解説者と選手の経験でぜるにゃんがわかったプロゲーマーに必要な実績と人脈

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19才で「バトルフィールド4」(以下、BF4)のJCG GrandFinal初代王者となり、その後「オーバーウォッチ」(以下、OW)の解説者へ転身という、ちょっと変わった経歴を持つ日本人プレイヤーがいる。それが、現在Apex LegendsのTeam flosの一員として活躍中のぜるにゃん選手。
今回は、彼がこれまで歩いてきた軌跡をインタビュー。BF4を始めたきっかけや、解説者として気をつけてきたこと、これからのeスポーツについてなど、いろんな角度で話を聞いてみた。
子役で貯めたお金で手に入れた初めてのゲーミングPC
――ぜるにゃんさんは、BF4、Call of Duty(以下、CoD)、そしてApex Legends(以下、Apex)と、ずっとFPSゲームをプレイしている印象ですが、ほかのゲームはやらないんですか?
ぜるにゃん:
暇つぶしでにカードゲームを少しやったりはしますが、基本的にはFPSだけです。ファイナルファンタジーやドラクエも、名前を聞いたことがあるんですが遊んだことはないんですよね。
――ゲームを始めた頃からFPSひと筋なんですか?
ぜるにゃん:
そうですね。もともと家庭用ゲーム機でCoDをやっていたのですが、大学受験を前に一度ゲームをやめたんです。その後大学受験がひと段落してまたゲームを始めようと思ったとき、もう同じ家庭用ゲーム機では戦えないなと思ってPC版に移行しました。
そのとき始めたのが、BFです。当時、国内で一番流行っていたFPSは、CoDとBFでした。しばらくその2本のどちらをやろうか迷っていたのですが、BFが盛り上がっているように見えたのでこちらにしました。
――PC版を始めるには、ゲーミングPCが必要ですよね。それなりに高額ですが、ご自身で購入されたんですか?
ぜるにゃん:
はい、ずっとお年玉を貯めてたんです。昔、子役をやっていた時代のギャラを貯金していたので、その貯金で買いました!
――子役をやっていたという話は初耳です。
ぜるにゃん:
テレビにも出ていましたよ。この動画の12秒付近で、緑の洋服を着て帽子をかぶっているのが幼少時の僕です(笑)。
子役は、幼稚園の頃から小学2年の頃まで4年ほどやっていました。学業に影響が出るため辞めてしまいましたが、今思うともう少し続けていてもよかったかも (笑)。
――そのとき買ったPCのスペックを教えてもらえますか?
ぜるにゃん:
CPUがCore i7-4790K、グラフィックボードがGTX 770、メモリが16GBでした。今から考えると「化石」レベルのスペックですが、当時は17万円と(学生にしては)高価でしたね。これにモニタやキーボードを合わせると、大体20万円ぐらいになりました。
――同じゲームとはいえ、家庭用ゲーム機とでは操作性が変わると思いますが、PCでBF4を始められた時の印象はどうでしたか?
ぜるにゃん:
もちろんマウスの方が良いAIMができてしまうというのはありますが、ゲームをプレイし始めて1ヵ月は、パッド(コントローラー)の方が操作しやすいと思っていました。ですが、今パッドで操作できるかと言われたら、絶対にできないです(笑)。
プロゲーマーに必要なのは実績と人脈
――その頃はクランに入っていたんですか?
ぜるにゃん:
そうです。実はPCを買うとき、ニコニコで配信していたウマゴンという方に相談していたんです。そしたら、ウマゴンさんから「チームを作るけど入る?」と言われ、参加することになったんです。
きっかけを作ってくれたウマゴンさんにはとても感謝していますし、今でもたまに一緒にゲームをしています。
――BFはどのくらい続けたんですか?
ぜるにゃん:
1年半~2年間ほど続けていて、19才でBF4の「JCG GrandFinal」初代王者になりました。その後2016年にチームは解散するんですが、ちょうどその頃にOWが発売されていたので、BF4時代のメンバーでOWをやろうという話になりました。
当時僕は、DetonatioN Gaming BYCMのBF4部門のトライアウトを受けていたのですが、OWはこれから絶対に伸びるだろうなと予想していましたし、友人からの誘いもあったので、最終的にOWを選びました。
――当時のOWの印象はどうでしたか?
ぜるにゃん:
当時はまだFPS要素が強かったということもあり、さまざまなFPSゲームからプレイヤーが集まってきていていました。人と人との出会いもあり、FPSの実力を試せる場でもあったので、とても新鮮でした。
――OWでもチームに所属していましたか?
ぜるにゃん:
はい。一緒に遊んでいたメンバーの1人が突然、プロゲーマーになりたいと言い出したので、Rascal Jesterに応募しようと思いました。それで、Webサイトのお問い合わせフォームから「OWのチームを作りませんか?」と送ってみたんです。
ちょうどその頃、当時のRascal Jester MaVeNick代表もOWチームを作りたいと考えていたみたいで、うまくチームに入ることができました。チームメンバーは7〜8人でした。
――チームに所属する際、所属審査のようなものはあるんですか?
