ジャイアンツ吉田友樹――2年目の二刀流へ備えて【「eBASEBALL プロリーグ」読売ジャイアンツ集中インタビュー4】

砂拭

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最近めっきり聞かなくなった「二刀流」という言葉。だが、eスポーツ界の「二刀流」は今年も健在だ。

吉田友樹選手(プレイヤー名「たいじ」)は読売ジャイアンツとの継続契約を勝ち取り、2シーズン目のeBASEBALL プロリーグに挑む。

「スプラトゥーン世界王者」の肩書きを引っさげ乗り込んだ昨シーズンは、まさに黒船。

チームの勝ち頭としてeリーグ代表決定戦進出への原動力となっただけでなく、個人成績でもほとんどの部門で上位入り。パワプロ歴わずか3ヵ月のルーキーの活躍に、古参のパワプロ選手たちは口を揃えて「驚異」と評した。

その一方で、インタビューでパワプロのことを聞くと、どこか手探りで話している印象が拭えなかった。

けれど、今シーズンの吉田選手は違う。ダイエットに成功した……ではなくて、環境や配球を熟知し、パワプロの選手として完成されている。

「スプラトゥーンの王」が「パワプロの王」の称号を得る。その未来は、すでに現実味を帯びている。

※本インタビューは開幕前に実施しました

開幕へ向けたコンディション調整

――吉田選手とは8ヵ月ぶりにお会いしたのですが、別人かと思いました。ダイエットと親知らずを抜いたことで目に見えて顔が小さくなり、スタイルも細身に。まず、ダイエットのきっかけをうかがえますか。

吉田:
体重が70kgを超えて「これやべぇな」と思って。というのも、父親も太っていた時期があって、そのときの体重が70kgを超えていたんですね。当時の父親を見て「太ってるなぁ」と思っていたので、自分自身が同じ体重になってしまい……ちょっと痩せなきゃなって。

――ダイエットの時期とメディア露出が増えた時期が重なっていたので、意識してダイエットをされたのかと思いました。

吉田:
別にそれはないんすよ。単純に健康のためですね。

――スプラトゥーンとパワプロで年間を通して大会やイベント出演があるわけですものね。

吉田:
そうですね。あと配信を毎日しているので、体が資本なんですよね。

――たいじ選手は今シーズンもeBASEBALL プロリーグ唯一の専業プロゲーマー(ストリーマー)。ゲーマーの多くは食生活が乱れがちといいますが、自発的に摂生をされるところにプロ意識を感じます。

吉田:
プロ意識があるかはわからないですけど(笑)。ずっと家でゲームばかりしていると、本当に体調を崩すんですよ。

――ジムにも通われていましたよね。

吉田:
ジムはめんどくさくなって辞めました(笑)。その代わりに食事制限でダイエットをして。妻に食事を管理してもらっています。

――今年はテレビ出演や「コロコロオンライン」での連載、声優初挑戦なんて活動もありました。意図的に活動の幅を広げられているのでしょうか?

吉田:
自分から活動の幅を広げようとは考えてないですね。スプラトゥーンやパワプロでの活動に伴って、取材などが増えている感じです。いただく仕事については、楽しんでできればいいという考え方で。

――たいじ選手は個人事業主ですし、仕事の幅を広くする安心感もあるのでしょうか。

吉田:
そうですね。1つ潰れたとき、他の道があるというのは用意しておかなければいけないので。

――eBASEBALL プロリーグから専業プロゲーマーが誕生するのは、まだ難しいでしょうか。

吉田:
パワプロでプロゲーマーになって、それだけで生涯を過ごせるお金が稼げるかといえば、そうではないです。

プロゲーマーという立場を自分のステータスとして考えて、自分を有名にするための手段として利用する。そして、別の方法でお金を稼ぐ……そういう風に考えないと厳しいですね。

――そうして活動が広がると、「からかい上手の高木さん」のサインをもらえるわけですね。

吉田:
そう、サプライズで頂きました。額縁に入れて飾っています。

――あれはどういった経緯で。

吉田:
山本崇一朗先生がスプラトゥーンをプレイされていて、GG BOYZのことをご存じだったらしくて。それでGG BOYZで「コロコロコミック」の取材を受けたときに、山本先生の担当編集の方がサインを頼んでくださったんです。僕が「高木さん」好きなのを事前に調べていただいたみたいで。

