Overwatchからシャドウバースに転身 異色のプロゲーマー・keisuke3【前編】

セスタス原川

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2016年のリリースから2年を迎え、未だ人気が高まり続けるデジタルカードゲーム「シャドウバース」。40枚のカードを駆使して戦うカードバトルはシンプルながらも奥深く、その手軽さからはカードゲームユーザーだけに留まらず、多くの若者からも支持を得ている。

esportsタイトルとしてもその存在感は大きい。同作が競技として採用されている、年4回開催の大型大会「RAGE」では、徐々にその規模が拡大し、2018年10月には8,000人規模の大会を開催。2018年5月にはチーム対抗となるプロリーグも発足した。

そのプロリーグに参加する1人に、異色の経歴を持つ選手がいた。それが今回インタビューを行ったkeisuke3選手だ。なんと、彼はシャドウバースのプロになる以前、まったく別ジャンルのFPS「Overwatch」の選手としてプロチームに所属していた。

なぜOverwatchのプロがシャドウバースに参戦したのか。今回のインタビューでは、Overwatchのプロゲーマーとしてのデビューから、所属チームの解散、二度目のプロとしてのデビューまで、そのすべてに深く迫ってみた。

■keisuke3

青森県出身。Overwatchでは、日本一を経験し、World Cup日本代表候補に選ばれるなど、海外強豪リーグに参戦。シャドウバースに転身後は、すぐにJCG準優勝など実績を積む。持前のハイテンションと多数のeスポーツ大会出場経験で、リーグ・チームを盛り上げる。

Twitter:@keisukeniko
Openrec:@keisuke3

■大会実績(一部)

  • Overwatch Championship Series final 準優勝
  • JCG Master 2016 #07 優勝
  • JCG Shadowverse Open 3rd Season Vol.72通常大会 準優勝
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FPS歴わずか2ヵ月で実績多数!?

――:プロゲーマーとして活動されているkeisuke3さんですが、アナログゲームの経験も豊富だと聞きました。

keisuke3:
そうですね。幼少期からテレビゲームには触れていましたが、アナログのカードゲームも同じくらいに遊んでいました。友人の勧めで「マジック・ザ・ギャザリング」を初めて触り、その面白さにどっぷりハマってしまったのです。それ以降は「ポケモンカードゲーム」「遊戯王」などのタイトルにも触れて、思えばずっとなにかしらのカードゲームはやり続けていましたね。

――:ただ、実際は最初にプロゲーマーとして活動したのがOverwatch(※)でした。月並みな質問で恐縮ですが、まずは遊び始めたきっかけから教えてください。

keisuke3:
初めてOverwatchのトレーラーが世に出たとき、「絶対にこのゲームは面白い!」と目が釘付けになったのをよく覚えています。それ以降は、発売前なのにOverwatchのことしか考えられなくて(笑)。とにかく「早くやりたい!」という気持ちしかありませんでした。

※Overwatch:ブリザード・エンターテイメントが開発したFPSタイトル。日本では、2016年5月24日にプレイステーション4で発売された。2016年のゲーム・オブ・ザ・イヤーを多数受賞したほか、esportsとしては北米、欧州、アジアの様々な国々でプロチームが結成され、年齢・性別・国の壁を越えて多様なファンを獲得し続けている。全世界のプレイヤー数は約4,000万人(2018年5月時点)。

――:ちなみに、当時のFPSのプレイ歴はどのくらいだったのでしょうか。

keisuke3:
実は、FPSに触り始めた時期は、Overwatchのトレーラーを閲覧した後ですね。「Alliance of Valiant Arms(AVA)」を2ヵ月くらい遊んだだけでした。

――:なんと……。ということは、FPS歴が短いにも関わらず、驚くべき勢いでプロレベルまで上り詰めたのですね。上達できた理由はなんだったのでしょう。

keisuke3:
今思い返すと、そこまで短時間で上達できたのは、純粋にOverwatchが大好きだったからですね。シンプルな答えですが、とにかく夢中でやり続けたこと。あまりにも楽しすぎて、寝食を忘れるくらいでしたから。

