岸大河とプロゲーマーは欠かせない 「eGG」プロデューサー佐々木まりなのesports番組論

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esports選手の活躍を伝えるメディアとして、地上波のテレビ番組がいくつかある。
放送時間帯は深夜といえど、半世紀以上にもわたって人々の生活に情報を届けてきたテレビというメディアにプロゲーマーが映っているのを見ると、早く寝なきゃと思いつつもつい見てしまうという方もいるだろう。
今回インタビューを受けていただいたのは、esports番組の1つである「eGG」(日本テレビ)のプロデューサーの佐々木まりな氏。
日本テレビは2018年6月にesports事業を手がける子会社アックスエンターテイメントを設立し、eGGプロゲーミングチーム「AXIZ」の運営にも参入しており、これまでのチーム運営の歩みも含めて話を聞いてきた。
esportsをテレビで伝えることへの挑戦
――esportsの番組を始めるにあたって、どんな構成にしてどんなことを伝えていこうかという構想はあったのでしょうか。
佐々木:
構想を練っていた当時は、地上波だと他局にもesports番組というものは、まだ関東だとなかった状況だったんですね。esportsに限らないゲームを扱った番組はこれまでにたくさんあったと思うんですけど、esports番組となると扱うゲームタイトルが全然違いますよね。私自身がesportsタイトルと呼ばれるようなゲームをプレイしていて思うのが、「自分はそこまで上手くないけど、観戦者としては楽しめる」ということなんです。
そういった観戦シーンを最終的には伝えたいと思っていて、たとえ日本で知名度がないゲームタイトルだとしても逃げずに取り扱い、さらにそのシーンで活躍する選手をゲストとしてお越しいただき、視聴者の方に観戦することを根付かせたいという思いはずっと持っています。
なので、番組にはプロゲーマーの力が絶対に必要だと思っていました。
――地上波でesportsを取り扱っているのは最近よく見かけますが、既存のesportsファンやゲームファンではない人からの反響はあるのでしょうか?
佐々木:
テレビ放送が一般向けという側面があるので、コアなファンのみをターゲットにしてはいけないという考えは頭の片隅にありました。そのために広い層に見ていただけることを意識していて、eGGにはレギュラーとしてDAIGOさんや生駒里奈さんに出演いただいています。2人をきっかけに見てくださる人が出てきてほしいなと。
よくばりかもしれませんが、初心者の方にもコアファンの方にも楽しんでいただきたいと思っています。でも、番組の尺は50分間しかありません。その50分間の中で初心者の方にもちょっとずつわかっていただきたいので、入り口は優しく、後半はプロの戦いを見られるように、制作チームのみんなと作っています。
――インターネットの生配信とは番組作りの考え方が違うような印象があります。
佐々木:
esportsって、2018年のユーキャン新語・流行語大賞のトップ10に選出されたましたよね。なので、ゲームは好きだけど、esportsのタイトルはそこまでよく知らないという方も見てくださっているのは、反響を見て感じることはあります。
あと、普段テレビにあまり親しみがないような若い世代の男性がターゲットの世界なので、その方たちが見てくださっているというのはうれしいなって思います。
岸大河はeGGに欠かせない男
――DAIGOさん、生駒さんの他には、キャスターの岸大河さんがレギュラーとしてご出演されています。以前、岸さんにインタビューした際に、番組側から熱いラブコールをいただいたとお聞きしました。
佐々木:
そうなんですよ! そのラブコールを贈ったのは私です。岸さんがいなければ番組が成り立たないと考えていたので、最初にすごい長文のメールでラブレターを出しました(笑)。
以前、岸さんが解説で出演されていた大会の配信を見ていたんですけど、機材かネットワークのトラブルで進行が止まってしまったことがあったんです。その間、岸さんは復旧できそうか様子をうかがいながら話でつなげるし、ゲームについて全然わからない人にも楽しい言葉遣いをするし、わかる人にとってはすごい刺さる言葉を使ってるのがすごく印象的でした。という話もメールに書いたと思います(笑)。
制作チームは岸さんについて深くは知らない状態で1回目の収録が行われたんですけど、収録後は「岸さんすごくいいね!」と、彼への信頼が生まれたように感じました。わかりやすい言葉遣いが本当に上手だし、いろいろなタイトルを触ってらっしゃるから、とにかく万能ですよね。それでいて、選手に寄り添うことまでもケアできる。
ゲームのことも選手のこともよくわかってる岸さんがいるからこそ、他の出演者はゲームの知識を問わずに視聴者と同じ目線のDAIGOさんと生駒さんにお願いできているかと思います。
選手を輝かせるための番組作り
――番組ではゲーム画面を映すと思うんですけど、よく知らない人にも楽しんでもらう工夫は何かありますか?
佐々木:
複数人でプレイするゲームだと、プレイ中に選手を映しても、誰がどれを操作しているかがよくわからなくなりますよね。そういうときに選手名を画面に表示させるのは基本的なことだと思うんですけど、選手名がよくわからない英語表記だったりするじゃないですか。だったら、プレイ中の顔も合わせて入れてみるとか、選手名にはよみがなを記載するとか、より伝わりやすくするために試行錯誤しています。
あと、鉄拳を扱った回で感じたのは、コマンド入力をどう見せるかが難しい。一瞬のボタン入力をわかりやすくするために、ボタンを押す順番に赤くするなど、制作チームが工夫してくれています。
私たちはプロの人たちをフォーカスしたいと思っていて、新しいことをやろうとしています。それは、難しいのは当たり前で、そこに挑まなきゃいけないし、そこから逃げずにやっていきたいです。
――基本はスタジオで収録した模様を放送していますが、esportsの試合会場にロケに行くなど、新しい展開はありますか?
佐々木:
これまでは1回あたりに1つのゲームという形でやってきたんですけど、ジャンルとしては1周している状態ですので、これからは当初考えていた観戦シーンにフォーカスすることはできないかと考えているところです。
例えば、LJLの会場に行くためにどうしたらいいのかとか、行って何をすればいいのかって、ちゃんと教えてくれるところってあまりないんですよね。会場ではどこを見たら楽しいとか、試合が終わった後はファンミーティングがあるとかは、なかなか伝わってないので、eGGでお伝えできればいいなと思っています。
――会場に実際に行ったことがないけど、行ってみたいと思っている人は結構いると思います。佐々木さんがこれまで見てきた大会やリーグで印象に残っているものはありますか?
佐々木:
初めてちゃんと観戦した「PUBG JAPAN CHAMPIONSHIP 2017」ですね。日本の代表4チームが決まる大会で、その4チームのうち2つがSunSisterだったり、Buhidou Gamingってチーム名はそのままでいいのかなとかだったり、よくわからないところも含めて面白かったんですよ。
それから選手たちがどんどん大きくて華やかなところで戦うのを見るのがすごく楽しくなっていったんですけど、最初にそれを教えてくれたのがPUBGです。前まで別々のチームで戦っていたのに今年から同じチームになるみたいな、移籍事情とかも面白いですよね。
(後編へ続く)
写真・大塚まり
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