モンストの大会はなぜ人を惹きつけるのか――大会運営のキーパーソンに聞く

Mako(WPJ編集部)

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モンスターストライク(以下、モンスト)のeスポーツシーンが熱い。

2018年からプロチームが全国各地で戦うツアー形式の大会を開催しており、現在は2回目となる「モンスト プロツアー 2019-2020」の真っ最中。プロでなくても出場できる「モンストグランプリ」は2015年より毎年開催されており、昨年からはプロの資格を得られる登竜門的役割も担っている。

2015年から大会に取り組み、今や賞金総額1億円の規模(モンストグランプリ2019 アジアチャンピオンシップ、モンスト プロツアー 2019-2020)にまで拡大したモンスト。その盛り上がりの裏には、プレイヤーが参加しやすい大会設計や観客向けの施策があるはず。

そこで、今回はXFLAGでモンストのeスポーツシーンに深く関わる内田洋平氏、青山智史氏のお2人に話を聞いてきた。

地域のヒーローを生み出すプロツアー

東京、大阪をはじめ、全国6会場で7大会のレギュラーシーズン、およびレギュラーシーズン成績上位4チームが出場できるツアーファイナルが東京で実施されるプロツアー。実はモンストグランプリの予選と同じ地域で試合が行われている。全国を周るツアー形式にしたのには、この“地域”が背景にあるという。

内田:
ツアー形式にした理由はいくつかあるのですが、試合はモンストグランプリの予選と同じ地域で実施しています。プロツアーに出場しているチームは一部を除き、その予選を勝ち抜いてプロになっていて、それぞれの地元があるんです。

そういった彼らが出てきた地域を周るのがすごく重要だと思っています。

チームが勝ち抜いた地域をホームとして、そのチームに対して地元の応援が入り、その地域が盛り上がっていく。各地域でヒーローを立てていく、というのがツアー形式で周っている理由の1つです。

青山:
他の側面もありまして、モンストグランプリでは地方予選があって決勝大会を主に幕張で開催しています。そうすると、例えば中部が地元の今池壁ドンズαなどは、中部と幕張でしか試合をしない。

ですが、チームが全国に足を運ぶツアー形式にすれば、例えば福岡在住でもでも会場で今池壁ドンズαを見ることができます。

これまで配信でしか応援できなかったチームを会場で見てほしいと思い考えた施策でもあります。

――実際に各地でファンの増加は実感できましたか?

内田:
去年のプロツアーの段階から生まれてきたのは感じていました。

特に今池壁ドンズαは顕著で、去年は東京から始まって一番最後のファイナルの前に名古屋で試合があったのですが、名古屋は彼らのホームタウンということもあり、応援団みたいなものが結成されているんですね。会場内で手作りの旗を持っている人たちが何人もいて、なんとかキララEL選手が会場を煽ると観客もそれに返すというコールアンドレスポンスが起きたりもしました。

それまではとにかくスティックバルーンを叩くだけだったのが、ファンが直接的に応援するというように変わっていき、実際に行動として起こるようになってきたんです。

その結果、今年のプロツアーでは、「壁ドン団」と呼ばれる真っ白いパーカーを来ているファンたち生まれるにまでなりました。これは今池壁ドンズα側から配っているということもありますが。

また、今年はツアー会場で各チームの応援Tシャツを販売しています。好きなチームのTシャツを買って着ることで、自分がどこのファンだというのを一般のファンの方たちがアピールするようになってきたという部分は今年で変わってきているのかなと。

壁ドン団たちの応援もあってプロツアー第1戦を制した今池壁ドンズα。なんとかキララ選手のコメントに観客は盛り上がる

――開催場所でいうと、今年は12チームがツアーの出場しているところ、レギュラーシーズンの第1~6戦は8チームトーナメントで開催されています。各会場で4チームが出場しない形式になりました。

内田:
プロツアーは3~4ヵ月を使う長期的なイベントなので、やはり選手にかけてしまう負担が大きいというのは感じていることだったんです。地域によっては負担が大きいということは実際に選手から意見をもらっていました。

そこをいかにケアしつつ、イベントとして成立させるのかというところは、考えて改善していかなければいけないことです。

他にも、去年はチームメンバーは4人制でしたが今年は5人制に変更しました。

モンストのプロ選手たちは他に仕事を持っている方が大半です。他のゲームタイトルでは専業プロゲーマーが生まれていますが、モンストの場合はそうではありません。当然、スケジュールが厳しいだとか、体調不良の場合に代わりの選手がいないといったことも考えられます。

一般的なスポーツでも、不測の事態には控えのメンバーに代えられる、というのは普通ですし、モンストにも導入していくべきだということで、5人制の導入を決めました。

親身なコミュニケーションで選手と関係づくり

eスポーツシーンの主役はプレイヤーであると考える人は多いだろう。XFLAGでは、プロとして活動していくプレイヤーに対するケアにも重きを置いている。

内田:
プロになった後の選手に対して、プロ説明会というものを実施しています。

プロとしてどういう風にやっていってほしいのか、XFLAGが求めるプロ像というのはどういうものなのかを伝えさせていただきます。去年は元プロテニスプレーヤーの杉山愛さんをお呼びして講義していただくといったこともありました。

選手たちもちょっと前までは一般のプレイヤーだったんです。プロになって急に「言動に気をつけてください」とか言われても、おそらくピンとこないんですよね。

なので、我々からそういう機会を作ります。例えば弊社の動画にキャスティングして、その際にある程度レクチャーをするといった形で場数を踏んでもらうこともあります。

――地域によっては試合出場の負担が大きいなどの意見はよく選手から寄せられるのでしょうか?

