PUBGでも狙い撃て Depの神エイムはこうして生まれた

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1人称視点のシューティングゲーム、いわゆるFPS(First-Person Shooter)をプレイする上で欠かせない技術の1つに、照準を合わせて敵を狙い撃つエイム(Aim)がある。
今回フィーチャーするのは、「OVERWATCH」(以下、OW)ワールドカップ2018に日本代表として出場し、ずば抜けたエイミングで世界にその名を轟かせた日本人プレイヤー。現在はSCARZの「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」(以下、PUBG)部門に所属するDep選手だ。
彼のPUBGやOWに対する思いや考えを紐解きながら、抜群のエイミングに秘められた過去、そして、プロプレイヤーとしての姿勢やポリシーにインタビュー形式で迫っていく。
エイミングを鍛えてくれたのはゾンビ!?
――OWからPUBGに競技タイトルを変更されましたが、まずはPUBGのどんなところが面白いかお聞かせください。
Dep:
PUBGはOWと比べて、1人対複数人で勝つのが難しいゲームなんですよ。そもそもFPSでは、1人で何人も同時に相手するのって普通は避けることなんです。
でも、そういった状況も切り抜けられて、自分のポテンシャルを感じられるのが面白いところでもあります。敵を倒しまくることがチームの勝ちにつながるので、勝ったときに素直にうれしいですね。
――チームにおけるDep選手の役割は、まさに敵を倒すことですか?
Dep:
とにかく最後まで残って残って、最後は君に任せたよ、みたいな役割ですね。
――「残って残って」というのは生き残ること?
Dep:
ですね。なので、最近は生存率も意識してプレイしています。
――敵を倒すときと生き残るときで、スイッチは変わりますか?
Dep:
最終盤まで行ったら割りと自分勝手にプレイするんですけど、それまではなるべく倒されないようにしています。味方は倒されてもいいから、自分だけはとにかく倒されないようにしますね。
――「前半は慎重に、後半は大胆に」ですか?
Dep:
後半になって敵の数が減ってくると、だいたい残ってる敵の位置もわかってくるんですよ。プレイエリアも狭まってくるので。そしたら、あとは自分の出番だなって。
――後半に向かうにつれて、Dep選手のやりたいことができるようになっていくんですね。Dep選手がPUBGでやりたいことは、PSJ(PUBG SCRIM JAPAN)の記録にも表れていますね。このときの感触や手応えはどうでしたか?
1/8 Tier1のランキングです。
モストキルはなんと5試合で21キル!2日連続で【SZ_Dep】選手でした👀 pic.twitter.com/8Yg5iTMBmq— PUBG SCRIM JAPAN (@PUBGSCRIMJAPAN) January 8, 2019
SCARZに所属して間もなくのスクリム(SCRIM)で、5試合21キルというとんでもない記録を出したDep選手。2位以下のキル数を見れば一目瞭然。スクリムとは、ランダムマッチングではなく、あらかじめ組まれたチームが予定を決めて参加する公式戦形式の練習試合のこと
Dep:
割りと簡単だったかなって感じ(笑)。
――なんと頼もしい! SCARZに所属して間もなくの試合でしたよね?
Dep:
ええ、でもたぶんその日は運も良かったんですよ。対戦相手の配置も良かったし、何より、チームメイトとの連携がうまくいった。
――それは何よりですね。そんなチームメイトの信頼をも勝ち取ったDep選手のすごさといえば、キル数に表れているエイミングですが、どんな鍛え方をしていますか?
Dep:
じつは、小学生のときに1年くらいPCゲームを遊んでたんですよ。そのころからマウスを振り回してて。
――振り回すって(笑)。小学生でPCゲーム遊んでる子なんて周りにはいなかったんじゃないですか?
Dep:
そうですね。自分は3歳年上のお兄ちゃんの影響でPCゲームを遊んでました。
――自由に触れるパソコンが自宅にあったってことですよね? ゲーマーとしては良い環境で育ったと。
Dep:
そうですね。僕の家にはありがたいことにそういう環境があって、それで覚えたんですよね、身体が勝手に。だからエイムの練習とかって、今はあまりやらないんですよ。その小学生のときに遊んでたゲームが、いま流行ってる大半のゲームよりもたくさんマウスを動かすゲームだったんですよね。
――そのゲームってなんですか?
Dep:
「Counter-Strike: Global Offensive」(以下、CS:GO)です。おかげでエイムの感覚を掴んだんでしょうね。
その頃の経験がずっと今も残ってるっていうか。だから、しっかりエイムを練習しよう、みたいなことはないんです。いまもずっと感覚でプレイしてる感じですね。
――具体的に、CS:GOのどんなところでエイムが上手くなりましたか覚えていますか?
