“東大卒球団職員”坂東秀憲 パワプロ参入の経緯【「eBASEBALL プロリーグ」読売ジャイアンツ集中インタビュー2】

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2年目を迎える「eBASEBALL プロリーグ」。継続契約を交わした球団にとって、新規加入選手の受け入れは最初の課題といえる。学生でいえば転校、社会人でいえば転職、野球でいえばFA。すでにでき上がっているコミュニティーに入っていく難しさは、誰しも一度は経験することだろう。
新規加入の選手は、ずっとそこにいたかのように、自然に溶け込むのが理想だ。
この点で考えると、読売ジャイアンツの4人目の選手として、坂東秀憲(プレイヤー名「どぅーけん」)選手よりふさわしい人物はいないだろう。
そんな彼が、なぜ今シーズンから「選手」として「eBASEBALL プロリーグ」に参戦したのか。語られたのは、野球振興への熱い思い。公私ともに野球へ捧げる坂東選手の姿をお伝えする。
選手たちとの交流のために始めたパワプロ
――坂東選手と初めてお会いしたのは、昨シーズン第2節の試合後だったでしょうか。読売ジャイアンツの球団職員として、取材に立ち会っていただいて。
坂東:
そうですね。開幕戦には足を運べなかったので、第2節か第3節だったと思います。最初は取材で選手が話していることも「なに言ってるんだろう」という感じで。
――ちょうどその頃、「パワプロを始めた」とお話しされていたのを覚えています。
坂東:
パワプロは昨年の10月くらいからプレイし始めて、1ヵ月くらいはどうしようもなく下手でした。
ただ、12月くらいからだいぶわかるようになってきたんです。その頃には、プロ選手ともフリーで対戦をしたり、取材で選手たちが話していることもよくわかるようになって。
――最終節の試合後だったと思うのですが、坂東選手が「PRが○○まで上がったんですよ」と報告していて、ジャイアンツの選手たちが「来年はこのチームの一員ですね」と返していました。
坂東:
あのときはまだ「プロになれたらいいな」くらいの感じでしたね。
――パワプロをプレイされたきっかけは、お仕事だったのでしょうか。ジャイアンツの選手たちの影響だったのでしょうか。
坂東:
まず、3人とコミュニケーションを取りたいという思いがありました。仕事として「がんばってね」と言うだけではなく、パワプロのことがわかればより深く話ができますよね。そのほうが結果として、球団にとっても良いと思いますし。
――プレイステーション4とソフトも購入されたのですか。
坂東:
プレステ4は、ゲームが好きなので以前から持っていました。ソフトは、自分がゲームのライセンスの窓口を担当していたこともあり、KONAMIさんから資料として頂いていたんです。「実況パワフルプロ野球」シリーズはNPBのライセンスタイトルなので。
――球団職員として、そういったお仕事もあるのですね。
坂東:
そうですね。「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」の開催が決まったときは、Nintendo Switchと「スプラトゥーン2」を買ってプレイしましたよ。
パワプロに比べればスプラトゥーンは全然下手くそなんですけど、ドラフト会議で指名した「SpRush!!」のメンバーともコミュニケーションを取れるように練習しました。
――ゲームが好きとのお話が出ましたが、過去にパワプロをプレイされた経験は?
坂東:
小学校1年生くらいからプレイしていて、まだ広島東洋カープに金本知憲選手や江藤智選手がいたのを覚えています。NINTENDO64の頃ですね。兄や父と一緒にプレイするくらいで、パワプロばかりやっていたわけではないんですけど。
パワプロで1番プレイしたのは、ゲームキューブの「実況パワフルプロ野球9」ですね。
――パワプロ歴は10ヵ月とうかがってますが、厳密には昔からのプレイヤーだったんですね。
坂東:
オンライン対戦歴は10ヵ月ということですね。でも、1番ハマっていた時期は小学校高学年から中学校に入るくらいまでで、メインでプレイしていたのもサクセスモードなんですよ。
次に触ったのが大学の寮にいるときで、そのときも少しプレイするくらいでした。
――ブランクを挟んでプレイされると、仕様の変化に戸惑いませんでしたか?
