アメリカの古豪プレイヤー兼NCR主催者のJohn Choi氏が伝える“FGC思想”【後編】

大会メッセージに「楽しさ、面白さ、FGCらしさ」
——:B5終了後、Evolution(EVO)と改名したとき、すでに有名な大会でしたよね。当時はすでに数多くの著名な大会がありました。にもかかわらず、EVOが今日、これほどまで成長した理由はなんだと思いますか。
John:
個人的には、全てはB3から始まったと思います。B3の大会テーマは、北カリフォルニアVS南カリフォルニアです。いわばカリフォルニア州での最大規模の大会でした。その後、同大会はB4、B5と開催されていくのですが、B5で初めて海外プレイヤー有りの大会を開催し、そこから広く知れ渡っていきました。
海外プレイヤーの参加者を集めるのは相当苦労しましたが、Shoryuken.comのオンライン・アンケートを利用して、日本人プレイヤーをB5へ招待していきました。周囲からは「日本人プレイヤーも参加する特別な大会がある」「彼らの試合が見られる」という認識となり、自然に注目されていきましたね。こうした取り組みが、ほかの大規模な大会と比べて、BシリーズもといEVOが差別化出来た要因だと思います。
――:海外プレイヤーの参戦は、大きなターニングポイントだったのですね。
John:
はい。ちなみに、恐らく皆さん知らないと思いますが、EVOの初期はCannon兄弟と大型トラックをレンタルして様々な場所を廻っては筺体を運んでいました。自発的に盛り上げていく大会ということもあり、皆の貢献や手伝いによってEVOは成功に繋がったと思います。
昔大会を開催していたときは、6人参加してくれれば大成功だったのに、EVOがラスベガスで開催した際には200人も参加してくれました。これは本当に驚きましたね。当時のコミュニティには、ハードコアゲーマーしかおらず、今のように「esports!」というだけでは人が集まりませんでした。
そのコミュニティ内のメンバーたちは非常に強い絆をもっていて、その熱意に撃たれた人々が興味をもち、ひいてはShoryuken.comにも興味をもったのだと思います。そうした想いを大事にするメンバーについて、各国のプレイヤーたちも魅せられたのではないでしょうか。
——:大会にはそれぞれの価値観や特徴があります。そして主催者の多くは、自身が開催した大会と共にメッセージを伝えようともします。Johnさんは、大会を通してメッセージやコンセプトなど、伝えたいことはありますか。
John:
「NorCal Regionals」(以下、NCR)が最も強く発信しているメッセージは「楽しさ、面白さ、FGC(格闘ゲームコミュニティ)らしさ」です。たとえば、NCRは終了後にプレイヤーたちが集まり、楽しくビールを飲みながらリラックスできる環境を作っています。これはほかの大会やイベントでも、そこだけを真似しているところもありますね。

