ジャイアンツ新規加入坂東秀憲――プロテスト突破の道のり【「eBASEBALL プロリーグ」読売ジャイアンツ集中インタビュー2】

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■前編記事

“東大卒球団職員”坂東秀憲 パワプロ参入の経緯【「eBASEBALL プロリーグ」読売ジャイアンツ集中インタビュー2】

※本インタビューで言及されている選手データは、「実況パワフルプロ野球2018」ver.1.14時点の内容になります

eドラフト会議の安堵の涙は演出でもあった……?

――東日本オンライン予選は4位通過。最終日に平山大輝選手(プレイヤー名「ひらD」:福岡ソフトバンクホークス所属)に3位の座を奪われはしましたが、この結果に満足はされていますか?

坂東秀憲(以下、坂東):
そうですね。最初の目標では、オンライン予選は7位までに入ればいいと考えていたので。というのも、オンライン予選の順位でオフライン選考会の組み合わせが決まるルールだったんです。

オフライン選考会からは昨シーズンのプロ選手と当たる可能性が出てくるので、同じ組にならないよう予選上位に入る必要がありました。

事前の発表では、東日本オフライン選考会の「プロテスト特別枠」は9名と聞いていたので、昨シーズンのオフライン選考会が16グループで争われたことを考えると、最低でも7位までに入れば昨年のプロ選手と同じグループになることは避けられる……と計算しました。

※プロテスト特別枠:昨シーズンにプロとして活躍しながらも、球団との継続契約から漏れてしまった選手はオンライン予選を免除され、オフライン選考会からの参加となった

――戦略的に臨まれたわけですね。初挑戦のオンライン予選だったわけですが、厳しさなどは感じましたか。

坂東:
緊張感はありました。連勝しているときにビハインドの展開だったりすると、嫌な緊張感がありましたね。強い人とマッチングして「うわぁ」と思ったり。

――ルールとしては何度試合をしてもいいわけですが、追い込まれた気分は拭えない?

坂東:
普段の仕事もありますから、プレイできる時間は決まっていますしね。集中力もずっとは保てないので、「数撃ちゃ当たる」というわけにはいかないです。

――思惑どおりに進まれた東日本オフライン選考会は、グループ2位での通過となりました。この結果についてはいかがでしょうか。

坂東:
まったく納得はいっていないですね。すべて勝つつもりでしたし、勝たなければいけなかったと思うので。

――振り返ると、どのような反省点がありますか。

坂東:
気持ちの整理がうまくできなかったのが、反省点の1つです。試合が結構ヌルっと進んでしまったというか……初戦が終わったと思ったらすぐさま2試合目が始まり、切り替えができていなかったと思います。

あとは、脳があまり働いてなかった気もしますね。気合が入りすぎてしまい、当日はすごく早起きをしてあまり寝れなかったので(笑)。

――とくに気を配った部分などはありますか。

坂東:
先に行われた西日本の選考会では、初戦に波乱が起きていたんです。強豪選手が敗北、引き分けという結果になっていて。そこから初戦の入りが難しいことを感じていたので、とにかく集中して臨みました。

ただ、逆にそれがあまり良くなかったようで、初戦で勝てたあとに若干ホッとしてしまい、気が緩んでしまったように思います。

坂東:
そうした調整の難しさを感じられながらも、無事にオフライン選考会を通過できたのは大きいですね。

結局は通過すればいいと思っていたので、そういう意味ではよかったかなという感じですね。

――そしてたどり着いたeドラフト会議。不躾ながら、坂東選手は指名を受けれるか否かのボーダーライン上の成績だったかと思います。当日はどんな心境でしたか。

坂東:
アピールはすべて終わっていたので、なるようになるという感じでした。指名がなかったとしても文句を言えるほどの実績もないですし、指名をもらえたら「ありがとうございます」という……それだけですね。

