お笑い芸人兼トッププレイヤー・西澤祐太朗の「スプラトゥーン」上達の心構え【後編】

得意武器とチーム戦の立ち回り
――:ここからは、スプラトゥーンにおける西澤さんのスタイルをお聞きしていきます。まずは、お気に入りの武器はありますか。
西澤:
今はノーチラスというスピナー系の武器ですね。チャージキープができるのですが、これがまー面白い。使いやすいかといわれれば、かなりトリッキーな武器なので扱いは難しいです。というのも、もとのスピナー部分が弱くて、そこにチャージキープをもたせてしまっているので、使い方によっては弱い武器にもなります。
そもそも、スピナーのメリットは移動が速いことです。でも、ノーチラスはかなり遅いんですよね。その代わりにチャージキープができるのですが、そこまで強くないし、移動は遅いし、射程は短いし……という。でも逆にこの弱さが癖になるのですよ。いやはや面白い。
8月1日午前9時、新しいブキ「ノーチラス47」が追加される。
スピナータイプとしては初搭載となるチャージキープに加えて、発射中の再チャージ機構まで備えた、機能が盛りだくさんのスピナーだ。
サブは「ポイントセンサー」、スペシャルは「イカスフィア」だ。 pic.twitter.com/L84BXIFDSq
— Splatoon(スプラトゥーン) (@SplatoonJP) 2018年7月31日
――:では、西澤さんが得意としている武器はなんですか。
西澤:
基本的には「なんでももたせてもらいます」という状態です(笑)。初代はカーボンローラーを使用していましたが、2からはチームに上手い3人を集めてしまったので、間で使える武器を探して、最終的に前衛不足を考慮し、スプラマニューバコラボというシューター系の武器を使うようになりました。
西澤:
はい。メンバーに声をかける際にも「俺はなんでも使うからから、一緒にやろうよ」というところを売りにしていましたので。
――:練習の際も武器はいろいろ換えているのですか。
西澤:
そうですね。スマブラのころにドンキーコングである程度上位にいけたので、プレイ時間さえ投資できれば、なに使っても上にいけるだろうという自信がありました。メンバーもこの3人だし、大丈夫でしょう……みたいな。
――:西澤さんにとって、これまでは個人での配信などの活動から一転、チームとしての活動に切り替わったと思います。現状についていかがでしょうか。
西澤:
そもそも、自分が呼び込んだメンバーはめちゃくちゃ上手いんですよね。僕は初代のころは、まだ競技としてガッツリやっていたわけではないので、ソロとチームプレイのギャップを埋めるためにも練習などで助けてもらっています。
――:1人で野良試合で対戦するよりも、やはりチームとしての立ち回りは変わってきますよね。
西澤:
そうです。スプラトゥーンの1人プレイは、たとえ4人1チームとはいえ、自身で全部の役割をやらなければなりません。味方が倒せないのであれば、自分が倒しにいくほか、前衛・後衛についても臨機応変に切り替えるなど戦略はバラバラになりがちです。
これがチームだと、きちんと事前に役割を決めて、それに応じた立ち回りができるメリットがあります。ただ、最初はそのチームとしての立ち回りが壁に当たってしまいました。とにかくチーム戦は難しい。
――:大会に参加する際は、メンタル面で気を付けていることはありますか。
西澤:
これはあんまり気にしたことはないですね。芸人として活動していることもあり、大会では緊張しないです。……あ、ただ3ヵ月かけて行った「Splat Japan League」プレーオフでは、M-1よりも緊張しましたね(笑)。無事に優勝できて本当に良かったです。
西澤:
芸人としてネタをやるときは、言い訳ができる瞬間があります。お客さんの好みもありますし、そもそも人を笑わせる行為に答えってないじゃないですか。でも、ゲームでは負けたら負け、「自分が弱かった」で終わってしまうのです。そういう意味では、ゲームの大会はシビアに感じます。
――:徐々にチームの力も確固たるものになってきたのではないでしょうか。
西澤:
こちらからいわせてもらうと、自分が成長させてもらっている感じです。なにせ、チームメンバーはもうすでに強いので(笑)。その分プレッシャーはかかりましたけど、結果的に優勝できてよかったと思います。
西澤流“スプラトゥーン上達の心構え”
――:西澤さんは、YouTubeチャンネル「Ch裏切りマンキーコング」において、解説や初心者向けの動画を投稿されています。率直に脱・初心者に向けて、なにをやればいいのでしょうか。言葉で説明するのは難しいかもしれませんが……。
西澤:
いやいや、簡単です。西澤の動画を見ればいいんですよ(笑)。

