートファイターVにおいてトッププレイヤーであり、強気な攻めと大舞台でも萎縮しない強いメンタルで強豪プレイヤーたちと日々戦っている。