eスポーツって「社会」に認められる必要あるの?:なぞべーむトーク【Vol.5】

謎部えむ

令和元年! 気持ちを新たによろしくお願いします。

今回は平成時代から今なおTwitterやウェブメディアを賑わすeスポーツ七不思議の1つ、「eスポーツは社会に認められていない問題」について議論していきましょう。

ちなみにeスポーツ七不思議、みなさんはぱっと言えるでしょうか。これは何度も何度も俎上に載せられながら、なぜか永遠に解決・解消されない問題群のことです(たぶん呪いがかけられていますね)。僕が思いつく七不思議は以下のとおり。

  • 無限ループするeスポーツ元年問題
  • 日本はeスポーツ後進国問題
  • eスポーツはスポーツか問題
  • eスポーツを盛り上げたい問題
  • eスポーツは社会に認められていない問題
  • プロゲーマーの定義問題
  • プロゲーマーのセカンドキャリア問題

ひと昔前はここに「eスポーツは儲からない問題」があったんですが、僕としてはひとまず議論を決着させたので上記に入れていません(「esportsは儲からないのか? 事業モデルから考える」参照)。いずれも今後ことあるごとに再燃しそうなものの、この連載で取り上げるのは「eスポーツは社会に認められていない問題」だけです。ほかの問題はいつかどこかで別の機会があれば。

「社会」のほうがeスポーツを認めざるをえなくなる?

さて、この問題を解決するのは重要です。なぜなら、周囲や世間(すなわち「社会」)からの視線と圧力のせいで望むようなeスポーツ活動ができていない人たちがいるからです。

解決のための議論は大きく二方向が考えられるでしょう。1つはeスポーツが「社会」に認められるように活動していこうと論じる方向、もう1つは「社会」に認められなくても大丈夫だと論じる方向です。

僕の結論を言うと、eスポーツが「社会」に認められることに大きなメリットはあるものの、そのことを気にしすぎても意味がありません。大事なことはeスポーツ圏の経済活動を活発化させること。そうすれば「社会」のほうがeスポーツを認めざるをえなくなるはずです。実際に海外ではすでにそういう風潮になっていますね。

「社会」に認められるとはどういうことか

それでは、この結論を導くための議論を進めていきましょう。まず、「社会」に認められることがどういう状態を指すのかを定義する必要があります。何でもそうです、現状や目指すべき状態を定義しなければ、議論は空回りするだけです。

ここではそれを「日本国民の過半数がeスポーツにポジティブなイメージを持つこと」とするのがとりあえず妥当でしょう。eスポーツを推奨したり、いいものだと後押ししたりなど、eスポーツにポジティブなイメージを持つ人が過半数を超えた状態が、eスポーツが「社会」に認められた状態だということになります。

※ここで注意すべきことがあります。例えば日本の人口を100人とした場合、eスポーツが「社会」に認められるにはポジティブなイメージを持つ人が51人、ネガティブなイメージを持つ人が49人になればいいことになります。しかし、それはネガティブなイメージをいっさい持たないポジティブ100%な人が51人と、ポジティブなイメージをいっさい持たないネガティブ100%な人が49人になればいいということだけではありません。100人のそれぞれがポジティブ50%超過、ネガティブ50%未満なイメージを持っていてもいいんです(もちろん半々やほかの割合でもかまいませんが、全員を平均してポジティブ50%超過、ネガティブ50%未満である必要があります)。人間の心理は複雑ですから、こちらのほうが自然でしょう。とはいえ、わかりやすさのために下記では心理ではなく人数で表現します。

20代から60代ではすでにポジティブなイメージが優勢

eスポーツが「社会」に認められていないと嘆く人がいるということは、現状は日本の過半数の人がeスポーツにネガティブなイメージを持っているということになります。だとすると、それが事実なのかを検証しなければなりません。もしこれが正しくないとしたら、eスポーツはすでに「社会」に認められていることになりますから!

