鉄拳7のイラストを手掛けるjbstyle.氏の素顔に“MASTERCUP”のまさかり仁が切り込む【後編】

プロとして大切なことは「鉄拳」が教えてくれた
――:jbstyle.さんは色々なキャラクターを描いていらっしゃいますが、ゲームのキャラクターを描く際に注意していることはあるんでしょうか。
jbstyle.:
「鉄拳」に関して言えば、キャラクターが既存であるわけじゃないですか。だから絶対に抑えなきゃいけない部分があります。このキャラクターはこういう性格とか、衣装、表情も細かく指定されるので、自由が利かない部類に入ります。
でも自分のタッチで落とし込まなきゃいけないので、それをどれだけ許容してもらえるのかが最初の頃はわかりませんでした。なので、最初は攻めた感じで描いて、そこから修正が入ってきて、すり合わせしていくという流れになります。
「自由に描いて下さい」とか、大まかなラフがある場合もあるのですが、そういう場合は装飾品を増やすなど自由に描けています。でも一番大事にしているのはそのキャラクターの性格だったり、ちょっとしたエピソードだったり、セリフがあったり、そういうのが箇条書きでもあると「こういうのを着そう、付けそう」と解釈して描いていますね。
――:「鉄拳7」の最初のラフを見せていただいたのですが、これも最初はイメージをもらって作っているのでしょうか。
jbstyle.:
そうです。三島一美とかもそうでした。本当にそのラフが最初でしたね。そこからちょっとしたパーツの情報をもらって、ポーズなり何かしらのイメージを膨らまして描きました。
ゲームが実際に稼働する前だから、どういうものがベースになるのかわからなくて、参考の画像をもらったりして描き起こしていくんですけど、他の「鉄拳」で言うと、3名のアーティストの方が先輩として「鉄拳」シリーズで描いているので、できるだけ個性を出そうと考えながら描いていますね。
自分にお願いされて以上、自分なりのものを期待されているわけだから、最初は自由な攻めたものを描いて、その後落ち着かせるという感じですね。

試行錯誤の上に完成した三島一美。凛々しさと美しさが共存している。
――:jbstyle.さんの絵で印象深いのは吉光です。この個性的な作品もこういったやり方で描いているんですね。
jbstyle.:
そうですね。最初は本当にビジュアルだけの情報しか来ないですから、そこからこのキャラクターがどんなやつなのかを考える必要があります。昔からいる吉光とかだったら自分も遊んだことがあるから、技は劇的には変わらないだろうということでイメージはできますが、そうじゃない新キャラクターはもっと難しいですね。
――:今回で言うと、ラッキークロエとかでしょうか。
jbstyle.:
まさにそれです。カタリーナとかはまだ性格が全面に出ているキャラクターでしたが、ラッキークロエは見た目だけだとめっちゃ可愛いだけのキャラクターじゃないですか。あれがまさか毒を吐くキャラクターだとは思いませんよ。最初は正統派の可愛い女の子のキャラクターが来たと思いましたね。
描くときにそれだけの情報しかなかったら、絵はもっと違っていたと思います。全部が全部の情報を貰えるわけでは無いので、実際に稼働して動画を見てから「あっ、コイツこういうキャラだったのか」とかは正直ありますね。それも含めて楽しんで描かせてもらっていますが。
イラストレーターとプロゲーマー、共通項を探す
――:jbstyle.さんから見て、絵とゲームに通ずることはありますか。今はプロゲーマーという職種が出始めていていますが、イラストレーターも仕事が確立されるまでは、似たようなスタートラインに立っていたのではないかなと思います。
jbstyle.:
そこは似ていますね。イラストレーターも最初はわかりやすい実績なんてありませんし、どうご飯を食べていくのか道筋もない状態です。最初はどうお金にしていいものかわかりませんし、まずわかりやすい実績が欲しいと思ってしまいますね。
自分をどう売り込んでいくのか、どう箔を付けるのか、注目を引くためにどんな絵を描くのか、それをできるかどうかですよね。
――:jbstyle.さんが自身で感じた共通点はありますか。
jbstyle.:
