実況・解説者のUltraDavid氏が語るEVO JAPANの功績 そして日本のesportsシーンがEVOから学べることは…【後編】

1万人以上が参加する世界最高峰格ゲー大会「EVO」、実況・解説者のUltraDavid氏にアメリカの格ゲーコミュニティ誕生秘話を聞いた【前編】
【中編記事】
EVOが世界最高峰格ゲー大会まで成長した理由 実況・解説者のUltraDavid氏が語る“プレイヤーファーストの理念”【中編】
――:Davidさんはコミュニティに長くいらっしゃる人物であり、ご自身の活動前からも格闘ゲームコミュニティ(Fighting Game Community – 以下、FGC)の時代背景を研究されてきました。それぞれの時代には、さまざまなプレイヤーやエピソードなどがあると思いますが、Davidさんにとって一番好きなアメリカFGCのライバル関係はどこでしょうか。
David:
やはり北カリフォルニアVS南カリフォルニア(Norcal vs Socal)です。私自身も深く関わっていたため、最も好きなライバルストーリーでFGC内でも重大なテーマですね。
先ほどもお話しましたが、私が格ゲーを本格的にやり出した時期は北カリフォルニアの大学にいたころです。しかし、私は「北カリフォルニア勢の一員」という認識はありませんでした。というのも、私の魂は地元である南カリフォルニアにあるからです。
ちなみにNorcal vs Socalに関する大会は、さまざまなところで開催されていました。それこそ小規模なゲーセンでも大勢の参加者が足を運んでは、両サイドの観衆が大声で煽ったり、応援したりして、熱く盛り上がっている環境でした。ヘイトや嫌味の様なものは一切なく、本当に素晴らしい大会だと思っています。
私にとって、Norcal Vs Socalの両サイドに住んでいたからこそ、両方の視点から見ることが出来ました。大切なライバルストーリーですね。まあ私はSocal(南カリフォルニア)命ですが!
直近でも行われるほど、メジャーな対立構成になっている。
――:日本国内では、関東VS関西という「東西戦」みたいなものがあります。こうしたライバルストーリーによって、コミュニティの絆が強化されるのは、まさにDavidさんが仰っていたNorcal vs Socalに似ていると思います。
David:
そうですね。ライバルストーリーは、コミュニティ形成につながります。私もNorcalやSocalの特定メンバーを倒すために、すさまじく練習していたことを覚えています。皆さん、目的があったからこそ、強くなるモチベーションや行動につながったのでしょう。だからこそ、対立関係のライバルストーリーは、コミュニティ強化にも寄与していくと思っています。
現在と異なる点は、当時は地域内のFGC仲間と特訓して、お互い成長していく体制だったことです。昔はもっと地域限定(小規模)の認識が強かった。今だと、どんなイベントでも海外選手が普通に参加する時代になっていて、特別感が少し薄れているのかもしれません。
もちろん国内外の選手と対戦できるのは良い環境ですが、地域に根付いた昔のライバル関係の熱さに今も恋しく感じています。
――:FGCの魅力はどこにあると考えていますか。ひとつにまとめることは難しいかもしれませんが、FGCならではの要素があれば教えてください。
David:
他の国と地域に関しては分かりかねますが、アメリカFGCの魅力は多文化・多人種環境……いわゆる「多様性」があることです。FGCは、他のゲームコミュニティやesportsなどと比べたら、圧倒的に“多岐に渡る集まり”という特徴があります。
もしFGCがなかったら、今の私の友達やつながりはだいぶ変わっていたのではないでしょうか。多様と言っても、人種面だけではありません。FGCのおかげで、地域や社会経済層や階級など関係なく、幅広い友人関係を築くことができました。趣味、好きなゲーム、考え方、対戦スタイルまで地域を横断したさまざまな限定的な特徴があるのです。

この写真をみてわかるように、ひとつのゲームに多種多様な人々が夢中になっている。
