NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2決勝戦を振り返る:望月もちのイカがだろうか【第4回】

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「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」の本大会が大盛況で幕を閉じ、世に浸透されていく「スプラトゥーン2」。
今後は世界最大のゲーム見本市「E3」での世界大会「Splatoon 2 World Championship 2019」なども控えており、今後もスプラトゥーンの人気は続くと予想される。
筆者自身も育成枠の選手として参加させていただいた、NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2のe日本シリーズ決勝戦の横浜DeNAベイスターズ VS 福岡ソフトバンクホークスは、特に手に汗握る試合展開だった。多くの人に知ってほしい内容であったため、試合の要所がどういう場面だったのか、その後の展開にどう影響したかを解説していきたい。
スプラトゥーンをプレイする方や大会観戦する方に向けて、この記事を通じてお役に立てれば幸いだ。
本大会の模様は、以下の配信サイトにてアーカイブが配信中だ。
【BACK NUMBER】
1試合目:チョウザメ造船
04:53:45~:初動のぶつかり合いを制するベイスターズ
ホークスの強みは流れを掴んだときの爆発力と先述したが、その試合の流れを掴むために最も大事と言っても過言ではない要素は「初動の対面を勝ち切る」ことだ。
もちろん、チームによってスタイルはさまざまだが、基本的に抑え込まれている状況を打開することが難しいのがスプラトゥーンというゲーム。試合開始直後のニュートラルゲームでの対面を勝ち切ることで、塗りを広げて有利なポジションを確保することができ、試合全体の主導権を握ることができるため、多くのチームが初動から相手との対面を仕掛ける戦略を好む。
ホークスもその例に漏れず、初動はメンバー全員でガツガツと攻め上がり、試合を展開させていくことが得意なチームだ。
しかし、その猛攻に負けていないベイスターズ。ホークスよりも多い人数で対面を仕掛けることで人数有利な状況を常に維持し、さらに前線の戦闘をサポートするハイパープレッサーで、ホークスの砦であるダイナモン選手も倒し切り、あっという間に盤面を固めきることに成功。
NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 本大会2日目より引用(04:53:41)
この試合中、常にホークスが抑え込まれる試合展開になってしまったのは、この初動をベイスターズが制したからだろう。
04:55:08~:ミルクレープ♪選手の完璧すぎる防衛
しかし、挑むのは歴戦の覇者ホークス。テルミ選手を倒したことをきっかけにじわじわと打開を図る。やまみっちー選手が相手の足を取り、たいじ選手の素早い詰めで一気に2人を倒し、ホークス有利の状況に。しかし、ここのミルクレープ♪選手の防衛がすごい。
やまみっちー選手とたいじ選手が一直線上に重なり合った一瞬の隙を狙うショットで2人抜きを決めると、ダイナモン選手も攻撃されながらも射抜いてしまう。さらに、攻め込んでくるえとな選手にドラッグショット(スコープを覗いた状態で照準を引きずるように調整して撃つこと)を決めると、やまみっちー選手も再び倒し、ピンチを乗り越えるどころか、ベイスターズ有利の状況を作り上げてしまう。
僕には「オフライン環境のチャージャーは繊細なエイムが求められるため、本来の実力を発揮しづらい」という持論があり、実際にチャージャーを編成に加えたチームがこれまでの公式大会で勝ち上がったことも少ないのだが、これにはさすがに驚かされてしまった。ここまで完璧なムーブを本番の決勝の舞台で決めてしまうのが強者というものなのだろうか。
NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 本大会2日目より引用(04:54:57)
04:56:00~:ホークスの粘り強さとベイスターズの判断力
その後も有利な状況を維持し続けるベイスターズ。しかし、ホークスの粘り強さがすごかった。
後衛であるダイナモン選手が「イカスフィア」で突っ込むと、その攻めに合わせたやまみっちー選手の「マルチミサイル」でベイスターズを一瞬押し込む。さらにたいじ選手が浮足立った相手を強引に2人倒すと、えとな選手がさらに高台からの攻撃を仕掛け、一気にミルクレープ♪選手以外の3人を倒し切ることに成功。このワンチャンスを掴む力もホークスの持ち味。今度こそベイスターズは絶体絶命のピンチを迎える。
NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 本大会2日目より引用(04:56:10)
ここで残されたミルクレープ♪選手。えとな選手との対面を避けつつ、なんとホークス陣地に単身で抜け、塗ることだけに専念する動きを見せる。
ホークス側がワンチャンスを掴むために攻め込んでくるということを予測し、自分がフリーになることを理解したのか、咄嗟の判断なのかは分からないが、結果的には1.2%差でベイスターズの勝利。ミルクレープ♪選手の瞬間の判断が、ホークスの粘りを上回った。
NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 本大会2日目より引用(04:56:24)
2試合目:バッテラストリート
04:59:46~、05:10:48~:前の試合から得た情報を活かす両チーム
1試合目を落としたホークスだが、負けを次に繋げられるのも強者ならではの強さと言えるだろう。2試合目のバッテラストリートでは初動からベイスターズを圧倒し、試合を優位に進める。しかしその後、ベイスターズ側が打開のキッカケを掴んだ場面で、機材トラブルが発生。試合は中断され振り出しに戻る。
そして迎えた再試合。なんとベイスターズがホークスをオールダウン(4人全員を同じタイミングで倒しきること)させた。オフライン大会の経験はないはずのベイスターズだが、機材トラブルを挟んでの再試合ではあるが、得た情報をその場で(しかもオフライン大会の決勝戦で)活かすことができているのは、素晴らしい対応力だと思う。特に会場では気持ちが上がってしまい、冷静になることが難しい場であっただけに、とてもじゃないがオフライン大会の経験がないようには見えなかった。
この試合も序盤のリードを活かし、ベイスターズが勝利。機材トラブルはあくまでも機材の問題であって、選手にはなんら非はない。特に中断前は、試合の残り時間が1分半ほどで、ベイスターズ側が2人を倒し打開し始めたという状況であり、どちらに有利とも言えない場面であった。もちろん影響がまったくないというわけではないが、公平なジャッジで決まった判断だと思うし、1人の選手として、読者の方には理解していただきたいと思う。
3試合目:ガンガゼ野外音楽堂
05:17:35~:全観客が沸いたやまみっちー選手のブキチェンジ
後がないホークス、ここでなんとやまみっちー選手が、この大会に向けて仕上げたであろう「スプラスピナー」から、以前のメインブキ「スプラマニューバーベッチュー」へとブキを変更した。
基本的に大会の場において、編成や戦略を練習段階で決めたものから変えるということはなく、特に塗り性能が高く味方へのカバーリングが得意な「スプラスピナー」から、最前線で相手を倒すことを得意とする「スプラマニューバーベッチュー」への変更は、これまでの大会の決勝では考えられない、あまりにも大胆なものであった。
もちろん、戦略面での狙いがあって変更したのだとは思うが、これには観客や実況解説、そして控え室で試合を観戦していた他の選手も大興奮。僕もこの土壇場でブキを変更する勇気というか、勝利に向けての覚悟のようなものに胸を打たれた。
NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 本大会2日目より引用(05:18:04)
5:20:05~:一瞬の隙を見逃さないベイスターズがホークスを追い詰める
盤面はホークス有利で迎えているものの、少しでも気を抜けば一瞬で打開されてしまう、そんな爆発力を持つベイスターズ。普段は最前線で戦うやまみっちー選手が、ラインを下げて「キューバンボム」を投げて様子を見る動きが多かったことから、いっさいの余裕がなかったことがうかがえる。
ここでダイナモン選手がしめぴぃ選手を倒し、「ハイパープレッサー」を発動させているミルクレープ♪選手にプレッシャーをかける。しかしテルミ選手が素早くカバーリングに入り、自衛のために「イカスフィア」を発動させられてしまう。
一時的に無敵状態になれるスペシャルウェポンを使い切らされてしまい、いよいよその身で受け止めるしかなくなったホークス。
やまみっちー選手とえとな選手で、「スプラスピナー」を持つしめぴぃ選手を落とすことに成功するものの、ここで立ちふさがるのがやはりミルクレープ♪選手。やまみっちー選手を射抜いた直後、「イカスフィア」を持っているえとな選手を発動させる間もなく打ち抜くと、たいじ選手を取り囲み、倒すことに成功する。
ダイナモン選手が1人残されてしまい、攻め込んでくるけいとぅーん選手をなんとか止めようとするが、対面に負けてしまいオールダウン。少し焦りがあったかもしれない。
試合時間は残り5秒、前線に復帰する時間はないため、間に合わないことを祈るだけ。ベイスターズは最大効率で塗りを広げ、試合終了!
NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 本大会2日目より引用(05:20:43)
結果はたった17ポイント(0.8%)差で、ホークスの勝利。試合中盤で稼いだ貯金が多かった分、わずかな差でホークスが上回る結果に。僕は過去にここまで絶体絶命な状況に追い込まれたホークスを見たことがなかったため、改めてベイスターズというチームの恐ろしさを感じずにいられなかった。
4試合目:マンタマリア号
05:24:38~:感覚を取り戻すのが早いやまみっちー選手
この試合も「スプラマニューバーベッチュー」で挑むやまみっちー選手。
まずは初動、最前線でけいとぅーん選手の「バケットスロッシャーデコ」との対面。攻撃を確認すると素早くスライドで振り切り撃ち勝つことに成功。マニューバー使いであれば珍しいプレイングというわけではないのだが、ブキを変更してからたったの2試合で、本来のブキの持ち味を活かすことができる、やまみっちー選手のポテンシャルの高さがうかがえるワンシーンだった。
試合の流れはひたすらに五分。お互いに攻めの手を止めることなく撃ち合い続けるが、ノーリスクで相手を攻撃することのできる「ハイパープレッサー」を持っているベイスターズ側がジリジリと前線を押し上げていく。
NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 本大会2日目より引用(05:24:40)
05:26:40~:たいじ選手の勝負強い潜伏が光るが……
ここで勝負を仕掛けるホークス。えとな選手が「イカスフィア」で相手陣地に抜けようとするが、テルミ選手が見逃さず食い止めてしまう。しかし、「えとな選手の注目が集まった一瞬の隙」に、たいじ選手が相手の足元の壁に張り付いて潜伏を決め、テルミ選手を倒すと、さらに前線を押し上げて、しめぴぃ選手を狙い撃ちに。
しかし、ギリギリで下がる判断が間に合ったしめぴぃ選手は倒されることなく、カウンターの「クイックボム」でたいじ選手を仕留めてしまった。曲射(障害物を上から超えるように、相手に攻撃を当てること)がほぼ完璧に決まっていたので、あとコンマ数秒でも判断が遅れていたなら、試合展開はまったく違うものになっていただろう。
やまみっちー選手も「イカスフィア」を所持したまま攻めるものの、テルミ選手がベイスターズ陣地に仕掛けた「トラップ」により位置が特定されてしまいダウン。残されたダイナモン選手が防衛を図るものの、移動をしようと視線を外した隙を狙ったけいとぅーん選手の攻撃により、「イカスフィア」が間に合うことなく倒されてしまう。
NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 本大会2日目より引用(05:26:40)
そのままの勢いで押し切り、ベイスターズが勝利。NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2優勝の座を射止めた。
これまで数多くの激戦を乗り越え、スプラトゥーン界の王者として君臨し続けてきたGGBOYZ。負ける姿が想像できないと語る選手も多かったが、ハイパービームがついにその壁を打ち破り、歴史にその名を刻むこととなった。
イカがだろうか。今回はNPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2の決勝戦の感想戦をさせていただいた。今後は冒頭でも書いた通り、E3での世界大会Splatoon 2 World Championship 2019に、GGBOYZが「第4回スプラトゥーン甲子園」の優勝チームとして参加することが決まっている。
プレイヤーとしてもライターとしても、これからのスプラトゥーン2の盛り上がりが非常に楽しみである。少しでもその発展に携われるのであれば光栄に思う。
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