参照するのはNTTデータ経営研究所が2019年2月末に発表した「eスポーツへの興味関心・eスポーツ系ゲーム実施状況に関する調査」です。この調査は20代から60代の男女1,118人を対象にしたもので、年代と性別はバランスのいい割合になっています。「eスポーツに対して持っている印象」という設問の結果は下図です。

NTTデータ経営研究所「eスポーツへの興味関心・eスポーツ系ゲーム実施状況に関する調査」より

このグラフの割合を2019年4月の日本の男女別人口に掛け合わせてみると、ポジティブなイメージを持つ人がネガティブなイメージを持つ人よりも多いことがわかりました。なんだって!?

要するに、20代から60代に限定すれば、eスポーツはすでにポジティブなイメージを持っている人が多勢だということになります。また、0代~10代、70代以降も合算してみても、ポジティブなイメージを持つ人のほうが多いのです(ポジティブ:ネガティブの割合はそれぞれ年代の近しい20代と60代の数値を利用しました)。まさに驚きの結果です。

「社会」ではなく高齢層に認められていない

しかしながら、どちらにも当てはまらない人(20代男性で言うところの8.5%)を含めると、「ポジティブなイメージを持つ人の数」は「ネガティブなイメージを持つ人+どちらにも当てはまらない人の数」を下回ります。

つまり、今の日本ではeスポーツにポジティブなイメージを持つ人はネガティブなイメージを持つ人よりも多いけれど、国民全体の過半数には達していないと言うことができます。ただ、これをもってeスポーツが「社会」に認められていないと断言するのは微妙なところです(ポジティブなイメージを持つ人のほうが多いのに!)。

では、このもにょっとした感じを解消するにはどうすればいいのでしょうか。その答えはグラフにあります。調査結果でも述べられているように、グラフからは高齢層ほどeスポーツにネガティブなイメージを持っていることがわかります。そう、実は最初の問題設定が間違っていたようです。より適切には、eスポーツが高齢層に認められていないことを問題にしなければなりませんでした。

ちなみに、高齢層は40代から50代以降の層としておきます(男性40代はポジティブ多勢、女性40代はネガティブ多勢のため、ちょっと中途半端な書き方です。若年層はそれ以下の層ということです)。

※上掲の調査では「スポーツの習慣とeスポーツへの印象」と「子どもがeスポーツをやることに関する意識」という設問もあり、いずれもポジティブな結果が出ています。

eスポーツはなぜ高齢層に認められないといけないのか

最初から「eスポーツは高齢層に認められていない問題」にしておけという話だったんですが、僕自身が見かけるのが「社会」や「世間」という言葉だったので、そこから検証してみました。遠回りでしたが、解くべき問題を明らかにできたのでよしとしましょう。よく言われる「社会」も「世間」も、実は高齢層のことだったと。

この高齢層とは具体的にどういう人たちのことでしょうか。おそらく、権力や財力など社会的に影響力の大きい人たちのことです。親、先生、企業の決裁者、政治家や公務員といった顔ぶれでしょうか。とすると、この人たちの理解を増やしていかないといけないことになります。

親や先生はeスポーツ活動をする10代、20代にとって重要な支援者やスポンサーになりうる存在なので、彼らの理解が得られれば若年層がよりeスポーツに取り組みやすくなります。

決裁者や政治家は、eスポーツ業界に投資してくれるかもしれない存在のため、協力体制を築ければ大変に心強いと言えます。

このように、高齢層にeスポーツを認めてもらうことには大きなメリットがあります。では、どうすれば認めてもらえるようになるのでしょうか。

eスポーツで経済が動くようになれば万事OK

親や先生はミクロ(身近)な対象です。直接的にコミュニケーションできる人たちなので、重要なのはeスポーツ活動をしたい人が言葉や実績などで説得することです。理解ある大人が援護射撃するのもありです。最も身近な親や先生すら説得できないのにeスポーツ活動(部活の結成やプロゲーマーを目指すなど)が可能だとは思えません。

そもそも親や先生の許可・後押しがないと取り組めない程度の気持ちしかないなら、最初からやるべきではありません。もし学生がプロゲーマーやeスポーツ業界を目指したいとして、誰かにお許しをもらわないと追えない夢とはいったい?

