2連覇への努力を惜しまない鉄拳世界王者チクリン

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ストイックに鉄拳を続けてプロゲーマーへ
――鉄拳を初めてプレイしたときのことって覚えていますか?
チクリン:
確か最初にやったのはゲームセンターで鉄拳2だったか3だったか。試しにちょっとやったくらいだったと思うんですけど、本格的にハマり始めたのは4からです。
友だちの家にあったので、やってみたら楽しくてすごくハマっていったんです。
――大会デビューはどんな結果だったんですか?
チクリン:
初めて出た大会は正直覚えていないんですよ……。ただ、初めて優勝した大会なら覚えています。
「鉄拳5」の頃で、自分が出た2回目か3回目くらいの大会だったと思うのですが、優勝したら「覇者」という称号がもらえて、それが目当てで大会に出てたって感じでした。
――数多くある格闘ゲームの中で鉄拳を続けている理由って何なんでしょう?
チクリン:
まず、キャラクターが3Dですごくリアルですし、技の数も多かったのと、もともと格闘技や格闘技がテーマの映画を観るのが好きだったんです。
鉄拳には、酔拳とかマーシャルアーツを使うキャラがいたり、プロレスのキャラもいたりして、そういうところで好きになったんですよ。
モーションもすごくリアルだし、演出も派手でかっこいいし面白いなって。
――今はギースがメインで、仁を使っていたり、TWT2019のFinalsではUlsan選手に対して豪鬼を出したりしていますが、キャラ選びの考え方を聞いてもいいですか?
チクリン:
自分はやれることが多いキャラが好きですね。だいたい強キャラになっちゃうんですけど。
例えば、コンボを練習すればするほど精度が上がって火力が上がるとか、攻めの幅がすごくあるとか、そういったキャラがすごく好きです。逆に、シンプルすぎるキャラはそんなに好きじゃないんですよ。
昔から、多少は難しいキャラが好きですね。
――普段はゲームは鉄拳以外まったくやらないですか?
チクリン:
ほぼやらないですね。
たまに買ったりするんですけど、ちょっとプレイしたらすぐ鉄拳をやりたくなっちゃうんですよ。
たぶん、鉄拳以外無理なのかな……。
昔は、RPGとかもハマってやったりしていたんですけど、15歳くらいで鉄拳にハマってからはほとんどやってないですかね。
「モンスターハンター」にハマった時期もありましたけど、やっぱり振り返るとほぼほぼ鉄拳をやっていますね。
――それが今や世界チャンピオン。プロライセンスを持つプレイヤーとなりました。MASTERCUP TRY TOKYO 2018で優勝してプロライセンスを獲得した前後で、意識が変わったことはありますか?
チクリン:
心境としては、やっぱり人に見られる立場なのでちゃんとしないといけないなと言いますか。
例えば、ゲームセンターで飲み物を飲んだらゴミをちゃんと捨てるとか。当たり前のことなんですけど、そういうところまで見られるので改めてちゃんとしようと思いました。
配信もよくやるんですけど、汚い言葉を使わないとか。礼儀とかはもっと大事にしないといけないなと。
コメントもいただいたら極力全部返すようにしていますし、大前提として相手プレイヤーに対して「なんでこんなことするんだよ」みたいなネガティブなことは絶対に言わないようにしています。どんな技を受けてもちゃんと受け入れる。
悪口みたいに聞こえてしまうと、視聴者に「鉄拳プレイヤーはこんな変な人がいるんだ」って見られてしまうのは良くないと思いますし、自分は言わないようにしています。
そもそも相手にいらつくことってあんまりなくて、意識しなくても出ないというのはありますけど。
――プロゲーマーとしてのプレッシャーは感じなかったですか?
チクリン:
特に契約が決まった最初のときは、プレッシャーはすごくありましたね。
せっかくスポンサー契約をしていただいたのに、結果が出なければ幻滅させてしまうと思って……そういうところでプレッシャーはすごく感じていました。
努力の男チクリンは鉄拳漬けの毎日
――普段の練習は、長崎にある自宅でのオンライン対戦がメインですか?
チクリン:
そうですね。基本は自宅で練習をして、毎週水曜日だけ、自分のスポンサーである遊INGのお店で初心者講習会とか対戦会を行っている感じです。
オンライン対戦を配信しながらやって、だめだと思ったところをトレーニングモードで練習したりコンボ練習をしたり。毎日、それの繰り返しです。
実は長崎って回線環境があまり良くないので、なおさらオフラインとの差がありますね。
――長崎に拠点を置いていると、オフラインの練習相手はあまりいないのではないですか?
チクリン:
一応、長崎の鉄拳コミュニティーって全国でもトップレベルに仲が良くて、結構集まってオフラインやったり遊んだりしてるんですよ。
すごくレベルが高い人がたくさんいるというわけではないので、東京ほど良い練習ができるわけではないですし、人数自体もそんなに多くないかもしれないですけど、そういったところは長崎はまとまっているのかなという感じはします。
――あとは東京に来たタイミングで集まって練習してという感じですか。
チクリン:
そうですね。ユウ選手の家に呼んでもらって対戦したりしてレベルを上げていっています。
――話を聞いていると鉄拳漬けの毎日を送っていそうな印象ですが、ゲーム以外の趣味ってないんですか?
