洋ゲーマニアがアナウンサーを経てesportsキャスターへ 平岩康佑氏インタビュー【前編】

【この記事は約7分で読めます】
元プロゲーマーやストリーマーなど、esportsキャスターの経歴は人それぞれ。今回インタビューした平岩康佑氏は、元朝日放送アナウンサーとして野球などのスポーツを担当してきた、いわば実況のプロフェッショナルだ。
2018年6月にesportsキャスター専門の事務所ODYSSEYを立ち上げてから約半年。国内外を飛び回る平岩氏のゲーマー気質な一面を深掘りしてきた。
Xbox2台持ちのコアゲーマーだった青年期
――2018年はアナウンサー業を退職され、esportsキャスター専門事務所を立ち上げたことで注目を集めましたが、最初にアナウンサーになった経緯を聞かせてください。なにかきっかけがあったのでしょうか?
平岩康佑氏(以下、平岩):
大学3年生のときにアメリカへ1年間留学したのですが、留学から日本に帰ってきた頃にアナウンサーという仕事を意識しだしました。ちょうど、オバマ大統領が誕生したタイミングです。
当時、私が留学していたワシントン州は共和党支持者が多かったので、対抗馬の共和党候補だったマケイン氏が敗戦したことに周りの大学生たちが怒っていたんですよ。
日本の若い人は、選挙があっても投票しないなど、政治に関心がない人が多かったので、その熱量にびっくりしたのを覚えています。
その一方で、日本でも若い世代の人たちが選挙に関心を持つようになったら面白いなと思って、アナウンサーという立場で報道に絡んでみたいと考えたのがきっかけですね。
――昔からゲームが好きでesportsキャスターになったと聞いたことがありますが、その留学中もゲームはプレイされていた?
平岩:
留学していたときは、めちゃくちゃゲームをプレイしてましたね。
当時って日本では、休みの日にずっとゲームをやってるということが周りに言いにくい雰囲気がありました。高校から大学に進学するまでにゲームをやらなくなってしまう人が多かったんですよね。
でも、アメリカでは違って、ゲーム好きがすごく多いんですよ。
パーティーを楽しんで、ガールフレンドもいて、その上で寝る前とかにゲームもする人がたくさんいて、休日なんかは友人の家に10人くらいで集まって「Halo 3」(※)で遊んでいました。
アメリカでは、PlayStation 3よりXbox 360の方がメジャーで、友人はみんな持っていましたね。
※Halo 3:2007年発売のXbox 360向けFPS。
――1人でやるのではなく、友人同士で集まって遊ぶんですね。
平岩:
「Haloができないやつは男じゃないな」なんていうジョークが会話の中で出てきましたよ。私は結構上手かったので、日本からきたHaloチャンピオンだなんて呼ばれて、盛り上がっていましたね。
Haloの他にも、「Call of Duty: Modern Warfare 2」(※)が発売された時期だったので、そちらも遊んでいました。
※Call of Duty: Modern Warfare 2:2009年発売、Call of Duty(以下、CoD)シリーズ6作目となるタイトル。
――FPSばかりですか。
平岩:
中学生になってすぐの頃に洋ゲーに出会って、FPSにはまりました。初代Xboxの北米版を持っていて、海外旅行に行ったときは必ずゲームショップに寄って、2本くらい購入するのがお決まり。
映画も洋画が好きだったんですけど、洋ゲーは日本のゲームとは別の世界に感じて、すごく惹かれたんです。周りの友だちが「ファイナルファンタジー」をやってる横で、私が遊ぶのは洋ゲーばかりでした。
「Unreal Tournament」(※1)や「Quake」(※2)なんかも遊びたかったんですけど、家のPCのスペックではまともに動かなかったのは残念でしたね。グラフィックボードを交換すればプレイできるかとも思って調べたりもしました。
その当時の接続規格にはAGPとPCIがあって、AGPの方が主流でした。ですが、我が家のPCはPCIの方でして、グラフィックボードが高くて買ってもらえなかった(笑)。
なので、代わりに北米版のXboxを買ってもらって、ひたすら洋ゲーをやっていました。