「Ch裏切りマンキーコング」の動画一覧。
スプラトゥーン2の関連動画は、450本以上にも及ぶ。
発売から1年2ヵ月と考慮しても、ほぼ毎日投稿しているのに等しい。
YouTubeチャンネル:Ch裏切りマンキーコング
――:なるほど(笑)。でも冗談抜きで西澤さんのチャンネルは、それぞれの動画でステージの立ち回りやテクニックを丁寧に解説されていますよね。
西澤:
ありがとうございます。でも、ランクがA+の人は絶対にSやS+まで行けると思いますよ。そのためのやり方がわかっていないだけなのです。今までの経験や考え方をしっかりもっている人の成長は早いと思います。
――:先ほどプレイ時間の重要性を説いていましたが、まずはとことんやり込むところから始まるのですね。
西澤:
そうですね。まずは自分の得意な武器に集中することです。そして、とにかく楽しみながらプレイしましょう。それでもつまずいて、上を目指したいと思ったら動画をみてほしいです。
西澤:
ギアに関しては好みだと思っています。そもそも、プレイにおける癖を理解して調整する必要があります。たとえば、気付かぬうちに特攻していてインクが切れやすい人、かたや潜伏をメインとした立ち回りでインクが切れにくい人。それぞれの立ち回りで装着するギアは変わってくると思います。
上のレベルになると戦略的にギアを使うため、「このギアだからインクに余裕のある動きをしよう」というように立ち回りそのものを変えていきます。……ただ、楽しむ分には自分の好みでいいかなと思います。
――:しっかりとギアを活用したいと考えている人は、どのような部分に気を付けるべきでしょうか。
西澤:
実はサブを1個付けるだけで、すごい変化があるギアもあります。たとえば、スーパージャンプの時間短縮、爆風軽減はひとつ装着するだけで一定の効果が出るので、そのあたりを知っておくといいかもしれません。
――:立ち回りについてもお伺いします。チーム戦では、戦況をみながら戦略を切り替えることはあるのでしょうか。
西澤:
あります。ただ、正直なところスプラトゥーンという競技に関しては、まだしっかりと戦略的に動いているチームはないのではないでしょうか。比較的日の浅いタイトルでありますし、プレイヤーの年齢も若ければ経験も少ないですし、割と行き当たりばったりの場面が多々あると思います。
そうした中、自分たちのチームでは戦略的に動くことを意識的にやろうと決めています。でも、実際の試合では相手の武器は開始直後で判明するので、どのような戦略に切り替えて攻めるかはまだまだ練習中ですね。
プロゲーマーに必要な体力と人気の魅せ方
――:西澤さんにとって、目標やライバルにしている選手はいますか。
西澤:
個別の選手に関してはいませんね。純粋にチーム内でどうすれば結果を出せるのかしか考えていないです。たとえば、自分が思い描く未来を実現するために、「この大会で優勝しないとダメだな」「早いうちに実績を作らなければ」というふうに考えてアクションしています。
――:ほかに力を入れているタイトルはありますか。
西澤:
息抜きでほかのゲームもやりますが、基本的に対戦ゲームはスプラトゥーンだけです。正直、片手間で極めるのは無理な年齢になってきています(笑)。やっぱり衰えを感じますよ。今のスキルのまま身体年齢が20歳くらいに戻ったら、恐らく自分が一番上手いのではないかと思うほどです。
――:歳の影響は反射速度などで感じるのでしょうか。
西澤:
実は、反射神経はそこまで大きくは変わっていなくて、むしろ経験で予測できる部分が増えてきますね。一番影響するのは、集中して長くプレイすることが難しくなることです。昔スマブラをやっていたときは、3日間寝ずにできたのですが、今はもう無茶はできませんね。
――:そもそもの練習量が減ってしまうと。ちなみに日々の練習スケジュールについても教えてください。
西澤:
個人・チームの練習を含めると、1日6時間~10時間くらいです。これでも少なくなったほうですね。やはり長時間触ると目が疲れるので……。なにより集中して練習しないと何の意味もありません。それを上げるためにプロゲーマーは筋トレとかをしているんでしょうね。
――:今後の展望について教えてください。
西澤:
やりたいことがたくさんあります。
選手としては、自分の体力や結果が付いてこなければ潔く辞めようと思っていますが、できる限り長くつづけたいです。仮にプロゲーマー引退後は、芸人として変わらずゲームの楽しさを伝えていきたいです。
――:自身がオーナーの新しいチームを立ち上げるのも面白いと思います。西澤さんは解説などを行っていて、教える側のノウハウも溜まってきていますし。
西澤:
いろいろなプロゲーマーを見てきて思うのが、プレイはもちろんですが、普段の立ち振る舞いや人気の出し方も必要だと思います。そういう人気の魅せ方は、自分自身もある程度のノウハウをもっています。人前で喋るのはそれ相応のスキルが伴いますよね(笑)。仮に僕が教える立場なら、そういう部分もサポートできるのではないかと思います。

写真撮影の際、西澤選手は「選手は身だしなみも重要」と言い出し、自ら爪を切って手元を整えた。
テクニック以外で魅せるプロesportsチーム所属としての心意気を感じる瞬間だった。
芸人でありながらプロesportsチーム所属として活躍する西澤選手。その活動内容は先々を予測した考えの結論であり、自分の夢へ進むための将来設計に基づくものであった。彼の生き方を真似することは難しくとも、ゲームで仕事をするために別の何かになるという生き方は、まだ将来を決めかねている若者にとって道の1つになり得るのではないだろうか。
“裏切りマンキーコングの西澤祐太朗”と“Libalent Calamariの西澤選手”。どちらの彼も本当の姿であり、その2つが重なったとき“ゲームのお兄さん”という最大の夢が叶うのだろう。その姿を見届けるためにも、これからも彼に声援を送りつづけていきたいと思う。
写真・大塚まり
©2017 Nintendo
【あわせて読みたい関連記事】
スプラトゥーン×パワプロの二刀流を実現するたいじの流儀【前編】