“コーチ”と二人三脚でさらなる高みへ――日本人初のプロスマブラーaMSa選手に訊く【後編】

すいのこ
class="p-emBox">

プロとして活動することで変わるもの。そしてコーチの協力

――:スポンサーが付いてから具体的にどこか生活は変わりましたか。

aMSa:
生活面に関しては、ガッツリとお金を頂いているわけではないので、そんなには変わっていません。でも、意識面がすごく変わりましたね。自分の中にある“プロ像”に到達しなければいけないという意識を強く持ち、プロとして活動するからには結果を残さなければいけないと考え始めました。
 
 
――プロとして活動しながら、日本で普通に働けるものなのですか。

aMSa:
はい。当時は兼業でIT系の会社に勤めていて、2014年10月ごろから約3年間働かせて頂きました。プロとして活動していることは面接の際に伝えていて、それでも問題ないと言ってくれたんです。ちなみに現在はフリーとして活動していて、普段は派遣という形で日中に仕事をして、帰宅後に練習しています。
 
 
――:現在、1日のスケジュールのうち、どれくらい練習に充てていますか。その内容を含めて教えてください。

aMSa:
毎日最低1時間はプレイするように意識を持っています。大体9時から19時まで仕事なので、それ以外の時間帯ですね。内容としては、本当に基礎練習をひたすら、というのが多いです。前回の大会のフィードバックで、単純に“この操作に慣れていない”という課題が見つかることもあるので、そのための練習をしています。

あと、試合でよく使う動きは定期的に反復練習していますね。もちろん、新しい動きの開拓も行っていますよ。もっと速く動けるんじゃないか、ここは詰められるんじゃないか、とか。

ちなみに、プレイしている感覚は、わりと音楽ゲームを思い浮かべることが多いんですけど、音楽ゲームだと全譜面をパーフェクトで演奏するのが理想じゃないですか。少しタイミングがズレるとグレートやグッドなどの低評価になってしまう。「スマブラDX」をプレイする場合は、先行入力が効かないので常にパーフェクトでプレイしなければいけません。だから、「この動きはグレートが出やすい」と思う箇所は徹底的に潰していきます。大会の時にグレートなんかを出すと、最悪撃墜されてしまうので。
 
 
――:上手くなるために日常的にしていることはありますか。

aMSa:
筋トレですかね。毎朝、起きてすぐに軽く朝ごはんを食べてから、壁を使って倒立を1分間するのが自分の中でルーティンになっています。倒立自体は健康法でもあり、頭に血が巡って目覚めが良くなるんですよ。そうするとエンジンがかかるんで、そのまま筋トレをする感じです。

また、スケジュール的には朝6、7時ごろに起きて朝食と筋トレ。8時から9時までの間は、配信しながらトレーニングモードをやっています。朝に配信すると、時差の関係でちょうどアメリカだとゴールデンタイムに合わせることが出来るんです。そして、配信を終えたら仕事にいく感じですね。配信自体である程度お金を確保するためには定期的な配信が必要になるので、結果的に良いルーティンが生まれました。
 
 
――:目標にされている方、ライバルだと思う方などはいらっしゃいますか。

aMSa:
少し前に話に出ていたAxeという世界最強のピカチュウ使いですね。ピカチュウというキャラクターは、一般的に高い評価を受けていませんが、そんななかで彼は去年の世界ランキングで7位まで上り詰めています。僕としては同じようなポジションを目指すことを、今年の一つの目標にしたいと思っています。
 
 
――:他者があまり使っていないキャラクターで好成績を残すというところにシンパシーを感じているわけですね。

aMSa:
そうですね。さらに年齢的にも同じなんですよ。最近ダブルスを組むことがあって、彼もかなりのブランド力を持っているので本当に見習うところが多いと改めて感じました。

あと、気になるのはHungryBox選手ですね。去年のランキングでは他者を圧倒して1位に輝いています。もともと彼は“五神”と呼ばれるプレイヤーの中でも1番弱いと、2013年辺りから周りに揶揄されていたんです。でも、2016年にコーチを付けてからガラッと変わって安定感の塊になり、大会に出場したら軒並み優勝しています
 