――奥様がケーキを作られるほどですものね。

吉田:
そうなんですよ。あのサインはうれしかったな。

――9月にはかなり困難な「親知らず」の手術をされ、最悪の場合は顔周辺に麻痺が残る可能性もあったとお聞きしました。

吉田:
歯茎を切開して、埋もれている親知らずを砕いて抜くという結構大掛かりな手術でした。麻痺が残るかもとは言われてましたが、見た目も大して変わらないらしいですし、触ったらしびれるくらいのものらしいので、そんなに恐怖はなかったですね。

逆に全身麻酔の経験がなかったので、やってみたいなって(笑)。配信のネタにもなるし。

――お笑い芸人がラジオで話すネタを探すみたいな感覚ですね(笑)。その手術以降、いろいろと重なって体調を崩されているようですが、開幕に向けた調整はいかがですか。

吉田:
このインタビューの直近1週間くらいはきつくてゲームもできなかったんですけど、ようやく回復してきました。ここから詰めていこうかなと思っています。

――たいじ選手が「ゲームができない」と言うのは相当の出来事ですね。

吉田:
いや、本当に。手術の影響で頭痛や耳の痛みが出ていて、なにより目の奥の痛みで画面を見るのがつらかったんですよね。体調を最優先に、治すことだけを考えて配信もお休みしていました。

――配信も大事な仕事ではあるけど、11月のeBASEBALL プロリーグ開幕を見据えて?

吉田:
そうですね。ずるずる長引いたら最悪なんで。でも、こんなに体調を崩したのは久しぶりですよ。

パワプロは理論値が見えやすいゲーム

――パワプロとスプラトゥーン。もちろんまったく違うゲームだと思うのですが、求められる能力としてなにがもっとも異なるでしょうか。

吉田:
野球自体がそうですが、パワプロは1球1球を考える間があります。スプラは3分とか5分のあいだ常に動き続けるゲームなので、そこは大きな違いですね。僕は昔からFPSをプレイしていたので、慣れもあると思います。

――eBASEBALL プロリーグという新たなプロリーグで戦われて、改めて感じられたことはありますか?

吉田:
パワプロは自分の課題点がわかりやすいので、めちゃくちゃ練習がしやすいゲームですね。スプラは味方の動きが絡んでくるので、勝ったときも負けたときも具体的な理由を見つけるのが難しいんです。

――確かにパワプロの選手たちは、試合が終わったあとに将棋の感想戦のように互いのスタッツを確認し合っています。

吉田:
例えばナイスピッチを打たれた原因を探ってみると、その前の球でナイスピッチが出ていなくて、相手の心に余裕を持たせてしまった結果として打たれている……といったことが多いです。

パワプロは理論値が見えやすいゲームです。ナイスピッチを100%出して正確なコントロールをすれば、必ず抑えられるはずなんです。だから目標や練習法を立てやすいですね。それもあって、上位陣とそれ以外の人でレベルの差がつきやすいのだと思います。意識的にものを見れる人とそうでない人で、はっきりと差が出てきます。

――eBASEBALL プロリーグでの経験で、スプラトゥーンに持ち帰ったものはありますか。

吉田:
元メジャーリーガーの岩村明憲さんがメンタルを強くする方法として、「勝ったあとの楽しいことを想像する」とお話しされていたのが印象的でした。僕ももともと勝ったあとのことを想像するタイプだったので、改めて良いことだったとわかって。

その話は、スプラの大会の前にチームメイトに伝えましたね。緊張で切羽詰まった状態にあると思うので、勝ったあとの開放感を想像して緊張をほぐすんです。

――昨シーズン終了後は、スプラトゥーンの「NPB eスポーツシリーズ」「ワールドチャンピオンシップ 2019」と続きましたが、パワプロの練習はされていましたか。

吉田:
一応、配信していないところで打撃練習をしたり、マイライフモードで遊んだりして感覚を途切れさせないようにしていました。

――ちょうどその頃に、ジャイアンツとの継続契約の話が届いていたと思います。吉田選手は昨シーズンの最後に「ジャイアンツだったら来年も出たい」と話されていましたが、継続契約の話が来たときはどんな心境でしたか?