決裁者や政治家はマクロな対象です。この人たちを動かすのは説得よりも経済的要因です。要するに、eスポーツで経済活動が活発になるなら、彼らは必然的にeスポーツを認めていくでしょう(政治も経済で動いています)。

マクロな対象がポジティブなイメージを持つようになれば、ミクロな対象もその風潮に従って態度を変えていくのが通例です。小説も映画も野球もそうでした。

そんなわけで、eスポーツで儲かるようにしていけば、高齢層も「社会」もeスポーツを認めてくれるようになります。そして現在、ありがたいことに無数の人の尽力が功を奏して国内のeスポーツ市場はそういう方向に大きく動き始めています。

※ここで言う「経済活動」「経済が動く」「儲かる」はもちろん法と倫理と礼節を守った上のもので、かつお金だけでなく、感謝などの気持ちや言葉のやり取り、贈与、見せびらかしといった社会的な交換活動全般を指します。

高齢層への啓蒙は効果的ではない

基本的に、言葉やテキストで他人を心変わりさせるのは天候を操るようなものです。特に高齢層は長年培ってきた価値観を持っていますし、それを変えるような啓蒙はとても難しいでしょう。

また、物事に対する価値観というのはその対象に初めて出くわしたときの第一印象によってほぼ固定化されてしまいます。かつてゲームが悪者として指差された時代を生きた人にとって、eスポーツは受け入れがたいものなのだと思います。

※人間の脳は強い可塑性を持っていますが、原則としては節約的でヒューリスティックに思考・判断するようにできています。

だからこそ、eスポーツで儲かるようにすることが「社会」を動かすために大切です。身も蓋もありませんが、社会的な盛り上がりはたいていの場合、それで儲かるかどうかによっています(恵方巻き、ハロウィン、暗号通貨、あるいは種々の法律……)。

そして儲かるのならば、別に「社会」に認めてもらおうとする必要はなく、「社会」が勝手に認めてくれます。それでも高齢層が認めてくれないとしても、パラダイムシフトとは昔からそういうものです。

新しいパラダイム(価値観、考え方、理論)は前の世代を説得したり啓蒙したりすることではなく、前の世代がいなくなることで受け入れられていくのです。これは量子論の創始者マックス・プランクが言及し、科学史家のトーマス・クーンが引用して強調した言葉です。

「社会」が認めてくれないと儲けることもできないのでは、という声が聞こえてきます。決裁者の心を動かすには特に。しかしながら幸いなことに、多くの人の貢献もあって、eスポーツのポテンシャルを信じて投資してくれる大企業が増えています。たいていの大企業の決裁者は実はとても柔軟な考え方を持っていて、儲かりそうな雰囲気に敏感です。そして、常に若年層とコミュニケーションするための新しい手段を探しています。

そこで欠かせないのは、eスポーツを大好きな僕らがムーブメントを作り、そしてなによりスポンサーに対してお金を使い、感謝することです。実際に儲からなければ企業は撤退してしまうので、ぜひeスポーツが儲かることを僕たちの手で実証していきましょう。

高校生がなけなしのお金で大会チケットを買うeスポーツという世界――そんな物語って最強じゃないですか?

もちろん、経済的な影響力が小さいまま市場が成長しなくても、当事者たちが楽しめる世界があり続けるならそれでいいと思います。でも、多数の若年層が夢中になっている領域は、ほとんど必ず儲かるようになっていきます。TikTokしかり、企業にとってそこは宝の山ですからね。

若年層をもっと巻き込む

そのように考えると、また別の方向性も見えてきます。先のグラフを見ればわかるように、eスポーツに親和性の高い若年層ですらまだまだネガティブなイメージを持っていますし、何のイメージも湧かない人が26%もいます。こういった人たちの理解を得ることは、eスポーツの将来にとって非常に大きな力になると言えるのではないでしょうか。特に、今後「社会」でより影響力を持つようになる若年層にポジティブなイメージを持ってもらえるようにすることは大切です。