※1Unreal Tournament:1999年発売、PC向けFPS。
※2Quake:第1作「Quake」が1996年に発売されたFPSをシリーズ。マルチプレイを実装したFPSの元祖。
――かなりのコアゲーマーな少年時代だったのですね。
平岩:
もともとは、ファミコンの「スーパーマリオブラザーズ」も遊んだし、スーパーファミコンやNINTENDO64が家にあった普通のゲーム好きでした。
「大乱闘スマッシュブラザーズ」も友だちとプレイして、小学3年生のときに「ポケットモンスター」が発売されてブームを体験しましたし、「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」もやりました。
中学生になったくらいで一気に洋ゲーに浸かっていった感じですね。ミリタリーものに興味がわきだしたこともあって、いろいろ調べたら洋ゲーにたどり着いて、北米版のXboxを買ってもらいました。
――北米版Xboxで洋ゲーに親しまれていったと。
平岩:
英語が聞き取れるわけではなかったので、ストーリーはわからなかったですけどね。日本語版が発売されているゲームは日本のXboxで遊んでいました。
北米版と日本版の2台のXboxがあったんですよ。Haloは日本語版でやっていたと思います。
――Xboxが2台あるとは……!
平岩:
Haloの「1」はまだオンライン対戦ができなかったので、弟と画面分割の1vs1をひたすらやり込みました。懐かしいな―。
最近のFPSと比べると狭くて平坦なマップで、今見直したらつまらなさそうに感じるかもしれないですけど、1日に何時間も遊んでられました。
視聴者ファーストな実況を作り上げる
――現在はesportsキャスターとして実況を担当されているのを頻繁に見かけますが、ゲームをプレイする時間は確保できているのですか?
平岩:
だいぶ減ってしまいましたね。ゲームを仕事にしたくてesportsキャスターになる決意をしたのに、忙しすぎてゲームをする時間がないのが悩みで……。
じゃあどうするかというと、寝る時間を惜しんでやるしかないですよね(笑)。
ちょうど昨日も、22:30くらいに帰宅して5時間くらい「CoD: Black Ops4」をやって、気付いたら寝落ちしていました。
――ご自宅ではゲームをプレイするほか、実況の練習もされているそうですが。
平岩:
そうですね。誰かがプレイしている動画を見ながら実況の練習をしています。
弊社にはもう1人、柴田将平というアナウンサーが所属しているので、彼とはSkypeでつないで同じプレイ動画を見ながら実況してもらい、僕からフィードバックを伝えることもしています。
新規タイトルや久々に担当するタイトルを実況する際には、練習して準備しないと、そのゲームを伝える上での肝がわからないですからね。ワイプの表情まで目を配らせて、話すべきことはきちんと話さないと、視聴者も盛り上がれない。
見ている人が少しでも楽しめるような実況にしたくて、専門的なことばかりを話してコアな視聴者だけに伝えるのは間違っていると思うんです。
せっかくesportsという形でゲームが注目されているので、少しでも多くの人に興奮してもらえたらと思って実況の仕方を考えています。
――視聴者からのプレッシャーなども感じますか?
平岩:
もちろん感じますよ。これまでやってきたプロ野球などの視聴者とesportsの視聴者の違いはリテラシーにあって、esportsの視聴者のリテラシーはすごく高いと思っています。
野球やサッカーを見ている人って、現役プレイヤーではない人が多いじゃないですか。
でも、esportsは見ている人のほとんどがプレイヤーなわけです。たまに見る専門の人はいますけど。
必然的にゲームにかなり詳しい人が視聴者には多いということになるので、自分にとってのプレッシャーになりますし、モチベーションになっています。
早くから洋ゲーに触れ、コアな方向に進んでいった平岩氏のゲーム人生。行き着いた先は、esportsキャスターというゲーム大会には欠かせない存在だ。
インタビューの後編では、朝日放送を退職する決意の裏側を聞いていく。
写真・大塚まり
class="p-emBox">