高川健が乗り越えたプロテストからの再挑戦【「eBASEBALL プロリーグ」読売ジャイアンツ集中インタビュー1】

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2019年eドラフト会議で読売ジャイアンツからの3巡目指名(実質的な1位指名)を受けた、高川健選手。パワプロ歴は20年以上の古参で、昨シーズンも読売ジャイアンツの一員として戦ったプロゲーマーである。
いつもニコニコと笑みを浮かべるたたずまいとは裏腹に、盗塁やバントといった搦め手を使わない豪快なバッティングで人気を集めた。
当然、継続してプロゲーマーとしての活躍を期待される選手であったが、彼に苦難が訪れる。球団が次シーズンも契約を結べるのは最大2名までと定められ、苦渋の決断として高川選手が放出されたのだ。
同様に、継続契約が結ばれなかった選手は16名。プロテストを乗り越え、再び昨シーズンと同じ球団のユニフォームに袖を通せたのは、高川選手を含めわずか5名だけだった。
一度は再びプロを目指すことに迷いが生じ、選考会ではありえないほど平凡なミスを犯す緊張に見舞われたという。それでも彼は苦難を乗り越え、再び読売ジャイアンツの一員となった。その笑みの内に秘めている覚悟をお伝えしたい。
※本インタビューは、読売ジャイアンツ代表の4選手が集まったところで実施した
辞めることもよぎった今年の夏
――では改めて、プレイヤー名の「ころころ」という名前の由来を教えてください。
高川:
昔、ゲームセンターでよく競馬ゲームをプレイしていたのですが、そのときの登録名が「ころ」でした。そこから、言葉を繰り返す語感が好きなので「ころころ」としました。よく「体型から来ているのですか」と聞かれますが違います(笑)。深い意味はないんです。
――高川選手は昔から大の野球ファンだったそうですね。
高川:
親が野球好きでして、私も中学生まで野球をやっていました。学校から帰るとまず衛星放送で試合開始から放送される試合を探して。当時は地上波でも19:00から野球が放送されている時代でしたが、待ちきれなくて。放送がなければ、ラジオ観戦をしていました。
当時からジャイアンツファンでしたが、ジャイアンツの試合がなければ他の球団の試合を観るくらい野球が好きでした。親がONを見てきた世代なので、その影響で王監督率いるホークスを応援したり、松坂大輔選手に憧れていたのでライオンズの試合を観たりしていました。
――パワプロを始められたのも自然な流れだったわけですね。
高川:
実際の野球があまり上手くなかったのもあるかもしれません(笑)。ゲームソフトが1つあれば友達同士で対戦もできましたし、ソフトを片手に友達の家に行って遊ぶ日々でした。
――ちなみに、野球でのポジションは?
高川:
イレギュラーですね。
――というと?
高川:
いろんなポジションをたらい回しにされていました(笑)。
――この場にいる読売ジャイアンツのチームメイトを含めて、みんなポカンとした顔をしていましたよ(笑)。その一方でパワプロでは、2017年の「パワプロチャンピオンシップス2017全国決勝大会」からベスト8という実績を残されています。こうしたオフラインの大会に出場しようと思ったきっかけを教えてください。
高川:
「実況パワフルプロ野球2016」から本格的にオンライン対戦を始めていまして、ネット上でやりとりをしていた方々と顔を合わせてプレイしたいという気持ちが強まったのがきっかけです。
人前に出ることは苦手なのですが、昔から友だちの家でゲームを楽しんできたので「純粋に対戦を楽しみたい」という気持ちで出場しました。実は2016年の大会にも参加しようと思っていたのですが、大会の前日にインフルエンザにかかってしまったんですよね。
――昨年からプロリーグ化されたeBASEBALLに挑戦され、eドラフト会議では読売ジャイアンツから3巡目指名を受けて入団されました。
高川:
昨年は「パワプロチャンピオンシップス2017全国決勝大会」で不完全燃焼だったリベンジという気持ちが強かったです。プロという意識はもちろんありましたが、大好きなゲームの唯一無二の大会を楽しもうと思っていました。
――そして今シーズンは継続契約選手から漏れ、オフライン選考会からの再挑戦。挑戦する意義やモチベーションは大きく違ったのではないでしょうか。
高川:
昨シーズンは優勝を目標に戦いましたが、eリーグ代表決定戦であと一歩というところで敗れてしまい……いつもヘラヘラしてる人間ですがやっぱり悔しかったんです。
もう一度挑戦できるなら、また同じ環境で、ジャイアンツの一員として挑戦したいというのを今年のモチベーションにしてきました。
――ルールによって継続契約からは漏れてしまったときの率直な心境を教えていただけますか。
高川:
想定はできていたので「しょうがない」という気持ちではありました。でもやはり悔しい気持ちはありましたし……実は「これで辞めるか」ということも考えました。
