千葉ロッテのキャプテンでパワプロ界の兄貴分――下山祐躍のプロ意識【eBASEBALL プロリーグ】

【この記事は約9分で読めます】
eBASEBALL プロリーグ界随一の「プロ意識」
――eBASEBALL プロリーグで戦う選手たちは、大多数が兼業プロゲーマーです。専業プロゲーマーへの憧れはありますか。
下山:
やれるのならやってみたいですね。専業プロゲーマーで、どれくらいの生活ができるのかがポイントです。
プロゲーマーには試合があって、そこに照準を合わせて練習をしていくわけですが、今のeBASEBALL プロリーグは本番が約3ヵ月間で残り9ヵ月間が準備の時間となります。その9ヵ月間をすべて準備に当てるのは難しく、その期間にどう働いていくか考えることはあります。
――この質問は何人かの選手に投げかけているのですが、下山選手は他のみなさんよりも具体性を持ってイメージされているように感じます。
下山:
僕はこのオフシーズンに自分の足を使い、あるきっかけからウェルプレイドさんと知り合ってエージェント契約を結ばせていただきました。ウェルプレイドさんはeスポーツ業界のプロ集団ですから、そのフォローがあれば自分の道が見えるのではと思ったんです。
オフシーズンには何人かの選手が各地のイベントに呼ばれ、やはり悔しい気持ちもありました。悔しいのなら、何か行動しなければならない。「プロとして生きるには」と考えたときに、自分から転がっている運を拾いにいかなければと思ったんです。
――パワプロ界でそのような契約を結んだのは、下山選手が初めてですよね。
下山:
eBASEBALL プロリーグ史上初になりますね。まだeBASEBALL プロリーグは2年目で、選手も何も知らない人たちがほとんどです。そのなかでどれだけ形を作っていけるかが僕らの仕事でもあり、いわばパイオニアの役割があると思います。
誰かが失敗をしたら、後ろの人たちは同じ失敗をしないようにすればいい。僕らはまだ、何が失敗なのかすらわからない段階なんです。
――下山選手はご自身の武器でもある投球、配球について配信されています。プレイヤーとしては損のほうが多いと思いますが、これもプロとしての活動の一環なのでしょうか。
下山:
やはり技術の提供はしていかなければいけないので。言葉だけで伝えるのはすごく難しいですし、生放送だとその瞬間だけで終わってしまいます。そうすると、動画としてアーカイブを残すのが一番だと思ったんです。
どれくらいの人に需要があるかはわかりません。結果的に自分の知名度が少しでも上がればとも思いますが、そこはまだ模索中です。
――パワプロ界にいると聞かなくても誰かがニヤニヤしながら教えてくれる、下山選手のとあるエピソードについてうかがいたいと思います。下山選手は「コントローラーの消費量が最も多い選手」とのことですが。
下山:
あー、それ聞かれますか……。間違いなくパワプロをプレイしている人の中で、一番コントローラーをぶっ壊してますね。
――多くのプレイヤーの兄貴分である今の下山選手からは想像しにくいですが、昔は試合中に荒れてしまうことも多かったのですか。
下山:
「実況パワフルプロ野球2016」をプレイしていた頃なんですが……かなり荒れていました。パワプロには暗黙の了解で「やってはいけないプレイ」があり、嫌がらせをしてくるプレイヤーもいます。そんなプレイヤーに勝つのが当たり前にならなくてはいけないのに、負けてしまう自分が腹立たしくて。
――いわゆるバントダンス(※)などのプレイですね。
下山:
そうですね。あと昔でいうと、セーフティバントしかしないプレイなどもそうです。セーフティバントがほぼセーフになってしまう環境があって。
※バントダンス:ピッチャー側が2度押し(ナイスピッチ)のタイミングを計っている最中に、バッター側がバントの構えで無茶苦茶にカーソルを動かすこと。これによりピッチャー側の視認性が悪化し、2度押しが困難になる
――このエピソードは、選手間ではずっといじられているそうですね。
下山:
昨年の研修会のときの話なんですが、「物に当たらない」という話題が出た瞬間に、みんな僕のほうを見るんですよ(笑)。
――しかし先日も、清野選手は下山選手を「理想のキャプテン」とお話されていましたよ。
下山:
やばい、変な汗が出てきた(笑)。僕はそんなできた人間ではないんですよ。反面教師というやつですね。
――そんな自戒する過去もあってか、下山選手には選手間で話題になった「高いプロ意識」を感じるエピソードがあります。その1つが「ストレッチポール」の持ち込みです。
下山:
ゲームをしているとどうしても姿勢が悪くなるので、ストレッチポールで姿勢をキープする必要があります。
トレーナー時代の同僚で、実業団で活躍されていた方から「自己投資をしないと負ける」と教えられていたんです。シーズン前には鍼も受けましたし、スポーツマッサージも受けています。
――予選のオフライン選考会の段階で、ストレッチポールを持ち込まれていたとか。
下山:
「なんだあいつ」みたいな目で見られましたけど。バット入ってるの、みたいな(笑)。
――徹底したルーティンをこなして試合に臨まれるそうですね。詳しく教えていただけますか。
下山:
まず会場に到着したら1枚目のアンダーシャツに着替え、過去のマリーンズのスタメン発表時に流れていた音楽を聴きます。そして目を温める温熱シートを使ったあとに、ストレッチポールでストレッチを行います。ほかにも、広背筋と肩甲骨まわりのほぐしなどいろいろとやります。
ここまでで汗だくになるので試合用のパワーシャツに着替えて、打撃練習と練習試合に入ります。通して30分から1時間くらいかけて、準備をしていました。
あとは試合直前に丹田に力を入れるための腹式呼吸を行い、本番です。
――試合の時間は決して長くありませんから、本番の3倍近い時間をかけて準備されていたわけですね。
下山:
鍼の先生に「ゾーンに入るための準備はきちんとしておきなさい」と教えられたのが大きいです。実際、ゾーンに入るのはすごく大変なので、準備と環境を整えるために必要なルーティンなんです。
――うかがいにくいことですが、下山選手は今年の9月、車に轢かれる事故に遭われていますね。
下山:
轢かれたというより、車を止めようとした結果ですね。バックしてくる車を誘導していたのですが、ご年配の方が通りかかってしまい「おじいさん!」と呼びかけたのが届かず。とっさに車を止めようとして、椎間板が潰れました。いまはだいぶ回復しましたが、当時は左足が痺れて動かなくて。
――事故直後の診断では麻痺が残る可能性もあったとか。
下山:
それはもうなくなったので、大丈夫です。
――椎間板となると、座っていることがつらいなど影響はプレイにも確実にあると思います。不安はないですか?
下山:
間に合わせるのがプロだと思うので。何をやっていてもきついといえばきついですが、痛み止めの注射なども使うことができますし、準備できることはいくらでもあります。
――やはり痛み止めは必要なのですね。
下山:
そうですね。痛み止めを使った状態での練習もしています。指先の感覚が変わっていないか、確かめておかないといけないので。
怪我をして逆に強くなるサイヤ人系でいきたいなと思っています!
卓越した「読み」でマリーンズを牽引
――下山選手といえばピッチングですが、中でも特徴的なのが配球。戦略面の詳細は伏せつつ、心がけていることを教えていただけますか。
下山:
自分がされて嫌なことをする、ですね。例えば、強打者は引っ張りでホームランにするのが理想なんですが、「どうやって引っ張りで打たせないようにするか」「ファールにさせるか」などを考えます。
ほかにも相手がバッティング時にカーソルをくるくる動かす癖があれば、それを中断させるようにパッと投げたりとか。
――先日、前田恭兵選手(プレイヤー名「マエピー」:埼玉西武ライオンズ代表)に「相手のミートカーソルの動きで、打球方向の狙いがわかる」と教えていただいたのですが、下山選手もそうした相手の機微を読み取っているのでしょうか。
下山:
わかります。ミートカーソルを見なくても、なんとなくわかりますね。
例えばボールの見逃し方でも、ミートカーソルを全く動かさない見逃しとぎりぎりまでボールを追う見逃しがありますよね。僕のなかではミートカーソルが動いていなくても「体の中ではボールを追っているだろうな」というのを画面越しに感じています。
――カウントなどの状況を踏まえてですよね。
下山:
そうですね。カウントを見て、「ここで動いてきた」などを見ています。