吉田:
単純にうれしかったですね。あと、日程が固定されていたら今年は厳しいと思っていたんですけど、4人でローテションを組んで休める試合があるというのも都合がよかったです。シーズンの期間も長くなり毎週末に東京へ行く生活になるので妻にも相談して、「今年もやってみるか」と決めました。

ジャイアンツの一員からパワプロの一員へ

――吉田選手は舘野弘樹選手(プレイヤー名「てぃーの」:読売ジャイアンツ代表)とともに、指名側としてeドラフト会議に参加されました。ジャイアンツの目標はまず高川健選手(プレイヤー名「ころころ」:読売ジャイアンツ代表)を取り戻すことにあったと思いますが、指名する側にも「他のチームに取られないか」という緊張感があったのではないでしょうか。

吉田:
緊張しましたね。なんとしても高川選手を取りたいと思っていたので、取れてホッとしましたよ。

――吉田選手は前日に高川選手と食事に行っていたとか。eドラフト会議の前日、いったいどんな話をされたのでしょう。

吉田:
「なんで選考会で5勝0敗なんて目立つ成績を残したんだ」とか話しましたね(笑)。軽いノリで、普通の話しかしてないですよ。

――続いて、4巡目で坂東秀憲選手(プレイヤー名「どぅーけん」:読売ジャイアンツ代表)を獲得。昨シーズンから球団職員として知り合い、4人で話している姿もよく見かけました。やはり、獲得してあげたいという思いがありましたか。

吉田:
獲得してあげたいという気持ちはまったくなくて、どぅーけんさんの獲得は単純にスタッツをみて決めました。普通に優秀ですし、対戦をしていても上手いんですよ。

――坂東選手は東大医学部卒、球団職員といった話題が先行し、世間からは実力が見えにくい選手でした。プロの目から見ても、実力は間違いないと。

吉田:
強いですね。とにかくピッチングがうまくて、ジャイアンツの4選手のなかで一番ではないですかね。

――昨年は指名を受ける側だったeドラフト会議ですが、今年の客観的にみるeドラフト会議はいかがでしたか。

吉田:
楽しかったですね。本物のドラフト会議みたいな雰囲気があって。

――ジャイアンツのメンバーといえば、昨シーズンは毎日のように深夜練習を行なっていました。今シーズンも深夜練は始まっているのでしょうか。

吉田:
eドラフト会議の少しあとくらいから始めてますね。坂東さんが眠そうだけど(笑)。まあ3:00、4:00には寝てるので。

――昨シーズンの吉田選手は、自分を打の選手と評されていました。一方で、セ・リーグ第3位の防御率を残されている。この理由は、舘野選手との練習の成果と考えているのですが。

吉田:
ああ、それは本当にあると思います。あの人、マジで打つから。舘野選手は結構ボール球を見極めるんですけど、ボール球を振らせないことには打ち取れません。それで練習になっていると思います。

――舘野選手についてはみなさん口を揃えて「マジで打つ」と表現されます。

吉田:
僕はほとんどオンラインに潜らないのですが、舘野さんのような強い人とやらないと意味がないからなんですよね。下の方の人たちと対戦すると、甘い球を投げても打たれないので……。

――配球面で変な癖がついてしまうわけですね。

吉田:
絶対にそれはありますね。バッティング面でも、向こうの配球が甘かったりしますし。

――昨シーズンは、パワプロ歴3ヵ月で他ゲームのプロという立場からヒール的な扱いもあり得るのではとお聞きしました。気がつけば、吉田選手は完全に馴染んでいます。パワプロ界隈の印象などはどう感じていますか。

吉田:
みんな大人ですね。スプラはパワプロに比べると平均年齢がぐっと下がるので、パワプロのみんなはやっぱり「大人」だと感じます。

――吉田選手が入ってくることで、パワプロの選手たちのあいだでスプラトゥーンが流行し始めています。

吉田:
知っている人がスプラトゥーンをやってくれるのは、見ていて面白いですし、単純にうれしいですね。

――プライベートマッチなども行われ、交友関係も広がったのでは。

吉田:
去年よりは(笑)。去年はジャイアンツのチームメイト以外だと三好航太郎選手(プレイヤー名「さんらいく」:福岡ソフトバンクホークス代表)くらいしか知り合いがいなかったので。今は話せる人も増えました。

プライベートマッチも友達とゲームをやる感覚になるので、面白かったです。


スプラトゥーンのトッププレイヤー「たいじ」として知られていた吉田選手。昨年のパワプロ参戦は大いに話題となった。

2年目となる今シーズン、スプラトゥーンに続きパワプロでも王の座につくことができるのか。インタビュー後編ではその鍵となる読売ジャイアンツの戦力について聞く。

写真・BUN

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記者プロフィール
砂拭
フリーの編集者・ライター。スポーツ紙よりはパワプロに詳しく、ゲームメディアよりは野球に詳しい独自のポジションでeBASEBALLライターの覇権を狙う。 また、医学系出版社での経験を活かし、「健康×eスポーツ」にも切り込んでいる。

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