自分の場合、外で描くライブの仕事の方はプロゲーマーと共通点が多いと思います。例えば、大きなお祭りとかで描きましたという実績からスタートして、それでまたイベントに呼んでもらえるようになるとかは、同じなのかなと思いますね。自分なりに動いてイベントに行くチャンスをうかがって、それで結果を出せば、またそれが繋がるという感じです。
――:地道に周知させていく点が似ていますね。
jbstyle.:
「自分はこういうことができますよ」と売り込んでいくのは重要ですね。絵描きもYouTubeとかの配信で売り込みもできますし、喋るのが苦手なら描く様子を配信する方法もありますし、そこはゲームでも一緒だと思います。自分のプレイを見てもらうような感じですね。
誰かしら成功している人をなぞるとつまらないから、マイノリティな方を模索して、あとはセルフプロデュースの連続です。ずっと続けていれば、いずれ認めてくれる人が出てくると思います。
――:jbstyle.さんもその経験があるのでしょうか。
jbstyle.:
作品を見た人から「jbstyle.さんの癖出ていますね」と言われて初めて気が付くこともあります。そういうのも含めて、人に見てもらう機会を増やしていかないと、仕事には結びつかないんじゃないかなと思います。
だからわかりやすく大会に出るんです。リミッツもそうですが、アピールすれば大会に関係ない場所や企業からお声が掛かることもあると思います。その辺もゲームに通じるものがありますね。

5月12日13日渋谷ヒカリエホールで開催のリミッツ世界大会での公式絵。いち早く公開。
――:自分の味を出して売り込むということですね。
jbstyle.:
それが一番の近道だと思います。遠回りしているように見えるかもしれませんが……。プロを名乗っていくなら、もっとポンポンと売れたいというのはわかりますけどね。でも、やはり最初は地道な営業が大切になってくると思います。
――:表現するにあたっての心構えっていうのはありますか。
jbstyle.:
それはもう「楽しんで描けるかどうか」ですね。わかりやすく言えば、頭からつま先まで同じ集中力、テンションでやれているかどうかを考えています。人間はどうしても手を抜いてしまう部分が出てくるので、それをどれだけ人様にバレないようにするというのは心がけていますね。
描くものごとに細かく気を付けることもあるのですが、トータルではこれですね。焦って楽しめないままやると自分で後悔しちゃうので、そういう意味では一番シビアになるのは仕事を選ぶときです。その仕事を楽しめるかどうかという部分に重きを置いています。そのときにモヤっとした場合はその原因を突き詰めて、クリアしてから先に進めるようにしています。
――:それは過去の経験から学んだことですか。
jbstyle.:
そうですね。過去には、仕事だからとか、お金もらえるからとか、そういう理由で描いていたものについて後悔することがありました。なので、今はまずは楽しめるかどうかを一番に考えています。何かのために描くのでは、別のことに重きを置いた状態になってしまうんですよね。これはみんな通る道だと思います。
――:ということは、過去に失敗した経験があると。
jbstyle.:
実は「鉄拳7」で初めて仕事を貰った時に。実力不足でチャンスを逃しちゃったばかりだったので、絵を描けることになってすごい嬉しかったんですよね。でも、自己流で全部生み出してということしかやっていなかったので、既存のキャラクターを描くことに全然慣れてなかったんですよ。
髪の生え際がこうです、筋肉がこうです、とか、雰囲気で描けないのでうまくいかなくて……。何度も直しを重ねるけど納期を守らないといけない、それですごく焦って、楽しむ余地が無い状態でしたね。なんとか間に合いはしたけど、モヤモヤしたものが残った状態でした。
――:その後、その心構えを決意するきっかけがあったんですか。
jbstyle.:
海外の「ComicCon(コミコン)」で行われた「鉄拳7」のプロモーションイベントで、原田さん(「鉄拳」シリーズのプロデューサー・原田勝弘氏)が喋っている間にカタリーナを20分で描いてくれという仕事があったんです。そのときの現地のファンの人の反応がすごく大きくて、それで改めて「鉄拳」のすごさを思い知らされました。
その反響を見て「これは自分も楽しんだもので評価してもらわないといけない」と思って、今度はさらに本気で楽しんで描くと決めました。それで描いたのが「鉄拳 7 FATED RETRIBUTION」の時の絵なんですよね。家庭用の「鉄拳7」では、その両方の絵が見られるので、自分にしかわからない戒めになっています(笑)。