一方で、私がほかのesportsイベントに参加したときに違和感を覚えたのが、その多様性のなさです。個人的な意見ですが、多様性のないイベントというのは減点対象です。
たとえば、FGCの解説にはいろいろなスタイルで実況する人がいて、アプローチもそれぞれ違います。実況・解説の人たちはいろんなバックグラウンドから来ているので、各自で独特なスタイルをもっています。これは私の中では大事な点だと思います。むしろ、皆さんの解説の“個性”を楽しみながら観戦するのが望ましいのではないでしょうか。
皆さん、実況・解説をやるにあたり「これが正しい、あれが正しい」など自分たちの意見をもっていることが非常に面白いです。もちろん、私自身もヘイトメールなどを貰うことがあります。しかし、それは決して悪いことではありません。褒めてくれるメール、忌み嫌うメール、その両方が大事です。もし皆さんの好みが同じだったら、つまらないでしょう。
決まったテンプレートで機械のように実況・解説していたら個性がなくなるため、ぜひMC担当者には自身のスタイルを貫いて欲しいと思います。私と同じ意見の人もいれば、反対する人もいると思いますが、それはそれで良いことでしょう。
――:今、日本の格ゲーシーンは成長しています。日本はゲーセンやコミュニティも多いですが、文化的な面ではアメリカとはかなり異なります。Davidさんは日本の格ゲーシーンの成長に加え、これらがesports分野に入って行くことについてどう考えていますか。
David:
日本の格ゲーシーンが成長していくことは大変喜ばしいことだと思います。アメリカをはじめ世界では、昔から日本のプレイヤーの強さに憧れており、そのスキルレベルをずっと尊敬しています。一方でアメリカやヨーロッパと比べてみたときに、日本はゲーセンで強くなることに重きを置いているように感じます。少なくとも海外視点から見ると、日本はそういう風にみられています。
ですが、「EVO JAPAN」の開催は素晴らしかったです。たとえば、「ストリートファイターV」のPowell(パウエル)(※)選手が印象に残っていますね。強豪プレイヤーにも関わらず、海外遠征にはあまり出られていなかったのですが、「EVO JAPAN」で国内大会に参加する機会を得た。惜しくもBEST8入りは果たせませんでしたが、当日の活躍は目に焼き付いています。
「EVO JAPAN」は、彼のような選手にスポットライトが浴びるチャンスを与えたのが何よりも素晴らしい。海外大会に参加できない強豪選手の見せ場にもなったのではないでしょうか。
※Powell : 名古屋の強豪キャミィ使い。2018年5月末には、MOV選手と100先(100本先取)を行った。8時間にも及ぶ死闘の結果は100-97でMOV選手の勝利であったが、Powell選手も肉薄するほどの強さをしている。
日本、ひいてはどんなゲームジャンル、ゲームコミュニティにおいても、強いプレイヤーがもっと知られるようにするべきだと思っています。そういう意味では、昨今話題になっているプロライセンスの導入には困惑しています。というのも、プロライセンスの存在は、FGCを破壊する危険性があると思っています。
当然、モラルや法律面の対策であることは承知しています。ですが、私が一番心配しているのは、プロライセンスがデベロッパーの力に寄りすぎていることだと思います。プロになれるゲームタイトルを指定して、定める権力があるのは問題です。これは個人的に、第三者がいきなり入って来て、全ての権力をもつという認識です。
私が心配しているのは、もしプロゲーマーになりたい日本人プレイヤーがいた場合、本来自身が好きなゲームをやらなくなってしまうことです。なぜなら、お金になるメリットが無いし、キャリアアップの効果も見込めないからです。
アメリカのプレイヤーは「お金になるから」「プロ認定されるから」というのは、どうでもよくて、“楽しいからやっている人”がたくさんいます。
当然、強豪プレイヤーが活躍してキャリアを積み、お金を稼げるプロとして成功してほしいですが、本音をいいますと、やはり大衆的な信念を壊してしまうのではないかと心配しています。ゲーマーたちに選択権を与えない仕組みのまま、ひとつのステップでも踏み間違えたら、事故につながってしまいます。
