「鉄拳」強豪プレイヤー加齢選手をプロの道へ踏み出させた“友との約束”と“決意”【後編】

「日本の意識を変えたい」プロとしての意気込みを語る
――:今回、MASTERCUP TRY FUKUOKAで優勝してプロライセンスを手に入れましたが、それに対する意気込みはありますか。
加齢:
ちょっと話はそれますが、もともと僕はプロになるつもりがありませんでした。過去、ほかに声がかかっているときもあったのですが、プロになることはそのスポンサードしてくださるところの期待以上の結果を出さないといけないですし、それまでの過程も示さないといけません。それに応じる余裕がないという理由で、断ってきたんです。
――:今回、よしもとゲーミングさんのオファーには、何か別のアプローチがあったといことですね。
加齢:
はい。社会人プロゲーマーとしての活動を認めてもらって、プロになる決意をしました。まずは、その中で自分ができる限りのことを、先方が期待する以上の結果を出す、というのがノルマです。直近だと「EVO2018」があるので、そこでまた新たな発見ができればと思っています。
――:これまでには韓国選手との対戦もありましたが、今度は北米や欧州のプレイヤーとも交流できるチャンスということですね。
加齢:
そうですね。自分は海外選手との対戦を大切なものと考えているので、今から楽しみです。
――:プロチャンピオンシップに対する意気込みはどうですか。
加齢:
まず僕の中の第一ラインが、Team YAMASA所属のプロゲーマー・タケさんを倒すことですね。「一美とはこういうもんだぞ」というのをわからせたいですね。あとは、今の日本のプロは“のろま一強感”があるので、彼との対戦の戦績がいい僕が倒したいということでしょうか。で、あとは決勝で破壊王と会って楽しみたい(笑)。
――:プロとして「鉄拳」と向かい合う上で、今後の目標はありますか。
加齢:
まずは、日本の意識を変えることですかね。格好いいこと言っちゃいますけど。
――:意識……ですか。
加齢:
ちょっと前までは日韓が同じくらいでライバル関係にあったと思うのですが、もう実力差でいうと頭ひとつ抜けられていると思っています。僕だけに限らず、日本全体として対抗できるのはのろまくらいでしょう。そんなの理由はわかりきっていて、みんな「鉄拳」をやってないから。練習してない、対戦もしてない、そりゃ第2世代も出てこない。
――:そうなっている原因というのは。
加齢:
韓国との決定的な違いがあります。韓国はとにかく勝ちたい気持ちが強いプレイヤーが多く、日本はどちらかというと、負けたくないって気持ちでいる方が多い。そんな中でも九州は絶対に勝つという志が強い方が多いですね。だから今の九州は強い。一回負けたら、次会うときは絶対倒すみたいな。日本の九州以外の地域からは絶対に勝つという気持ちを感じることが少ない。
――:負けたくないから試合をしないということに繋がるということですね。プレイヤーの間では、環境的な要因としてアーケードのオンライン対戦時のネット環境の影響もよく耳にしますが……。
加齢:
それでアーケードから家庭用が中心になっていますが、それにしてもやっていないと思います。負けた理由をラグのせいにしやすいとかもありますが、自分が負けた場合はそれだけが理由じゃないですからね。あとは、時期が経過してある程度格付けが決まってしまっているのも大きいです。
――:各地域のプレイヤー層によって、そういった意識や上達の違いもあるのでしょうか。
加齢:
先ほど話した負けず嫌いの部分が強いのは九州のプレイヤー。人数が多い分層が厚いのが関東という感じです。関東の強みは、新陳代謝が良いから新しいプレイヤーがどんどん出てくることなんですが……一方、関西は全然新しい人が出てこないです。
――:そういったメンタル面も含めて、大会で勝ちつづけるために大切なことはありますか。
加齢:
言い訳しないこと。絶対これですね。人生どんなことでもこれだと思いますけど。まずは自分が弱いことを認めること。あとは、自分で気負いすぎないことですね。