坂東:
びっくりしましたね。昔はバッティング時にキャッチャーのミット移動を見ることができて、そこを見ながら打っていたのに機能がなくなっていて。ナイスピッチの2度押しや球の回転が見えるようになっているなどの違いもあって、別のゲームの感覚でプレイしました。
――昨シーズン中、ジャイアンツの3選手と一緒に練習することはありましたか?
坂東:
いや、まったくです。読売ジャイアンツのチームメイトの高川選手と吉田選手(※)はほとんどオンラインでプレイされないんですよ。唯一、舘野選手が配信されているときに突撃して対戦することはありました。シーズン後に、舘野選手の家でオフ練習をしたこともありますよ。
※高川選手:高川健選手(プレイヤーは「ころころ」)
※吉田選手:吉田友樹選手(プレイヤー名は「たいじ」)
※舘野選手:舘野弘樹選手(プレイヤー名は「てぃーの」)
「野球振興」の熱い思いからプロゲーマーを目指す
――坂東選手が野球好きになったきっかけを教えていただけますか。
坂東:
父親がすごく野球好きなので、その影響です。球場にもよく連れて行ってくれて、2000年の日本シリーズでのON対決は東京ドームまで観に行きました。
小さい頃はイチロー選手が大好きで、親の実家が徳島だったこともあり、グリーンスタジアム神戸(当時)へ応援に行ったのもよく覚えています。
――eドラフト会議の際には「ジャイアンツ愛」と真中応援監督に評されていましたが、実は坂東選手……ヤクルトファンなんですよね。
坂東:
ジャイアンツに入社が決まるまではそうでしたね。最初はイチロー選手の影響でオリックス・ブルーウェーブのファンになったんですが、2001年にメジャーリーグへ挑戦されて。その年にセ・リーグで優勝したのがスワローズで、少しずつ興味を持ちはじめました。
スワローズにのめり込んだのは中学生くらいのときで、青木宣親選手がきっかけです。自分も野球をやっていたので、シーズン200本安打を達成されたときは「すげぇ」と思って。
――坂東選手は「大学で野球をやりたい」という思いで東大野球部に所属されましたが、明治神宮野球場は大学野球の聖地であり、スワローズのホームでもあります。
坂東:
大学1年生のときに初めて神宮のフィールドに立ったときは感動しましたね。「ナイターでやりたいな」と思ったりもして(笑)。
神宮は大学野球とプロ野球で併用する日もあるので、裏でスワローズの選手とすれ違うこともあるんですよ。
――お話にまったくジャイアンツが出てきません(笑)。
坂東:
僕はひねくれてるので、基本的にジャイアンツみたいな「王道」がそこまで好きではなかった(笑)。もちろん今は選手との触れ合いもありますし、裏側での努力を見ているので素直にジャイアンツに勝ってほしいという気持ちです。
――そんなジャイアンツとは無縁であったはずの坂東選手ですが、なぜジャイアンツの球団職員となったのでしょう。
坂東:
僕は就職活動を2回しているんですが、1回目は現在とは全然違う業界を受けているんですね。そして改めて自分が何をしたいか考えたときに、野球に関わる仕事がしたいと思ったんです。
やはりジャイアンツはすごいパワーを持っていますので、自分のやりたいことを実現するためにはより良い環境だと思って決めました。実際に入社してみると、みんな誇りを胸に秘めていて「球界を引っ張っていこう」という意欲を持っているのがいいなと思います。
――最近のジャイアンツは、新しいことにもどんどん取り組んでいる印象があります。
坂東:
そういうイメージを多くの人に持っていただけるようになりたいですね。昔はSNSの運用もしていませんでしたが、今年のリーグ優勝の際には選手にカメラを装着してもらい、胴上げの瞬間やビールかけを間近で見てもらうという取り組みをしました。
阿部慎之助選手がロッカーで引退報告をする様子もテレビなどで放送されましたが、ああいった映像が表に出てくることは今までなかったと思います。
