ストVが嫌いになりかけた2018年のだいこく

WPJ編集部

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ストリートファイターV(以下、ストV)のプロゲーマーたちが目指す場所といえば、1年を通して行われるCapcom Pro Tour(以下、CPT)の上位32名だけが出場できるCapcom Cupだろう。

だいこく選手も2018年にそこを目指してCPTに意欲的に参加し続けた1人だ。だが、その裏側ではゲームへの向き合い方に悩んでいた。今回のインタビューでは、1年間葛藤し続けた彼が出した答えを聞いてみた。

勝つためのプロセスを変えて挑んだ2018年

――CPT参加にあたって、2018年はどのような練習方法を取っていたのでしょうか。

だいこく:
プロゲーマーの一般的な練習というと、対戦会に参加して1日中対戦するという人が多いんです。実際、2017年は自分も対戦会にひたすら参加していました。しかし2018年は、これまでとは異なる方法で練習していました。

具体的には、

  1. 動画を見続けて課題見つける
  2. トレーニングモードで、見つけた課題の解決法を探る
  3. 大会前のタイミングで対戦会に参加し、課題の答え合わせを行う

といった練習方法です。

なぜこのような練習方法を採用したかというと、自分の使用キャラであるバーディーの対策が広まってきて、自分の手の内がバレてきたなという考えを持ったからです。上位にいるプレイヤーたちに対策をされてしまうと、勝ち目がなくなってしまうので、なるべく対策をされないように、手札を隠した状態で大会に挑むという考え方に至りました。

――やはり、Capcom Cupに参加するようなプロプレイヤーたちに対策をされると厳しいということでしょうか。

だいこく:
そうですね。彼らとの間にはやはり実力差があります。その差をどう埋めるかを考えた結果、対戦会で自分の手の内を明かしてしまうリスクが、自分が他キャラの対策を積むことよりも大きいと考えました。

ただ、これでも上位にいるプレイヤーたちに勝てる可能性は低いんですよ。仮に勝てたとしても、運が良かったと思ってしまうほど、彼らとの差は大きい。

――運だけで勝てるゲームではないですからね。

だいこく:
もちろん、そのとおりです。ただ、大会はほとんどが2先(※)です。2先であれば、自分の読みが冴えていたり、相手の調子が悪ければ勝ててしまう。仮にこれが3先や5先になると、大会の上位陣は常に同じ顔触れになってくると思います。

2先というルールには、ある程度は運要素が絡んでくる。だから、勝てたとしても、自分の実力の方が上だとは言えません。

※2先(にさき):2本先取のこと。3先は3本先取、5先は5本先取。

――多くのプレイヤーが、自分が1番強いという自信を持って大会に参加していると思っていましたが違うのですね。

だいこく:
以前は自分が1番強いプレイヤーだと思って大会に臨んでいました。しかし、他のプロゲーマーとの交流が多くなったタイミングで、その考えは持たなくなりましたね。数多くの海外大会に出たことで、自分の実力も把握できたので、自分との差が明確にわかってしまった。

もちろん、大会に参加するときは、自分が1番になってやるという気持ちで挑みますが、心の奥ではまだまだ差があるなと感じてしまいます。

だいこくが考えるトッププレイヤーとの差

――CPTを周っていて、大きな節目となった大会はありましたか。

だいこく:
2018年のEVOが終わったタイミングで、自分のCPTの周り方が大きく変わりましたね。実は8月以降に参加した大会は、東京ゲームショウ2018(TGS2018)とCacpcom Cup最終予選だけなんですよ。

EVOで上位に入らなければCapcom Cupに出られないとわかっていたからこそ、すべてをかけて挑みました。しかし、結果は49位。そのあとTGS2018までの間は、練習量が減っていきましたね。

――それはなぜでしょう?

だいこく:
実は、格ゲーを嫌いになりかけていて……。練習をすればするほど、自分の動きが消極的になっていくのがわかってきて、画面を見るのが嫌になっていました。格ゲーが好きでプロになったのに嫌いになりかけている弱さと、どうすれば格ゲーと楽しく向き合えるのだろうかということを悩む日々が続きました。

そこで、一度初心にかえることにしたんです。今の保持ポイントだと、大会で上位に入賞しないとCapcom Cupには出られないので、だったら勝ち負けを抜きにして格ゲーを楽しんでいたときに戻ろうと。そう思うようになってから大会での動きが良くなったので、自分の戦い方はこれなんだなってわかりました。

――では、だいこく選手と上位にいるプロゲーマーたちの違いはどこにあると思いますか?

だいこく:
ときど選手や藤村選手のような上位にいるプロゲーマーたちは、成功体験を誰しも1つは持っていると思うんです。どんなに負けて悔しい思いをしても、それがあるから続けられる。努力した先が見えているからこそ、努力をし続けることができるんじゃないかと。

逆に自分は、そこまでの成功体験を持っていないので、負け続けると心がすり減っていく。先輩プロゲーマーたちは「このまま続けていけば、結果に出てくるよ」と励まし、道を示してくれます。それでも先が見えない人たちは、その言葉を信じて練習を続けていても本当にそうなれるかがわからずいつかは病んでしまうんです。

多くの先輩たちは、練習会に顔を出すことを勧めてくれます。対戦会は自分の腕を試す最高の環境だと思いますが、それは負け続けることに耐えることができる人間にとってはなんですよね。以前、若手の上手いプレイヤーたちをたくさん呼んで対戦会が開かれていましたが、回を重ねるごとに人が減っていきました。みんな、自分が普段いる環境では1番強い人間ですが、対戦会ではもっと強いプレイヤーがいてなかなか勝てない。そして、負け続けることに慣れてないから折れてしまうんです。

――いくらトッププレイヤーが相手とはいえ、負け続けることは精神的にきついものがありそうです。

だいこく:
折れない人間が特別なだけであって、折れてしまうのが普通。だから普通の人は、自分なりのやり方を見つけないと心が壊れてしまう。そこに気づくことができるかは、とても重要だと思います。

――それに気づけた2018年は成長できたということですね。

だいこく:
気づけたことはよかったと思います。ただ、人生で一番つらい年でもありました。プロゲーマーとして活動し始めた2017年は、世界中を飛び回ることの楽しさ、新鮮さを味わうことができました。また、自分が弱いということも理解していたからこそ、思い切りのいい行動にも踏み切れました。

しかし2018年は、勝たなければならないというプレッシャーが重くのしかかってきました。勝たないといけないけど勝てない、だから練習量を増やし続けるという悪循環に陥って、精神的に病んでしまいました。ただ、それを体験したことでゲームを楽しむというスタンスを確立できた部分はあります。あとは自分のペースで成長していこうかなと思っています。

――病み続けるのではなく、ゲームを楽しんでやるということに切り替えたんですね。

だいこく:
ようやく自分なりの格ゲーとの向き合い方がわかったように思います。ゲームと楽しく向き合う、そのスタンスを変えないことが今年の目標です。

また、配信にも力を入れていくつもりです。目指せ平均同接1,000人を目標に2019年は配信をやっていくつもりです。


自分より強いプレイヤーに勝つための試行錯誤を試した2018年。だいこく選手は、ゲームへの向き合い方を見つめ直すまで考え抜くこととなった。

その答えとして、ゲームを楽しむことに向き合って2019年は突き進むことを選んだ。格ゲーにとらわれずにゲームを楽しむ姿が、日々配信されている。

写真・大塚まり

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