画像は「カプコンプロツアー」公式サイトより
大規模な大会になると、トッププレイヤーたちと交流する機会がほとんどありません。そこでNCRは、それらの意見を大事にして、カジュアルに対戦できる環境を提供するようになりました。NCRに参加した人々が気軽に対戦ができて、大会終了後にも一緒に飲んだりして、ふざけたり、騒いだり、仲良く交流する大事な楽しい時間を過ごせるように意識しています。
個人的な意見ですが、そうした経験は私にとって最高の時間。日本の大会もそうした環境があればいいですね。あ、ぜひこの機会にNCRのメッセージを宣伝・拡散してください!
——:(笑)。アメリカでは、Johnさんをただのプレイヤーではなく、“アメリカのリュウ”としてみています。南カリフォルニアを率いるAlex Valleさん(※)に対抗するように北カリフォルニアを率いていたのはJohnさんでした。またEVOの「Capcom VS.SNK 2」では、数多の日本人からタイトルを防衛しましたね。そんな多くのストーリーをもつJohnのなかで、最も印象に残っている試合はなんでしょうか。
※Alex Valle : Final Roundという世界でも有数の規模で開かれている大会の主催者。彼自身も格闘ゲーマーであり、「ストリートファイターZERO3」でウメハラ選手と対戦した模様はテレビ番組でも取り上げられた
John:
幾つかの思い出深い試合があります。大きく分けて3つですね。
ひとつ目はB3のVS Alex Valleの試合。それまでに何回かAlex Valleと対戦したことがあったのですが、B3で対戦したときは私にとって“目覚めた瞬間”だったと思います。
当時、私は「ストリートファイターZERO3」をかなり分析していて、知らない物はほぼなかったと思い込んでいました。しかし、Alex Valleが操るV-ismのリュウのオリジナルコンボで倒されたときに、これまで積み上げてきた知識が崩れ去り、突然、私の“知らないゲーム”になってしまったのです。“頭が真っ白になる”とは、まさにこういうことをいうのでしょうね。
自信をもっていた知識にここまで大きい穴があったとは……と。ただ、その経験からは多くの学びを得ました。あの時の試合は、今でも昨日のことの様に鮮明に覚えていて、記憶に深く刻まれています。
John Choi(サガット) vs Alex Valle(リュウ)
「ストリートファイターZERO3」の回ではないが、こちらも白熱したバトルが繰り広げられている。
――:ふたつ目は。
John:
特定の試合というわけではありませんが、「ストリートファイター」のアメリカチームが日本に遊びに行った際、初めて日本のゲームセンター文化を知ったときです。日本のゲームセンターでは、すごくハイレベルな戦いをどこかカジュアルに楽しんでいます。また、「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」においては、知識・スキル面で日本にどれだけ遅れているかを痛感しました。この経験は、目が覚めるような出来事でもあり、驚きと感動が同時に押し寄せましたね。
――:3つ目はいかがでしょう。
John:
ウメハラ(※)がアメリカに来た時の試合です。彼が来るまでには、私を含めて多くのアメリカ人たちは「俺はウメハラよりも強い」と思い込んでいました。しかし、彼が来て多くの現地プレイヤーたちをなぎ倒していった。これは本当に衝撃でした。日本とのスキルの差を明確に突き付けられた瞬間でした。
※ウメハラ:いわずと知れた日本を代表するプロゲーマー。EVO 2004では「背水の逆転劇」と称されたあの名勝負も生まれるなど、日本人プレイヤーであるウメハラ選手の存在・強さが示された
John Choi(サガット) vs ウメハラ(バイソン)
——:ありがとうございます。ちなみに、アメリカFGCの魅力はどこにあると考えていますか。また、他のコミュニティと比較して、良い点などはありますか。
John:
他のコミュニティについては分かりませんが、FGCの素晴らしさは「ゲームに対する情熱の強さ」ですね。他のコミュニティ……たとえば、スポーツでは金銭的なモチベーションなどがあると思います。しかし、FGCに関していえば99%のプレイヤーはお金のためにやっていません。
ゲームを愛しているからやっている。楽しむことを大事にしている。プロスポーツの賞金を抜いたらプロ選手は皆残りますか? その金銭的なマインドをもってないことだけで、周りの人との関係や接する方法も大きく変わると思います。
——:アメリカのFGCと日本のコミュニティの違いはなんでしょうか。また、日本の格闘ゲームコミュニティが発展していくためには、アメリカのFGCから何を学んでいけばいいのでしょうか。
John:
これは各国の文化の違いも影響してくると思います。たとえば、アメリカでは皆フランクでフレンドリーに接します。道に歩いて知らない人と目があったら挨拶するのが当たり前。どんなゲームのコミュニティでも、全く知らない人から声をかけらたり、会話したり、戦略を練ったり、そうして多くのプレイヤーが対戦に興じていきます。
しかし、日本を含めてアジアの国はそうではありません。どちらかというと、礼儀正しく相手への敬意を忘れないのですが、それが少しシャイな部分にもつながっているのかもしれません。
アメリカ人は騒ぎすぎてしまったり、失礼なこともいったりもしてしまうが、それがゲームコミュニティ内ではあまり害にならないのです。逆に、日本のプレイヤーにもっとそういうエネルギーが増えていけば、熱狂できる要素作りが大きく変わるのではないかと楽しみに思います。
世界中のトッププレイヤーたちが熱い闘いを繰り広げた。
本稿のサムネイルは、本動画のキャプチャー画像より
――:本日はありがとうございました。
EVOが成長した要因に、海外プレイヤーの参戦を積極的に受け入れたことを挙げたJohn氏。そして、格闘ゲームのコミュニティは、言語や文化、ひいては国境を越え、共通コンテンツとして長く愛されることとなる。また、ウメハラ選手を筆頭に、国内外の強豪プレイヤーたちが切磋琢磨することで、新たな気付きもそこで得られたという。世界のFGCは、グローバルマインドで今後も成長していくことだろう。
■成長を続ける男、「ストV」トッププレイヤー“だいこく”に迫る

Capcom Cupに出場するため、そして優勝するために海外大会を遠征している猛者がいる。その名も「だいこく」。ストリートファイターVにおいてトッププレイヤーであり、強気な攻めと大舞台でも萎縮しない強いメンタルで強豪プレイヤーたちと日々戦っている。