【独占取材】アジア競技大会に参加した日本代表クラロワプレイヤー“けんつめし”に密着、予選会場となる香港でその心境を訊いた【後編】

WPJ編集部
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アジア代表選手がそろい踏み

決戦当日の朝。けんつめしにコンディションを聞いてみると、「昨日はバッチリ眠れました。緊張していますが、今日一日が本当に楽しみで仕方がない」。意気込みを尋ねてみると、「勝ちます」と即答し、「これまでつづけてきたことは間違いではなかったと思います。全力を出し切るだけです」と言葉を紡いだ。

前日は、韓国代表のX-bow master選手とコラボ動画を撮影するなど、積極的に海外選手と交流をはかってきたけんつめしだが、ほかの選手についての印象はどうだろうか。

「やはり中国リーグMVPのLciop選手は雰囲気が違いますね。僕はミーハーなので会えて嬉しいです。早く話してみたいし、そして戦ってみたい。ただ、改めて周りを見回し見ると本当に錚々(そうそう)たるメンバーで、この場にいることが本当に嬉しい。どんな戦いをしようが“得”しかない。いい経験ができていると実感しています」

気合は十分。あとは戦うだけ。

一行は控室に場所を移し、Asian Electronic Sports Federation(AESF)より大会概要が説明された。そして、試合の順番が告げられた。

■東アジア予選 – けんつめし試合順
1戦目:X-bow master(韓国)
    KING-ZONE DragonX所属。
   過去実績にクラロワ世界一決定戦出場。
2戦目:YaoYao(台湾)
    ahq eSports club所属。
   過去実績にCACC2017出場。
3戦目:Rickson Lam(マカオ)
    過去実績は不詳。
4戦目:Lciop(中国)
    Nova Esports所属。
   過去実績にCRL china優勝、同リーグでのMVP。
5戦目:Aaron(香港)
    Nova Esports所属。
   過去実績にCACC2017優勝。

なお、ここからは試合結果と試合を終えたばかりのけんつめし本人からのコメントなどを交えてお伝えしていく。
 
 

中国リーグMVPのLciop選手との激闘の末に……

【VS X-bow master(韓国) 0-3 X-bow master勝利】
初戦から敗北を喫してしまったけんつめし。「いつ試合が始まったのかがわからなかった。だけど、それは相手も同じ。同じ土俵で戦っているので、ここで腐っちゃいけない」と、自分を奮い立たせて気持ちを切り替えた。

【VS YaoYao(台湾) 3-1 けんつめし勝利】
落ち着いたプレイングで見事に勝利。先ほどの試合とは異なり、「自分でも落ち着いて試合ができた」と語ってくれた。

【VS Rickson Lam(マカオ) 3-1 けんつめし勝利】
けんつめし連勝。「調子が上がってきた。また、自分の味を出せるようになってきた」と試合を振り返った。

そして、次はいよいよLciop選手(中国)との試合。中国リーグMVPの彼は、けんつめしとあたるまで全て3-0と完勝しているほどの強者だ。しかし、彼と挑めることにけんつめしは「楽しみ。なんだろう、相手が強ければ強いほど燃える。チャレンジャー精神というか」と嬉々としながらコメントした。

【VS Lciop(中国) 3-2 けんつめし勝利】
見事勝利した。けんつめしが操るバルーンデッキやゴーレムデッキがうまく作用し、死闘を制したのだ。このとき、会場にいる全員が立ち上がり拍手喝采、スタンディングオベーションが起こった。「日本選手が中国最強を倒したぞ!」「Lciop選手に土をつけるプレイヤーがいるとは……」周囲の関係者各位も大興奮だ。

興奮冷めやらぬなか、ついに最終戦となるAaron選手(香港)との試合に。勝てば予選突破という状況だが、果たして……。

【VS Aaron(香港) 0-3 Aaron勝利】
奮戦むなしく敗北してしまった。昨年のアジア大会Clash Asia Crown Cup 2017では勝利した相手だったが、思えばAaron選手は今回の中国リーグをLciop選手と共に優勝した強者。彼も成長していたのだった。

ここで本大会に進出する選手が決まった。4勝1敗のLciop選手(中国)、そして 3勝2敗は香港・韓国・日本と3代表が並んだが、直接対決で韓国・日本に勝利したAaron選手(香港)が駒を進めた。予選大会の結果は下記の通り。

■東アジア予選 – 試合結果
1位 Lciop(中国) 4勝1敗
2位 Aaron(香港) 3勝2敗
3位 X-bow master(韓国) 3勝2敗
4位 けんつめし(日本) 3勝2敗
5位 Yaoyao(台湾) 2勝3敗
6位 Rickson Lam(マカオ) 0勝5敗

※香港は、韓国と日本に直接対決で勝利
※韓国は、日本に直接対決で勝利

けんつめしの成績は4位。

「悔しいですね。ただ、やり切りました。もちろん勝ちたかったけど……。あと1戦勝利していれば予選を抜けることができた。でも、あとちょっとのところに差があるんだろうと思います。勝ち切れる人と、そうでない人の差があった。その差を縮めていくことが、今後の課題になると思います。……じゃあ、ちょっと勝利した代表選手たちを祝ってきます」

祝福へと向かう彼は、まだ敗退を実感しきれていなかった。それよりも、疲労とやりきった感覚が勝っているように見えた。その後のバスでのけんつめしは、1人敗戦を噛みしめながらスマホを握りしめていた。外を見ると、まるでけんつめしの気持ちを表すかのように、大粒の雨が音を立てて降り注いでいた。

突然の雨。

その後、代表選手及び関係者を交えた食事会へ。思えば、今回勝利したLciop選手とAaron選手は、どちらもNova Esports所属。「Novaのふたりが祝福されているのを見ると、改めて悔しさがこみ上げてきました。こんな悔しい思いは、滅多に味合わない」。