Dep:
CS:GOにゾンビエスケープという、プレイヤーの何人かがゾンビになって、それを人間のプレイヤーが倒すモードがあったんです。
当時、一緒に遊んでたお兄ちゃんの友だちがゾンビになることが多かったんです。で、その人が操作するゾンビの動きがめっちゃ速いんですよ。上下にも動くし、狙うのが難しくて。的当てゲームみたいな感じになったんですよね。
ゾンビの不規則な動きに必死で照準を合わせなきゃいけなくて、そのおかげですかね。
――そのお兄ちゃんの友だちがいなかったら、いまのDep選手はいなかったと。
Dep:
そうなりますね。オレにとってこのゾンビの人がマジで重要人物です(笑)。
あとは……鍛え方だと、とにかくプレイし続けることは重要ですね。ひたすら意識高くプレイし続けて、その中で感覚を掴むっていう。
適当な気持ちで適当に遊んでいてもあまり意味ないんですよ。どれだけモチベーション高くずっとプレイできるかが大事。
魅せること重視で真剣に考えてプレイする
――そのモチベーションを高めるためにしていることはありますか?
Dep:
PUBGで流行ってるフラグムービー(※)を見るのも作るのも好きで、それでモチベーションを高めますね。
上手くいったプレイを集めて自分でつなげて動画作って、それを見るんですよ。良いプレイを集めるのがモチベーションになるんです。
※フラグムービー:FPSなどのゲームで、連続して敵を倒したり勝利に貢献する立ち回りが取れたりという、絶妙なシーンをいくつもつなぎ合わせた動画のこと。おもにプロのプレイを編集した動画をフラグムービーと呼び、素人が個人的に作った同様の動画はモンタージュと呼ばれ、区別されることが多いようだ
pjsまであと1週間?くらいっぽいです
pubgきて初めての大会です頑張ります~ pic.twitter.com/L0SPY18bww— Dep (@Dep_ow) February 17, 2019
Dep選手自身のTweetよりPUBGのフラグムービー
――OWにもあるハイライトみたいな動画ですね。自分のプレイ動画から学ぶことも?
Dep:
ありますね。プレイ中には気づかないこととか、このとき何を考えてたんだっけなど。振り返ると、このとき考えてたことってあまりよくなかったなと後になって気づくこともあります。1人反省会ですね。
――その反省が、ある意味エイムを鍛えているのかもしれないですね。
Dep:
言われてみれば鍛えてることになりますね。かっこいいフラグムービーを作るために、どれだけ射撃精度のいい、質のいいシーンが生み出せるかって考えていますからね。
――なるほど、魅せプレイですね。
Dep:
そうなんですよ。魅せること重視で真剣に考えてプレイしていますし。
――エイム関係だと、リコイルコントロール(※)も安定していますよね。PUBGにはたくさんの武器がありますけど、どうやって練習しているんでしょう。
Dep:
これもモチベーション高くプレイしてると、無意識のうちに感覚的に身についちゃってるっていうのが正直なところです。
トレーニングとかで武器を1つずつ触ってみてとかじゃなくて、実際の試合の中でプレイしてるうちにそれぞれの武器のリコイルを覚えて、この武器で敵があの距離にいるならこれくらい(銃身を)下げればいいかな、みたいなことがわかってくるんですよ。
※リコイルコントロール:射撃時の反動で銃自体が手元で暴れると照準が定まらなくなる。その反動(リコイル)を制御(コントロール)する技術・技巧のこと
――PUBGは自分の好きな武器にたどり着けない運の要素が強いゲームでもあると思うので、困ることはないですか?
Dep:
うーん……、野良でもけっこう同じ人と組んで遊ぶこと多かったり、チーム戦だとメンバーが譲ってくれたりもするんですよね。オレがこの武器が好きっていうのをみんな知ってくれてるから、意外と困ることはないですね。
――具体的にどんな風に操作しているんですか?
Dep:
撃つ瞬間、マウスをただ手前に下げるだけじゃなくて、なんて言うか……振動? 衝撃を吸収するみたいなイメージで、意図的に震えさせる感じですね。
――テーブルを通して振動が伝わってきますね! これでリコイルが軽減されるんですね。
Dep:
軽減というか安定するって感じですかね。
大事なのは波を作らないこと
――Dep選手はPUBGを1日あたりどれくらいプレイしていますか?
Dep:
多いときだと7時間くらい。だいたいぶっ通しでプレイしますね。
さっきも話したんですけど、適当にプレイしても意味ないので、何か飲み物を軽く飲むくらいはするけど、食事とか休憩はしないで、ひたすら意識高くやってますね。
――逆に言うと7時間もの間、集中が持続できると。その秘訣は何でしょう。
Dep:
それはもう楽しいからですね。好きなことだから7時間続くんですよ。続けようと思えば、たぶん12時間くらい続くかな。
というか、実際に12時間プレイし続けたこともあります。さすがに空腹もあったんで食事をはさみましたけど。それでも結果や成績に波はあまりなく、プレイし続けましたね。
――そうなると、逆に止めるときは何がきっかけになるのでしょう。
Dep:
疲れたら止めるしかないですね(笑)。
――そうですよね(笑)。まず最初にどこが疲れるんでしょう。手? それとも腕全体とかですか?
