夢から目標になった実況のプロ:ふーひーブレイク【第1回】
はじめまして! esportsイベントや大会などでMC・実況をしているふーひと申します。いわゆる、ゲームキャスターの仕事をしており、今回からコラムを担当することになりました。
初回は僕のことを知らない方への自己紹介として、自分のこれまでとキャスターを志した経緯について書いていきます。
少し長くなるかもですが、お付き合いいただけるとうれしいです。
ポッ拳が開けてくれたキャスターへの道
「ポッ拳」というゲームを知ってますか? 「ポケモンの対戦アクションバトル」として、2015年7月からゲームセンターで稼働したアーケードゲームです。僕は昔からポケモンというコンテンツがすごく好きでした。アニメも見るし、ゲームもする。事実、部屋中にはポケモンのぬいぐるみが溢れています。
いろんな格闘ゲームをプレイしていた僕にとって、「ポケモン×格ゲー」という2つの好きな要素が合体した「ポッ拳」。PVを目にしたそのときから熱い気持ちになり、稼働する日を待ちわびていたことを今でも覚えています。
ポッ拳が稼働したら、たくさんの人と交流しようとか、強くなって大会に出たいとか、いろんなことを考えていました。そんなやりたい事リストの1つに、「実況をしたいな」という気持ちが漠然とありました。
当時、僕がよく見ていたゲーム動画に「ソウルキャリバー」という格ゲーがありました。その動画で実況を務めていた「おおさか」さんという人の実況がとてもわかりやすく、「展開の早いゲームをこんなにわかりやすく伝えられるのか!」と、興奮しました。
この記憶に触発されて、「ポケモン×格ゲーだったら実況をやってみよう!」と決意しました。決意はしたものの、どういった用意をすべきかなんかはわかりません。でもわからないなりに考えて、各ポケモンの技名をゲームセンターでプレイしつつ覚えました。
そして稼働から約3週間後の2015年8月、池袋にあるGIGOというゲームセンターでポッ拳の大会が開催されました。おそらく、ポッ拳初の大きなトーナメントだったと思います。
選手としては2回戦で敗退してしまったのですが、その後進行担当の店員さんが「誰か実況しませんか?」と現場にいる方に聞いてくれたんです。
遂にこのときが来た! と逸る気持ちを抑えつつ挙手。念願叶ってマイクを任せていただき、その後は決勝まで喋らせていただきました。
予想を超えるハイレベルな試合で大会は閉幕。戦いを終えたプレイヤーのみんなが、声をかけてくれました。「実況盛り上がったね!」「よく技名を言えますね、すごい!」など。
自分なりにがんばって用意をして臨んだ実況が、現場で受け入れてもらえたらやっぱりうれしいもんですよ。これがきっかけで多くのプレイヤーと仲良くなれて、「ポッ拳も実況も続けていこう」と言う思いを胸にその日は帰りました。
コミュニティから公式へ
今思えば、この日があったからこそ、今も喋ってるんじゃないかなと思います。
この日から、初心者講習やイベントなどを主催するなど、「ポッ拳」というコンテンツでいろんなことをやりました。Wii U版「ポッ拳」が発売されてからはオフ大会も開かれるようになり、他のプレイヤーが主催したイベントでもマイクを持たせてもらったこともありました。
長く続けさせてもらううちに、すごい試合をもっと喋りたい、外に伝えたいという欲求が強くなっていって、プレイヤーとして出場するより実況者として喋る楽しさが上回るようになっていました。
ただ、それでも当時は「プロになりたい」とか「実況を仕事にしたい」という発想はなかったです。
公式の大会というと、やっぱりずっと昔から活動してる方とか、プロのナレーターやタレントが出演するもんだよな、となんとなく自分の中で固定化されてました。自分の立ち位置とはそもそも無縁というか、別次元の話のように思っていたんですよね。
「一度くらい喋ってみたいよなぁ」なんて思うことはありましたが、目標というよりは自分でも無理なことがわかってる夢だと捉えていたと思います。
そんな自分の概念をぶち壊した大会がありました。
2018年3月17日に青山スパイラルホールで行われた「春拳 Spring Fist powered by Twitch Prime」です。
この大会はいわゆる「合同大会」といわれるもので、同じ会場で「ポッ拳」「ARMS」「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」の3タイトルで行われました。1日で同時に予選を行い、上位数名の決勝トーナメントは時間を区切ってステージ上で行われる形式です。
しかも、ポッ拳は優勝者に対して2018年8月にアメリカで行われる「ポケモンワールドチャンピオンシップス2018」(以下、ポケモンWCS)日本代表としての招待出場権が付与される公式の関わる大会です。
多くのポッ拳プレイヤーは、ポケモンWCSの舞台に立つことを目標にプレイをしているといっても過言ではないと思います。
この「春拳」のポッ拳部門で、実況をやらないかという話が舞い込んできたのは、2月上旬でした。最初は「ポッ拳の大会があるからどうですか?」とお声がけしてもらったんですが、引き受けた後に徐々に詳細が明らかになっていって、最終的にはどうやら公式大会らしいぞと。
そしてもう1つ、僕にとって重大な事実がありました。解説として僕と一緒に喋ってくれるのが、「おおさか」さんだったんです。「ソウルキャリバー」を実況していた、あのおおさかさんです。
おおさかさんはそれまでの「ポッ拳」公式大会でも解説を務めていて、ポッ拳をきっかけに知り合っていろいろと話をさせていただいていました。
自分の「きっかけ」になった人と一緒に喋れる。それも他にない大きな舞台で。ワクワクと緊張で迎えたその1日を、僕は忘れることはないでしょう。
朝早くから始まる予選で、死力を尽くす選手たち。中にはポッ拳のプロゲーマーとして初陣を迎える選手もいて、それぞれの気持ちを持って戦っていたと思います。その予選を最初から最後まで追いかけて喋り、予選が終われば「ARMS」と「スマブラ」の決勝を観戦して興奮し、最後に控えた「ポッ拳」の決勝が始まりました。
予選は舞台の裏で配信を通して実況していましたが、決勝トーナメントは実況解説陣もステージ上に用意された席に。ステージ上からは観客席を一望でき、そこから見る景色は今まで見たことがないものでした。
楽しそうに隣の人と喋りながら開始を待つ人たち、固唾を飲んで見守る人や、悔しそうな顔で見つめる人。中には「ARMS」や「スマブラ」のプレイヤーもいて、「ポッ拳」は初めて見るという方も多かったと思います。
そして、同じ舞台上に目を向ければ真剣な表情で立つ4人の選手たち。会場にいるみんなが、この4人に注目しているんだ。その試合を自分が実況するんだ。自分の持っている力を全部使い切ろう!