チクリン:
ご飯を食べるときとかに、ちょっとアニメを観たりとかするくらいですかね。
アニメを観るにしても、弱い主人公が強くなって努力するみたいなやつが好きで、それが鉄拳のモチベーションになったりするんです。
あとは麻雀ですね。長崎の鉄拳プレイヤーはみんな麻雀が好きで、それで自分もやることがあります。自分は負けるだけなんですけど……。
――1日の生活サイクルってどんな感じなんですか?
チクリン:
大体、夕方くらいに起きて、夜から朝方までずっと鉄拳をやって寝て……起きたらまたご飯を食べて鉄拳して、というのを繰り返してるんですけど、最近は取材などの仕事が増えたので、結構起きる時間はバラバラになっています。
基本的には8時間くらいは鉄拳の練習をして、1~2時間くらい鉄拳の動画を見てるという感じです。
東京に来るときも、泊まる場所は練習ができる場所の近くにして、すぐに練習できるようにしています。
――まさに鉄拳の虫といった感じですが、コーリーさんのモノマネが上手いという一面もあります。あれはどういったきっかけでやろうと?
チクリン:
コーリーさんが大好きなので(笑)。
もともと闘劇でコーリーさんの選手を呼び込むところがすごく好きで、DVDとか見ながらたまにふざけて自分でやっていたんですよ。
とにかく声がすごく好きで、ふざけてモノマネしてたのがずっと続いてる感じですね(笑)。
――「努力のラストサムライ」というキャッチコピーもありますね。
チクリン:
一見、意味わからないですよね(笑)。
「努力のラストサムライ」って何なんだ? と思いますけど、努力という言葉自体はすごく好きなんですよ。
ただ、自分自身で努力してますと言うのはすごく嫌いで、努力しているかどうかは周りが決めることだと思います。そう言ってもらえるように常にがんばろうという気持ちでいますね。
パキスタンに新勢力も?2020年も鉄拳は慌ただしい
――2019年はやはりパキスタン勢にスポットライトが当たることが多かったですが、2020年に注目のプレイヤーを挙げるとしたら誰でしょうか?
チクリン:
ピコハンこうき選手とゆったりゆーき選手の兄弟とかはすごく期待していますね。今年、プロライセンスを取るんじゃないかなと思います。
すでにプロライセンスを持っているプレイヤーだとノビ選手ですね。自分よりもっと上のレベルにいる存在だと思っています。
あとはパキスタン勢が今年からツアーに出てくると聞いてますので、去年よりも厳しい戦いが続くだろうなと。Arslan Ash選手、Awais Honey選手、Atif Butt選手、Heera Malik選手とか、その辺にどうやって勝つかがカギになってくると思います。
去年は後半からツアーに出てくるようになって、彼ら出た大会はほとんどパキスタンの選手が優勝しているので、それが前半から来るとなると結構大変ですね。
打倒パキスタンに加えて、また別の国から新たなプレイヤーが出てくるのか、というところですかね。やはり「打倒パキスタン」の空気はすごく大きい気がします。
――まだまだパキスタンみたいに強い国があるのでしょうか。
チクリン:
コートジボワールが強いんじゃないかって言われていて気になっています。他にもペルーも強い人がいっぱいいるので、2020年に出てくるプレイヤーはいると思います。
――なるほど。そういった予想がされる鉄拳界隈、チクリン選手の2020年の目標はいかがでしょうか?
チクリン:
まずはEVO 2020で優勝。あとは、TWTで2連覇という結果は目標です。
やっぱり2020年は対策される立場になるとは思うので、去年以上にがんばっていかないといけないと思いますし、オフラインで集まって情報交換するのも大事だと思います。最近ですとパキスタン勢も対戦を配信してくれていますので、そういったところもチェックしないといけないなと。
あと、2019年にパキスタンに行ったように、強い人がいっぱいいるところを発見できるように、自分がまたそこに行って強いプレイヤーと対戦するのを配信して、この国にも強いプレイヤーがいっぱいいるんだよっていうのを見せられるようにしたいです。
鉄拳以外だと、eスポーツを知ってもらってプレイヤーを増やしていけるように、講習会とかもやっていきたいですし、イベントももっとできるようになっていけたらなと思います。
そのためにはトーク力とか講習する能力が全然足りていないので、そういったところもスキルアップしていきたいですね。
比較的グローバルでプレイヤーの多い鉄拳は、2020年もまだ見ぬ強豪が潜んでいるかもしれない。どの国のどんなプレイヤーが待っているのか。
EVO Japan 2020では5位と優勝を逃すも、Top8入り。今年も活躍の兆しを見せたチクリン選手の動向を見逃すことはできない。
写真・大塚まり
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