全ての始まりは駄菓子屋にあった筐体から――「KOF」プロ選手・M’が歩んできた道【前編】

格闘ゲームをゲームセンターの筐体で遊ぶのが主流だった当時、そこには多くの強者が集まり腕を競い合っていた。現在人気タイトルとなっている作品はそんな時代を経て来たものがほとんどであり、「THE KING OF FIGHTERS」(以下、KOF)も1994年のアーケード版の登場から長い歴史が続くタイトルのひとつだ。
現在格闘ゲームのプロとして活躍している選手の多くは、そのコミュニティが生み出した存在といえるだろう。今回インタビューを行った“「KOF」日本最強”と呼ばれるM’さんも、ゲームセンターで強者たちに揉まれて育ったプロゲーマーだ。
M’さんの口からは、当時のプレイヤーたちの姿が見えてくるような懐かしさ溢れるエピソードを聞くことができた。さらに、世界を舞台に戦う彼がこれまでの大会で感じた“海外勢の強みと日本勢の弱点”にも言及している。
2016年10月より三和電子株式会社に所属するプロゲーマー。KOFシリーズ全般で高い実力をもつKOFシリーズトッププレイヤーの一人。動物好きで、アリクイをマスコットに使用。
2017年2月18日に開催されたKOF14初の世界大会において、世界各国の強豪プレイヤーの中でウィナーズからの優勝を遂げた。世界大会の優勝後、中国大会への招待参加や、金デブ氏の配信番組「あるにはある」への準レギュラー出演など活躍の場を広げている。
初の参戦となるEVO 2017では、ルーザーズからファイナルトーナメントに進出し入賞 7位タイという結果を獲得。
Twitter:@arubionhat
【大会実績】(一部抜粋)
2016 フジテレビONE 「いいすぽ!」KING OF FIGHTERS 14 優勝
2016 THE KING OF FESTIVAL2016(KOFes2016) 優勝
2016 MixUpNight#34 KOF XIV 優勝
2016 e-sports SQUARE CUP[KOF XIV 闘.chバトル] 準優勝
2016 闘神祭 20161Day Match Carnival KOF XIII 優勝
2017 WORLD E-SPORTS LEGENDARY LEAGUE KOF14 準優勝
2017 Duelling the KOF 16th season KOF14 Arcade ver 2on2 優勝
2017 Duelling the KOF 16th season KOF02UM 3on3 優勝
2017 KSB2017 KOF14 3on3 優勝
2017 KOF XIV Dream Tag Tournament 3位
2017 KOF XIV WORLDCHAMPIONSHIP GROUND FINAL 優勝
2017 e-sports SQUARE CUP[KOF XIV 闘.chバトル] 優勝
2017 eスクカップ KOF XIV 闘.chバトル 2016 FINAL 優勝
2018 Nakano Street Battle vol.2 KOF14 優勝
2018 KVO × TSB 2018 (KSB2018) KOF14 準優勝
2018 NESiCAxLive presents KOF14 ArcadeVer. BURN TWO FIGHT2018 優勝
2018 EVO japan KOF14 3位
全ての始まりは駄菓子屋にあった筐体から
――:本日はよろしくお願いします。M’さんがゲームに初めて触れたのはいつころだったのでしょうか。
M’:
じつは、そもそも最初にゲームに触れたのが「KOF」からでした。「KOF’97」くらいの話になりますね。当時駄菓子屋に4種類のゲームが選べるネオジオの筐体が置いてあって、周りの友達の影響でつられてやってみようかなと思い始めました。
――:それまで家庭用ゲームで遊んでいた経験はなく、完全に「KOF」からのスタートと。
M’:
はい。ゲームを始めて触ったのは「KOF」でした。そこから入って色々なゲームを触ることにはなるのですが、最終的にはなんだかんだ「KOF」に帰ってきました。
――:これまでプレイしてきたジャンルは、やはり格ゲーが中心でしょうか。
M’:
そうですね。いろいろな格ゲーを触りながらも、その中でも「KOF」が中心になっていました。
――:そこまでM’さんを引き付ける「KOF」ならではの魅力はどこでしょう。
M’:
「KOF」は1プレイを長くつづけられるイメージがあります。他のゲームだとキャラクターをひとり選んで戦いますが、「KOF」は3人を選んで戦うので、3回分多く遊べるみたいな感じです。加えて、いろいろなキャラも選べますし、バラエティに富んだ部分が魅力です。
