アメリカの古豪プレイヤー兼NCR主催者のJohn Choi氏が伝える“FGC思想”【前編】

世界最大級のesportsイベントである「Evolution」(以下、EVO)(※)の“立役者”に迫る、本インタビュー企画。初回の解説・実況でお馴染みのUltraDavid氏につづき、第2回は北カリフォルニアを代表する古豪プレイヤーの氏に話を聞いた。
アメリカ合衆国出身の彼は、“リュウ使い”として「ストリートファイター」シリーズのトッププレイヤーとして名を馳せた。同時に、アメリカの格闘ゲームシーンの黎明期、成長期をみつめてきた人物でもある。
現在は、大会主催者としてコミュニティの盛り上げに尽力している彼だが、過去と現在でアメリカの格闘ゲームシーンにどのような変化が生まれたのか。そして、日本のコミュニティに対してなにを思うのか。本稿では、前後編の2回に渡ってJohn Choi氏の想いに迫ってみた。
※EVO:格闘ゲームの祭典にして、世界最大級のesportsイベント。1995年から開催されているEVOは、アメリカの格闘ゲームコミュニティが“自分たちの好きなゲームを盛り上げる”ために生まれた。昨年開催の「EVO2017」では、述べ1万人以上が参加し、「ストリートファイターV」部門では東大卒プロゲーマーのときど選手が優勝したことが記憶に新しい。本年度「EVO 2018」は現地時間2018年8月3日(金)から5日(日)まで開催
▼第1回
実況・解説者のUltraDavid氏にアメリカの格ゲーコミュニティ誕生秘話を聞いた
名前:John Choi
Twitter:@JohnChoiBoy

John Choi氏の各タイトルのプレイヤー情報。詳細な情報はShoryuken.comより
トッププレイヤーから大会主催者へ
——:本日はよろしくお願いします。John Choiさんは、いつごろから格闘ゲームに打ち込むようになったのでしょうか。
John:
ゲームセンターには子供のころから遊びに行っていました。なかでも「ストリートファイター」シリーズはかなりやり込みましたね。「ストリートファイターII」(以下、ストII)が稼働した当時もよく覚えています。
自分が通っていた“サンノゼ・ゴルフランド”というゲームセンターでは、ものすごく長い行列ができていて、当時は「こんなに人が集まるものなのか」と本当に驚いたものです。そして、私も対戦形式のシステムに魅力を感じ、まるで催眠術をかけられたかの様に、筺体へと吸い込まれていきました。
——:「ストII」を初めて遊んだときの印象は、いかがでしたか。
John:
私は全然強くなかったし、むしろ必殺技の入力の仕方すらも分からなかった(笑)。まだ当時はインターネットで攻略情報などを調べる方法や、練習する場所もなかったので、強くなるためにはとにかく膨大な時間がかかりましたね。しばらくすると、ある程度ゲーム性などにも慣れて、対戦相手を求めて遠征するようになりました。
――:なるほど。遠征中の出来事についても教えてください。
John:
その当時はどこに行っても「ストII」の筺体が置いてありました。私はまだ子供でしたが、ゲームが置いてあるお店にはよく自転車で巡りました。ゲームセンターはもちろん、コンビニやピザ屋、ビデオショップなど、まるで“道場破り”のように各地の猛者たちに勝負を挑んでいきました。
車の運転免許を取得後は、遠征できる範囲も一気に広がり、車で行けるところまで巡りました。そして、気付いたら友達のグループの中で一番強くなっていたのです。
John Choi(リュウ) vs Mike Watson(ガイル)
——:Johnさんは、北カリフォルニアで10年以上にわたり、トッププレイヤーとして君臨していました。「ストリートファイターIV」(以下、ストIV)発売後は、プレイヤーではなく大会運営者としての役割に集中したようにもみえました。プレイヤーから大会運営などに重点を置くようになった理由はなぜでしょうか。
John:
理由というか、今後の将来について考えたときのひとつの選択肢でした。当時は大学へ通いながらフルタイムで働いていましたが、卒業後については明確なものがありませんでした。そんな折、私の父に末期ガンが見つかりました。
家族に与えられた影響も大きく、そこで私は一度今後の自分の人生について考えることにしたのです。毎年EVOをはじめ、様々な大会に参加していましたが、それを機に大会遠征を控えることにし、残された父との時間を家族と一緒に目いっぱい過ごそうと決めたのです。
――:そうだったのですね。
John:
そこから自身が企画した大会「NorCal Regionals」(以下、NCR)の開催にだけ注力するようになったのです。「ストIV」のリリース後、その爆発的な人気が後押し、NCRの応募も増えて、初のホテル開催になりました。会場が大きくなり、大変になりましたが、筐体をレンタルしたり、運ぶのは慣れたものでした。

