FAV gamingクラロワ部門おこめちん監督の就任から退任までの軌跡

岡安学

【この記事は約8分で読めます】

2019年12月7日(現地時間)、北米ロサンゼルスで行われた「クラロワ 世界一決定戦」に出場したFAV gamingはW.EDGMに破れ、世界ベスト4という結果でシーズンが終了。

結成時から評判の高かったFAV gamingであったが、1年目、2年目シーズン1と思うような結果が出ず、苦しんだ中、ようやく勝ち得た栄光だった。

その栄光の余韻覚めやらぬ間に、FAV gamingの監督であるおこめちん監督が今シーズンでの監督の任を降りると言う。結果を残しての監督の退任は何を示しているのか。今後のFAV gamingはどうなっていくのか。おこめちん監督に監督としての最後の仕事として、話を聞いてきた。

初の世界大会で感じた経験不足

――まずは世界ベスト4、おめでとうございます。初の世界一決定戦はいかがでしたか?

おこめちん監督(以下:おこめちん):
クラロワリーグに参加するようになってからずっと、世界一決定戦への出場が目標だったので、その場に立てたのは私もメンバーもシンプルにうれしかったですね。

結果としては、大会では1回も勝てずに終わってしまいました。1年の集大成としての大会で、世界大会という大舞台やお祭り感に選手が思った以上に緊張してしまったようです。私としてはそこまで緊張するとは思ってなかったんですよね。

個人の大会だったロンドン大会、昨年の幕張での大会、今回の大会と3大会観てきましたが、規模的にも演出的にも派手だったロンドン大会は、さすがに緊張するだろうって思っていました。

今回はそれに比べれば抑え気味だったので、そこまでのことはないと思っていましたが、選手たちにとっては違ったようです。

今回の大会の演出として、「クラロワ」のゲーム中に登場するタワーの上でプレイをしたのですが、いつもと違う環境に飲まれてしまった感じがありました。

――やはり経験の差が大きかったのでしょうか。

おこめちん:
そうですね。他の有名eスポーツタイトル、特にチーム戦の大会で日本のチームが世界一になったことはないんじゃないでしょうか。

大きな舞台に弱い、本番に弱いと言うのが露呈されていますね。クラロワに関してもヨーロッパは公式以外のサードパーティーの大会が多いですし、FAV gamingの選手には、もっと人に観られてプレイする環境を経験させられれば良かったと思います。今後は、大会の大小に関わらず、日本のチームが人前でプレイできる環境が増えると良いですね。そういった経験を重ねることで選手も慣れていくと思います。

優勝したTeam Liquidのメンバーで、今回大活躍したSurgical Goblin選手は、そういったオフラインの大会を数多く経験し、場数を踏んできています。その差が如実に表れたのではないでしょうか。

FAV gamingだと、けんつめし選手がアジア競技大会で経験したくらいですね。彼が言うには今回の世界一決定戦とアジア競技大会は、雰囲気は似ていたようです。

――今回は大会のだいぶ前から現地入りしていたようですけど、その間もPV撮影などで忙しかったと思います。試合に向けた調整はうまくいきましたか?

おこめちん:
2週間前から現地に入っていました。Seeding Tournamentがあったり、PVの撮影があったり、結構忙しかったです。

2週間あるので時差にも慣れるかと思いましたが、選手のほとんどは慣れることはなく、長時間寝られなかったようです。寝ても3~4時間で目を覚ましてしまい、それを数時間起きに繰り返す感じでした。

そもそも海外への渡航はけんつめし選手以外はほとんど経験がなく、JACK選手やKitassyan選手は飛行機に乗ることが2019年が初めてって感じで、韓国で行われたクラロワリーグ アジア2019の試合に出るためにパスポートをとったくらいです。

――Seeding Tournamentがかなり上手くいき、2v2の評価も高かっただけに、本戦での未勝利は選手にとってかなり堪えたと思うのですが、試合終了後はどんな様子でしたか?

おこめちん:
試合が終わった後は、選手たちは茫然自失でしたね。現地で2週間前から準備して、当日も第4試合までずっと待ったのに、ものの数十分で終わってしまいましたから。選手たちは不完全燃焼だったと思います。

2v2は1試合目をとって、2、3試合目は凡ミスで落としてしまいました。私自身も解せないとしか言えないようなミスだったので、緊張していたのかなとしか思えないですね。

けんつめし選手とKitassyan選手の2v2のペアは決して上手いわけではないんですよ。他の選手に比べ足りないセンスをひたすら練習で埋めてきたペアなんです。そこを努力で埋め切れなかったのは残念でした。

アフターパーティーに参加してもしばらくは落ち込んでいましたが、おいしいものを食べたら元気になっていました(笑)。

編集者兼監督の二足のわらじ

――監督業についてのお話を聞かせていただきたいのですが、そもそも監督業を引き受けたのはどういった経緯だったのでしょうか。

おこめちん:
クラロワリーグ アジアが始まる時に、Supercellさんからリーグ参加のお声がけをいただき、FAV gamingが結成されました。

もともと、Supercellの担当編集でクラロワやSupercellさんとは関係性がありまして、チームを結成するにあたり、監督が必要ということで、流れ的に私が監督をやることになりました。

一応、クラロワのコミュニティーにも参加しており、選手たちとも繋がってはいたので、そういった面もありますね。

――FAV gamingはクラロワリーグ アジアに参加するために結成されたと?