――:大会などにはどのタイミングで参加されるようになったのでしょう。

keisuke3:
最初はただの趣味としてやっていましたが、日本でも大会が開催されるようになったので、軽い気持ちで友人と「出てみようか」と参加しました。そしたらいきなり準優勝という結果を残せました。そのときに「あれ? 俺たち上手くね?」と思い始めたのです(笑)。

 

勝利をきっかけにFPSプロゲーマーの道へ

――:その準優勝をきっかけに、プロゲーマーへの道を意識するようになったのでしょうか。

keisuke3:
いきなりの準優勝で気分も高まっている際に、「Unsold Stuff Gaming(USG)」からプロチーム結成の発表があったのです。

当初は興味なかったのですが、ちょうどそのとき、いっしょにゲームをしている仲間から3人ものプロゲーマーが生まれたのです。そうした周りの影響もあり、徐々に僕としてもプロゲーマーに対する憧れも募っていき、「とりあえずダメ元で受けてみよう」と応募しました。プレイはもちろん、自分の人となりを評価してもらい、無事にチームに入れました。

――:プロゲーマーになって、これまでと心境の変化はありましたか。

keisuke3:
最初はあまりなかったですね。純粋に趣味の延長線上くらいとしか思っていなかったので、“ゲームを遊びながら、そこで上手いプレイをする”という認識でしたね。

ただ、いざ「USG」のチームで大会に参加したところ、3位という結果でした。そこからチームメンバーの中で「もっと上に行きたい」という声が出てきて、自分もせっかくやるならもっと上に行きたいと思うようになり、本格的にプロ意識が芽生えていったのです。

――:上を目指すにあたって、壁にぶつかることも多くあったのではないでしょうか。

keisuke3:
そうですね。やはり練習時間を確保するのが大変でした。なかには仕事と兼業している方もいらっしゃったので、一度若い学生をメインメンバーに据えたチームを再考し、練習時間の増加を図りました。その結果、次の大会では見事優勝できました。以降は、チームとしても勢い付き、大会に関しては優勝と準優勝を繰り返す状態でした。

――:その後、keisuke3さんはチームから脱退されます。その原因はなんだったのでしょう。

keisuke3:
自分がチームを抜けたのは、単純にメンバーとの方向性の違いが理由でした。

――:なるほど。その後の心境はいかがでしたか。

keisuke3:
プロゲーマーを辞めてからは、2ヵ月ほど普通に働いて生活していましたが、やっぱり「楽しくないな」と感じたんですよね……。

そのとき、「自分はプロゲーマーという生き方のほうが性に合っているのではないか」と思い始めました。単純にゲームができるというわけではなく、常に上だけを目指す生き方という意味ですね。その後、LibalentのOverwatch部門に入り、腕を磨いていきました。

――:Overwatch部門「Libalent Supreme」。移籍後もその活躍は健在でした。

keisuke3:
ありがとうございます。移籍後は、台湾でOverwatchのアジア予選が開催されたのですが、そこで2位通過で勝利することができました。そして、大会のために台湾で1ヵ月半ほど生活していました。懸命に練習を続けて大会に臨みましたが、結果は最下位。

日本国内の大会では上位に入れたけど、世界、いやアジア内だけでも実力の違いを見せつけられました。まさに“井の中の蛙”でしたね。若い選手も多かったこともあり、チームメンバーは大変ショックを受けました。そして「世界で戦うことは難しい」となり、チームは解散となりました。

――:プロゲーマーとして生きる決意をした直後の解散。keisuke3さんの中ではいろいろな葛藤があったと思います。

keisuke3:
自分はもっとチームとしての練習をがんばりたいと思っていたのですが、やはりなかなか難しかったですね。メンバー同士で改善すべきところを教え合ったり、自分も心を改めたりと進めていたのですが……まあメンバーの気持ちも尊重しなければならないので。

 

