選手ありきのesports配信を行う各社の工夫【TGS2018】

WPJ編集部
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2018年の東京ゲームショウ(以下、TGS2018)では、esportsが1つのビッグテーマとして開催され、e-Sports X(イースポーツクロス)でのイベントに加え、各社のブースでもプロ選手との対戦イベントやステージ登壇が行われた。

TGS2018で発表された情報では、41.1%の方が「esports」を認知しているというデータが公表されたが、その中身についてまだまだ理解が少ないといえる。

ひと口に「esports」といっても、1人のプレイヤーとして参加して楽しむ、現場に出向いて楽しむ、オンライン観戦で楽しむなど多種多様なスタイルがある。この記事では、オーディエンスへの伝え方にフォーカスし、TGS2018で集めた情報を多角的にまとめ、現状と展望を探る。

秘密主義のTwitchが明かした日次平均視聴分数は100分にまで成長

日本展開が本格化しておよそ1年が経過したTwitch。ゲームストリーミングサービスとしてグローバルではトップポジションを有しているTwitchでは、2つの大きなKPI(指標)を設定しており、いずれも2018年に入って大きな成長を遂げている。彼らがベンチマークしている2つのKPIとは、「日次平均視聴分数」と「月次平均視聴分数」だ。

日本において前者は、現在100分程度にまで伸びているという。後者についての具体的は数字は明らかにされていないが、いずれの数値もワールドワイドで見た場合での、トップ3レイヤーに入る成長率だという。

秘密主義で知られる同社が、このような数字を公開することはまれだ。これには同社の日本市場への関心の深さだけではなく、日本のデベロッパーを巻き込んでさらなる成長を加速させたい狙いがある。言葉を変えると、オンラインでesportsを中心としたゲーム配信を楽しむオーディエンスの熱量に確かな手応えを感じているという捉え方ができる。

TwitchのSenior Vice Presidentのマイケルアラゴン氏

ご存知のとおり、TwitchはEVO2018のライブストリーミングを行った。日本人選手が多数出場したこともあって、日本からの視聴数(具体的な数字は開示されなかった)的にも反応も上々だったようだ。過去の実績を振り返っても、EVO2018は最も視聴されたイベントの1つだったと話す。

同社では、esportsのライブストリーミングを見ている視聴者の熱量は総じて高く、特にEVOはだれでも参加できるがゆえに、だれが勝ち上がっていくかというスリルもあって観戦している側も大いに盛り上がるコンテンツの1つだと分析している。

その一方で、USにおいてもesportsをスポーツとして捉える文化(esports as a sport)は、まだまだこれからだという意外な意見も聞くことができた。これは、ゲームをプレイする人(ゲーマー)においてはesportsの認知度は高いものの、ゲームをプレイしない人たちから見た場合、大きなギャップがあるという意味合いだ。

また、Twichでは視聴者がライブストリーミングにインタラクティブに参加できる「エクステンションズ(extensions)という仕組みを用意している。たとえば、esportsに最適化されたオンラインマルチプレイヤーVRゲーム「Blitz Freak」では、チームのスコア表示選択やどのプレイヤー視点の画面で視聴したいかなどをライブストリーミング中にインタラクティブに切り替えることができる。これらは、エクステンションズの恩恵だ。

テレビ・ネット配信とも「選手にあこがれる」ことをモットーに

さて、国内企業によるesportsの伝え方の現状はどうなっているのだろうか。9月21日(金)のTGS2018フォーラムにて、「eスポーツを盛り上げる伝え方とは? ~テレビ局、配信会社によるeスポーツの魅せ方~」と題したセッションが行われた。Twitchと同じく、esportsのオンライン配信という意味では、国内ではAbema TV(ウルトラゲームス)がかなり力を入れて行っている。

[登壇者]
・板川侑右氏:テレビ東京「勇者ああああ」プロデューサー
・門澤清太氏:フジテレビe-Sports専門番組「いいすぽ!」プロデューサー
・佐々木まりな氏:日本テレビeスポーツ番組「eGG」プロデューサー
・竹原康友氏:AbemaTVゲーム専門チャンネル「ウルトラゲームス」プロデューサー
・目黒輔氏:ファミ通App・ファミ通App VS編集長
・平岩康佑氏:元朝日放送テレビアナウンサー

[モデレーター]
・品田英雄氏:日経BP総研マーケティング戦略研究所上席研究員

おそよ90分に渡るディスカッションは、テレビ局、配信会社、メディアという立場からesportsを捉え、それぞれの特色を活かした見せ方・伝え方について意見交換が行われた。各社各様の想いがある中、共通して出た意見は「esportsの主役は選手。だから、選手ありきの伝え方を優先している」という点だ。

あの選手がプレイしているシーンを見たい、プロ選手のようにかっこいいプレイしてみたいと視聴者(観戦者)が思ってもらえるように、esportsを伝えていると各社は語る。と同時に、もっとたくさんのスター選手の登場を切望するとも話す。

