巨人キャプテン舘野弘樹――2年目で変わった責任感と環境【「eBASEBALL プロリーグ」読売ジャイアンツ集中インタビュー3】

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eBASEBALL プロリーグの選手にバッティングについて尋ねると、必ずある選手の名前が挙がる。
それが読売ジャイアンツの舘野弘樹選手(プレイヤー名「てぃーの」)だ。
彼は「強振」……野球でいうところのフルスイングに絶対的な信念を持ち、バッティングを探求する。その哲学は、プロ野球選手の言葉と遜色がない。
ゲーミングチェアに片膝を立てた状態で座り、試合直前までトイレから出れない重度の腹痛持ち。どこから取り上げても、独特の世界観が垣間見える。パワプロ界に彼ほど「ジャイアンツの4番」らしい選手はいないと、筆者は感じている。
今年のプロ野球では、読売ジャイアンツが5年ぶりのリーグ制覇を果たした。常勝を義務付けられたチームの重さは、物心がついたころからジャイアンツファンだった舘野選手自身が一番理解している。
読売ジャイアンツとの継続契約を結び2年目のシーズンで見据えるのは、プロ野球とeBASEBALL プロリーグの連覇のみ。
2年目のeBASEBALLに「無職」で挑む真相
――舘野選手は何歳ころからパワプロを始められたのでしょうか。
舘野:
初めてプレイしたのは、小学校の低学年くらいのときです。親がゲーム好きだったのでパワプロも買っていて、毎週のように親と対戦していました。
――ご家族も野球好きだったのですか?
舘野:
祖父母の代からのジャイアンツファンです。その影響で、自分もジャイアンツファンになりました。
――舘野選手は2016年からパワプロの大会に出場されており、「パワフェス東京ゲームショウ大会」ではベスト4という実績を残されました。出場のきっかけはなんだったのでしょうか。
舘野:
「実況パワフルプロ野球2010」からオンライン対戦を始め、「実況パワフルプロ野球2011」ではランキング1位にもなりました。その頃から、リアルで大会を開催してほしいという思いがあったんです。
ですから「パワフェス東京ゲームショウ大会」には、「パワプロが一番うまいのは自分だ!」という思いで参加しました。
――昨年から始まったeBASEBALL プロリーグへ挑戦するにあたり、舘野選手は「球団やチームに関わるいろいろな人たちのためにも負けられない」「ドラフト1位として、自分が勝たないと始まらないという覚悟を持つ」といった決意を表明されていました。今シーズンは、どういった心構えで挑まれますか。
舘野:
昨年と比べて大きな心境な変化はありません。ただ、eBASEBALL プロリーグの研修会の中で、NPBの角田さんから「なぜ継続契約を勝ち取ったのか。なぜ自分がプロとして活動していくのかについて、考えてみてください」というお話があったんです。
そこで改めて、読売ジャイアンツさんが継続契約を結んでくれたのは、自分に期待をかけているからと感じて。その期待に応える責任感というのは、昨年まではなかったものだと思います。
――昨シーズンは毎試合欠かさず、関係者の方々が会場に足を運んでいました。そうした繋がりができているからこそ、強い責任感が生まれるわけですね。
舘野:
そうですね。自分の場合はシーズン終了後も「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」の会場へ招待していただいたり、G×Gと一緒にジャイアンツの試合を観戦させていただいたりしているので、その期待に応えなければと思います。
※G×G:読売新聞東京本社が運営する、「GIANTS」のブランドを活用したプロeスポーツチーム
――舘野選手は「無職」で今シーズンに臨まれています。今シーズンに一番賭けている選手と言っても過言ではないでしょう。
舘野:
確かに(笑)。周りから見てもそう見えるでしょうし、実際に時間も使えますからね。
――退職されたことはTwitterなどで公表されていますが、その理由はファンにじゅうぶんには伝わっていないかもしれません。差し支えのない範囲でお話いただけますか。
舘野:
正直なところ、eBASEBALL プロリーグは関係ないんです。体調が理由ですね。
――舘野選手は長らく通院しても原因がわからない重度の腹痛持ち。これが出社にも影響を与えていたとお聞きしています。
舘野:
以前から腹痛がきびしいときはお休みをいただいていましたが、なんとか働けてはいました。けれど退職間際の時期はもう各駅停車の電車にしか乗れなくなってしまい、途中下車も頻繁に繰り返すという感じになってしまって。
――出社率自体もだいぶ下がってしまったとか。
舘野:
出社できたとしても、定時に到着できず遅刻してしまうことがほとんどで。会社は自分の体調面を理解して配慮してくださったんですけど、それも申し訳なくて。
なにより一緒に働く同僚にも負担をかけていたので……きびしいなと。迷惑をかけたくない気持ちと、体調の面から退職を決めたという感じです。
――退職時には、フォロワーからプロゲーマーとしての本格的な活動を期待する声があがっていました。
舘野:
結構そういった反応をいただきました。時期的にも、そう考えるのは自然ですしね。正直、自分は「そういう道もあるよね」くらいの考えで、プロゲーマーだけで生活しようとは考えていないです。
――プロゲーマーという道筋でいえば、舘野選手はオフシーズンに「スプラトゥーン2」を熱心にプレイされていました。スプラトゥーンで世界一の経験を持つ吉田友樹(プレイヤー名「たいじ」:読売ジャイアンツ代表)のチームメイトという立場からも、「スプラ参戦」となれば盛り上がるのでは?
舘野:
「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 2020」の時期までに相応の実力になれれば出場したい気持ちはありますが、今はパワプロ中心の生活になっているので……。実は今でもスプラトゥーンは1日30分はプレイしているんですけど。
――ご自身のなかで線引きをされている?
