EUの強豪G2と中国の新生FPXが激突――LoL Worlds 2019 Finals観戦ガイド

八木葱

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10月2日から1ヵ月以上にわたって激戦が繰り広げられてきたLeague of Legend World Championship 2019(WCS)も残すところFinalsを残すのみとなった。ここまで生き残ったのは、LPL(中国リーグ)1位のFunPlus Phoenix(以下、FPX)とLEC(EUリーグ)1位のG2 Esports(以下、G2)。

ベスト8の決勝トーナメントが始まった時点では、中国が2チーム、EUが3チーム、韓国(LCK)が3チームだったが、準決勝でSK telecom T1(以下、SKT)が敗れたことにより2年連続でFinalsを前にLCKチームがすべて姿を消した。どうやら歴史は本当に大きく変わったようだ。

しかし、新たな歴史がどちらの方向へ進むかはまだ決定していない。

FPXとG2。対照的な2つのチームを見比べながら、11月10日のFinalsを待つ間の暇つぶしに付き合ってほしい。

激戦区中国で急成長を遂げたFunPlus Phoenix

WCS開幕前の時点で、FPXのことを「なんか急にでてきたチーム」だと感じた人も多いのではないだろうか。LPLを日常的に追っていない限り、それは無理のないことだ。FPXはまだ設立から2年も経っていない若いチームで、LPLへの初参戦は2018年シーズン。その年はSpring、Summerともに中位で終わっている。

激戦区LPLで1年目から中位に食い込むのはじゅうぶんに快挙だが、世界的な注目を集めていたとは言えないチームだった。

しかし、2019年に入るとFPXは怒涛の快進撃を始め、Springは13勝2敗で1位にジャンプアップ。プレイオフで敗れてMid-Season Invitational(MSI)への出場は叶わなかったが、Summerも14勝1敗の1位でシーズンを終え、今度はプレイオフも優勝して第1シードでWCSへ乗り込んできた。

その理由ははっきりしている。昨年末のMIDのDoinbとJungle(以下、JG)のTianの加入である。

残留したTOPのGimGoon、BOTのLwx、Crispに2人が加わったことで、FPXは一気に世界の頂点に手が届くチームに変貌した。

よって、FPXのスタイルは完全なMID&JGキャリー。聞く限りではコールや戦術のほとんどをDoinbが担当し、Tianと連携してゲームを動かして勝利する。

そしてMID&JGキャリーと言っても、Doinbが文字どおりのキャリー役=ダメージディーラーになるとは限らないのがこのプレイヤーの魅力的な、そして相手から見れば厄介なところだ。

ノーチラス、マルファイトのようなキャッチ力に秀でたタンクを使ったり、ランブルでレーンを押し込んだり、もちろんライズやケイルでレイトキャリーを担ったり。それでも共通なのは、Tianとのコンビネーションで両サイドレーンにプレッシャーを作る意識が強いこと。

相手チームはいくら両サイドで派手に勝っていても、Doinbがマップから消えた瞬間に引かざるを得ない。彼は、1人で盤面を支配する。

そして、Doinbを支えながら自らもキャリーに化けるのがTian。ベスト4に残ったチームのJGの中で唯一ダメージシェアが20%に乗っているTianは、こちらは文字どおりのキャリー系JG。

キヤナ、グラガスのような後半もダメージが出るチャンピオンをピックしつつ、序盤の存在感も高い。Doinbがダメージディーラー以外の選択肢を持てるのは、ADCのLwxとTianが終盤のキャリー役として信頼できるからこそである。

DoinbとTianがそれぞれに、時には2人同時にサイドレーンへ動いて制圧し、オブジェクトを力で奪い取るスタイルは強力だ。

SKTのKhanやIGのTheShyなどTOPキャリーが多い今大会で、FPXの戦い方はかなり異色である。G2はTOPの比重が小さいチームだが、それでもFPXのTOPの“捨て方”は際立っている。そしてその“捨てられる”TOPのGimGoonが、FPXの戦術を可能にするもう1人のキーマンと言えるだろう。

基本的に、彼は放置される。当然対面に勝てる状況はほとんどなく、わかりやすくキャリーする試合は少ない。

それでも彼が重要なのは、「放置されているのに負け幅を小さくする」のが上手いからだ。セミファイナルでも毎ゲームのようにIGのTheShyにサンドバッグにされながら、気づけばカムバックして試合にインパクトを与えていた。極めてコスパのいい、伝統的なタイプのTOPレーナーと言える。

春夏制覇を狙ってSKTも沈めたG2 Esports

G2 Esportsは、事実上の決勝戦とも言われたSKTとの準決勝を衝撃的な勝ち方で突破して決勝に進出した。

彼らはMSIの王者であり、そのときもSKTと準決勝で対戦して勝っているが、今回の勝利が持つ意味はまったく異なる。

MSIでは、ゲーム展開が遅いLCKでの戦いに慣れたSKTに、速いメタを押し付けて対応を強いる形で勝利した。その後もG2は速い展開を好み、Worlds 2019に出場しているチームの中でもレギュラーシーズン中の平均試合時間が際立って短いチームだ。今大会に入ってからもグループリーグ、そしてベスト8でのDWG戦は基本的にその戦い方の延長上で勝ってきた。

しかしSKTとの対戦で、彼らはまったく違う顔を見せた。

「マクロのLCK」の象徴であるSKTに対して、中盤以降の戦術的多様性と意思決定のスピード、正確性で完全に上回っての度重なる逆転勝利。あのSKTがゴールドリードを作ってもバロンを取ってもゲームをひっくり返される光景は、すべてのLoLファンにとって信じられないものだった。

