洋ゲーマニアがアナウンサーを経てesportsキャスターへ 平岩康佑氏インタビュー【後編】

WPJ編集部

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実況してわかった野球とパワプロの違い

――ゲームのジャンルや種類によって、実況で話すことや着目するところ、難しさなどが変わってくるように思うのですがいかがでしょうか?

平岩:
歴史が長いゲームは難しいと思いますね。

ゲームそのものの理解も必要ですが、過去にあった出来事、名試合なんかを知っていないと実況の席に座ることはできないです。簡単には踏み込めない領域になっていると感じています。

松坂大輔選手が高校時代に、甲子園の決勝でノーヒットノーランを成し遂げたことを知らないのに、高校野球の実況なんてできないじゃないですか? もし、同じような場面があったら、そこは触れていかないといけないですから、知らないということは罪。

けれども、わからないことを聞かないのも罪なので、正直に解説の人に聞かなけれないけない。

自分がわからないことは視聴者もわからない、というレベルにまでは最低限なっておくことはすごく重要なことだと思います。

――松坂選手のノーヒットノーランは球史に残る伝説ですよね。ゲームにおいてそれに匹敵する場面って何でしょうね?

平岩:
すごく難しいですね……(笑)。真っ先に思いつくのはウメハラ選手のEVO2004での背水の逆転劇ですかね。

タイトルごとにそういった伝説が生まれていくのではないでしょうか。

100回行わている甲子園大会の決勝でのノーヒットノーランは、未だに2人しか成し遂げていないことを考えたら、esportsの世界ではまだこれからなのかもしれないですね。

――野球の話題が出たところでお聞きしたかったのが、「実況パワフルプロ野球」(以下、パワプロ)の大会の実況についてです。実際の野球の実況とパワプロの実況で違いはあるのでしょうか?

平岩:
あんまり変わりはなく、野球の実況をパワプロに持ち込んでも成立しますね。

「対左投手○」みたいな特殊能力など、パワプロにしかない要素が出てきたら説明しますけど、勝負どころは一緒ですので。

ただ、試合時間の短さが意外ときついところです。本来の野球実況は3時間くらいなんですけど、パワプロの試合は6イニング制で20分間くらい。

この20分間の中に、試合の盛り上がる場面が詰まっているんですよ。野球の1試合分と同じくらいしゃべる上に、1日に3試合も行われるのは大変なところです。

あとは、パワプロは流れが早いですね。野球の実況では、喋っている間にバッターが打って場面によっては逆転することもあるので、ピッチャーが投げる直前は基本的には黙るんです。

パワプロだとそんな余裕がないくらい試合のテンポが早いので、話の流れを切るタイミングを考えないといけないですね。このあたりが、野球とパワプロの実況の違いです。

せっかく、ゲストに元中日ドラゴンズの谷繁さんや元ヤクルトスワローズの真中監督などのすごい方たちがいらっしゃるので、視聴者の方も話が気になると思うので、点差がひらいていたり、下位打線だったりといったタイミングで話を切り出したりしますね。

――実況そのものは変わらないけど、意識するところに違いがあるようですね。

平岩:
あと、esportsの実況は会場に流れるというのも大きな違いです。

野球の実況って、球場には流れないじゃないですか。だから、応援しているファンによって雰囲気が作られると思うんですけど、esportsでは私たちキャスターがある程度コントロールできる部分なのかと思います。

もちろん、試合そのもので盛り上がるところはありますが、キャスターがしっかり準備をして選手の情報を会場に伝えられれば、もっと息を呑む展開を際立たせられるし、盛り上がっていただけるはずです。

ただ単に「すごい」「うまい」と言っているだけでは進歩はないですし、そこは責任感を持ってやらなければいけないところですね。

シャドウバースが決定打になった転身

――初めてゲーム大会の実況を担当したのはいつのことでしょうか?

平岩:
2018年2月に行われた、RAGE 2018 Springの「シャドウバース」の西日本予選でした。まだ朝日放送のアナウンサーだった頃でしたが、上司にお願いしてやらせていただきました。

その経験が忘れられないですね。会場の熱気もそうですし、ゲームをプレイすることが実況の準備になるわけじゃないですか。

こんなに楽しい準備はこれまでなかったんですよ。

――準備は大変だと聞きます。

平岩:
高校野球だったらベンチメンバーの学年から身長、体重、地方大会の成績や取材した情報を資料にまとめていくんです。この選手は5人兄弟の長男だとか、実況で使える可能性があることは細かいところまで書いておきます。

いざ本番が始まったら、試合は生ものなので瞬間的に喋りますけど、やはり準備が大変。でも、ゲームの準備は今までにないが楽しさでした。

あと、現場のスタッフもみんなゲームが好きな人が多くて、その中で仕事ができることがすごく楽しいですね。

――これまでの現場ではゲームの話をすることはなかった?

