音楽ゲーム×esportsの発展に尽力 プロゲーマー・DOLCE.【後編】

音楽ゲーム “オールラウンドプレイヤー”としての実績も
――: DOLCE.さんの代名詞といえばIIDXトッププレイヤーですが、個人的には公式大会におけるBEMANI9機種の総合スコアを競うBEMANI Master部門(※)で優勝されたのは衝撃的でした。まさに音楽ゲームの“オールラウンドプレイヤー”です。beatmaniaシリーズを中心に遊んできたと仰っていましたが、9機種はどのように練習されたのでしょうか。
※BEMANI Master部門:KONAMI Arcade Championship 2012で行われた、BEMANIシリーズの9タイトル(機種)での総合成績を競う部門。総合的な腕前が求められる。
DOLCE.:
先ほど1本のゲームを攻略するイメージとお話しましたが、それをほかのタイトルでも同じように実行しました。ある程度期限を設けて「この1カ月間はDrumManiaしかやらない」と1タイトルに集中し、その期間はbeatmaniaをはじめほかのタイトルのことを考えないようにします。すると、徐々に各々のタイトルで地盤が固まっていきました。
――:BEMANI Master部門の開催が発表された際に、急いで練習されたわけではありませんよね。
DOLCE.:
えぇ。その時全く触れていなかった「DanceEvolution」に限っては、告知があってから急いでゲームシステムやスコアの算出方式などについて調べ回りましたが(笑)。ほかの機種については、もともとすでにある程度やり込んでいたものでした。だからこそ、BEMANI Master部門ではそれが活きましたね。
――:9機種とはいえ、ボタンの個数、アクション方法、演出、筺体の大きさなど、各々のタイトルでその特徴は千差万別です。しかし、すべて同じ“音楽ゲーム”です。やはり同じ音楽ゲームとして、タイミングや反射神経など共通して活かせるスキルはあるのでしょうか。
DOLCE.:
活かせるところはたくさんあります。なかでもリズム感と判定のタイミングなどは、1つのタイトルをやり込んでいれば、それ相応に養われる部分でもあります。
先ほど「音楽ゲームはスポーツに近い」と話しましたが、やはり身体にしみ込ませるのは大事です。それらは必ず潜在的にほかの機種でも活きてくると考えています。そのほか、ある程度やり込んだ機種に似た要素を多くもつものから攻略を進めるのも、オールラウンドプレイヤーになるための近道かもしれません。
――:ちなみにbeatmaniaやIIDXの次に得意な音楽ゲームってなんでしょうか。
DOLCE.:
DrumManiaですかね。期間をあけてもそれなりに安定してプレイできてます。
――:現在IIDXでは、25作目「CANNON BALLERS」が稼働しています。シリーズを振り返って本当に膨大な楽曲数がありますが、 DOLCE.さんが印象に残っている楽曲はありますか。……まあ、あり過ぎてすぐに「これだ」というものを挙げられないと思いますが(笑)。
DOLCE.:
やはり新曲は記憶に残りやすいので、つねにお気に入りですね。ただ、印象的……というか、衝撃的だったのは、やはり「V」(※)ですね。
※V:「beatmaniaIIDX 5th style」に初登場。ヴィヴァルディ作曲のヴァイオリン協奏曲第4番ヘ短調 RV.297「冬」をアレンジした楽曲。当時の高難度楽曲として、多くのプレイヤーたちを翻弄した。
――:IIDX初期のボス曲として大変有名な楽曲です。
DOLCE.:
はい。曲と譜面が見事に融合した1曲だと思います。Vを初めてみたときは、本当に衝撃的でした。むしろVやりたさに、わざわざ収録されている家庭用版を購入して、繰り返し遊んだのをよく覚えています。
そのほか、楽曲については、IIDXを通してプライベートでもクラブミュージック系を聞くようになりましたね。趣味の範囲ですが、実際のDJもやるようになって、好きな楽曲という意味合いでは挙げ切れないです(笑)。
