「鉄拳」強豪プレイヤー加齢選手をプロの道へ踏み出させた“友との約束”と“決意”【中編】

最弱から最強キャラに強化された一美
――:加齢選手の持ちキャラといえば一美で、守って勝つスタイルもあり、攻めにいくスタイルももっていると思います。その引き出しはどうやって用意しているのですか。
加齢:
自分で思うには、めちゃくちゃ守って勝つというタイプではありません。守り重視というのは、同じく一美を使っている「闘神祭2017」の覇者であるタリスカッターのような戦い方のことで、僕はもちろん守りも多いですが“相手が嫌な戦い方をする”ことを意識しています。相手が守られるのが嫌なら全力で守りますし、相手が暴れられるのが嫌なら暴れるし、柔軟にスタイルを変えるようにしています。
――:一美自体が守りも攻めもできるキャラクターで、さらに強いから使っている感じでしょうか。
加齢:
強いからというのはあまりないですね。細かく動けて、守りも攻めもできるから、相手の嫌がることができる……という理由で使っています。
――:「鉄拳7」の無印のころは弱いといわれていましたが、それでも加齢選手は使いつづけていました。あれも理由があってのことなんですね。
加齢:
強化される前とはいえ、あのころから細かく戦えましたからね。それを相手が嫌がる場合もあったので。
――:加齢選手は、MASTERCUP.8で準優勝、THE KING OF IRON FIST TOURNAMENT 2016で4位、そして2017で一美が強くなって、今年こそ加齢選手の年なんじゃないか言われていましたが、それ以降の大会では結果を出していたころに比べて、負けが目立っていたように思えました。
加齢:
あの年に一美が一気に強くなって、それを使いこなせるほどのパイロット性能が自分になかったんですよね。前の方が僕は使いやすかったというか(笑)。昔の戦い方が弱くなったので、そういうところで殻を抜け出せてなかったのかなと思います。
――:最弱から最強クラスになりましたからね。
加齢:
それに応じて、しっかりと相手が対策を進めていたというのもありますね。
――:今年は使いこなせるようになった年ということですか。
加齢:
前よりはだいぶ。でもまだまだですけどね。完成形にはほど遠いかなと。
――:自分の一美の完成度についてはどのくらいだと捉えていますか。
加齢:
今は50%です。今作はどう頑張っても負けちゃうとこはありますが、僕のなかの最終的な一美の答えは横歩きになりました。
破壊王と約束したプロライセンス獲得
――:プロライセンスを取るために参加した「MASTERCUP TRY FUKUOKA」について、印象深い試合もあったかと思います。ぜひ、伺えれば。
加齢:
まず自身のブロックでは、九州の強豪チクリンさん、大阪の若手オシャレ骨折もいて「激戦やなぁ」と思いました。でも、大会前にプレイスタイルをもっと安定するものに変えたので、それで結果が付いてきてくれたという感じでした。
――:やはり危うい場面もあったのでは。
加齢:
配信には映っていませんが、オシャレ骨折との一美対決で負けかけました。個人的にはあそこが重かったですね。
――:その後の後半も山場がつづいたかなと思います。
加齢:
後半に当たったちりちりはその日の試合をみていたので「今日はこんな感じの2択なのね」と思っていたら、案の定その通りで読みが当たりました。
――:あの試合は封殺している感がありましたね。そして、決勝戦のSFIDA所属 刈選手の吉光との試合。あれはかなり盛り上がったので、そちらも詳しくお聞きしたいです。
加齢:
僕の中では、3本先取して素早く終わらせるつもりだったのですが、予想外に向こうが一美慣れしていて……「もう本当やめてや!」という感じでした(笑)。
――:刈選手は一美に大きな大会でことごとく倒されてきていますもんね。
加齢:
キャラ相性は一美が7:3くらいで有利と思っていて、結構きつかったと思います。でもそこに甘えすぎていたところがあって、1本取られたところでふと我に返って、何されたら嫌だったかというのを思い出して戦いましたね。