ぜるにゃん:
特にそういうものはなくて、代表と会ってお話しただけです。ですが、僕が気付いていなかっただけで、実は面接だったのかもしれません(笑)。
スキルチェックみたいなものもあるにはあると思いますが、僕の場合はすでにJCGなどで結果を出していたので、そこはクリアしていたのだと思います。
――とすると、プロゲーマーになるには実績を積んでいくことが重要なのでしょうか?
ぜるにゃん:
そうですね。プロゲーマーになるには、「実績」と「人脈」が必要です。人脈があれば、たとえ実績がなくてもその人の実力を見てもらえる機会があるでしょうし、その結果、強いチームに入ることもできます。
反対に人脈がない場合、実績でしか実力を測れません。今回のような取材のお声がけは、記事になるだけの実績がなければ難しいですよね。そういったチャンスを逃さないために、日頃からしっかり自分の実績をnoteに書いておくようにしています。
今何が起きていてその結果どうなったのか?が解説者の重要事項
――プロゲーマーから解説者へ転向した経歴について聞かせてください。どういったきっかけで?
ぜるにゃん:
僕はOWに移行したタイミングでBF4をやめましたが、当時、BF4の大会はまだ続いていていました。
しかし、大会の様子を伝える実況はいても、解説者がいない。そこで、JCGの方からお声がけいただき、解説者デビューを果たしました。
OWでも解説をしました。当時はまだOWの解説者がいなくて、詳しい人は全員プレイヤーという状況でした。そんな中、僕はメタなどの解説ができ、なおかつ最前線で戦っていたプレイスキルもありました。だから解説者に適しているだろうということで、呼ばれたんだと思います。
――解説者として話をするときに心がけていたことなどありますか?
ぜるにゃん:
観戦している人に今どんなことが起きていて、それはなぜなのかということをちゃんと伝えようと思っていました。
観客にはいろんな方がいると思うんです。その多くは初心者で、大会を見ていても今ここで何が起きているのか、どうなったのかがあまり理解できていない。そんなことが続くと、どんどん試合についていけなくなってしまい、ゲームが嫌いになってしまうかもしれない。僕は、それを避けたかった。
なので、今何が起きているのか、その結果どうなったかということを、しっかり言葉にして伝えようと思いました。そのとき意識したのは、そのゲームを知らない友だちと一緒にソファに座り、同じ映像を見ながら説明するというイメージ。友だちが「面白い」と思ってくれるように、わかりやすく、ポイントを押さえて解説しようと思ったんです。
ゲームによっては用語の指定がある場合もあります。例えばOWには、ウィンストンというゴリラみたいなキャラクターがいます。そういうとき、僕は「ウィンストン」とはいわず、「ゴリラみたいなキャラクターのウィンストン」と言いました。そのほうが、初心者の方でも直感的に理解しやすいと思ったんです。
チーム代表としてeスポーツへ関わりたい
――順調に解説者として実績を残している中、最近またプロゲーマーに戻られましたが、その背景には何があったのでしょうか?
ぜるにゃん:
実は、僕はずっと選手としてゲームをプレイしていたいと思っていたんですよ。ただ、解説者をしていた頃は、しばらくやりたいFPSが見つからなかった。
2017年に発売された「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」(以下、PUBG)はFPSではありませんでしたが、興味を惹かれました。しかし、ちょうど就職活動が始まり、プライベートが非常に忙しくて時間がとれなかったんです。そんな事情で、ここ1年ほどは大会シーンからは離れ、学業メインで実生活を充実させていました。
――では、1年間ゲームを休んでいたのですね。それがひと段落したので再開されたのでしょうか?
ぜるにゃん:
やっと去年の11月にひと段落したので、年末に発売されたCoDBO4からゲームを再開しました。
――現在、プロゲーマーや解説者などさまざまな分野で活躍されていますが、これから先eスポーツ業界にどのようにして携わりたいと考えていますか?
ぜるにゃん:
自分のやりたいと思ったことをやっていきたいと思っています。内定をもらったので、もちろん仕事はがんばります。しかし、仕事に影響ない範囲でeスポーツにも関わっていければと。
今はチーム運営に興味があるので、自分のチームを運営しながら関わっていくのもありかなと。Team flosというチームのメンバー(ぜるにゃんを含め3人)を管理しているのは僕なので、今後flosというIPをどうしていくかというのが、自分のやっていくべきことだと思っています。
――これからはチームの代表になり、運営も行っていくということですか?
ぜるにゃん:
そうですね、最終的にはチームの代表として、チームを育てる役割を担いたいとも思っています。
――Team flosとしての野望はありますか?
ぜるにゃん:
世界大会に出たいですね。自分たちが今、国内プレイヤーの中でどのくらいの位置付けにいるのかということはわかっていませんが、この前に出たESL大会の平均キル数や、スコア数的に見ると、国内トップレベルであることは間違いないという実感があります。
――社会人としてこれから踏み出していかれると思いますが、ぜるにゃん選手にとって理想のキャリアみたいなものはありますか?