――:たとえば日本のプロゲーマーは、対象者に関する演技、人格、及びそのほかの魅力的なものに基づいて、プロとなれるかどうかを実際に評価する基準が生まれています。アメリカのゲーマーにとって、その基準や評価形式が大きな役割を果たすと思いますか。
David:
アメリカでは、プレイヤーのことを「プロフェッショナル」とラベル付ける、いわゆる認定権力もちの企業/団体はありません。必須条件はひとつだけで、選手にお金が入るか否かです。
おっしゃっている項目は、もちろんチームを決めるために重要です。ただし、すべての選択権はプレイヤーもしくはチームのみにあります。勝てば、それ相応の賞金(賞品)が与えられる、それ以上の規定はありませんね。
――:日本のプレイヤー及び大会運営者は、FGCから何を学べばいいでしょうか。
David:
日本とアメリカでは、そこまで大きな差があるとは思っていません。というのも直近では「EVO JAPAN」の運営方法を初めてみることができ、本当に面白かったですし、感心しました。
たとえば、初日にはメインステージ以外で大きなディスプレイがなかったため、各配信エリアになにが行われているのかがみられませんでした。しかし、2日目になると、壁にプロジェクターでディスプレイを映し出すなど、早急に改善していったのです。問題が起きたときに、迅速に改善案をトライしているのが伝わってきました。
「EVO JAPAN」に限ったことではありませんが、どんな大会でも絶対何かしらのトラブルが起きるものです。ここで大事なのが、その問題が起きたときにどうやって経験を生かして解決するかです。できるだけ数多くの問題と対面すればするほど、解決スピードがスピードアップしていくでしょう。
そういう意味では、「EVO JAPAN」は初日と2日目の差があまりにもあって、感激しました。引き続き「EVO JAPAN」の運営メンバーはこのペースで行っていければいいと思います。
一方で大会「YUBIKEN Cup」の“神運営”ぶりもよく耳にしています。私は一度も参加出来なくて本当に残念ですが、このように日本には素晴らしい大会がいくつも開催されています。ですので、決してアメリカに遅れている印象はありません。
※YUBIKEN Cup : 海外で闘えるプレーヤーを育てる、 格闘ゲームコミュニティ「指喧」主催の大会。
まあ、改善という意味ではありませんが、個人的に日本の大会運営者にはもっと開催数を増やしてほしいくらいですね。
――:最後に、日本人のプレイヤーたちにアメリカFGCの良いこと、または一言伝えたいことはありますか。
David:
正直に言いますと、私はあまり日本の格ゲー大会に参加したことがないため、その比較については言及できません。ただ、確かに私がいえることは、「EVO JAPAN」に関してはアメリカの大規模な大会とほぼ変わらぬクオリティで実現できていることです。
会場では、多くのプレイヤーたちが声援を送っていましたし、カジュアルな対戦会も沢山見られました。私にとって、そこには日本もアメリカも大きな差はありません。これは本当に素晴らしいことです。
――:お忙しいところありがとうございました。
今のFGCの成り立ちから、今後の展望、そして日本の格闘ゲームコミュニティについて多くのことを語ってもらった。UltraDavid氏のように、コミュニティ形成から携わっている人は日本にもいるだろう。そうした人たちの尽力のおかげで、今の日本のesportsコミュニティがあることを忘れてはならない。
今後もUltraDavid氏のように、アメリカFGCの形成に尽力している人々、EVOに関係する人々についてインタビューを行っていく。日本のesportsシーンが彼らから学べることは多大にある。次回の記事も楽しみにしてほしい。
EVO Japan 2018 大会レポート

「EVO」が2018年、遂に日本で開催された(1月26〜28日、池袋サンシャインシティ文化会館、秋葉原UDX アキバ・スクエア)。その名も「EVO JAPAN」。本稿では、筆者が体験した「EVO JAPAN」について、あますところなくお伝えしていこう。