――坂東選手の挑戦も、eスポーツとはいえ「読売ジャイアンツの球団職員」が他の球団に所属する可能性がありました。
坂東:
当然そういう話にはなり、会社のなかで相談をしましたが「問題はない」とのことでした。ですので、eドラフト会議には12球団OKで臨めました。
――これもジャイアンツの革新的な取り組みと言えそうですね。
坂東:
これまでの延長線で同じことをやっていてもダメと考えています。社内でも概ね好意的に受け取られています。「球団職員でプロゲーマーなんておもしろい」と感じてもらっているのかなと。
――先ほど「自分のやりたいことを実現するため」とお話いただきましたが、坂東選手は以前から「野球接触ゼロの子どもたちに野球を知ってもらう」ことを目標に掲げられています。「eBASEBALL プロリーグ」でプロを目指されたのも、この目標のためでしょうか。
坂東:
まさにそうですね。昨シーズンの「eBASEBALL プロリーグ」にはすごいドラマがあって、野球がわかる人なら絶対におもしろいと感じるコンテンツだと思ったんです。
特に印象に残っているのが、最終節のドラゴンズとベイスターズの試合です。ともに優勝の可能性があるなかでぶつかり、なかでも髙羽和宏選手(プレイヤー名「じゃむ~」:横浜DeNAベイスターズ所属)とふが選手(昨シーズン中日ドラゴンズ所属)の試合は両者の意地と気迫のぶつかりをすごく感じました。
――ワンプレイごとに会場全体で大歓声が上がる、大熱戦でしたね。
坂東:
ただそんなコンテンツに対して、1年目ということもあったと思うのですが、オーディエンスの数を含めてまだじゅうぶんに広まっていないと感じました。
それが今年に入って、各地の地方自治体などから「パワプロの大会を開きたい」という問い合わせが増え、実際に各地で大会が開かれるようになっています。
――昨シーズン活躍されたプロ選手も、各地のイベントにゲストとして参加していました。
坂東:
そうしたイベントがもっと増えれば、野球をやったことのない子どもたちにも野球を知ってもらうチャンスが増えると思います。例えば、ゲーム好きの子がお祭りのイベントでパワプロを体験して、「面白い」と感じれば野球にも興味を持ってくれるかもしれない。その子どもが、将来的に球場へ足を運んでくれるかもしれません。
――昨シーズンもSNSなどで反応を見ると、野球のルールを把握していない方も「eBASEBALL プロリーグ」の配信を観ていました。
坂東:
そういった部分で、野球とは関係のないところで多くのフォロワーを持っている吉田選手にはすごく期待しています。
自分も吉田選手ほどにはなれないですけど、発信ができる人になりたいと思いがあるんです。今は地上波でもeスポーツの番組が増えていますし、そういった番組に出演して野球とパワプロの魅力を伝えられたらいいですね。
――球団職員となる以前からの目標が、「eBASEBALL プロリーグ」のプロへとつながったわけですね。
坂東:
そのとおりですね。やはり運動が得意な人ばかりではないですし、野球はプレイするだけでなく、観戦を含めてさまざまな魅力があると伝えていきたいです。
もちろん、個人的にパワプロはプレイしていてとても楽しいので、それが野球振興につながるのであれば、なおさら良いことだなって。
球団職員という立場からのeBASEBALLへの挑戦――。
前例のないチャレンジでありながら、他の選手と比べてプレイ歴も浅い。それでもプロテストのオンライン、オフライン予選を勝ち進んだ実力は、確かなものがある。
後編では、そんなプロテストから指名を勝ち取ったeドラフトの裏側を語ってくれた。
写真・Yumiko Mitsuhashi
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