クラロワプレイヤー”けんつめし”の軌跡【前編】

「esports元年」という声も挙がった、2017年。国内でも大小数々のイベントが開催され、団体統合などの動きも活発化した。この動きの背景には、通信環境の整備やモバイル端末の普及と高性能化は言うに及ばず、モバイルゲームにおけるesportsの可能性を見出したことが大きい。
その代表例が、Supercellの「クラッシュ・ロワイヤル」(以下、クラロワ)と言えるだろう。
2016年1月に配信が始まったクラロワは、8枚のカードを使って対戦し、3分間でより多くのタワーを破壊するという、オンラインストラテジーゲーム。
配信後も、継続的なカード追加と数々のバランス調整、大会機能の実装など、より競技性を意識したアップデートが続いている。また、賞金総額1億円という世界大会が行われたことも記憶に新しい。
その世界大会へつながる「クラロワ日本一決定戦」をきっかけに、名を馳せた1人のプレイヤーがいる。彼の名前は、「けんつめし」。クラロワのトッププレイヤーでありながら、YouTubeでもプレイヤーを惹きつける動画投稿を積極的に続けている。
そんな彼に、単独ロングインタビューを行った。けんつめしを変えた大きな1年間と、新たに始まった2018年に向けて、彼は今どんな思いでいるのか。全3回で余すところなくお届けする。

名前:けんつめし
YouTube:けんつめしTV
Twitter:@Kent_Golemeshi
最多トロフィー:6,434(2018年2月5日現在)
大会実績
2017年5月 「クラロワ 日本一決定戦5月大会」 優勝
2017年6月 「Clash Asia Crown Cup 2017」3位タイ
2017年9月 「クラロワ 日本一決定戦 9月大会」ベスト4
2017年10月 「クラロワ 日本一決定戦 THE FINAL」ベスト16
けんつめしというプレイヤーが生まれたきっかけを探る
— さっそくですが、けんつめし選手がクラロワを始めたきっかけについて教えてください。
けんつめし:
最初にクラロワに出会ったのは、5月頃だったと思います。
高校の友達に「ゲームうまいからやってみてよ」と端末ごと渡されたことがきっかけでした。
そこから自分でもやってみようかなと思い、インストールしたのですが、2カ月くらいプレイしてすぐやめてしまったんですよね。
— やめてしまった理由は?
けんつめし:
受験シーズンで通っていた高校が進学校だったこともあり、友達も学校も「スマホ触るな、夏を制したものが受験を制す」という雰囲気だったんですよね。それもあってトロフィー2000くらいでやめてしまいました。でも、結局9月くらいにまたハマってしまって(笑)。
その時、ちょうどクラロワ内で”大会機能”(※)が実装されて、15,000枚大会などが流行っていたんですよね。自分はトーナメントレベルにユニットが達していなかったこともあって、すごいなぁと思いながら見ていました。
(※)大会機能とは、ゲーム内で誰でも大会を開ける機能のこと。この機能は大会規模に応じて報酬も豪華になっていく。
— ダメと言われていても、ハマってしまう魅力があったわけですね。そんな中、「YouTubeに動画を投稿してみよう」と思ったのはなぜですか?
けんつめし:
11月くらいに、自分の「ゴーレム」を使ったデッキがめちゃめちゃ強いことが判明して、さらにプレイヤー主催の64人トーナメントで準優勝したんです。
その後、「けんつめしゴーレム」の使い方を教えてほしい」という声を聞いて、有名人にリプライを送って解説したり、デッキのコンセプトを教えてほしいという人には、きちんと深くまで伝わる解説動画をあげようと思いました。
この時からイベントに出演させていただくことが増えました。特に大きかったイベントがドズル軍 VS きおきお軍というイベントです。ここで当時最強と言われていたみかん坊やさんに勝てたことで、一気に名前が売れていきました。

けんつめし選手と言えば、やはりゴーレム。エリクサーポンプを置き、エリクサーアドバンテージを取りながら、残り1分から始まるエリクサー2倍タイムでゴーレムを使い、相手を圧し潰すけんつめし選手の代表デッキ。
年が明けて2月頃トーナメントに参加したいなと考えるようになりました。
当初はゴーレムデッキを使いたかったのですが、ゴーレムがトーナメントレベルに達していなかったんですよ。
なので、ノーマル限定のトーナメントに「迫撃砲」デッキを使って出てみました。すると、思った以上に「迫撃砲」デッキも動かせて、「これ迫撃砲もけっこうイケるんじゃね?」って。他のデッキを使うことの楽しさも覚えたんです。
その時、YouTubeのコメントを見ていたら、「グランドチャレンジ」の動画もアップしてほしいという要望があったので、グラチャレ動画を投稿していくと、さらにチャンネル登録者数が増えていきました。そして、視聴者とコミュニケーションを取っているうちに、どんどん動画コンテンツが増えていったんです。