そこからの2時間はあまり覚えてなくて、ただ無我夢中で喋っていたと思います。
目の前の死闘とも呼ぶべきバトルと、それを見て熱くなった観客の歓声、そして戦い終えた選手の姿が今なお強く残っています。すべてが終わった後に、「また今日の景色が見たい。見よう」と強く思いました。
職業ゲームキャスターに
時を少し戻して、春拳数日前の3月12日。現在所属しているウェルプレイドの公式Twitterで、「4月から、選手だけでなくMCなどのタレントも募集する」という告知がされました。
もしかしたら、MCや実況でやっていく未来もあるんじゃないだろうか? と思いました。春拳の一件で、非現実として捉えていた仕事として実況することが、ほんの少し現実味を帯びていたのかもしれません。
もちろん、簡単じゃないことは理解していました。所属できたとしても、仕事が来るかなんてわからない、他のゲームで喋れるかも未知数。そもそも、所属できるかもわからないし……。
わからないことだらけの頭の中で、唯一わかっていたこともありました。それは、「今このときに動かなかったら、自分が実況でやっていく未来はもうないだろう」ということです。
当時も今も「プロゲーマー」という存在が、多くのプレイヤーの注目を浴びていると思います。今後、e-sportsがもっと活性化したら、必ず「実況・解説」にスポットライトが当たる瞬間がある。やりたいと手を挙げる人が増えて、その人たちをマネージするシステムができるだろうと思っていました。
そうやって、みんながよーいドンでスタートできる環境が整ったら、自分はまず埋もれる。そんなずば抜けた存在ではない。
もし道があるとしたら、環境が整う前に少しでも動いて、実績を積み重ねること。それしかない! そして、大きな舞台が控えたこのタイミングでこんな募集が目に飛び込んできたっていうことは、「やれ!」ってことなんじゃないだろうか。
ここで覚悟が決まれば潔かったのですが、僕も優柔不断な若者。その後もあれこれ考えた挙句、春拳が終わったときの気持ちに従おうと決めました。
そして実際どういう気持ちになったかは、上述のとおりです。たった1回の経験でしたが、それが僕の非現実な夢を現実の目標へと塗り替えました。
春拳の後、一緒に喋った「おおさか」さんや出場していたポッ拳プロプレイヤーの友人にも背中を押してもらい、帰り道の電車の中で、ウェルプレイドにメールを送りました。4月を待たずすぐにでも会えませんか、と添えて。
結果として3月中に話をする機会を設けていただき、所属が決定しました。そこからの2018年は、もう音速で過ぎていった気がします。さまざまなタイトルに触れ、人に会って自分を知ってもらおうと各種イベントや対戦会に足を運びました。
そこから多くの方々の支えとご縁もあって、「ディシディア ファイナルファンタジー アーケード」「ドラゴンボール ファイターズ」「ソウルキャリバー VI」などの実況を任せていただいたり、他のイベントでMCをさせてもらったりと、少しづつですが活動を広げていくことができました。
僕は仕事にすると決めた上で、プレイヤーとしてゲームを楽しむ気持ちは忘れないようにしようと思っています。最低限そのタイトルの実況は、そのタイトルを面白いと思っている人がやるべきだと思うので。
だから「面白い!やりたい!」と思ってプレイしたゲームを実況させてもらえてることは本当に幸運だと思いますし、そのゲームを通してお世話になった人たちにも感謝しています。最近のゲームは、特にどれも本当に面白い。
きっと、今も「キャスターになりたい」と思ってる人はたくさんいると思いますし、今後も増えてくると思います。ただ、そのほとんどが、「でも、どうしていいかわからない」というところまでセットだと思います。
次回からは僕なりの経験を基に、この連載を通してキャスターを目指す人たちが「こういうことをやってみようかな」と思えるような、「きっかけ」を伝えていけたらいいなと思います。
僕自身もまだまだこれからの立場ですので、より具体的で説得力のある言葉を届けられるようにがんばっていきます。
【あわせて読みたい関連記事】
選手の “プロさ”を表現するゲームキャスター岸大河の実況論【前編】