やっぱり本気でゲームをプレイしてる姿がかっこいいんだよね:なぞべーむトーク【Vol.2】

みなさんはesportsの価値について考えたことはあるでしょうか。面白い、楽しい、熱狂が生まれるといった素朴な価値はもちろん大切ですが、これからもっと多くの人にesports(自分の好きなタイトル!)に触れてみてもらいたいと思うなら、最初に伝えるきっかけとしては少し物足りません。
いったいesportsの価値って何なのでしょうか。視点や立場、時代によってさまざまな答えがあるでしょう。一観戦者である僕の今の答えは「どんな人でも本気でゲームをプレイできて、しかもかっこよくなれる」ということです。
この記事が目についた読者のみなさんにも、ぜひesportsの価値について考えてみてもらいたいと思っています。ということで、今回は僕が上記の価値を改めて認識した出来事についてお話ししましょう。そして、なぜesportsの価値について考えることが大切なのかを解説します。
勝ち負けに涙する
1月14日、僕はeQリーグの開幕戦を観に行きました。esportsと女性芸能人(アイドル、お笑い芸人)をかけ合わせた大会で、「エンタメ」が強調されており、どういう風にそれを演出するのかに興味がありました。
2018年にプレ大会が行われていて、今大会も同様にイジリー岡田さんがMCに。eQリーグはプロゲーマーやトッププレイヤーがプライドを懸けて勝負する場ではなく、女性芸能人がわいわいゲームをプレイして観客を楽しませることが趣旨の大会です。試合の合間にチェキタイムがあったり、イジリー岡田さんのトークが炸裂したりしていました。
開幕からそういう雰囲気ですから、僕はいつも観ているプロリーグのような大会とは違う心持ちで眺めていました。実際、選手のプレイは拙いと言っていいほどの水準で、その中で多少は練習してきた選手と、あまり練習してきていないであろう選手がいました。
トッププレイヤー同士の試合とは比べるべくもありません。ですが、下手なプレイをしてもイリジー岡田さんが盛り上げてくれて、そこに笑いが生まれる。そういうエンタメ感が狙いです。
ところが、あるチームだけ漂わせている雰囲気が違いました。スタダGG!です。彼女たちは揃いのコスチュームを着ていていかにもアイドル然としていましたが、実はけっこう前からesportsに取り組んでいるグループ。そもそも「女子プロeスポーツ選手育成プログラム」と銘打って登場してきました。
eQリーグで採用されたタイトルは、「OVERCOOKED 2」「スーパーボンバーマンR」「太鼓の達人 セッションでドドンがドン!」というパーティー対戦ゲームばかりですが、スタダGG!のメンバーは「Overwatch」を始め、世界的に人気のesportsタイトルを日頃からプレイし、実況配信しています。
そんな彼女たちにとって、eQリーグは見せ場の1つ。「OVERCOOKED 2」で試合に臨んだ楠紗友里さんと服部彩加さんは真剣な表情でプレイし、圧倒的と言っていい結果で勝利を収めました。そして、まだDay 1の1回戦だというのに感極まって涙を流してしまったのです。
これは、彼女たちがこの試合にどれほどの想いを込めていたか、どれだけの練習をしてきたかということの表れです。そういう、本気でゲームに向き合っている姿に「かっこいいな」と感じ、畏敬の念を覚えました。
ほかにも試合後に泣いてしまった選手はいましたし、負けて悔しがる選手もいました。僕はほかの人たちのことを知らなかったので、スタダGG!のときよりは胸打つものはありませんでしたが、いずれにせよ、このような「エンタメ重視」の大会であろうと、プレイスキルが低かろうと、真剣に戦う姿は誰でもかっこいいのです(選手は普段から練習している姿を見せることが大事なのかもしれません)。
このように、僕みたいなesports好きの観客からすれば、選手が本気をぶつけ合ってこそのesportsなわけです。ですから、僕はeQリーグのターゲットではありません。でも、スタダGGのファンになりましたし、eQリーグはプロリーグとはまた違う方向を向いているということで、これはこれで楽しみにしておきましょう(アイドルの成長を応援するのがファンの楽しみだとすれば、esportsとの相性はとても良いと思うので本気で取り組んでみると面白そう)。
真剣にゲームをプレイしていい舞台
僕がesportsをそんな風に楽しんでいる一方で、世の中には「たかがゲーム」と言う人がいるようです。自分でゲームをプレイしているような人でも、ゲームをただの時間潰しのくだらないものと評することがあります。それはそれで1つの見方であり、その人にとってのゲームの価値です。
逆に、ゲームに至上の価値を見出す人もいます。「ゲームは人生」「ゲームだから熱くなれる」などなど、これもまたその人にとってのゲームの価値でしょう。おそらく、みなさんはこちらに近しい価値を感じているはず。
ゲームには真剣にプレイする価値があると考えている人も多いと思います。休日を全部ゲームに費やすなんてのはまさにそうです。esportsは、おそらくそういう文脈の上――ただひたすら目の前の敵を倒したいという気持ちの上に成り立ってきたものです。だから必然的に、esportsの試合には真剣勝負という意味合いが含まれているのではないでしょうか。
ここでもう1つ、僕の脳味噌に刻み残されている、あるシーンについて紹介させてください。それは、「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」(以下、3rd)を最も長くプレイし最前線で活躍し続けてきたプレイヤーの1人であるメスターさんが、2012年にストリートファイター25周年記念大会に出場した際のことです。
メスターさんはちょっとした情報の行き違いで日本予選ではなくロサンゼルス予選に出場してしまったのですが、見事に優勝して決勝大会(カリフォルニア)の出場権を勝ち取りました。この予選のためにかなり前から休暇を取り、「3rd」だけに専念する環境を整えていたそうです。
予選優勝後、メスターさんは諸事情あって仕事を退職。形としては「3rd」に打ち込める状況ができました。その結果、決勝大会はこれまで「3rd」に想像を絶するほどの時間を費やしてきた男が、これからの人生さえも注ぎ込む心意気で臨むというお膳立てが整ったのです。
いざ本番、メスターさんはルーザーズに落ちてしまいますが、なんとか喰らいついてルーザーズセミファイナルに進出。そこで立ちはだかったのが、当時さまざまなタイトルで栄光の座を勝ち取っていたときどさんです。「3rd」1本を貫いてきたメスターさんと、ときどさんの一戦……!