若年層や具体的なイメージを持っていない人たち対する啓蒙は、高齢層を説得することに比べればまだ成功の確率が高いと思います。それにはポジティブ優勢な僕らが行動するしかありません。SNSでeスポーツの楽しそうな雰囲気を伝えるだけでも充分です。そういう空気感を醸成することで、初めてeスポーツに接する人、なんとなく言葉だけでeスポーツを知っている人に対してよい印象を与えることができるでしょう。若年層がもっとeスポーツに夢中になれば、決裁者と政治家は放っておけなくなります。ローマ帝国におけるキリスト教のように。

逆に、eスポーツに興味を持って大会番組を観た人がいたとして、そのチャット欄で乱痴気騒ぎが起きていたらどうでしょうか。eスポーツへの印象はそういった些細なところからも生じています(チャット欄は些細どころではないですが)。個々人の意識はもちろんとして、大会運営者のよき設計も欠かせません。

ということで、ここまで「eスポーツは社会(高齢層)に認められていない問題」について議論してきました。皆さんもぜひeスポーツ七不思議について、あるいは自分で問題設定して、いろいろと考えてみてください。議論の手順はこの記事を真似すれば大丈夫でしょう。

最後に昔話をすると……僕はもともとBL小説を書いたことが執筆活動の原点なのですが(正しくはやおい小説)、当時のBLは本当にジョン・ウィックもビビるほどに「社会」の全方向から蔑まれていて四面楚歌な状況でした。BLが好きだということすら公言できませんでした、ましてや男性ならなおさら!

それでも愛好家、いわゆる腐女子・腐男子たちは屈せず、好きなコンテンツのために惜しみなくお金と愛情を捧げたのです。「社会」に認められたくてやっていたわけではなく、ただただ、好きだったから。

すると、コンテンツの制作側が「BLは儲かるのでは」と少しずつ気づいていきました。そして、多くの(BLを志向しない)コンテンツでもイケメンキャラが増え、イケメンのシャワーシーンやイケメン同士がキャッキャウフフするシーンが盛り込まれるようになりました。

それに対してアンチBLの人たちは「腐向けだからクソ」「腐女子に媚びて作品がダメになった」などと囃し立てたわけですが、現在のBLがその包囲網を突破して一大サブカルチャーになったのは誰もが知るとおりです。

たかだか数年で「社会」の価値観を変えるのは無理ですが、なにやらeスポーツが好きな人たちは非常に性急で、この数年で受け入れられないとeスポーツなるものが消滅するといった空気さえ醸し出しています。

単純に比較することもできないのでBLを教訓にしようとは言いませんが、BLをテーマにしたコンテンツが(色物ではなく)日の目を見ていて、なおかつeスポーツがBLよりはるかに「認められている」現状に鑑みれば、eスポーツの未来もちょっとは楽観的に考えてもいいのではないでしょうか。

なにせ、とんでもない熱量で活動している人がたくさんいる業界ですからね。


ところで、5月31日(予定)に「1億3000万人のためのeスポーツ入門」(NTT出版)が発売となります。僕が寄稿した「第2章 eスポーツ今昔物語」では2018年にeスポーツ業界で何が起きたのかをトピックごとに詳しく紹介し、これまでの歴史をざっと紹介しています。eスポーツシーンの構造についてもいろんな視点で解説したので、業界を理解する土台の知識が得られると思います。気になったらチェックしてみてください!

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記者プロフィール
謎部えむ
2016年から個人でesports業界向けのメディアとして「happy esports」を運営。業界分析やマーケティング手法、関係者インタビューなどをテーマに記事を書いている。esportsプレイ遍歴はまばらだが、大会はほとんどのタイトルを観戦。
【happy esports】https://note.mu/nasobem
【Twitter】https://twitter.com/Nasobem_W

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