 
――コーチという存在がプレイスタイルに大きく影響したんですね。aMSa選手はコーチについてどうお考えですか。

aMSa:
自分はコーチというものを重要視してなかったんですけども、2017年11月に「smash summit」という招待制の大会があって、それに参加した時に同じチームの方がコーチで付いてくれたんですよ。そのときのセカンドオピニオンがすごくためになりました。今の自分にない視点で見てもらえるっていうだけで、こんなに変わるんだなと実感を得られたんです。

成果については、実際にHungryBox選手が結果で示していますからね。この経験と実例により、仕事の関係で練習時間が1時間ほどしか確保できないという現状も踏まえた上で、僕は効率よく強くなるためにはコーチが必要だと判断しました。ちょうど前回の「smash summit」が終わったころに、ある人にお願いしてコーチをしてもらっています。
 
 
――コーチの方は「スマブラ」で有名な方ですか。

aMSa:
カイトという方で、現役当時はかなり有名なプレイヤーでした。自分は「スマブラDX」をアクションゲーム的なアプローチで、音ゲーのように“自分の実力でやっていくんだ”という形に持って行くのが得意なんですけど、彼は対戦ゲームとしての読み合いとか心理戦というところに特化しています。ちょうど、今の自分にないものを多く持っているんですよ。

過去にも何度かアドバイスを頂いたことがあって、毎回それが的確かつそこに至るまでが速かったんです。任せるなら絶対にこの人だという確証を持ってお願いしました。
 
 
――:今の自分に足りないであろう部分を補ってくれる相手と、良いタイミングで出会えたわけですね。

aMSa:
格闘ゲームだと、ある程度は自分でフィードバックが出来ると思うんですよ。しかし、「スマブラ」ではX軸だけでなくY軸の兼ね合いもありますし、そもそもの自分に求められる操作のレベルも高いので、個人では分析しきれない部分が多いんです。また、チームになってくると、分析や客観的な視点に立ってくれる人がいないとチーム内でイザコザが起こることもあり、必要なポジションだと思います。
 
 

ジャズとスマブラの意外な共通点

――:aMSa選手は「スマブラ」だけでなく、そろばん、卓球、音ゲー、大学でジャズなどジャンルを問わず、様々なことに挑戦しているとお聞きしました。それらに何か共通項はあるのでしょうか。

aMSa:
そろばんは親に習わさせられましたが、自分との戦いであり、“速ければ正義”という分かりやすいルールがあったので、そこはモチベーションになっていましたね。逆に卓球はそんなに強くなれませんでした。そろばんと違って対人戦で、肉体的にもそんなに強くなかったりと、ごり押せる性能を持っていませんでした。それに、当時は本当に色んな面で効率が悪かったと思います。

「スマブラDX」をプレイした後なら、「こういうふうにすればもっと効率よくできるんじゃないか」と思いつくんですけど(笑)。基本的に僕は自分との戦い系のものが大好きなんです。ジャズをしていたときもそうでした。ジャズと「スマブラDX」の共通点の一つが、アドリブ性の高さかなと思います。防御側も出来ることは多いので、そこからの機転はジャズから身に付いたものですね。


 
――:なるほど、意外な共通点ですね。

aMSa:
ジャズは32小節や16小節をひたすら繰り返しているので、周りの音を聴きながらアレンジをその場で判断する音楽なんです。“こうしなければいけない”という固定概念に型をはめるのではなく、状況に応じて柔軟に対応する。僕の「スマブラDX」でのプレイスタイルはジャズから来ていると思います。ジャズが「スマブラDX」には欠かせない存在になっていますね。
 
 
――:話は変わりますが、現在周りのプレイヤーのヨッシー対策はどのくらい進んでいると思いますか。

aMSa:
全然進んでいないですね。おそらく頭の中では意識してると思うんですよ。ブロッキングがあって、カウンターがあってと。でも、結局僕とプレイしなければ対策はできません。かといって僕以外のプレイヤーの対策もしないといけないので、単純に対僕への優先順位が低いんです。だから、ヨッシー対策をするくらいだったら自分自身の実力を上げる、という風になっていると思います。そんなこんなで、楽できるうちはまだ楽できるなと(笑)。