――:2016年2月の「The 5th KONAMI Arcade Championship beatmania IIDX部門」優勝を最後に公式大会から引退されたDOLCE.さんですが、現在の練習はどのようなことをやられていますか。
DOLCE.:
腕前の上達または維持については、引きつづき意識的に行っています。最近ではYouTubeで配信をするようにもなったので、より一層、人にみせられる腕前は維持しておきたいと思ってやっています。
アーケード版はもちろんですが、自宅のPCで遊べる「beatmania IIDX INFINITAS」(※)を用いても練習しています。限りなくアーケード版に近い環境でプレイできますので、練習ツールとしてはかなりオススメです。
※beatmania IIDX INFINITAS:2015年サービス開始。PCオリジナルタイトル。beatmania IIDX SIRIUSの楽曲を中心に、各シリーズの人気曲や、オリジナル楽曲を配信。プレイ料金は月額課金制などを採用。
音楽ゲーム×esports発展のために
――:IIDX問わず、音楽ゲーム市場を長くみてきたDOLCE.さんですが、昔と今で変化してきたことはありますか。
DOLCE.:
やはりインターフェースは劇的に変化しましたね。タッチパネルを採用したタイトルをはじめ、スマホの音楽ゲームタイトルも人気を博して、市場としてはどんどん拡大しているのではないかと肌で感じています。個人的にはボタンで叩くタイプのタイトルが好きなので、上手く共存しながら、音楽ゲーム市場がより盛り上がっていけるようになれば嬉しいですね。
――:昨今のスマホ系音楽ゲームタイトルの台頭は印象的ですよね。若い人たちが音楽ゲームに触れる機会がとても増えたタイミングでもあります。
DOLCE.:
音楽ゲームというジャンルが盛り上がることに関しては、本当に喜ばしいことですね。1人の音楽ゲームプレイヤーとしても、新規の人たちを増やしていきたいという思いが強いです。また、音楽ゲームそのものの知名度は高いですが、競技性の高さとしての一面はあまり知られていないと思います。
――:だからこそ、その側面を伝えていきたいと。
DOLCE.:
はい。当然ゲーム自体の認知度も上げないといけませんが、かつ競技性の高さ・面白さも伝えていきたいです。僕がゲームタイトル側のプロとして買われた以上、そこが目下の課題でもあるかなと感じています。なので、自身のYouTubeチャンネルでは頻繁にARENAモードの配信などを行い、対戦・観戦の面白さを伝えています。
今のプロの立場として、いわゆる一般的に認知されているほかのプロゲーマーの方々と、自分に求められるものは若干違っていると感じています。自分が「タイトル側の求めるプロ」だとすると、ゲーム自体のプロモーションにつながる活動をして行きながらも、「選手としてのプロ」がそのタイトルで活躍できるような地盤作りも行っていけたらいいのかなと思っています。
それには、まずプレイヤーが輝ける機会を増やすために、大会やイベントなどを積極的に行っていくことが必要だろうなと思います。
――:音楽ゲーム×esportsの発展に関しては、どういうものが課題でしょうか。
DOLCE.:
先ほども話しましたが、やはり選手が輝ける機会を増やすことです。
そしてどのジャンルにも共通すると思いますが、観戦していてわかりやすいかどうかも課題の1つですね。比較的、格闘ゲームやFPS・TPSを含むシューティングゲームなどは「勝負している感や勝ち負け」がわかりやすいですが、音楽ゲームは知らない人がみた場合、バチバチ叩いててなにかすごいプレイはしているけど、スコアだったりルールだったり、いまいち勝負事としてはピンと来ていないんじゃないかなと思います。
僕はゲーム外の部分で、実況だったり、そのすごさを伝えたりと、状況をわかりやすくかつ面白く伝えるための工夫を取り入れなくてはならないと感じています。そういう意味では、IIDXのARENAモードは、競技性の面白さを伝えることに関しては、いち早く着目した素晴らしいモードだと思っています。