14万再生された迫撃砲のデッキ。けんつめし選手はこのデッキを使うことで、「ゴーレム以外の動画も出していいんだ!」っと思いはじめたとのこと。
けんつめしのすさまじい躍進
— 今年の5月に初の公式大会である「クラロワ日本一決定戦」が開催されました。その大会で見事優勝された裏には、どのような考えや練習があったのですか?
けんつめし:
「ゴーレムデッキだけでは勝てないな」とわかってきた時期があったんです。そこで、いろいろなデッキを試して、武器を増やしました。その1つが、5月大会で選出した「けんつめしクロスボウ」です。
— 5月大会は「クロスボウ」が多くのプレイヤーを苦しめましたね。「けんつめしと言ったらゴーレム」という固定観念を打ち破った瞬間だったのではないでしょうか。
けんつめし:
逆に今までゴーレムを使っていて良かったと思いました。
というのも、「けんつめしはゴーレム」と思われたところにクロスボウを出すことで、相手選手の裏をかいた戦術ができたと思います。
自分が「ゴーレム使いで良かったな」と感じた大会であり、これからゴーレムとクロスボウという2つの武器で攻めることができるという強みになったなと実感しました。
アジアカップという大きなターニングポイント
— この5月大会で優勝したことをきっかけに、「アジアカップ」に招待されましたね。「けんつめしといったらゴーレムとクロスボウ」という印象がある中での戦いだったと思うのですが、いかがでしたか?
けんつめし:
日本一決定戦では「ゴーレム」と「クロスボウ」で裏をかいた戦術がハマったんですが、実はそれも裏を取られやすいんですね。なぜなら、「ジャイアント」や「ペッカ」といった重量級のデッキを出されると逆に弱点になってしまう。
海外のプレイヤーたちは対戦プレイヤーへの研究に余念がないので、事前情報があるデッキは危険だと思い、このデッキを優先して使うことは、あえてしませんでした。
— アジアカップで多く選出していた「インフェルノドラゴン」と「ラヴァハウンド」のデッキは、どのような経緯で作られたのですか?
けんつめし:
アジアカップに出場するにあたって、日本のトッププレイヤーと試合をしてもらったのですが、自分の持ちデッキであった「ゴーレム」と「クロスボウ」があまり勝てなかったんですね。
そこで、ランダムに自分が強いと思うカードを8枚入れたデッキを使ったら勝てた。それが「インフェルノドラゴン」と「ラヴァハウンド」が入った、新たな「けんつめしデッキ」でした。
クラロワというゲームは、例えば「ラヴァハウンド」が出てきたら次は「バルーン」だな、というように型にハメて対策をしていくゲームなんですね。そこで「吹き矢ゴブリン」とかが出てきたら「え、なに? このデッキ?」って、相手が混乱すると思ったんです。そして、混乱させているうちに一気に勢いを取ろう、と考えてできたデッキでした。
— それが思惑通りにいったから、予選無敗で2位通過という結果だったわけですね。
けんつめし:
そうですね。それにBANピックのルール(※)ともすごく相性が良かったんです。
「三銃士」をBANした試合などで、当時流行っていた「ダークネクロ」や「攻城バーバリアン」を一撃で倒せる「ライトニング」を防衛で使用し、一気に攻めに転じるという方法を用いました。
方をBANによって変えることができ、かつ流れをつかみやすいデッキだったんです。自分が戦った後、他の選手がすぐに使用しているのを見て、デッキが強いことを実感した瞬間でもありました。
(※)BANピックルールとは、お互いに使用禁止カードを1枚ずつ選択し、対戦するルール。合計2枚のカードがお互いに使用禁止になるので、相手に対する理解度や自分の持ちデッキ幅が試される。
— さて、アジアカップ予選を2位で通過され、本戦へは日本人唯一の出場となりましたが、その時の気持ちはどのようなものだったのでしょうか?
けんつめし:
アジアカップの本戦へ出場できた唯一の日本人ということもあり、みんなの気持ちを背負ってがんばろうと思いました。一方で、予選2位という結果に、「これは警戒されたな」と。上海で行われた本戦では、とにかく目先の一勝を目標にして戦っていました。
— 一つひとつの勝利が優勝へつながっていくわけですね。
けんつめし:
日本からSupercellの方やスタッフなど、多くの人に来ていただいていたので、初日から負けてしまうと盛り上がらないなと思っていました。とにかく、「1日目を勝って、夜みんなで美味しいご飯を食べよう」「2日目も勝って、また美味しいご飯を食べよう」と考えていました。勝ちつづけることで、「また明日も勝つからみんな応援してね」って言えると思って。
— そして迎えた3日目、惜しくもSTK@水水選手に敗れてしまいました。
けんつめし:
アジアカップを戦ってきた中で、STK@水水選手には「ゴーレムデッキ」が有効だと思っていました。実際、「ゴーレム」が機能してくれて、最終戦は相手のデッキが「三銃士」だったのでこれは勝てるなと思いました。
しかしゲーム終盤、極度の緊張から判断を1つ間違えてしまい、そのまま負けてしまいました。あれは本当に自分が緊張に押しつぶされてしまったんだなと感じました。プロプレイヤーとの場数の差を感じましたね。
— 結果はアジアカップ3位という素晴らしい成績でした。アジアカップを通じての感想をいただけますか?
けんつめし:
間違いなく、クラロワをやっていて一番面白かった瞬間でした。元々が目立ちたがり屋なので、今、自分が日本人で唯一、世界の舞台で戦い、そのスポットライトが当たっている、という状況は本当に嬉しかったです。
世界的にも日本でも、ダークホースだったというポジションも良かったです。失うものはなかったですし、普通に戦ったら勝てないことはわかっていたので、プロ相手にがむしゃらに、いろいろと挑戦することができました。
— あまりプレッシャーがなかった、ということでしょうか?
けんつめし:
今、アジア3位の自分がアジアカップに出場したら、「まずは本戦を抜けないといけない」といったプレッシャーがかかると思います。ただ、これは今後の日本一決定戦でも、背負っていかなければならないプレッシャーなのだと感じました。
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アジアカップという大きな舞台で結果を残した、けんつめし。その後の活躍も期待されながら、なおも続いていく日本一決定戦。
「クラロワプレイヤー”けんつめし”の軌跡 Vol.2」では、6月大会以降に現れる、RADWIMPSというライバルの存在や、結果に苦しむ日々…2017年中盤から後半にかけての思いを語っている。
けんつめしがなぜ、アジアカップ以降伸び悩んだのか。そこに迫るインタビューへと続く。
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