舘野:
スプラトゥーンは面白いですし、吉田選手というチームメイトがトッププレイヤーなわけですから、出たい気持ちはあるんですけどね。
――先日も吉田選手を含めたパワプロの選手たちが、プライベートマッチを開催していましたね。
舘野:
あれで「勝てないわ、これは」と思いました。まったく動きが違って、自分と何が違うのかすらもわからないくらい差がありました。
――舘野選手もパワプロではトッププレイヤーなわけですが、具体的にどういった差を感じられるものなのでしょうか。
舘野:
状況判断能力だと思います。頭の回転が早くないといけないですね。パワプロは自分の間が取れるゲームなので考える時間があるんですが、スプラトゥーンは3秒も経てば状況が一変します。マップを一瞬開いたときに得ている情報量が違いますね。
スプラトゥーンは初プレイから配信しているんですけど、とにかく「マップを見ろ」と言われるんです。最初は見てもよくわからないですけど、とりあえずマップを開くんですよ。怒られるから(笑)。
――勉強できない子への「まず教科書を開け」と同じレベルですね(笑)。
舘野:
確かに、怒られないためにやってるところがありました。試合後に「今の試合、マップを開いた回数ゼロですよ」と怒られたり(笑)。自分がアドバイスを求めながらプレイしていたので、優しいコメントなんですけどね。
阿部慎之助選手の引退試合から動き出したもう1つのジャイアンツ
――昨年と同様に、東京ドームで行われたジャイアンツの試合中に「eBASEBALL プロリーグ 読売ジャイアンツ」のお披露目がありました。なんと今年は、舘野選手が代表として挨拶をされて。
※昨年はグラウンド上でアナウンスによる紹介を受けるのみだった
舘野:
結構ネガティブ思考なので、ずっと「失敗したらどうしよう」と考えてました。
――45,000人以上に囲まれるあの空間は、完全に非現実でしたね。
舘野:
グラウンドに立つと、本当にふわふわしますよ。
――球場は360度を観客に囲まれる非常に特殊な環境です。舞台のように正面にだけ観客がいるのではなく、左右後方にも何万人も観客がいます。日常では絶対に体感しない緊張だと思います。
舘野:
確かに、後ろを見てしまったら絶対に話せなかったと思います。スクリーンのほうを見て、人の顔を見ないようにしていたので。
あの光景は、異様というと言葉は悪いですが……数万人から注目されるというのは表現ができない体験です。いま振り返ってみても、よくがんばったなと思いますね。
――印象的だったのは、出番直前のみなさんの様子です。青ざめた舘野選手とは対象的に、高川健選手(プレイヤー名「ころころ」:読売ジャイアンツ代表)と吉田選手がとにかく楽しそうで。坂東秀憲選手(プレイヤー名「どぅーけん」:読売ジャイアンツ代表)は球団職員として、キビキビと働かれていましたし。
舘野:
そうなんすよ! 「俺ら横で立ってるだけだし」みたいな感じなんですよ!
――吉田選手はああいったときに緊張しない人ですが、高川選手が本性を出していましたね(笑)。
舘野:
高川選手もめちゃくちゃ緊張するタイプなのに、自分が緊張しているのを見てニヤニヤ楽しんでるんすよ(笑)。
――実はグラウンドに出たあとも、そんな状況が続いていたとか。
舘野:
グラウンドに立ったあと、挨拶の前に紹介VTRが流れたんですね。自分はその間も「最初のひと言目で声が出るかが勝負だ」と思って、ずっと深呼吸をしていて。
その横で彼らは、ジャイアンツの選手たちのキャッチボールやベンチの様子を見て楽しんでいたらしくて。自分がマジで緊張してるときに(笑)。
――この日の試合は、阿部慎之助選手の引退試合という特別な1戦でした。
舘野:
そこが一番緊張を加速させた理由ですね。雰囲気を壊せないと思って。
――てぃーの選手は挨拶の中で阿部選手の名前を出さないつもりだったとお聞きしました。私もジャイアンツファンですから非常に気持ちがわかります。阿部選手の引退には、畏れ多くて触れられませんよね。
舘野:
本当に尊敬する偉大な選手ですから、そんな方の引退に対して軽々しく言及できなくて。
でも坂東選手が球団職員の立場から「ぜひ話してください」と言ってくれたので、パワプロを絡めつつ阿部選手の引退についても少しお話させていただきました。
――グラウンドで感じた反応はいかがでしたか。
舘野:
温かい声をいただけたと思います。また観客席に戻ったあとの話なんですが、となりの席のお子さんとそのお母さんから「今グラウンドにいた方ですよね」と話しかけていただいたんです。そのお子さんがゲームが好きらしくて「絶対に見ます!」と言っていただけたんですよ。実際に関心を持ってくださった方とお話しできて、それだけでも「やってよかった」と実感できました。
――昨年は紹介、今年は挨拶とくれば、来年は始球式でしょうか。
舘野:
現役で野球をやっていたときも、球速は90kmも出なかったので……。ナチュラルにチェンジアップになるんで、逆に打てないですよ(笑)。
――女性アイドルの始球式じゃないですか(笑)。
舘野:
経験者ですから、フォームはそこそこきれいだと思いますよ。逆に「そのちゃんとしたフォームで、よくそんな(遅い)球を投げられるね」と言われてたくらいなので(笑)。
でも、他の3人にも挨拶を体験してほしいですね。45,000人を超える人の前で話すなんて、ほぼありえないことですから。生涯忘れることのない経験です。
冒頭で紹介したとおり、舘野選手といえば強振で得点をもぎ取るバッティングが何よりも特徴のプレイヤー。
強振だけで戦うのが難しくなったという近年のパワプロでもそのスタイルを崩さないのはなぜか。後編は打撃理論について切り込んでいく。
写真・Yumiko Mitsuhashi
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