Dep:
考えながらプレイしてるので、手とか腕がどうこうってより、最初に疲れるのは脳かな。
――肉体的な疲れじゃないんですね。
Dep:
急に眠くなったりするんですよ。身体より、思考のほうで先に疲れがくるんです。
――ちなみに、練習時間はチームと個人でどれくらいの割合ですか?
Dep:
だいたい半々ですかね。チームで4時間、個人で3、4時間。
毎日同じ時間にサーバーを立ててくれてるメンバーがいて、そこで毎日4、5試合プレイします。
試合の後には当然コミュニケーションも取ります。良かったところも、悪かったところも積極的に言ってますね。そこで出し合った話をプレイ中に確認して、新しいことに気づいたり。
――最近、チームプレイの中で気づいたことはありますか?
Dep:
PUBGってプレイエリアの中にある民家とかに入って籠城するのが強いんですけど、そういう建物が確保できない場合、坂道(傾斜のある場所)にチームで固まることが多いんですね。その時に、自分たちの確保してるポジションをできれば広くしたいので、陣形を横に広げたりするんです。
で、自分は陣形の外側、端のほうに行きたがる傾向があって、そうするとけっこう倒されちゃうことが多いんですね。終盤までオレが生き残っていないのはまずいから、坂道でポジション取る時はDepさんは真ん中に入れようね、みたいな話をチームでしています。
――陣形の外側に行きたがるのはDep選手の好みですか?
Dep:
そうです。自分の位置がバレていないところから一方的に相手を撃つのが好きなんで(笑)。
――これぞ、ザ・スナイパーですね。
Dep:
そうです! それがけっこう好きな立ち回りなんで、つい端に行っちゃうんだけど、それで倒されちゃうシーンが多いから気をつけるようにはしています。
――チームの助言がDep選手の立ち回りに変化を与えたのですね。
Dep:
はい、しかもしっかり納得しました。
――個人のプレイ(練習)で試していることは何かありますか?
Dep:
ありますよ。チーム戦のスクリムだと最近物資の湧き(出現率)が良くなかったりして、高倍率のスコープ(※)が落ちてないことが多いんです。
なので、個人練習で低い倍率のスコープを使ったスナイピングを試してます。高性能なスコープを見つけるより、悪いスコープでも高いパフォーマンスが出せるような練習をしますね。
※スコープ:覗き込むことで遠くの状況が見えるようになる武器のアタッチメント。倍率が高いほどより遠くが視認できるため、索敵のためには高い倍率のスコープが望ましい
――弘法筆を選ばず、ですね。PUBGではどれくらい武器とかアイテムにこだわる感じでしょう。
Dep:
武器にはこだわってもいいかもしれないですね。でも、今言ったように、スコープにまではこだわらないほうがいいかもって個人的には思いつつも、重要といえば重要ですね。
ただ、それよりもとにかく索敵。遠くの敵を見つけられるかが勝負なので。
――ほかにも個人練習でしていることはありますか?
Dep:
どれだけプレイの質を安定させるかっていう練習はしますね。平均的にこれくらい倒せるように維持しよう、とか。
スコープの話のように、物資が手に入る入らないの運も絡んでくるから、やっぱりどれだけ意識高く練習できるかでプレイの質を安定させるんですよ。
――PUBGは最後まで生き残ることが目的のゲームですけど、Dep選手の話をうかがっていると相手を倒すことへのこだわりを強く感じますね。
Dep:
それはありますね。大会とかイベントで1人対複数人をひっくり返したときとか、やっぱりかっこいいじゃないですか。チームのメンバーもオレの活躍を全力でサポートしてくれますし。
――Dep選手にとって、PUBGをプレイするときに一番大事なことって何ですか?
Dep:
大事なことは……自分にとっては波を作らないこと。これはPUBGに限らずなんですけど、いままでもそうやってゲームをプレイしてきたんで、競技シーンを意識したら安定した動きができるかどうかがやっぱり大事ですね。
ここぞってときに、頼りになる存在でいたいですからね。
Dep選手はさらっと答えていたが、想像してみてもらいたい。PUBGのような運要素があるバトルロイヤルで、毎回の成果を安定させることがどれほど難しいか。
そして、弱冠19歳にしてそれをキッパリと言ってのける胆力と頼もしさ。
後編では、そんなDep選手に影響を与えてきたものや、意外な一面にも迫っていく。
写真・大塚まり
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