ぜるにゃん:
選手としての側面もそうですし、ビジネス的な意味でもeスポーツに関わっていきたいと思っています。なので、そちらの方でもしっかりパフォーマンスができるスキルを身につけていきたい。
――それは興業を成功させたり、大会のスポンサーを獲得したりしていきたいということでしょうか。
ぜるにゃん:
はい。大会運営やチーム運営、その他の周りの仕組みづくりについても指導できる立場になっていければいいなと。
就職活動で見えた日本のeスポーツ
――eスポーツの認知が広がっているという感触はありますか?
ぜるにゃん:
そうですね。特にここ2年は勢いを感じます。僕は今年就職活動をしていて、eスポーツに関係ある企業も、関係ない企業も受けてはいるんですが、その上でエントリーシートにeスポーツと書いていると、今のところどの業界でも認知度は100%なんです。
――日本のeスポーツ業界の転機はいつごろだったと思いますか?
ぜるにゃん:
世間的にはいつだったかわかりませんが、わが家的な転機は3年前、僕がBF4で優勝した日がまさに転機でした。
DetonatioN Gamingがマツコ会議に取り上げられ、番組に出ていた選手とその日戦ってきたんです。帰宅すると、親がマツコ会議を見ながら「これ、あなたがやっているゲームでしょ?」と。僕は「今日、その人と戦って勝ってきたんだよ」と返事したら、親が僕を見る目が変わりました(笑)。
――親に認めてもらえた瞬間ですね(笑)。
ぜるにゃん:
そうですね。一般的に「ゲーム業界」が「eスポーツ業界」と呼ばれるようになり、周りの認識も徐々に変化してきました。今では、親から「なぜeスポーツ業界に就職しないの?」と聞かれたりします(笑)。
――最近はメディアのみならず、PCメーカーなどもeスポーツに取り組んでいます。そのあたりはどう思われますか?
ぜるにゃん:
現実を見ると、まだ環境整備していかなければならない状況だと思います。eスポーツは、まだ「マス化」していません。その理由の1つとして、日本のeスポーツの視聴者数がまだ少ないということもあると思います。そのあたりをどうにかしていきたいです。
やり方はいろいろあると思うのですが、例えば月9ドラマの主人公をプロゲーマーに設定するなどもありかなと思います。それだけで、一般的な見かたが変わるじゃないでしょうか。
――格ゲーマーだと世界的にも有名なEVOという大会で優勝するのがいわゆる頂点のようなもので、「圧倒的に権威付けされた大会」ですが、FPSだとどこを目指すんでしょうか?
ぜるにゃん:
多分、パブリッシャーが行う公式リーグや公式大会だと思います。例えばLeague of Legendsだったら、日本ではLJL(League of Legends Japan League)になるでしょうね。フォートナイトだと最近新しく始まった公式大会、CSGOだと公式から認定されているメジャー大会などですね。
――これから解説者の需要は確実に増えていくと思うのですが、今から解説者になるにはどんな道があると思いますか?
ぜるにゃん:
実は解説者はレッドオーシャンで、1つのタイトルにつき主要な解説者は基本1人程度しかいないんですよね。たまたまBF4とOWが僕だったんですが、逆にそこを奪いに行くというのは本当に難しいんです。だから、解説者になりたいのであれば、出始めのゲームに爪痕を残すか、地道に「自分は解説できます」とアピールしていくしかないのかな。
――まだ解説者がいなくて、流行るかもしれない今年リリースのゲームってありますか?
ぜるにゃん:
もちろんApexは注目しているのですが、CoDシリーズのモバイルがどう跳ねるかに注目しています。去年リリースされたPUBGモバイルはかなり伸びましたが、あれは特にインドの市場で人気があるんです。また、最近では中国市場も巨大マーケットになっています。
ですので、中国とインドの市場を獲るゲームって、他の地域で跳ねてなくてもビッグタイトルになるポテンシャルが高い。特にスマホゲーの場合だと大きいですね。張る価値はあると思います。
――解説者になろうという目標を持ってゲームを始める人も当然増えてくると思うのですが、抑えておいた方が良いポイントなどはありますか?
ぜるにゃん:
少なくとも上位層と呼ばれるくらいの実力をつけておくことです。そうでなければ、言葉に説得力がなくなる。反対に、そこをしっかり押さえておけば、安心して解説ができるんじゃないかなと思います。わかりやすい目標としては、大会での実績などですね。
個人チャンネルでの実況が目に止まり、そこから解説者として呼ばれるパターンもあります。しかし、こちらはもともと強いプレイヤーだったというバックグラウンドが必要だし、大会の動画を見て鋭い解説をしていたというキャリアもほしい。そうすると、簡単な道ではないですね。
プロゲーマーと解説者という2足のわらじを見事に履きこなしたぜるにゃん選手。今後、どちらの道を目指すにしても、まずは観客が納得する実力を身につけることが肝要だと教えてくれた。
インタビュー後半では、ぜるにゃん選手が「今一番熱いタイトル」とイチオシする「Apex Legends」について話を聞く。
写真・大塚まり
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