正直なところ、海外勢に「対ヨッシーの経験あるよ」と言いながら対戦してくれる方がいるんですけど、こちらからしたら「それは前提だから」と突っ込みたい。「せめて対策してよ!」と(笑)。対策してくれれば、その対策に対してなにかできるので。
 
 

最終局面で見せた笑顔の理由

――:「Genesis 5」(※アメリカで毎年開催されている「スマブラ」の大型大会)の話をさせてください。HugS戦のラスト1分、ストックを奪い返されて、もう後がないという状況で、笑っていられた理由はなんでしょうか。じつはあのシーンが印象的で、今回のインタビューを行ったところがあるので。

aMSa:
シンプルに面白いなって(笑)。自分が対戦するにあたって、一番大事にしているところはそこなんですよ。会場の雰囲気も合わせて楽しむことが根幹にあるんです。逆にそれができないときはサッサと負ける。自分は、過去の試合を振り返った時にああすればよかった、こうすればよかったという後悔がそんなにありません。その瞬間瞬間に毎回ベストを尽くしていれば、その後の結果はどう転ぶかは分かりません。

以前のMango戦も最終的には負けてしまいましたが、そのときに出来るベストは尽くしたと思います。その瞬間の試合を楽しむという意識はいつも持っていて、それが安定感というか、自分のペースに持って行くための秘訣かなと思います。そのゾーンに持って行くために、自分はいつも音楽を聴いていますね。
 
 
――:ルーティーンというわけですね。聴く音楽は決まっていますか。

aMSa:
そのとき自分が一番好きな曲をリピートして聴いています。そうすることでテンションを昂らせて試合に持っていく。ここ最近、調子悪いなって思うことは年単位でありません。ちなみに、今は初音ミクのジミーサムPの「Starduster」を聴いています。今はこれに落ち着いていますが、実は2015、2016年は自分のルーティンは何がいいか探してました。試合中に音楽を聴く、何も食べない、レッドブル飲むとか。

一通り試した結果、「朝に絶対コーヒーを飲む」「今まで通り1分間倒立をして朝のスイッチを入れる」「直前に音楽を聴く」がルーティンとして確立しつつありますね。もし、ルーティンがない人は色々試してほしいですね。ちなみにルーティンのコツは「どこでもできること」が大事です。例えば「お気に入りのラーメン屋に行く」とかだと、遠征の際は実践出来ないじゃないですか。そういうことを意識していますね。
 
 
――:スポンサーが付いてポジティブなこと以外に、失ったものがあれば教えてください。

aMSa:
失ったと感じるものはないですね。自分の中にあるプロとしてのプライドが、“プロとしてあるべき姿”を作り上げていて、それを目指す上で上手くいかないなと思うことはありますが、それで損した、失ったと思うことはありません。

基本的にこのゲームが好きでプレイしつづけて、その延長線上でスポンサーが付きました。特にお金のためではなく。ただ、プロゲーマーという定義に入ってしまったなと思うことはあります。最近はプロゲーマーの数が増えてきて、定義自体がブレてきているじゃないですか。

プロ像がはっきりしないままSNSや配信でやらかした人が炎上し、結果世間から“プロゲーマー(笑)”みたいな扱いを受けるという流れになりつつあるんじゃないかと危惧しています。正直なところ、あまりプロゲーマーと自称はしません。そういう意味では、もっと世間に知っていただくためにも活動を続けていきたいですね。
 
 
――:それでは、最後に今後の展望を教えてください。

aMSa:
去年のランキングは世界24位という評価でしたが、今年はコンスタントにTOP16以上の成績を残せています。ありがたいことに「aMSaを見てみたい」という方もいらっしゃり、今年は海外勢からTOP10入りするんじゃないかと言ってくれています。プレイヤーとして1年ガッツリと集中して取り組み、ランキングTOP10入りを狙いたいと思います。そのためにもっともっと強くなりたいですね。
 

class="p-emBox">
記者プロフィール
すいのこ
大学1年生の時「大乱闘スマッシュブラザーズX」にハマりすぎた結果、鹿児島から一人で大阪や東京、ひいては海外の大会に遠征するほどの重度のスマブラプレイヤーに。メインキャラクターはディディーコング。

注目記事

新着記事