――坂東選手にeドラフト会議のお話をうかがう以上、涙のシーンに触れないわけにはいきません。

坂東:
あれは演出ですから(笑)。

――せっかく形に残るインタビューですので、あの瞬間の心境をお話いただければ(笑)。

坂東:
「あーよかった」という安心が最初に来て、清水久嗣アナの感動を誘うコメントが届いたんです。そこで「ここまで長かったな」という気持ちが溢れて……というのが本音です。

事前に記事にしていただいたり、個別のプロモーション映像を作成していただいたり、やはりプレッシャーも感じていたので。

あと建前もあって、「裏で指名が決まっていたんじゃないか」という疑惑を払拭するための涙です(笑)。

――坂東選手は中学生のときに体調の問題から野球を諦め、大学で野球を再開するために東大へ進学されましたが、怪我などもあり選手としての活動を諦めたとお聞きしています。涙の裏には、eスポーツという形であっても「プロ野球12球団」に選手として所属する感慨があったのでは、と思ったのですが。

坂東:
……どうですかね。

eBASEBALLでプロを目指すにあたって、先ほどお話した野球の魅力を伝えたいということもそうですが、いろいろ目標を持っています。そうした目標もeドラフト会議で選ばれなければ始まらないので、目標に向かって挑戦できるようになった喜びはありました。

正直、今年ダメだったときに来年もプロを目指せるかといえば、モチベーションも含めてかなり微妙なところだったんです。最初で最後の挑戦、という気持ちがあって。

――ここまでの練習と挑戦は、楽しさもあるけれど決して楽なものではなかった?

坂東:
楽じゃないですよ。普段は楽しみながらプレイしていますけど、プロテストやeドラフト会議では相当なプレッシャーがありました。

――晴れて読売ジャイアンツの一員となり、9月27日のプロ野球読売ジャイアンツの東京ドーム最終戦では、お披露目の場が用意されました。当日はなんと、阿部慎之助選手の引退試合。普段から球団職員として働かれている場所ですが、「選手」として4万5,000人を超える観衆の前に立つのはどんな心境だったのでしょう。

坂東:
嬉しいというよりも「いいのかな?」っていう感じがしました。職員としての面もありますし、なにより阿部選手の引退試合でお時間をもらうことに戸惑いはありました。

アナウンスでも球団職員であることを紹介してもらい、とても光栄なことなんですけど……、まさに「いいのかな?」ですね。

今年ブレイクの「93年世代」が勝敗を分ける

――今シーズン、読売ジャイアンツで戦っていくうえでキーになる選手を挙げていただけますか。まずは投手からお願いします。

坂東:
桜井俊貴選手と今村信貴選手の2人が重要ですね。今シーズンからeBASEBALLはスタミナの関係で、先発ローテーションを数人揃える必要があります。投手運用がシビアになってくるので、山口俊選手や菅野智之選手といったエース級以外の投手でどれだけがんばれるかが大事になってくると思っています。

あと2人は同級生なので、そういう思いを込めて。

※投手は一球投げるごとにスタミナを消費する。1試合目でスタミナを全て消費すれば、基本的に2試合は投げられない。eペナントレースは3試合で1カードと区切られており、昨シーズンは投手のスタミナが「カード内でのみ」持ち越されるルールだった。つまり、カード毎にスタミナはリセット(全回復)されるので、例えばタイガース戦の3試合目に先発した投手が、次のベイスターズ戦の1試合目に先発するということが可能だった

――桜井選手は「球持ち」という強力な特殊能力を持っていますが、対人戦の環境では変化球に不安があります。

坂東:
僕の感覚ですけど、桜井選手は他の投手と使用感が全然違うんですよ。投球を組み立てるにあたって、「投手のどの部分を活かして打ち取るか」と考えるわけですが、桜井選手は他の投手と投球の組み立て方が全然違うんです。

――非常に興味深いお話です。

坂東:
詳しくは戦略に関わるのでここまでしかお話しできませんが、桜井選手はどのチームにもあまりいないタイプだと思うんですよね。面白い投手だと思うので、楽しみにしていてください。

――桜井選手や今村選手は、今シーズンのジャイアンツで一気にブレイクした「93年世代」であり、「93年世代グッズ」が発売されるほど注目されています。坂東選手は球団職員としてグッズ制作にも携わるとお聞きしましたが、もしや発案されたのは……?