おこめちん:
形としてはそうなりますが、もともと対戦格闘ゲームのプレイヤーのマネジメントをすることは考えていました。

――1年目は監督が必ずしも専業である必要はなく、選手兼監督でも問題なかったと思いますが、そうしなかったのはなぜですか?

おこめちん:
クラロワの選手は若いじゃないですか。他のタイトルのeスポーツ選手と比べても、単純に年齢だけみても。もちろん、社会人経験がある選手なんていませんし、マネジメントする人が必要でした。そういうことができる人でないと、チームとしての土台が崩れてしまうと思いました。

もし選手兼監督で行くとしたら、メンバー的にけんつめし選手が候補になると思いますが、当時のけんつめし選手は甘いところがあって、とてもじゃないけど任せられなかったんです。私がやることもなかったんですけど、その時点では他に人材がいませんでした。

――他のチームは選手兼監督だったり、他のeスポーツの選手やコーチの経験者が監督を務めていましたが、おこめちん監督の経歴はそれらに当てはまらなかったわけですが、そのことについては何か思うところはありましたか。

おこめちん:
それはなかったですね。eスポーツチームの監督といっても特別なことをするとは思っていませんでした。

私の前職はマクドナルドの社員だったんです。当時のマクドナルドってアルバイトが100人くらいいる中、社員は3人程度。社員3人で若い子たちをマネジメントしていくという経験があったので、それが活かされた感じです。

ゲームに関しても、ずっとクラロワをやっており、その当時はプロ選手にも勝てるくらいの腕前はありました。

――FAV gamingは結成当時から優勝候補でしたが、なかなか軌道に乗れませんでした。

おこめちん:
1年目にチーム編成をしたとき、選手指定の特別枠でけんつめし選手とRAD選手の2人を獲得できたので、注目度は高かったと思います。しかし、結果は伴わず1年目は2シーズンともワイルドカードまでは行きましたが、あと一歩及ばず勝ちきれませんでした。

2年目のシーズン1は選手の大幅な入れ替えもありましたし、会場の韓国へは唯一日本からの通いを選んだことの負担で、勝つことは難しいだろうとは思っていました。ただ、経験は積んでほしくて、後に活かせれば良かったんです。

シーズン1のとき、FAV gamingだけが渡航を選んだのは、リスクヘッジができなかった所為ですね。韓国の情勢がよくわかっておらず、選手を滞在させることの危険性を拭い去ることができませんでした。やはり親御さんから選手を預かっている身としましては完全に安全が担保されなければ、滞在に踏み切ることはできませんでした。

実際にシーズンが始まってみると、毎回渡航するのは本当に辛いんです。韓国まで飛行機で2~3時間程度なんですが、飛行機は待ち時間が長いですし、韓国に着いてからも電車で1時間以上の移動があるので、結局1日がかりになってしまうんです。

練習時間はとれなくなりますし、体力も使うんです。そういう点ではシーズン1でベストな環境を用意してあげられなかったのは、申し訳なかったと思っています。韓国での滞在は思った以上に問題がなさそうだったので、シーズン2からは滞在してもらうことにしましたが、私自身は、編集者としての仕事があるので、そのまま通いを続けていました。

――2年目になってから、韓国での試合以外にメンバーの増強、監督の専業化などがありましたが、FAV gamingは選手を増やさず4人態勢のままだったのは何か意図があったのでしょうか。

おこめちん:
5人目に関してはいろいろ考えたのですが、必要ないのではないかと言う結論に至りました。

他のチームは5人目のメンバーを入れてますが、試合にまったく出られていない選手がいるだけになっていました。そうなるのは予想していましたし、もし、選手を満遍なく使えたとしても試合経験が少なくなってしまいます。

それであれば、1人当たりの経験を多くしてあげたかったですね。それに、2年目はJACK選手が入ったのが大きかったので、他の戦力は必要としないと考えました。

――JACK選手とはどのような経緯でFAV gamingに入ったのですか?

おこめちん:
2019年の3月に私とけんつめし選手とJACK選手の3人でご飯を食べに行ったんですが、最初はプロになることは乗り気ではありませんでした。これまでJACK選手は顔出ししてこなかったですし、人前で何かをやることが苦手なタイプでした。

でも、彼の才能は素晴らしかったので、なんとか入ってほしくて説得しました。食事が終わったあと、気が向いたら連絡してと言って別れたんですが、その後すぐに連絡が戻ってきてFAV gamingに入ることを伝えてくれました。

――就職が決まっていたという話も聞きました。

おこめちん:
そうですね。プロになることも就職先の方と話をして、しばらく待ってくれるという結論になったみたいです。話がなくなるのではなく、困ったらいつでも戻ってこいって感じで、懐が広いですよね。

FAVの歴史にけんつとおこめちんあり

――おこめちん監督の監督生活は、けんつめし選手と共にあったと思いますが、けんつめし選手についてはいかがでしょうか。ぶつかったり、乗り越えたり、今のけんつめし選手はおこめちん監督なくてはないと思いますが、この2年の2人の歩みはどんなものだったのでしょうか?