今年の夏場くらいですが、一瞬だけ「これ以上やらなくてもいいかな。解説でも目指そうかな」と考えたり。
――そこからどのようにしてモチベーションを再燃させたのでしょう。
高川:
7月から8月にかけて開催された「eBASEBALL 全国中学高校生大会」の関東予選を観戦しまして、客観的に中高生ががんばってるのを見て「いいな」と思ったんです。自分ももう1回やってみようかと思う、ちょっとしたきっかけになりました。
優勝した柳虎士郎選手(プレイヤー名「ゆさ」:千葉ロッテマリーンズ所属)とゼブラくんはもともと面識もあったので、刺激になりましたね。
――「中高生大会」に刺激を受けたと言う選手は多い印象があります。
高川:
eBASEBALLは30歳を超えた選手が何人かいて、eスポーツのなかでも年齢層が高いと言われています。ですから若い世代が入ってくることで、違った風が吹いてきたと感じていますね。「昭和」とよばれる世代なので、みんな自虐的にジジくさいことを言ったりしてるんですよ(笑)。
――昨年のインタビューで、高川選手には「30歳からのプロデビュー」について伺っています。今シーズンはより年齢を意識する場面が増えるでしょうか。
高川:
ひと回りでは足りないくらい年下の選手が入ってくるわけですから、価値観などの違いは当然感じると思います。けれど、年齢の差があっても同じゲームに夢中になっていて、プレイしていて楽しいと思えるんです。そんな光景が見られるのも、eBASEBALLのいいところですよね。
個人的には、自分は年下に気を遣ってほしくないので、河合祐哉選手(プレイヤー名「AO」:横浜DeNAベイスターズ所属)のように年上をイジるくらいの感じで来てほしいです。
――若い世代が出てくる一方で、今シーズンは30代の選手が継続契約から漏れるケースが多く、苦戦を強いられたように感じます。
高川:
前田恭兵選手(プレイヤー名「マエピー」:埼玉西武ライオンズ所属)とも「若い世代が出てくるのは喜ばしいことだけど、自分たちが壁にならないといけないよね」という話をしました。やはり、意地を見せていかなければいけないと思っています。
元プロだからこそ感じるオフライン選考会の壁
――昨シーズンに引き続きオフライン選考会を体験されたころころ選手から見て、今シーズンはどのように映りましたか。
高川:
昨シーズンのオフライン選考会では打率や防御率といったスタッツが公表されなかったので数字としての比較はできませんが、全体として明らかにレベルは上がっていたと思います。
パワプロはオンラインとオフラインで全く環境が異なるのですが、それを把握して準備を整えてきたプレイヤーが増えた印象です。
――実際、昨シーズンにプロとして活躍された「プロテスト特別枠」の選手がオフライン選考会で敗退するということも起きました。
高川:
プロテスト特別枠としてオンライン選考会から参加した選手は、調整が難しかった面があると思います。いきなり一発勝負の場に臨む緊張感がありました。
――素人目には大舞台で戦った経験値がある分、プロテスト特別枠の選手は有利と考えていました。
高川:
もちろん、メンタル面で有利な部分はあると思います。ただ、オフライン予選は5試合だけの短期決戦で、初戦に思うような結果を出せないとズルズルと悪い流れを引きずってしまう難しさがありました。
経験値だけでカバーできないところはあったと思います。周囲からの「通過して当然」というプレッシャーもありましたし。
また、レギュレーションでプロテスト特別枠の選手はすでに1試合目を終えた選手と対戦するように組まれていました。つまり、自分は初戦で緊張が抜けていない状態で、相手は一試合を終えて緊張がほぐれている状態だったんです。
敗退してしまったプロテスト特別枠の選手は、初戦でつまずき悪い流れにハマってしまったのではないかなと思います。
――プロテスト特別枠の選手は過酷な状況下にあったわけですね。しかし、高川選手はそのオフライン選考会を5連勝で勝ち抜きました。
高川:
5連勝できたのはたまたまです。問題の初戦も、最終回ツーアウトまで負けていて、サヨナラ勝ちした奇跡的な展開だったので。初戦を落としていたら、ズルズルと連敗したかもしれません。
――前田恭兵選手とのTwitterのやりとりで「死にそうな顔をしていた」とのお話がありましたね。
高川:
緊張はするものと折り合いをつけて会場までは気楽に行けたのですが、会場が緊張感でどんよりした空気になっていて……少し呑まれるところはありましたね。
ただ、会場には継続契約が決まっている選手も応援に駆けつけてくれて、顔見知りの人が多かったので、会話をすることで気を紛らすことができました。
――読売ジャイアンツのチームメイトである舘野弘樹選手(プレイヤー名「てぃーの」)も会場にいらしてたのですね。
高川:
はい。冷やかしに来てくれました。
舘野:
いやいや違うよ(笑)。「大丈夫か」と思いながら見守ってました。ただの外野フライを落とすし。
――ちょっと話が違いますよ。ガッチガチに緊張してるじゃないですか!