――:これまで受けた仕事で、一番たぎったものは何でしょうか。
jbstyle.:
やはり「鉄拳」ですよね。ウェルプレイドさんと繋がったのも「鉄拳」でまさかり仁さんに会ったからです。EVO、MASTERCUP.9、「鉄拳」の公式グッズのデザインをやらせてもらって、それがきっかけで海外のフォロワーさんも増えました。何かしらイベントに行くときに“「鉄拳」を描いているjbstyle.”と紹介してもらったり、わかりやすい実績だと感じています。「鉄拳」は良いことも悪いことも教えてくれましたからね。
jbstyle.氏から見た現在のesportsの形とは
――:現在のesports業界に感じることはありますか。
jbstyle.:
もうちょっと選手のバックボーンを知れると、さらに応援しやすくなるのかなと思います。アスリートと同じですよね。それがわかりやすく、格好良く見られる形でピックアップしてあげると、ゲームを知らなくても選手を応援したくなるはずです。そういう方向でesportsを盛り上げても面白いと思います。
――:たしかに。選手にスポットライトが当たればゲームも盛り上がりますからね。
jbstyle.:
ゲームだけだと、そのゲームを知らないと見なかったりするじゃないですか。そうではなくて、“誰が出るのかで見る”。高校野球だって、応援している選手が出場していたらその学校の試合を見たくなっちゃうものですよね。その感覚がesportsでもできたら、「プロゲーマーってこんなに格好いいんだぜ!」というものを見せられるようになると思います。

バックボーン知ったからこそ光る姿がある。jbstyle.氏にはそれを魅せる力がある。
――:ちなみに、自分より若い世代の絵描きに感じて欲しいことはありますか。
jbstyle.:
まず、うまく行かないことを前提に考えて欲しいですね。そんなにポンポンと階段を景気よく上がっていけるわけじゃないですし、そういうものだと考えて欲しいです。
続けた先に勝ち得たものがあるものですが、それまでは本当に否定的な意見とか、心を折られる出来事が大なり小なりあると思います。そこで心を潰してほしくはないので、うまくいかないという前提で、なんとかしてやるくらいの根性で来て欲しいですね。
つまり「自分に負けないように」ということですね。心が折れたとき、最後に辞める決断をするのは自分なので。自分を勘違いしているぐらいの「なんとかなるでしょ」の精神で来て欲しいかなと思います。
――:業界、社会全体に対する願いなどはありますか。
jbstyle.:
自分が地方出身なので、地方に居ても好きなことでご飯を食べられる人が増えたらいいなと思います。東京じゃないとダメとか、そういうのはもう通用しないので。
どこに居てもなんとでもなる時代だからこそ、好きなことでご飯を食べられるようになって欲しいと思うんですけど、でも現実みんなが好きなことばかりじゃ社会は成り立たないから……うーん、難しいね(笑)。
でも、好きなことで食べていくのを目指しやすい環境はあって欲しいかなと思います。たとえば、そういう人が身近に居るとかでも構いません。だから自分は若手とご飯食べたりするんだけど、そういう好きなことをしながら飯を食っていける環境を作ってあげたいと思います。
――:それでは、最後に2018年の展望を教えてください。
jbstyle.:
具体的なものはなくて、毎年毎年がピークで「こんな良いことが続くはずがない」と思って動いています。でも、去年とは違う楽しいことやりたいというのは毎年目指していますし、それが新しいことに繋がるきっかけになると思っています。今年も新しい人との繋がりを求めて、来年以降に向けた大きな施策となる“時限爆弾”を仕掛けていきます。
――:ありがとうございました。
自身の経験から、後進の若手たちへ、そしてesportsで世界をプロを目指す人たちへの思いを語っていただいた。成功は勝手に転がり込んでくるものではなく、自ら行動したものに与えられるということを彼の生き様から学ばなければならない。
そして今回インタビューに答えていただいた、jbstyle.氏が出場する「LIMITS World Prix 2018」。2018年5月12日(土)13日(日)、彼の戦いを見逃すな。