坂東:
関わってはいますが、僕がやりたいと言ったわけではないです。自分から「僕の同級生のグッズを作ってくれ」と言うのも恥ずかしいじゃないですか(笑)。

――ジャイアンツの優勝を支えたと言っても過言ではない93年世代は、パワプロでも非常に重要になりそうですね。

坂東:
本当にいい選手が多いんですよ。93年世代のバッターだと特に石川慎吾選手は、「代打○」「サヨナラ男」といった特殊能力がついて、能力もだいぶ強化されたので注目してほしいですね。

――野手ではどなたがキーになるでしょうか。

坂東:
うーん……亀井善行選手ですかね。

――亀井選手は好きな選手としても挙げられていました。やはりそういった意味で?

坂東:
いや、亀井選手の起用法が難しくなったんですよ。亀井選手はチャンス時と対左投手時で能力が下がってしまうのですが、守備面では代えのきかない選手です。代打を送るかどうかを迫られる場面が、非常に多くなると思うんですね。

当然、対戦相手もその辺の事情は把握しているので左投手をぶつけてくると思いますし、亀井選手の打席が勝負の分かれ目になると思います。

――亀井選手の起用はライトになるのでしょうか。

坂東:
ライトかセンターですね。守備能力が向上して丸選手と遜色がなくなったうえに肩が強いので、二塁打を防げるんです。球場の大きさによって起用が変わってくると思いますので、その辺も悩みどころですね。

ピッチングで見せるFor the teamの精神

――今シーズン、戦いたい選手はいますか。

坂東:
河合祐哉選手(プレイヤー名「AO」:横浜DeNAベイスターズ所属)です。昨シーズンのセ・リーグで全勝したトップレベルの選手なので、倒したい相手ですね。

あとは今シーズンからプロになった、平山選手と町田和隆選手(プレイヤー名「あんちもん」:千葉ロッテマリーンズ所属)です。

オンライン予選では平山選手が3位、僕が4位、町田選手が5位でした。

オンラインでもよく対戦しますし、オフラインでも練習する仲で。本人たちがどう思っているかはわからないですけど、実力はほぼ同じくらいなんですよ。……同じって言いたくないんですけどね。本当はちょっと自分のほうが上と言いたいんですけど(笑)。

良きライバルで、一緒にプロになろうとがんばってきた仲間でもあるので、プロの舞台で戦ってみたいですね。

――まさにドラフトの「同期入団」という感じですね。

坂東:
そうですね。平山選手は同じ栃木の出身ということもあり、栃木で一緒に練習したこともあるんですよ。機会があるなら対戦したいですが……ホークスだと加賀谷颯太選手(プレイヤー名「ケーバック」:福岡ソフトバンクホークス所属)とも対戦してみたいんですよね。

――河合選手と加賀谷選手は、一観客として見てもトッププロという印象です。

坂東:
いつ頃のことだったかは覚えていないんですが、「プロになれるかな?」と思ったきっかけに加賀谷選手に勝てたっていうのもあるんです。

――プロ選手のなかには「加賀谷選手にはいまだに一度も勝てない」と話す方もいるくらいです。

坂東:
通算だと3、4勝くらいはしていますよ。そのぶん10敗くらいはしてますけど。

でも、一度でも勝ったことがあると自信になるじゃないですか。

以前にeBASEBALLの研修会で黒木知宏さんから「すごく感じのいいボールを1球でも投げられたら、それは偶然でも不可能なことではない。その1球を2球に、2球を3球にしようと努力していくことでいい選手になれる」というお話があって、それを聞いたときに「1回でも勝てたということは、勝てる可能性はある。その勝率を上げていけばいいんだ」と思って。

――強豪選手を打倒することが目標になる?