一同:
(爆笑)
高川:
そう、なんでもない外野フライを落としたんですよ(笑)。1試合目は本当やばかったです。
舘野:
でも、緊張するのも無理はないと思います。継続契約の選手同士で話していたんですが、「オフライン選考会免除で良かった」というのが共通した本音でした。
仲間と過ごしたeドラフト会議前夜
――そしてオフライン選考会を通過し、eドラフト会議……の前に恒例行事がありました。
高川:
彼氏こと倉前俊英選手(プレイヤー名「カイ」:広島東洋カープ所属)とのデートですね(笑)。羽田空港まで迎えに行って、お寿司を食べに行きました。
※高川選手と倉前選手は、パワプロのプレイヤー間で「カイころコンビ」として有名。「実況パワフルプロ野球2016」のころからオンライン対戦で対戦を重ね、翌年のオフライン大会で初対面し意気投合。昨年のeドラフト会議前にも銀座デートをしている
昼間からプチ贅沢 pic.twitter.com/e1cNARvvhj
— ころころ (@pawakorokoro) September 15, 2019
彼女とデート中です pic.twitter.com/zsoH4TcwJ2
— カイ (@kaiicecream) September 15, 2019
――「ドラフト会議」の前に他球団の選手と会っているというのも、eBASEBALLならではですよね。
舘野:
高川選手と吉田友樹選手(プレイヤー名「たいじ」:読売ジャイアンツ所属)でも食事に行ってたんでしょ?
吉田:
ああ、行きました。
高川:
Twitterでは誰とは言わなかったんですが、自分の焼き肉のツイートは吉田選手と2人で行ったものでした。
――忙しい1日だったんですね(笑)。
高川:
さらに、夜食に倉前選手と指宿聖也選手(プレイヤー名「みっすん」:オリックス・バファローズ所属)と河合祐哉選手とお寿司を食べに行ってます。
ただ、eドラフト会議前日はいろいろと予定を入れていたんですが、継続契約が決まっている選手としか会わないというのを決めていました。候補選手同士だと、どうしても選ばれなかったときの気遣いなどが難しいので……。
吉田:
それしんどいよなぁ。
舘野:
ところで、寿司食べて、焼き肉食べて、寿司食べたの?
吉田:
やべえな(笑)。
一同:
(爆笑)
――本来なら、指名が決まったあとの豪遊コースですよね。
高川:
いやいや、前日じゃないとみんなの予定が合わなかったので仕方なかったんです(笑)。
舘野:
その強靭な腹が羨ましいですよ。自分はどれか1つでも腹を壊します。
※舘野選手はパワプロ界で有名な重度の腹痛持ち。「フォロワーが「腹」とツイートすると一瞬で反応する」、「通勤経路の駅のトイレをすべて把握している」などの逸話が多数ある
――さて、高川選手にとっては2回目のeドラフト会議となったわけですが、会場の雰囲気はいかがでしたか。
高川:
昨年のeドラフト会議は参加者全員が指名されるという安心感がありましたが、今年は半分近くが指名されない本当の意味での「ドラフト会議」でした。
特に、自分を当落線上と考えているだろう選手の緊張感はすごいものでしたね。1人ずつ名前が呼ばれるたびに、表現のできない空気が張り詰めていました。
――高川選手にとっては、ジャイアンツ以外に指名をされてしまう不安もあったかと思います。
高川:
オフライン選考会の前に、舘野選手と吉田選手からは「ほかの球団に指名されないように、選考会では目立たない活躍をして」と言われていました(笑)。実際にはそんな調整をする余裕なんてなかったですけどね。
――eドラフト会議では、舘野選手と吉田選手の方が緊張されていたかもしれませんね。
舘野:
マジで泣きそうでしたよ。高川選手は実績もありますし、この感じだと無理だわって。
吉田:
本当にそれです。
続く後編では、今シーズンのパワプロ2018内の読売ジャイアンツのデータをもとに、どのような起用をする予定なのか語ってくれた。
投手陣の査定に不安が残る中で、いかに起用して戦っていくのか。開幕前にぜひ一読してほしい。
写真・Yumiko Mitsuhashi
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