もう一度輝きたい 第2のステージはTCG

――:チーム解散後も、keisuke3さんはプロゲーマーとしての道を模索されたのですか。

keisuke3:
はい。「プロゲーマーを辞める」という考えは全くありませんでした。ただ、もう僕もアラサーなので、年齢的にFPSは難しいのではないか、と思い始めていました。

正直なところ、チームの解散決定後は、4件のほかのチームからお誘いがありましたが、「やはりFPSは続けられない」という結論を出し、すべてお断りさせていただきました。実況・解説という道もありましたが、まだまだ選手としてがんばりたい。そう強く思ったのです。

――:これまでの得意ジャンルを封印し、それでもプロゲーマーとして挑戦していく……結果的にシャドウバースのプロとして活動されますが、それまでの立ち回りも気になります。

keisuke3:
やるからには、「もう一度華を咲かせたい。優勝する」という目標を掲げていました。

じゃあなんのゲームをやろうか……となったとき、FPSはもうやらないし、「リーグ・オブ・レジェンド」も反射神経を使うゲームだし、まあ頭を悩ませましたね。そして、先ほども話したように、幼少期からカードゲームを遊んでいたので、これならできるのではないかと、事務所側に相談しました。

――:なんて相談したのですか。

keisuke3:
いや、なんの自信もなかったのですが、「自分、カードゲーム上手いっすけど、どうすか?」という感じです(笑)。

――:ははは(笑)。

keisuke3:
そうしたら「じゃあシャドウバースやってみない?」とお話をもらえました。ちょっと騙した形にはなってしまいますが(笑)。

――:Libalent側もわりと柔軟ですね(笑)。とはいえ、TCG経験者ということもあり、シャドウバースにもすぐ馴染めたのではないでしょうか。

keisuke3:
いやいや、そういうわけでもありません。タイトルによってルールから戦略まで千差万別です。とにかくやり込んで自分なりのプレイスタイルを構築していきましたね。でも、最初はすぐに「JCG open」という大会で準優勝して、そのときは「あ、いけるかも?」と思いましたね(笑)。転身して2週間で準優勝でしたから。

――:転身して2週間で準優勝……好スタートを切ったものの、やはり密度の高い練習をされたんですね。これはOverwatch、シャドウバースの両方にもいえますが、keisuke3さんの上達スピードが異常に早いですよね。練習方法について、共通点はあるのでしょうか。

keisuke3:
当然、やり込むことは大前提ですが、とりあえず1人でもいいので信用できる上手いプレイヤーを見つけては、そのプレイを真似して習得することを繰り返しやっていました。たとえば、Overwatchの場合は、同作のWorld Cupでも優勝経験のあるryujehong選手の配信をずっと食い入るように見ていて、どうしてこの動きをするのか、を自分なりに言語化できるまで分析していました。

――:ということは、シャドウバースでも同じ方法で練習されたのですね。

keisuke3:
はい。いろいろな人に「誰に教わるのがいいかな?」と尋ねたところ、現在もコーチをしていただいているじゅんさんを紹介していただき、本人からOKをもらってからはずっと彼に教えてもらっています。

――:その練習を続けてきて、現在のレベルはいかがでしょうか。

keisuke3:
ゲームの基礎力が上がってきました。これまでトレース方式の練習をしてきたので、プロになって“見られる側になった”という戸惑いは多少あります。ですが、プロリーグでも2ndシーズンになって、ようやく自分が逆に“見せられるようなプレイができるようになった”……という自信もついてきました。

――:ちなみにFPSで培ったノウハウは、カードゲームでも活かせるものがありましたか。

keisuke3:
もともと僕は、FPSではエイム力で敵を倒すというタイプではなくて、集団戦の仕方や立ち回りを通し“戦術”を考えるのが得意でした。Overwatchのチーム戦術も自分が考えてきたので、そういう頭を使ってプレイする部分はカードゲームでも活かせたかなと思います。