メスターさんは敗れました。試合自体もすさまじかったのですが、なにより決着した直後のぐったり放心した姿は大昇天とも称されるほどで、観る者を圧倒し絶句させる迫力がありました。その生き様は彼が自身のすべてを懸けて戦った証です。ゲームに本気になるって、こういうことなんだと。
そこにかっこよさ、つまりesportsなるものの価値があります。僕なりに表現するとしたら、esportsとは真剣にゲームをプレイしていい舞台のことなのです。esportsという言葉を使うことで彼らの勝負を貶めていると受け止める人もいるかもしれませんが、少なくとも僕としては最大級の称賛を込めています。
僕の今のesportsに関する活動は、そういう価値をより多くの人に届けたいという面が大きいです。
esportsの価値を考えることの価値
スタダGG!とメスターさんを並べて語ることに違和感を持つ人はいるでしょう。eQリーグをesportsと呼ぶことを憚る人もいると思います。でも、「本気でゲームをプレイする人はかっこいい」というesportsが持つ価値の1つは共通している、と僕は考えています(eQリーグ全体に当てはまるとは言いませんが)。
共通する価値があるということは、その価値を通して別々の物事を比較できるということ。言いかえると、一見すると表面的に似ているだけのような物事や全然関係なさそうな物事を比べて、なぜそこに共通の価値を見出しうるのかを考察できるということです。その理由がわかれば、双方のいいところを組み合わせて新しい何かを作り出せるかもしれません。これが「esportsの価値を考えること」の価値です。
また当然、esportsが好きな人、esportsに携わる人はその価値を自覚しておく必要があります。でなければ、自分がどうして熱中しているのかを説明できません。誰かにesportsをおすすめしたいとき、説得・説明したいとき、その価値を答えられなければ信用されませんよね。「なんでesportsが好きなの?」「なんでesportsを仕事にしたの?」と訊かれて、みなさんは迷いなく答えられるでしょうか。
ある人は「新しい分野なので最前線の動きが目まぐるしく、自分たちの行動で市場が作られていくのが面白い」と答えてくれました。またある人は「大会で自分がどれほどトップに近づけたかを試せる」と答えてくれました。これらもesportsの価値であり、心動かされる人もいることでしょう。
ほかにも例えば、このウェルプレイドジャーナルを運営しているWellplayedという会社は、esportsに「ゲームを長くプレイし続ける理由になる」という価値を見出しています。これはゲーム会社にとって重要な価値であり、同社はその価値を実現するために数々の仕事をこなしています。
「たかがゲーム」と考える人がいるから面白い
最後に、僕がなぜ「どんな人でも本気でゲームをプレイできて、しかもかっこよくなれる」ということをesportsの価値だと考えるのかを説明しておきます。それは、「たかがゲーム」と考える人がいるからです。たかがゲームに人生の多くの時間を費やして、たかがゲームの1試合に自分のすべてを懸ける。観ているほうはそれに感情を揺り動かされてしまう。そのことに価値を感じます。
いわば、これまで日本で醸成されてきたと言われる「アンチゲームの世界観」に対するアンチテーゼです。アンチテーゼが面白いのは支配的なテーゼがあるからこそ。両者のせめぎ合いが面白いわけです(これは物語の基本構造でもあります)。esportsは本気でゲームに向き合っていい、真剣勝負に一喜一憂していい場であると先ほど書きましたが、これもアンチゲームの世界観に対してのものです。だから、「たかがゲーム」と言ってくれる人がいるほうが面白い。
もし日本人全員が、あるいは全人類が「ゲームは素晴らしい」「esportsは最高だ」と言い始めたらどうなるでしょうか。たぶん、そこにまたアンチテーゼが生まれて盛り上がっていくはずです(ゲームは適当にプレイしてこそ本質、みたいな)。価値はいつも相対的です。何かに本気になる姿がかっこいいと思う人もいれば、本気になることは滑稽だと見做す人もいます。テーゼとアンチテーゼは相補的にぐるぐる巡っています。
だからこそ、繰り返しますが、esportsを大好きなみなさんがesportsの価値について自覚的でなければなりません。みなさんはesportsにどんな価値を見出していますか?
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