あとはゲームの展開が早いのが印象的です。ジャンプの種類が豊富なのも特徴ですよね。加えてボタンが少ない点。「ストリートファイター」はボタンが6個で覚えるのが大変だったりしますが、「KOF」は4個ということもあり覚えるのもスムーズでした。
――:当時は「KOF’97」で遊んだということですが、対戦もそのころから始めたということでしょうか。
M’:
最初はずっとCPU戦で遊んでいました。隠しキャラを使って、ゲージ貯めて、超奥義連発……でもラスボスには苦戦して(苦笑)。
――:当時の腕前はどのくらいのレベルだったのでしょうか。
M’:
全然ダメでした。CPU戦をクリアすらできなかったですね。強い必殺技をひたすら連発するだけみたいな形で、そもそも当時はまずクリアすることが目標でした。思えば「KOF」の師匠であるマリキンさんともその駄菓子屋で出会いましたね。
――:当時から師匠がいらっしゃったのですね。どういう方だったのでしょうか。
M’:
マリキンさんはもうゲームはしていないのですが、「KOF’98」の稼働時期にお会いしました。本当にまだ僕が幼かったころです。また、M’という名前も、M(マリキン)を越える者という意味と、「KOF’99」の主人公・K’にちなんで彼に命名してもらいました。ただ、その師匠はもう越えてしまったのですが(笑)。
――:そうだったのですね。ちなみに「KOF」でお気に入りのナンバリングタイトルはどれでしょうか。
M’:
「KOF 2002」無印と、「KOF 2002 UNLIMITED MATCH」ですね。今の「XIV」も好きです。「XIV」のバージョンでいうと、なかでもレオナが最強といわれたふたつ前のバージョンが好きです。
――:あのころのXIV大会ではみんな使うのはレオナでしたね。
M’:
本当に周りがレオナばっかりで、そのころは僕もずっと優勝していました。本当に強キャラで、みんなが使っていましたね。
KOF XIV WORLD CHAMPIONSHIPの対戦模様
ゲーセンに通い詰めた青年時代、強者との出会いが彼を強くした
――:「KOF」を本格的にやり込もうって思ったタイミングについても教えてください。
M’:
本当にやり込もうと思ったのは「KOF 2002」のころです。僕が中学生にあがったときでした。当時、地元ではほぼ負けないくらいの腕にはなっていたのですが、友人に「新宿に強豪が集まるゲーセンがあるよ」と誘われて、新宿の「モア」というゲーセンに連れて行ってもらいました。
そこでたくさんの強い人たちにボコボコにされて、「上には上がいる」と衝撃を受けたと同時に、「ここが僕の居場所なんだ」と頑張ろうと思わされたきっかけでしたね。やり込んで練習しないと、今の自分ではこの人たちには追い付けないなと。
――:そこからはゲーセンに通いつめたと。
M’:
はい。今ならネット対戦がありますけど、当時はゲーセンに行かないと強豪と戦うことができなかったんですよね。道場破りみたいに、各地のゲーセンを周りましたね。「埼玉POPY」「池袋アリス」とか……。
――:自分を高めるために遠征を続けたんですね。
M’:
ネットとかでその地域の情報を調べたりして遠征していました。「闘劇」や「Duelling The Kof」などの大会に出場していたのもちょうどそのあたりの話ですね。
――:「KOF’97」からは離れることなくずっとプレイを続けてきたのでしょうか。
M’:
いえ、じつは一時期「KOF」から離れて、「スーパーストリートファイターIV アーケードエディション Ver.2012」が出たときにそっちをやり込んでいました。それ以外の期間はずっと「KOF」をやっていますね。
――:その一時期「KOF」から離れた理由というのは。
M’:
当時は人口も減ってきていて、「もっと人と対戦できるゲームないかな」と思っていたときに、流行っていたので遊んでいました。キャラクターは「さくら」をよく使っていました
――:そこから「KOF」に戻ってくるきっかけになったのは。
M’:
1年くらいガッツリやったのですが、心が折れたというか、壁にぶち当たりまして……。そして「KOF」に戻りました。そのときは「KOF XIII」のあたりですね。
――:別タイトルの経験で「KOF」に活用できたものはありましたか。
M’:
ありましたね。差し合いや差し返し、相手の技に小足とか差し込むなど、あとは地上戦の部分ですね。そういう部分も結構「ストリートファイター」で学んだ経験が生きています。
「KOF」の出会いからゲームセンターで強者たちに揉まれて育った背景を語ってくれたM’選手。後編では、大会で明らかになった海外勢と日本勢の戦略の違いをはじめ、プロとして活動し始めてからの心境の変化について伺った。
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