――:逆に、2つの違いに困惑した部分はありましたか。

keisuke3:
自分の実力だけじゃないという部分ですね。Overwatch然り、FPSは実力さえあればほぼ自分で試合を動かせますが、カードゲームでは運が絡む要素が増えてきます。そこにストレスを感じてしまうことがありました。

――:運要素にストレスを感じてしまったとき、それをどのように処理していますか。

keisuke3:
方法は簡単で“お酒を飲んで忘れる”です(笑)。1人で悶々と考えていてもストレスが溜まる一方ですから、お酒を嗜みながらチームメンバーと意見交換するようにしています。普通のことですが、こうしたストレス解消法が大事だなと思いましたね。チームメンバーの存在は、そういう意味でとてもありがたいですね。

――:「よしもとLibalent」は4人のメンバーからなるチームですが、他のメンバーの印象はいかがでしょうか。

左からSurre選手、ふぇぐ選手、けんぴ選手、keisuke3選手

keisuke3:
ふぇぐは、金髪のイケメンで「チャラい!」という印象がありますが、話してみるとすごい気さくな人なんです。場を盛り上げるのに徹してくれて、オフの飲み会とかでも、ずっと自分から話し続けてくれて、チームのムードメーカーになってくれています。

けんぴは、自分が一番人間的に好きなタイプですね。すごい純粋で、明るくて、面白くて。あとは、ゲームしているときも独り言を喋っていたり(笑)。プロリーグ始まってから、恐らくけんぴが一番ファンが増えたと思います。その理由がわかるくらい、いつも自然体で話しかけてくれるいいやつなんです。そこにいるだけで周りが明るく楽しくなります。

Surreさんは、話していても落ち着くし、安心感がある人です。すごいアバウトになってしまいますが、どこか温かさを感じさせてくれる人ですね。実は、こういうときのためにメンバーの印象を言葉にまとめてきたんですけど、Surreさんを言葉で表すのが難しいんですよ。一言で表すなら……“パパ”ですね(笑)。

――:4人の仲も良くて、まさに家族のようなチームですね。

keisuke3:
本当にそうなんです。ちょうどこのインタビューの前日もメンバーと一緒に飲みに行きました。

――:チームメンバー同士の練習は行っていますか。

keisuke3:
自分は2Pick(※)担当なので、練習のときに構築フォーマット(※)を担当する3人とは別に行っています。練習の際には、コーチのじゅんさんをはじめ、2Pickに知見のあるメンバーだけで集まって練習しています。構築フォーマットの3人はよく集まって練習していますが、自分は他の方々と練習する機会が多いです。

※2Pick:シャドウバースにおける対戦フォーマットの1つ。ランダムで表示されるカードを2枚ずつピックしていき、即席の30枚のデッキで対戦する。

※構築フォーマット:自身で作成した40枚のデッキで対戦する。最新5パックのカードを使用する“ローテーション”と、全てのカードが使える“アンリミテッド”の2種類がある。

――:具体的な練習内容はどのようなものでしょうか。スケジュールなどもお聞きしたいです。

keisuke3:
朝起きてご飯食べたら練習。お腹が空いたらまたご飯食べて練習……という感じです。だいたいお昼ごろからは、ゲーム内のアリーナで練習したり、最近ではルームマッチで通話しながら対戦をやったりしています。また、GAMEBOXさんの練習ではメンバーが強者揃いで、メンバーの「JCG」での総獲得賞金が100万円を超えており、1人で39万円獲得した人もいます。


後半では、「よしもとLibalent」の2Pick担当として、構築フォーマットでは味わえない2Pickの魅力について語ってもらった。彼をそこまで虜にする2pickならではの面白さはどこにあるのだろうか。TCGプレイヤーは、記事を通してそのテクニックを探ってみよう。

class="p-emBox"> 写真・大塚まり
記者プロフィール
セスタス原川
カードゲームが恋人のライター。「電撃オンライン」などゲームメディアで記事を執筆中。得意分野はもちろんTCGとDCG。ライターだが選手としての一面もあり、ときと場合によって肩書きが変わる。

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