最新のNCR 2018は、2018年3月30日から4月1日にかけて開催された。公式サイト
プレイヤーから大会主催者へ、自分の優先順位は変わりましたが、大会を開催することは”習慣”になっていたので、今後もつづけていきたいと思いました。
そんな矢先、父はガンとの戦いに負けてしまいます。当時は相当落ち込み、競技シーンに戻る気もなかったのですが、それでもFGC(Fighting Game Community – 格闘ゲームコミュニティ)に対する愛情が消えることはありませんでした。
だから大会の開催もつづけましたし、いろいろな格闘ゲームのメンバーやコミュニティの手伝いもしました。そこから格闘ゲーム大会の運営者として確立していきました。
——:ありがとうございます。ところで、Twitter上では“FGCのTOP5”についてよくツイートされていますが、多くのリストにJohn Choiさんの名前が入っています。アメリカのベストプレイヤーとしての地位を確立したとともに、2009年以降はメンター(大会運営者)のひとりという印象が大きいように思います。プレイヤーではなく、多くの若者からメンターとして見られていることに違和感は覚えましたか。
John:
いえ、むしろ私の様な“化石”のような古い人間を覚えていただけることに、大変光栄に思っています。少しでも良い影響を与えられたことに成功し、このように覚えられていることが、とても嬉しいですね。振り返ってみれば、FGCは自発的にコミュニティを盛り上げようとするグループが多かったです。とくにストリートファイターシリーズに関しては。
また、トッププレイヤーではなくても、人柄という面で大きな影響を与えた人物もおります。たとえば、格闘ゲームのコミュニティサイト「Shoryuken.com」やEVOを立ち上げたCannon兄弟(※)。彼らは現在のFGCに欠かせないものを用意してくれましたし、ふたりがいなかったら、今のFGCは全く異なるものになっていたことでしょう。ですので、私以外にもたくさんの人たちがFGCの成長に貢献したと思っています。
※Cannon兄弟 : Tom&Tony Cannon兄弟。現在はEVOシリーズの販促などを行っている。彼らが作った大会「Bシリーズ」がなければ現在の格闘ゲームシーンはここまで育っていなかったのではないだろうか
——:IRCのCapcomチャンネルからShoryuken.comが登場し、全世界のプレイヤーと戦えるつながりができました。他のコミュニティサイトに比べ、Shoryuken.comが特別大きく、人が集まった理由はどういうところにあると思いますか。
John:
まず名前が「昇龍拳」になっている時点で、「ストリートファイター」中心のサイトだと分かりやすいところですよね。あとはマニアックな人たちのたまり場でした。また、立ち上げたCannon兄弟が有名ですので、すでに開設当時から多くの人たちが知っていました。たとえるならば、現在で言うところのSNSインフルエンサーのような存在に近かったかと思います。そのため、偶然というわけではなく、適切な人たちが適切な宣伝手法に沿って取り組んだ結果、現在の形に行きついたのだと考えています。

また「Shoryuken.com」には、ゲーム情報(画像左上)、フォーラム(右上)、
大会スケジュール(左下)、プレイヤーランキング(右下)など、
格闘ゲームプレイヤーにとって必要不可欠なコンテンツが多岐にわたり取り扱われている。
——:Shoryuken.comはアメリカだけではなく、様々な国のプレイヤーたちにも知られており、各国のストリートファイター勢の集まりの場所になったと思います。ちなみに、Shoryuken.comが大事にしている要素はありますか。逆に日本のコミュニティは、その事例から何かを学ぶことはありますか。
John:
じつは日本も様々な面でShoryuken.comの成功に貢献してくれたと思っています。Shoryuken.comの立ち上げの際、もちろんYouTubeなどはないため、高い制度のコンボや戦略的なテクニックについては口頭でしか伝える方法がありませんでした。
しかし、その当時、幸運にも私はたくさんの日本のトッププレイヤーと友達になっていて、高いレベルの知識を得ることができたのです。たしかShoryuken.com初期に書いた記事の内容は、日本のトッププレイヤーから教えてもらった情報で、「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」の移動投げに関する説明や、「ストリートファイターZERO3」でのしゃがみキャンセルなどレベルの高いテクニックについても動画をアップしていました。
貴重な情報源の多くは、日本からでした。これらの情報がShoryuken.comに集まり、爆発的な人気の一因になったと思っています。
もうひとつの要因は、Cannon兄弟がWEBサイト制作における知識を身に着けており、良質なサイトに仕上げる能力を持ち合わせていたことですね。
トッププレイヤーから大会主催者となったJhon氏。現在もつづくNCRは、アメリカの格闘ゲーム大会において、存在価値の高い位置づけに成長した。【後編】では、Jhon氏が大会を通して伝えたいメッセージをはじめ、EVOの成長要因、そして強豪プレイヤーたちのエピソードを語ってくれた。
■成長を続ける男、「ストV」トッププレイヤー“だいこく”に迫る

Capcom Cupに出場するため、そして優勝するために海外大会を遠征している猛者がいる。その名も「だいこく」。ストリートファイターVにおいてトッププレイヤーであり、強気な攻めと大舞台でも萎縮しない強いメンタルで強豪プレイヤーたちと日々戦っている。