悔しい思いはしたが、たしかにやり切ったけんつめし。

「今後自分が登りつめていくにあたり、今回の悔しさを知れたことは大きかったし、自分の経験を語るうえで欠かせないエピソードとなった。この経験は今後に活きていく。そして完敗ではなかった。なによりLciop選手に土をつけたという爪痕を残せたのがよかった。まだ世界への道はつながっていると思いました

決意新たに予選を総括したけんつめしは、その日の夜、熱を出した。明るく振る舞っていた彼だが、緊張の糸を切らさず集中していたほか、過酷な試合を戦い抜いたこともあり、体力を使い果たしたようだ。
 
 

「憧れ、お手本にしてもらえるプレイヤーになりたい」

帰国の朝。全快して清々しい表情のけんつめしに、試合を経て、印象深かった選手について聞いた。

「みんな上手かったですが、Lciop選手は別格ですね。あとX-bow master選手は、こちらの勝ち筋を潰してくる戦略でなかなかのやり手でした。上手いプレイヤーには、“攻め続けて勝つタイプ”と、“相手の勝ち筋を潰して勝つタイプ”の2種類いると思っています。世界1位といわれているSirgical Goblin選手は攻めて勝つタイプで、日本のみかん坊や選手は勝ち筋を潰して勝つタイプですね。後者のタイプのほうが、勝率は高くなりやすいです」

また、今回の戦いで得たものについても尋ねた。

「すごくいい経験をさせてもらった。昨年のClash Asia Crown Cup 2017に比べて、規模感も違う。一年間でこういうステージまで来ることができたのだなと実感しています。一方で、そのなかで自分に足りていない部分も見えてきた。あと今は悔しさよりも楽しさが勝っています。心の底からこのゲームは面白いと思いますし、だからこそ今後も “クラロワを知らない人”にもこの魅力を伝えていきたい

帰国後のスケジュールを聞くと、「まず今日は休んで、クラロワリーグに向けて明日の全体練習に出ます。タイトなスケジュールですが、ワイルドカードを懸けた戦いなので、練習しなくちゃいけない。あとは動画をアップします。帰国後の新鮮なうちに、今回のことを振り返っておきたいのでね」とまだまだゆっくりはできない様子。

「やはりチームのほうを疎かにできない。だからしっかり週末に狙いを定めて練習していきます。これからプレイオフまで進めれば最高で5連戦になります。忙しくなりますが、忙しいことは幸せなことなので体調管理しつつ、頑張っていきたいです。クラロワリーグは優勝を目指すことは当然ですが、ここでいかにクラロワを盛り上げられるかが重要。だから単純に勝ちつづけることで試合数が増えることは嬉しいですね」

「クラロワリーグ アジア」ドキュメンタリー #01「リーグ開幕編」

けんつめしが、以前こんなことを言っていたのを思い出した。

「やっぱクラロワってすごいですよね。3分という短い時間ですが、本当に熱い。例えば、電車でやっているときに、相手が超強い人だったりすると、すごい集中して試合に臨む。それで、気が付くと乗り過ごしていることが多かったり(笑)。電車内でそんなことが繰り広げられているなんて誰も思わないじゃないですか。でもその3分にみんな魂かけてるんですよね」

優勝はもとより、クラロワの発展に尽力するなど、明確なビジョンをもっているけんつめし。なかなかこうした考えを据えながら参加している人は少ないかもしれない。

「そうですね。だから自分は動画投稿も休みませんし、今回のような代表戦の話があれば真っ先に手を挙げます。自分の進む道や夢がはっきりしているので迷うことはありません。僕の夢は、ゲームが上手い人が認められる世界を作ることです。まだ綺麗にはまとまっていませんが、それは誰かに用意してもらうものではなく、自分で作りたい。もちろん、みんなで作るものですが、その要素の一部として絶対に自分が関わっていたいと思います」

そう語るけんつめし。その想いに耳を傾けつづけた。

「僕は学校を辞めて、プロゲーマーになる道を選んだ。多くの人たちが、この道を選んだときに“成功している人はいるの?”、“どういう道かわからないよ?”と成功ルートが乏しいことを突かれ、また僕にも説得できる材料がありませんでした。それが本当に悔しかった。だからこそ、今後自分のような考えをもった若い子が出てきたときに、お手本になれる人物になっていれば、もっとスムーズかつ不安なくこの道を選べると思うのです。憧れてもらえる、お手本にしてもらえる、そんなプレイヤーに僕はなりたいです

成功の定義は、認められたり、ゲームで生計をたれられたりと、さまざまだ。けんつめしは成功の定義をどこに据えているのだろうか。

「僕は“認められる”ことが成功だと考えています。いわば、ひとつの職業として認知してもらい、成り立てばいいと思っています。今回なにが悔しいかというと、実績を逃したこと。“ゲーマーでもアジア競技大会に出場できる”という実現への近道だったにもかかわらず……。ただ、ここで腐らず、どう糧にしていくのかが重要。今回得た力は、今後の戦いぶりに絶対表れると思います。そこを見ていただきたいです」


 
今回、4位という成績に終わったが、それ以上に大きなものを手にしたけんつめし。彼の良いところは、勝ったり負けたりと起伏がある中、そのどちらでもドラマを作っていくところであろう。そこが人間臭く、だからこそ惹かれていく。東アジア予選を経て、自分の夢に近づけたことは確かだが、その近道切符を手に入れることはできなかった。しかし、“急がば回れ”ともいう。今回の経験を活かして、これから彼がどのように過ごしていくか、そしてどのように実績をあげていくか。引きつづきWELLPLAYED JOURNALでは、彼の姿を追っていきたい。

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