――:ダブルイリミネーションのリセットが掛かってから冷静になれたんですね。加齢選手も吉光使いではあるので、動きも知っていたってことでしょうか。
加齢:
それはありましたね。ショートアッパーとライトゥーを多めにして、ジャブをダイブ減らしたんです。変えてからはそれだけで勝てました。
――:刈選手は一美に負けつづけても吉光を使っていますが、その様子は一美使いとしてどう見えますか。
加齢:
刈さんはプロとしてひたむきにやっているプレイヤーで、そういう意味では僕は決勝の相手が狩さんで本当に良かったと思っています。吉光はまだまだ可能性があるキャラで、キャラクターの頂点が見えないんですよね。一美、ドラグノフとかは「完成されたらこうなる」というのが見えるのですが、吉光にはそれがないので、まだまだ上にいけるキャラかなって思います。
――:九州の大会ということで、ベスト8に九州勢が6人残るという状態でしたが、それを抑えて大阪の加齢選手の優勝という形でしたね。
加齢:
これをいうと煽っているように聞こえてしまうかもしれませんが、ライセンスは欲しかったんです……が、本当は九州のプレイヤーに取って欲しかったという気持ちもありました。やはり九州の大会なので。でもあそこまで行っちゃったら勝つしかないと思ったのでそのまま行かせてもらいました。
――:ずばり、勝利の要因となったのは。
加齢:
今回の大会はいままで以上に緊張しませんでした。多分前日の森部さんのメンタルケアが大きかったかなと思います。ニコニコ喋っていたから、気負わずに試合をできたのが一番大きかったです。
一度は「鉄拳」から離れる決意も……
――:大会でさらに印象的だったのが、優勝の配信席でのコメントで、破壊王選手のことで涙を見せるというシーンがありましたよね。
加齢:
あの日に一番連絡してくれたのが破壊王で、毎回毎回ずっと「見てるでー」といってくれて、ご飯を食べているときもみて応援してくれたらしくて「めっちゃいいやつやん!」と思いましたね。それもあって優勝したときは、ようやく達成できたという気持ちでしたね。
――:会見のシーンでは、これは泣かせに入るかなと思っていた部分もありました。
加齢:
うーん、どうだろうな。「応援してくれてありがとう」というのもそうだし、ここまで腐りかけていた自分を引っ張ってくれてありがとうという気持ちでしたね。
――:“腐りかけていた”……その理由というのは。
加齢:
対戦相手がいなさすぎたというのが一番でしたね。大阪に限らず、日本にいなくて、やっても僕は一美が使えない、破壊王はキングも使えないというのがひとつの理由でした。
――:強さゆえの葛藤というやつですね。
加齢:
あと知っている人は知っていると思いますが、自分がプレイしていた当時はかなり関西が厳しかったので、どれだけ勝っても認められないみたいな風潮がありました。そんな文化もあって、あまり干渉したくないという気持ちがありました。
――:認めるというお話が出ましたが、最近気になっている若いプレイヤーはいますか。
加齢:
全国でいうと、九州のちりちり、けいすけのふたりですね。ダントツです。若いといってもチリチリは僕の1個下ですけど。福岡、佐賀の九州勢のプレイヤーです。
――:では、出身の大阪に絞るとどうでしょう。
加齢:
厳しい言い方をすると“いない”。
――:それはまた辛口な評価ですね。
加齢:
気になっているという意味では、全員になりますね。おしゃれ骨折とかはやる気もすごいですし。まだまだ弱いですけど、伸びる成長力で行ったらダントツかなと思います。でも、あの子たちはまだ褒めちゃダメなんですよ。発展途上なので、まだ評価するのは早いかなと。
若手選手の台頭からプロライセンス取得の「MASTERCUP TRY FUKUOKA」に挑んだ心境について語ってくれた加齢選手。後編では、加齢選手が考えるプロゲーマー像を伺った。
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