おこめちん:
けんつめし選手は唯一のFAV gaming結成時のメンバーなんですよね。

彼はチーム結成時に特別枠で指名したのですが、飛び抜けた才能がある選手だとは思っていませんでした。でも、やった分だけ結果を残すタイプの選手で、どういうことをやってきたかが、如実にわかる選手でした。

1年目は選手としても人間としても甘さが目立っており、いわば有言不実行みたいなところがありました。

結局、1年目までにはその甘さを払拭できず、結果も残せずに終わってしまいました。1年目が終わった後、一緒にご飯を食べに行ったときに、2年目はこのままだと一緒にやるつもりはないと、宣言したんです。

彼は話を理解する能力に長けているので、私が何を言っているかはすぐにわかっており、そのことについては納得していました。ただ、理解はしているものの、それを体現することができていなかったわけです。2年目が始まる直前にもう一度彼に連絡し、2年目も一緒にやるための条件を出しました。

その条件は、グローバルランキングで30位以内に入ること。結構キツい条件だと思いましたが、最終的にはグローバルランキング6位となり、結果を出してくれました。

何度も言いますが、彼は努力した分は結果として出してくる選手なんです。なので、結果が出せたことについては評価しますし、ようやく有言実行ができたわけです。それで2年目のFAV gamingは彼に任せようと思い、再度キャプテンに指名しました。

――2年目もキャプテンとしてチームを牽引し、レッドブル・アスリートとしての立場もでき、大きなプレッシャーに晒されるようになりましたが、そのあたりはどうでしたか。

おこめちん:
私も監督業以外の仕事の量が増え、1年目ほどクラロワ部門に時間を割くことが難しくなってしまいました。なので、けんつめし選手には大きな負担があったと思います。

チームにいられなくなるかもしれないと言う危機感もあったと思いますし、レッドブル・アスリートとしての重圧もあったと思います。それでも結果を出してくれました。それがけんつめし選手を大きく変えてくれたきっかけでもあると思います。1年目と比べると人が変わったと思えるほどでした。

FAV gamingを日本一のチームへ

おこめちん:
私自身は、今後編集者としての立場からeスポーツ関連の仕事にシフトするので、FAV gamingと完全に離れるわけではありません。これからはFAV gamingをいかに大きくしていくかを考えて行きます。

あまりeスポーツに詳しくない人が、eスポーツのチームってどんなとこがあったっけって話になったとき、真っ先にFAV gamingの名前が挙がるようにしたいです。

まずは、日本。ゆくゆくは、世界一決定戦で優勝したTeam Liquidやレインボーシックス シージでの有名チームFnaticなどと肩を並べられるくらいに大きくするのが、ミッションであり、目標ですね。

参加するタイトル数も今後増やしていこうと計画しています。

FAV gamingの立ち上げから監督をさせていただきまして、本当にありがとうございます。

勝つことでファンが増え、多くのファンに支えられてきました。もちろん、最初からファンを続けてくれている人もいて、選手はここまでがんばってこられました。

世界一決定戦の前にはTwitterのトレンドとして「#FAVWIN」が上がりましたし、応援には感謝しかありません。

唯一の心残りとしては、世界大会で結果を残せず、応援に対する恩返しができなかったことですね。FAV gamingが多くの人に愛されるチームになるようにがんばりますので、これからも応援よろしくお願いします。


クラロワリーグ アジアに参加したチームは、誰もが初めての経験でチーム運営の正解がわからないなか、手探りで乗り越えてきた。ほとんどのチームが勝利すること、優勝することを主眼におきながら、おこめちん監督は選手を育てる、チームを育てると言うことも同時に行ってきた。

その結果、けんつめし選手の成長に繋がったのではないだろうか。そして、成長したけんつめし選手なくして今のFAV gamingもなかったわけである。

まさにチームが人を育て、人がチームを育てると言うことを体現してくれている。もちろん、監督としての責務である世界一決定戦への出場も決めており、まさに成し遂げたと言えるだろう。

今後はさらに高みを目指すため、FAV gaming全体を統括していく。きっと、FAV gamingだけでなく、日本のeスポーツシーンをより良い方向へ舵取りしてくれるのだと信じたい。

【あわせて読みたい関連記事】

【水谷隼×けんつめし対談】卓球もクラロワみたいですよね?(前編)

日本の卓球界を牽引する水谷隼選手とクラッシュ・ロワイヤルのプロゲーマーけんつめし選手によるスペシャル対談第1回。テーマは、お互いの競技に共通する「読み合い」について。

記者プロフィール
岡安学
eスポーツを精力的に取材するフリーライター。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。様々なゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『INGRESSを一生遊ぶ!』(宝島社刊)。 【Twitter】@digiyas

関連記事

注目記事

新着記事