――それは事前に対戦相手を研究した上で組み立てているのか、対面での読み合いになるのでしょうか。
下山:
両方ですね。配信などの本人に余裕がある状態でのデータと、本番の緊張しているときのデータではまったく違うときがあるので。事前に用意した組み立てに確信を持てるまでは、試合中に探りを入れています。
――「読み」という部分では、昨シーズンは相手チームのロースターをほとんど的中させていたとうかがいました。
下山:
外したのはイーグルス戦だけですね。緒方寛海選手(プレイヤー名「なたでここ」:埼玉西武ライオンズ代表)との対戦も「最強の盾と矛をやってみるか」とわがままを言わせてもらって、対戦しに行きました。僕がその当時の防御率1位だったので。
――その時点で、打率でも1位でしたよね。
下山:
はい。なので、緒方選手を止められれば、防御率でも打率でもトップに君臨できる試合でした。しかも僕が引き分けか負けなら、ライオンズの優勝が決まる試合でもあって。
――昨シーズンは打率でパ・リーグ3位の成績を残されています。バッティングは苦手とうかがいましたが、この要因はどこにあったのでしょう。
下山:
ナイスピッチミスをひたすら打ったことです。
――徹底して、強振からの切り替え打ちやミート打ちをされていました。これはマリーンズの特性を考えてのことですか。
下山:
そうですね。今シーズンのマリーンズはパワーが上がっているので、強振で打つ場面もあると思いますよ。
――今シーズン、千葉ロッテマリーンズ(eBASEBALL プロリーグ)で戦っていく上でキーになる選手を挙げていただけますか。まずは投手からお願いします。
下山:
田中靖洋選手です。球速は152km/hで、大きな変化をするスライダーと変化量1の打ちにくいフォークを投げられるので非常に優秀です。「勝ち運」を持っているのでワンポイント起用でもいいですし、回またぎでもじゅうぶんに投げられます。
――野手についてはいかがですか。
下山:
今年のマリーンズはどこからでもホームランを打てて、誰かが絶不調でもリカバリーできるメンバーになっています。全員をキーマンに上げたいくらいですね。
強いて挙げるのであれば、加藤翔平選手、荻野貴司選手、清田育宏選手の外野手3名です。絶好調か好調になってくれると、弾道3でパワーC以上の選手が7番バッターまで続く打線になります。
――今シーズンは24歳の町田和隆選手(プレイヤー名「あんちもん」)と高校生プレイヤー柳虎士郎選手(プレイヤー名「ゆさ」)が加入。下山選手がチーム最年長となり、キャプテンとしての重みが増すシーズンになると思います。
下山:
結果で示すシーズンにしたいです。柳選手には言うことはいつも伝えているので、自分のなかで落とし込んでほしいですね。すでにプレイヤーとしては一流なので、ひと皮むけるかは彼次第です。
――未成年ではあるけれども、1人の自立したプレイヤーとして接しているわけですね。
下山:
過保護になっても良いことはないですしね。もちろん、わからないところはフォローしていきますが、そのなかで独り立ちしてほしいです。
――最後に、意気込みや目標をお願いします。
下山:
個人的には、昨シーズンのホームランが1本だけだったので5本は打ちたいですね。あとはタイトルではないですが、ナイスピッチ率で1位を取りたいです。
チームとしては優勝を狙っていきますが、まずは負けないこと。今シーズンは引き分けも増えると思いますので、負けないことでAクラス入りが確実になると思っています。
――ありがとうございました!
試合までのルーティーンや若いメンバーが多いチームでのキャプテンシー。節々にプロ意識を織り交ぜて話す姿が印象的だった下山選手。
持ち前の投球術と充実したロッテ打線を武器に、狙うはAクラス、そして優勝。昨年最下位からの下剋上はなるか、乞うご期待――。
写真・大塚まり
【あわせて読みたい関連記事】
パワプロのために引っ越して転職した男――千葉ロッテ下山祐躍【eBASEBALL プロリーグ】
eBASEBALL プロリーグに人並みなら情熱を燃やす選手がいる。千葉ロッテマリーンズのキャプテン下山祐躍(スンスケ)選手だ。パワプロの練習のために引っ越し、試合に出るために転職までするほどの決断。その裏には家族の理解があった。