――:確かに気負って動きが硬くなってしまう人は多いイメージがあります。
加齢:
結果が伴わなきゃいけないというのはありますが、やっていれば自然と結果は伴ってくるので、それに対してどうするかという部分が大切ですね。大会で勝ち抜くうえではそういう部分を考えていかないとダメかなと思います。
加齢選手が考えるプロゲーマー像
――:今後、加齢選手の試合を見る機会も増えると思いますが、逆にあまりゲームの知識がない観客の人に対して「試合のここはみておくべき」という箇所はありますか。
加齢:
解説の話をよく聞くことでしょうか。まず何をしているのかわからないことには楽しめないでしょう。ここでゲームの語り手不足という問題が出てくるんだと思います。
――:知識がないことには楽しめないということですね。
加齢:
「ストリートファイター」などが良いところは、ゲームを主軸にして周りのコンテンツを充実させている点があります。たとえば、組み手やチーム戦、ドラフトなどなど。面白そうな企画をやっているという点から入れるのはいいですよね。
――:人にフォーカスを当てたりしているのを見ると、ゲームの外側の部分を見ても「ストリートファイターをやってみようかな」という気持ちになりますもんね。
加齢:
「ストリートファイター」のプロと、「鉄拳」のプロって、求められることが全然違うと思うんですよ。だって、「ストリートファイター」はプロゲーマーというジャンルが成熟しているので、スポンサーが勝つための選手を求める形になっています。でも「鉄拳」はまだ出始めの段階ですし、成熟してない部分があるので、多角的にいろいろなプロの形があってもいいのかなと思います。
――:最後に、「鉄拳」と“プロゲーマー”について伺いたいです。加齢選手にとって「鉄拳」とはどういうものですか。
加齢:
僕の中では、最低限“遊び”の領域を出ていないというのが正直なところです。ゲームに対してそう思っているので、そういう意味でもプロを断ってきました。そのコンテンツを楽しいと思えるかはその人次第じゃないですか。今後は「鉄拳」に限らず、遊びをどうやって楽しみつづけようかと考えたい、そういう印象です。
――:遊びとはいえ、プロを完全否定しているわけではないと。
加齢:
そうですね。ただ、周りのプロをみていても、スポンサーの期待以上に応えているという人は少ないと思うので、自分はそこに応えられるように頑張っていきたいですね。その人がいくら頑張っていても、結果が出なかったらクビになるのは、仕事でも同じ話ですし。
――:シビアな意見ですが、正しい部分を突いていると思います。
加齢:
プロってすごい難しいです。そもそもプロの資格について決めるのはスポンサーだと思います。たとえば、「一位になること以外価値がない」と思っているかもしれませんし、「頑張っている人を応援する」という考えをもっているのかもしれません。そういう意味では、スポンサー側が明確に指標を立てていくことで、選手の方向性が定まっていくのでしょう。
――:ありがとうございました。
これまで知る人ぞ知る物語だった、加齢選手と破壊王選手の関係。その関係はプレイヤーとしての基盤だけではなく、現在のプロゲーマーとしての加齢選手までも作る重要なカギとなっていた。
そして、これまでプロのあるべき姿を考えつづけてきたこともあり、すでに加齢選手の中には「プロゲーマーはどうあるべきか」というビジョンが固まっている。昨今話題に挙がるプロゲーマーの定義について、彼の考えはひとつのアンサーになっていると感じた。
実力は言わずもがな、プロとしての心構えも出来上がっている加齢選手が、これからの「鉄拳」を引っ張っていくことになるのは明白だ。我々もその行く末を応援しながら見守ることにしよう。
class="p-emBox">鉄拳 プロチャンピオンシップ優勝者、ノロマ選手の心境に迫る

「鉄拳」初の公式プロトーナメント「鉄拳 プロチャンピオンシップ」で見事優勝した“鉄拳修羅の国の覇者”、ノロマ選手のインタビュー記事。彼が何を考え、技を振っているのか。そして、何を思い、試合に臨んでいったのか。