平岩:
例えば「スプラトゥーン」の話をするにも、以前は「最近、スプラトゥーンっていうゲームがあって、インクを塗るんですけど……。」というところから話が始まるんですけど、ゲームの現場だったら使っているブキなどの話ができる。それがとても気持ち良かった。

それから、いろいろな大会やプロリーグが始まる話がたくさん出てきました。

アナウンサーを7年間続けてきてある程度のスキルがあってゲームが大好きなので、もし他のアナウンサーが同じようにesportsに参入してきて業界が盛り上がっていくことを想像してみたら、傍で見ているのは嫌だったんですね。

その初めての現場を経験したときには、もうアナウンサーをやめて、esportsのキャスターになろうと思いました。

――最近はテレビ業界もesportsに進出していますが、ゲーム好きアナウンサーが実況するケースは増えそうではないですか?

平岩:
そういう人がいるなら、力を発揮すると思いますね。

テレビ局が、ゲーム好きではない人にやらせようとするパターンもあるんですけど、本人たちもしんどいだろうし、良い結果にはならないと思いますね。僕も、あまり興味がなかったラグビーの実況をやることになったときは大変だったので。

ただ、選手を取材していく過程で好きになっていったということも経験したので、そういうパターンもあるのかもしれないです。ただ、大体はしんどい思いをすることになるでしょうね。

「今度このゲームの実況やってもらうから、100時間プレイしておいて」なんて言われても、興味がない人にとっては辛いことです。僕からしたら「マジですか!それで給料もらえるんですか!?」って感じですが(笑)。

元アナウンサーがesportsキャスターをレベルアップさせた?

――esportsキャスターは、テレビのアナウンサー出身以外の方が多いですが、そういった方たちとの交流はあるんですか?

平岩:
シャドウバース界隈だと現場が一緒になる機会が多いです。

岸大河さんや友⽥⼀貴さん、解説ですけどkuroebiさんとかとは4人で控え室でゲームの話をずっとしていますね。

――他のキャスターの話し方などは気になったりしますか?

平岩:
すごく上から目線な言い方になってしまいますが、私がesports実況をするようになった時と比べてすごく上手くなった実況の方がいます。急にアナウンサーがゲーム業界に入ってきて、少し、焦りみたいなものが芽生えたんでしょうか。

それを見て、逆に私が焦りを覚えましたね。この半年で驚くほど上手くなっていたので。弊社としては競合が強くなって苦しい話ですが、業界としては良いことだと思います。

結局、実況の仕事すべてを弊社の実況者が担当するのは不可能なので、実況者一丸となって業界を変えていければいいなと思っています。

自分が実況するゲームは、他のキャスターの実況を見るようにしています。アナウンサーからしたらありえないなと思う実況でも、見ている人が受け入れていて、しかも面白くなっているのは参考になりますね。

岸さんなんかは、面白いセリフを取り入れていたりして、私にはできなかったことなので勉強になります。

――岸さんもそうですが、キャスターの方ってフリーで活動されている人が多い気がしますが、その選択肢はなかったんですか?

平岩:
やっぱり、同じような仲間を作りたかったという思いがありました。esportsが注目を集めて、いろいろな方に見られるようになる中で、実況のレベルが決して高い水準ではなかったんです。

そのシーンを一気に変えてやりたいなと思って、自分だけでなく、自分の思いを受け継いでくれるようなアナウンサー出身のゲーム好きな人材を何人か引っ張って始めようと。現在は私と柴田の2人だけですが、どんどん入れていく予定です。

本当はゲーム畑出身で上手く喋れそうな人を育成するみたいなこともやっていきたいのですが、なかなか時間が取れなていないのが現状ではあります。

問い合わせはたくさんいただいているのですが、それぞれをきちんと汲み取れる時間がないので申し訳ない限りです。ですが、いずれはそういうことも、進めていくつもりです。


アナウンサーをやめてまでesportsキャスターとして独立した平岩氏。

実況のノウハウや心構えを気さくに話してくれたが、もっとも生き生きとしていたのは、Haloをやり込んだ昔を語ってくれたところだった。

今後も、アナウンサーとしての経験をesportsの現場で存分に発揮してくれることだろう。

間近に控えた闘会議2019をはじめ、さまざまな会場で彼の実況が響きわたるのが目に浮かぶ。

写真・大塚まり

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