あの戦術の引き出しが膨大なパターン練習の成果なのか(だとしたら、どれほど膨大な練習なのだろう)、アドリブ的なひらめきなのか(だとしたら、どれほど深いゲーム理解度なのだろう)はわからないが、現時点で世界最高のマクロを見せるチームの地位を確立したことは間違いない。

FPXが明確なDoinbキャリーのチームなのに対して、G2の中心人物はわかりづらい。

Caps、Perkzの両キャリーはもちろん存在感があるものの、JGのJankosもSUPのMikyxもいてほしい場所にいつもいるし、Wunderはタンクからキャリーまで幅広く使いこなすことで戦術を切り替えるスイッチになっている。

しかし、ことFinalsに関してはCapsとJankosのパフォーマンスが勝敗に直結しそうだ。Capsがレーンで勝利する、またはJankosがリバーや敵ジャングルを制圧できる状況になれば、いかなDoinbと言えどできることはない。そしてDoinbを制することがそのままFPXに勝利することになるのだとすれば、彼らはMIDに全力でリソースを注ぎ込むだろう。

予測できない2つの価値観のぶつかり合い

では、Finalsはどういう試合展開になるか……という予測を立てたいのだが、「まったくわからない」のが正直なところだ。お手上げである。

どちらも膨大なチャンピオンプールとフレックスピックを持ち、ドラフトもインゲームも多彩な選択肢を持っている。両チームともにトーナメントに入ってから新たなピック、戦術を見せているだけに、Finalsにも新しいものを用意してくる可能性が極めて高い。

それでも強いて展開の選択権を持っているのがどちらかと考えれば、G2に分があるように思う。

まず、SKT戦で見せた遅い展開と、それまで使ってきた速い展開の使い分けが可能である。加えてFPXはMIDの影響力を両サイドに波及させていく戦術が予想されるが、G2は真っ向勝負をしてもいいし、どちらかのサイドを徹底的に潰す手にも出られる。

相手の起点が見えている分、G2の方が若干対策の焦点を絞りやすいのではないかという予想だ。

個人的なイメージとしては、この手の「○○○が影響力を出し切れるか」という1つのレーンが重責を担う展開になると封じ込められるケースが多い気がするのだが、FPXはここまでむしろ状態を上げながら勝ち進んできている。Jankosも「FPXのドラフトは2年先をいってる」と警戒を通り越して驚嘆といった発言をしており、G2にもFPXの底はまだ見えていないようだ。

両チームのクリエイティビティによって的はずれになることを覚悟で、ここまでの戦い方から注目のチャンピオンを探すとすればこんな感じになるだろう。

  • TOP:レネクトン、ガングプランク、ケイル、ブラッドミア
  • JG:キヤナ、グラガス、エリス
  • MID:ライズ、ノーチラス(Doinb)
  • BOT:ザヤ、カイサ、ヤスオ、ヴァルス
  • SUP:ノーチラス、ラカン、タム・ケンチ

とりわけ厄介なのは、Doinbのノーチラスと、G2が3ポジションフレックスで出すヤスオか。特にDoinbのノーチラスはInvictus Gaming(以下、IG)戦でRookieのシンドラを完封しており、SUPでもTier1であることを考えればバンの価値はありそうだ。

パンテオン、アカリはバンの常連だが、ライズ、ヤスオ、キヤナ、ノーチラスあたりとの兼ね合いによってアカリがオープンになる場面はあるかもしれない。

1レーンの勝利を決定づけると言われるパンテオンは(出番がなさすぎて、本当にそこまで絶望的なのかは正直わからないのだが……)、どちらのチームもMIDを譲るリスクは犯しづらいのでレッドサイドのバンが続くと予想する。

そして勝敗の予想は、お互いのコンディションが100%ならばG2がわずかに優位と見る。SKT戦で見せた5人がそれぞれのミッションをこなしながら瞬間的に優先順位を切り替える動きはそれほど衝撃的だった。

しかし5人が有機的に判断するということは、Doinbという確固たる司令塔を持つFPXよりも、歯車がずれるリスクも大きい。逆にFPXのパフォーマンスは、Doinbの体力と精神力が持つ限り事故は起こらない。G2のシナジーにほんの少しでも翳りが出れば、Doinbが突破口を見出す可能性はじゅうぶんにある。

いずれにせよどちらもマップを広く使うチームなだけに、瞬間的な判断の連続になるだろう。レーニング終了時点での優位が勝利に直結しない、最後まで目が離せないゲームになりそうだ。

そしてゲームの外側に目を移すと、この2つのチームがFinalsでぶつかることへの興味はさらに増す。彼らが、実に対照的なチームだからだ。

中国のゲーム会社が保有する「企業チーム」であるFPXと、EUのスター選手だったOceloteが作った「個人チーム」であるG2。

東アジアらしい実直なクールさを持つFPXと、LoL界最強の“煽り屋”であるG2。

(ぜひ両チームのTwitterを見比べてほしい。)

そしてファイトマニアの聖地中国からやってきたFPXと、新メタが生まれる地ヨーロッパから来たG2。

つまりこれは2つのチームの戦いであると同時に、2つの価値観の戦いでもある。

間違いなく高速でスリリングな殴り合いが続くであろうBo5の果てに立っていたチームが、世界に自らの覇権を主張することになる。

決戦は11月10日、日本時間21:00。果たして空位の王座に手をかけるのはどちらか――。

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記者プロフィール
八木葱
eスポーツインタビュー&コラム。主にLeague of Legends、たまにストリートファイター、もっとたまにFPS、カードゲーム。

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