時間制約のあるテレビ、制約がなくても配信すればいいわけではないネット

ゲームとお笑いが好きな板川侑右氏がプロデュースする番組は、テレビ東京で木曜日の深夜に放送されている『勇者ああああ』。ゲーム知識ゼロでもなんとなく楽しめる番組と標ぼうするこの番組では、サッカーゲームのプロ選手をゲストに招き、これまでまったくプレイしたことのないサッカーゲームでお笑い芸人と対戦するなど、ユニークな試みを行っている。広い意味で、esportsの入り口を広げたい思いをもってさまざまな企画を考えているという。

EVO2018での配信が記憶に新しいAbema TVでは、esportsの
1. 興奮を届ける
2. 興奮を切り取る
3. 選手を魅せる
という3つを意識して、番組作りを念頭においていると話す。

日本で実施される大会はもちろん、海外では配信されているが日本では見ることができないような大会まで、取り扱う大会を増やすことで「新しいユーザーに競技シーンの興奮に触れる機会を最大限提供する」ことを実践。これが功を奏して、3,100万DL、MAU1,100万を記録しており、堅調に推移している。

一方で、異口同音に出た課題として、「esportsの大会は長い」という点。特に、テレビでは時間の制約(尺)があり、何時間にも渡って中継することは現実的にはできない。しかも、テレビの場合は、ザッピングで途中から番組を見始めた視聴者にも、ある程度その時点の状況がわかるような番組構成が求められ、この点に各社のプロデューサーは頭を悩ませている。

ウルトラゲームスでは、この問題を番組の絵作りとダイジェスト化で解決している。試合状況やスコアがすぐにわかるような工夫に加え、大会終了後にナレーションをつけたダイジェスト番組を編成したり、大会前にも見どころや注目選手を紹介する盛り上げ番組の配信も行っている。こうすることで、大会そのものだけでなく、大会前、大会後までをフォローして、esportsがより盛り上がると分析している。

いい配信・放送にはゲームの理解と愛情が不可欠

「2018年に入って、新聞や主力紙媒体でesportsという言葉が出る機会が激増したおかげで、社内での認知向上に加え、企画を承認してもらいやすくなった。番組を始めた2016年は、社内でesportsという言葉をだれも知らなかった。」(門澤氏)

「esportsを好きな人は、テレビ番組があろうとなかろうと、ずっとesportsが好きなはず。そういう意味では、テレビ番組は(ブーム到来したから番組を始めるという)あと乗っかりだと思う。しかし、あと乗っかり型のメディアが生まれるということは、今興味がない人たちに興味を持ってもらえる。」(板川氏)

両者のコメントからもわかるとおり、急速に認知の入り口が拡大しているesportsだが、伝えるという点では、各社の悩みが見え隠れする。特に、ディレクターや編集担当がゲーム好きでないと、いい番組が制作できない。勉強すればある程度の知識は身につくものの、ゲームへの愛情という面では、「そういう人材」でないと最終的には成立しないともいう。

「取り上げるゲームを決めたら、ディレクターにゲームの説明だけではなく、プロ選手の存在やシーンの教育をしてます。」(佐々木氏)

一方で、番組で取り上げるタイトル選定も難しいと話す。限られた時間の中でゲームのルール説明に時間を割くことはできない上、「よくわからない=面白くない」という発想にならないようにする必要もある。

「私たちがLoLやDOTAを番組で取り上げにくいのは、このような要因があるからです。」(門澤氏)

「番組で『Shadowverse』を取り上げたことがあるんですが、やはりルールが複雑です。このときはプロ選手を複数人お呼びして、座談会のような形式で進めました。」(佐々木氏)

「時間の制約はないものの、配信中のUI改善やルール説明を入れるということは常に考えています。これに加えて、解説コンテンツも充実させています。投げ抜け率の説明やポイントとなるシーンを止めて解説するなどしています。」(竹原氏)

ゲームをやっていない人をesportsファンにする方法

「大前提として、(該当ゲームの)ルールを知っている必要があります。だけど、この人(選手)がプレイしているから見るという理屈になったとき、スポーツは無敵になる。この意味で、ゲームの世界で活躍できる人材が日本にいることを広めるのが、メディアの仕事だと思う。ゲームが面白いのはみんなわかっているけど、この人(選手)がすごいということに気づいてない人はたくさんいる。」(板川氏)

「プロ選手のなにがすごいのかということを伝えることだと思います。これによって、プロ選手への憧れが生まれ、esportsファン拡大につながると考えています。」(竹原氏)

「駆け引きをうまく魅せる必要があると考えています。ゲームってスポーツなの?という意見もありますが、実際プロ選手と接してみると人生をかけて大会に望んでることがわかりますし、練習も毎日ひたむきにやって、反省会なんかも行ってます。こういったことは、地道にでも伝えていくことが大切だと思います。」(目黒氏)

各社のコメントからもわかるとおり、常に「選手」を中心に考えており、それをいかにプラットフォームの特色を活かして伝えるかがキーになっている。esportsシーンの盛り上がりにスター選手の登場と活躍は不可欠。今後も各社の放送・配信に期待がかかる。

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「ゲームプレイに対する肯定を」「ゲーム観戦に熱狂を」「ゲームに、もっと市民権を」
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本気で毎日そのことを考えている会社の編集部。

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