坂東:
プロになったからにはトッププレイヤーを倒して頂点を目指していくのが醍醐味だと思います。

あと戦略的に言うと、僕はドラフトの1番下で入団した選手ですので、金星要因として「負けてもともと」という気持ちでエース級とがんがん対戦していくべきだと思うんです。そこで勝利を重ねれば、チームが楽になりますし。

――続いて、プレイスタイルについてもお聞きしたいと思います。坂東選手の選考会等の成績を見ますと、非常に高いナイスピッチ率に目を引かれます。ピッチングを重視されているのでしょうか。

坂東:
普段からそんなに大量失点をすることはないですね。でも、ナイスピッチはそこそこ出てるかもしれないですが、バッティングのほうが楽しいです。

僕は臆病なので、ピッチングはビクビクしながら投げてるんですよ(笑)。失点を1点でも防げるようにって。それがいいのかもしれないですけどね。

――「ビクビクしながら投げる」という話を聞いたのは初めてです(笑)。

坂東:
嫌なんですよ、ピッチングって。点を取られることはあっても、三振をいくら奪ったところで自分の点にはならないじゃないですか。得意なのかはわからないですけど、好きではないです。

――バッティングのほうが好きとのことですが、「強振と言えば、舘野選手」と言われるほどの打の選手がチームにいます。良い刺激になるのではないでしょうか。

坂東:
オフラインで一緒に練習をすると、実際にカーソルの動きが見えるので参考になりますね。

ただ、舘野さんとの練習で1番良いと思うのは、ピッチングがうまくなることです。とにかくすごい打つんですよ。「(これだけ打って)まだ許してくれないんだ」ってことが結構あります(笑)。

――「舘野さんにボコボコにされた」とツイートされているのを見たことがあります(笑)。

坂東:
投げ甲斐がありますよ。舘野さんに投げるのだけは、楽しいと思いますね。「何点に抑えられるんだろう」ってワクワク感があって。ジャイアンツの3人と練習すると、ピッチングがうまくなると思いますよ。3人ともバッティングがうまくて、それぞれスタイルも違うので。

――ジャイアンツは高川健選手(プレイヤー名「ころころ」)をeドラフト会議で指名し、昨シーズンと同じ人員を揃えました。そのなかに入っていくプレッシャーなどはありましたか。

坂東:
雰囲気のいい3人ですし、12球団のなかでもカリスマ性というか……人気のある3人ですよね。そこに入っていくための覚悟みたいなものはありました。

――昨シーズンの控室などで4人で話している様子をよく見かけていたので、個人的にはこれ以上4人目にふさわしい人はいないと思っています。

坂東:
そう言っていただけるとありがたいです。

――最後に、意気込みや目標をお願いします。

どぅーけん:
個人タイトルとしては最優秀防御率を獲得して、打撃タイトルはチームメイトの3人に取ってもらいます。僕が対戦相手を抑えまくって安打や本塁打を減らせば、3人がタイトルを取りやすくなるので。

目標はすべて勝つことと、チームの日本一。いかに日本一になるか、まずはそこですね。

――For the teamの精神を強く感じますね。本日はありがとうございました!


11月3日(日)にいよいよ開幕するeBASEBALL プロリーグ 2019シーズン。どぅーけん選手をはじめ、多くの新規加入選手が参戦する。

継続契約をした選手、他球団へ移籍した選手、それぞれの立場でそれぞれの思いを背負ってシーズンに臨む。坂東選手のように、各々の物語がそこには待っている。

写真・Yumiko Mitsuhashi

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2019年の読売ジャイアンツは、前年と同じ3名に加え、球団職員だった坂東秀憲選手が新たに加入。就職活動からプロゲーマーへの挑戦の原動力、それは“野球振興”であるという。

記者プロフィール
砂拭
フリーの編集者・ライター。スポーツ紙よりはパワプロに詳しく、ゲームメディアよりは野球に詳しい独自のポジションでeBASEBALLライターの覇権を狙う。 また、医学系出版社での経験を活かし、「健康×eスポーツ」にも切り込んでいる。

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