「針の穴を通すスカし」TWT2019覇者チクリンが見たパキスタン勢の強さ

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2019年の「鉄拳」といえば、Arslan Ash選手をはじめとするパキスタン勢の出現で大いに注目を集めた。
EVO Japan 2019を皮切りに、鉄拳ワールドツアー(以下、TWT)2019のマスター大会、EVO 2019など、数多くの大会でその強さを知らしめたことは、シーンを追っている人に衝撃を与えたのは間違いないだろう。
もちろん、Knee選手ら韓国プレイヤーも実力をいかんなく発揮している。
そんな中、TWT Finalsを制し、世界チャンピオンに輝いたのは、他でもない。「努力のラストサムライ」チクリン選手だ。
今回は、チクリン選手と2019年の鉄拳を振り返るとともに、プロ鉄拳プレイヤーとして活躍を続けるためのマインドに迫るインタビュー。
パキスタンで感じたオフライン環境の強み
――2019年の鉄拳界隈についてから話を聞かせください。Arslan Ash選手のセンセーショナルな登場から1年が始まりました。彼の第一印象はいかがでしたか?
チクリン:
そうですね……なんか不思議な距離感と言いますか、今まで見てきた人と違うような印象を受けましたね。
相手の技をスカす場面でも、針の穴を通すような、こんな細かいところまできっちりスカしを入れてくのかという衝撃がありました。
自分はルーザーズのTop4で当たって負けてしまいました。
――実際に対戦したときの心境って覚えていますか?
チクリン:
まず、自分が主に使うギースは今まで対策をしっかりしてくる人があんまりいなかったんです。ダブル烈風拳という技があって、ちょっと不利が大きいんですけど、そこまで大きい反撃をされることはないと思ってたんです。
でも、それ入るんだ? みたいな最大の確定をいきなり入れてきて驚きました。
小技とかもしっかりと最適な横移動してスカし確定を入れてきますし、対策の面にも驚きました。すごくきっちりしてるところが多すぎて、そんなところまで見てるんだっていう衝撃がありましたね。
普通に実力負けなのかなっていう感じで、とにかく衝撃だったのを覚えています。
――2019年7月には実際にパキスタンに遠征もされました。
チクリン:
黒黒さんから「チクリンなら行くかなって思った」と連絡がありまして、行くことになりました。黒黒さんが誰かプレイヤーを連れて行きたいということでお話をいただいたという経緯です。
やっぱり未知の国というものがすごく興味がありましたし、Arslan Ash選手が自分は(自国では)8位くらいのレベルだみたいな発言をしていましたので、本当にそんなに強い人がいるのかなっていう疑問もありましたので、ちょっと修行に行こうという気持ちでした。
実はそのとき、大会で若干成績が落ちてきていて、伸び悩んでいた時期でもあったので、それならEVO 2019の前にパキスタンで修行していこうと。
結果としては結構負けましたね。特に、豪鬼使いの人にはほぼ全敗だったような気がします。
――現地で感じたパキスタン勢の強さはどのようなものだったでしょうか?
チクリン:
対策面がすごいですし、現地で見た環境がすごくためになりました。
オフラインでみんな集まって切磋琢磨していると言いますか、コミュニケーションをちゃんと取り合っているんです。16人くらいの大会もあったんですけど、そこでもみんなが集まってアドバイスし合ったりとか。そういうところで自分たちと差がついているのかなと思いました。
――日本ではパキスタンほどコミュニケーションを取っている感じではなかった?
チクリン:
昔はゲームセンターの文化だったので店内で集まって、閉店後もお店の外で集まって「今日はこれが悪かったね」みたいな話し合いがあったんですけど、最近はオンラインで対戦することが多くなっているので、1人でプレイして何も得ないまま終わるっていうのが続いていたので。
こういった環境面で日本と差が生まれてしまっているのかなってのは感じました。
――オンラインとオフラインではやはり差がありますよね。
チクリン:
オンラインだと通信ラグの問題で、あきらめないといけない状況というのがどうしても出てくるんですよ。
間に合わないと思い込んでしまうと言いますか、スカし確定とかもあきらめざるを得ない場面があります。でも、オフラインであれば理論上できることは再現できるので、練習してる環境での差が大きいですね。
きっかけはパキスタン対策だったUlsanへの豪鬼
――パキスタン遠征後、EVO 2019では7位。その後も1桁入賞も多く、迎えたFinalsでは見事優勝。決勝戦では、Ulsan選手のためだけに用意していた豪鬼を使って勝利しました。
チクリン:
Finalsの2ヵ月くらい前、Tokyo TEKKEN Mastersが終わった後くらいの時期に、Awais Honey選手とAtif Butt選手の豪鬼対策として自分で豪鬼を触ってみようということでちょっと使っていました。
それである程度は使えるようになって、Finalsに出る選手のことを考えていたら、Ulsan選手がきついなって思ったんですが、前々からUlsan選手が豪鬼を嫌がっていたのを知っていたんですね。あとはUlsan選手が使う一美に対しては豪鬼だと戦いやすいので、それだったらということで練習と対策も兼ねて豪鬼をしっかり仕上げていこうという感じで練習しました。
――完全にUlsan選手のためだけに?
チクリン:
そうですね。完全にUlsan選手のためだけです。
――このように特定のプレイヤー対策を講じるための嗅覚が優勝へと導いたように思います。
チクリン:
いろいろな人の動画とかは見たりします。
人でなくてキャラクター自体の対策にもなります。この技をガードした後はこうした方がいいかなとか。この辺は結構調べますね。
世界チャンピオンでも手の震えは止まらない
――パキスタン遠征の前に成績が落ちてきたということですが、TWT2019の全体を通して好成績にも見えます。2019年は調子が良い感覚はあったのでしょうか?
チクリン:
いや、自分はもともと自信がないタイプで、大会の前もすごく不安なんです。
Finalsとか大きな舞台で優勝できれば、自信も付くのかなと思っていたんですけど、実際のところそういうことは全然なくて(笑)。やっぱりどんな大会でも不安が続くといいますか。
さらに今年には去年より不安があって、前年度世界チャンピオンということで、常に実況とかでも言われると思うんですよ。そのプレッシャーみたいなものはあります。
つい最近のYAMADA Cup中部予選でも手の震えが尋常じゃなかったんですよ。人生で1番震えてるっていうくらいで。自信とかそういう感覚は全然ないですし。
やっぱり自信をつけるのは自分のやり込みだと思ってるので、そこをなんとかやっていくという感じですかね。練習をしっかりやっているから大丈夫だと言い聞かせてやるようにしています。
――では、2019年に世界チャンピオンとなれた要因ってズバリなんでしょうか?
チクリン:
まず第一は鉄拳以外ほぼ何もやらなかったと言えるくらい練習をちゃんとしたっていうことですかね。
あとは、パキスタンに影響を受けて日本勢もオフラインで集まって練習しようという話になって、Finalsの1週間前とかはみんなで集まってちゃんとオフラインで練習しました。お互いに意見交換をしっかりできたと思います。日本勢の意識が変わって、ちゃんとまとまったというところがすごく大きかったのかなと。
なので、正直日本勢の誰が優勝してもおかしくなかったと思ってるんですよ。全員が力を出せていたと思います。
大会の際には未だに手の震えが止まらないという世界チャンピオン。その結果は日々のたゆまぬ努力、実際にパキスタンにまで遠征する行動力がもたらしたものだろう。
続くインタビュー後編、プロゲーマーに至る道のりや2020年の鉄拳シーンの展望を聞いた。
写真・大塚まり
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