このARENAモードや、周りの環境が今後さらに進化していけば、新たなムーブメントが起こる可能性も十分にあると考えています。IIDXに関わらず、どの音楽ゲームに関しても高い競技性が含まれていると自負してますので、これからもその部分は強調して盛り上げていきたいです。
――:長いIIDXシリーズにおいて、最近は若いプレイヤーたちも頭角を現しているのではないでしょうか。
DOLCE.:
はい。ゲームに収録される譜面レベルの上昇なども経て、若くて上手いプレイヤーは昔に比べて圧倒的に増えました。前回の「The 7th KONAMI Arcade Championship beatmania IIDX部門」の優勝者である「U*TAKA」君はまさに新世代を代表するプレイヤーといえるでしょう。
彼のようなヒーロー的な存在のプレイヤーはどんどん表に出てきてほしいし、長くつづいているゲームにおいても、プレイヤーの新陳代謝が激しくなってきている部分は個人的にとても嬉しい傾向です。
優勝を決めたU*TAKA選手のプレイ(画面左下)。
――:海外の音楽ゲーム競技シーンはいかがでしょうか。
DOLCE.:
今は韓国勢の台頭がすごいです。韓国勢が特徴的なのは、各譜面のプロフェッショナルがいることですね。スクラッチが得意な人、BPMの速い曲が得意な人、連打やズレ譜面が得意な人、スコアの精度がとにかくズバ抜けている人など、それぞれ特徴的な譜面構成に特化したプレイヤーがなん人もいるのです。個性が出ていてとても面白いですし、ARENAモードで対戦する際もそれぞれ安定して高いスコアを叩き出すため、全体的にもレベルは高いです。
――:オールラウンダーというより、それぞれが得意な武器をもっている形ですね。
DOLCE.:
えぇ。皆さんキャラクターとしてかなり尖っています。ただそのなかでも、「The 6th KONAMI Arcade Championship beatmania IIDX部門」で優勝を果たしたLICHT君は、本当に全ジャンルが上手いです。現在彼は日本で暮らしていて、日本の勉強をしているみたいですので、みなさん優しく接してあげてください。
優勝を決めたLICHT選手のプレイ。
――:今後の日韓の音楽ゲーム勢力に関しても楽しみに見守っていきます。最後にDOLCE.さんの今後の取り組みについて教えてください。
DOLCE.:
引きつづき、音楽ゲームの知名度向上につながるような活動を行っていきたいです。それを踏まえて、ARENAモードを用いた大会用のルール作り、KACなどの各機種への大会に関するアドバイスなども積極的にしていきたいですし、多くのプレイヤーが脚光を浴びるような土台作りにも努めていきたいです。
僕だけではなく、音楽ゲーム界隈には本当に上手いプレイヤーがたくさんいます。単なるゲームと言われようが、1つのことに真剣に取り組めるのはとてもすごいことで、そんな彼らが注目されることで、「頑張ったことへの対価」をきちんと得て欲しいし、その背中をみて「自分も頑張ろう」と思える人が増えて欲しい。
そしてゲームでも「これだけ盛り上がれるんだ」というものを、いろいろな人たちにみせていきたいと思っています。そのほか、まだここでは言えないような計画も進行中です。ぜひ、楽しみに待っていてください。
どんな人気ジャンルも年月が経てば、ハードルが高くなってしまうもの。しかし、同時に人を魅了する洗練されたプレイ・テクニック、奥深い競技性の面白さが生まれてくる。現在DOLCE.選手は、“音楽ゲーム×esportsの知名度向上”という新たな領域にチャレンジ。既存プレイヤーの盛り上がりはもとより、新規でも楽しめる配慮を意識しているのだ。
若手注目株も頭角を現してきて、市場活性の潤滑油としてさらなる後押しも期待できる。そして、気になるDOLCE.選手の今後の取り組みについて。彼の新たな計画も楽しみに待ち、発表された際には快く応援していきたいと思う。
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写真・大塚まり