内田:
選手からヒアリングする中で出てきますね。

Discordを使って選手とのグループを作り、そこでコミュニケーションをとれるようにしています。

我々は「何かあれば議論しましょう」というスタンスでいるので、選手から要望や提案があれば、公平性やルール上の不備なども含めて検討しますし、取り入れるのが難しい場合は理由と合わせて回答します。

また、こちらから相談することもあります。

例えば、昨年からファンの方から選手と話す機会がいつどこであるのかわからないという声をいただいていて、試合後に出待ちする方もいました。しかし、選手はメディアさんのインタビュー対応や写真撮影があるので待たせてしまいます。

そこで、試合前に時間と場所を決めて選手からチームステッカーを配ってもらいファンとコミュニケーションをとれるようにしました。

ただ、これには選手の協力が必要不可欠です。試合直前の大事な時間を奪うことになるので、勝手には決められません。そこで、選手のみなさんに聞いてみたところ、ぜひやりたいという意見が圧倒的に多く、実現することができたんです。

――選手から直接意見を伝えられる環境まで用意しているのですね。

内田:
会場内で実施する小さいイベントも選手の協力のもと実施できるので、選手とのコミュニケーションはすごく大事なことです。

常日頃から相談を受け付けていますし、選手側もこういったコミュニケーションがとれるとわかっているからこそ相談してくれる。そういう関係ができつつあるんじゃないかなと思います。

逆転を生むステージ設計

モンストグランプリやプロツアーで使用するステージは、モンスト本編のクエストから採用されるほか、専用に作られるものもある。その採用基準やステージ設計はどのように決めているのだろうか?

青山:
本家モンストにあるものから持ってくる場合は、ステージの知名度がありそうなもの、それでいて競争に適しているものを選んでいます。

専用で作っているものに関してもいろいろなタイプのステージがありますが、共通するコンセプトは、逆転が生まれやすいようにするということです。負けていても最後まであきらめずに勝ちを狙えるようなステージ構成にしようとしています。

――具体的にどういうことを気にしているのでしょうか?

青山:
制作されたステージをチェックしているときに考えているのは、“平均手数”と“最短手数”の差です。これが大きければ大きいほど、突破する手数の振れ幅が大きいということになります。

加えて、その差がステージ後半の方が大きくなるようにしています。その方が、プレイ中に停滞してしまうシーンがあったり、それを一気にまくるシーンもあったりと、逆転が生まれやすくなりました。

あとは運要素を整理するということをやっています。

モンストはもともと競技として作られたものではないので、本来あった遊びとしては成立する運要素が競技としては成立しにくい仕様がいくつかありました。それが発生するかどうかでタイムが大幅に変わってしまうということもあり、そういった要素を取り除くということの意味での整理です。

とはいえ、競技シーンに対応可能な運要素は残しておかないといけないという部分もありましたので、運要素を適切にするという表現が正しいかもしれません。

――確かに過去の大会を振り返ると、逆転が起きたシーンがけっこうあったような気がします。青山さんの狙いどおりではないでしょうか。

青山:
そうですね。ただ、プロツアーやグランプリの決勝とかになると、プレイヤーが想定している手順でどちらが速くクリアしきれるか、という対戦も多いです。

選手たちは我々の想定を超えるプレイを試合の場で見せてくれます。運営とプレイヤーの人数の違いの他、プレイヤーのスキルの高さからも、そういったプレイは出てきますね。想像を超えるきれいなプレイがでてくると、驚きと楽しさとともについ見入ってしまいます。

知識や戦略による差別化を狙ったルール

モンストの大会は、指定ステージのクリアタイムを競う「タイムアタックRound」と、ピックシステムで使用キャラクターを決めて対戦するトーナメント「バトルRound」で構成される。

プロツアーでは、タイムアタックRoundの結果によって、バトルRoundでピックの先攻/後攻選択権を取るかステージ選択権を取るか選べるようになっている。また、順位に応じてポイントを獲得でき、ツアーファイナル進出の行方を左右するものでもある。

青山:
試合の面白さの中心は、やっぱり対戦する2チームがステージを駆け抜けていく中でのせめぎあいや疾走感というところだと思うんですけども、そこに至るまでにどれだけ練習してきたか、キャラクターの知識を蓄えて戦略を練ってきたかというところで他チームと差別化されるように取り入れたのがピックシステムです。

2017年に導入したシステムなのですが、それまでは「モンスターストライク スタジアム」(モンストスタジアム)はモンスト本編とデータ連携する仕様で、モンスト本編で持っているキャラクターしか使えませんでした。それがなくなって全員一律ですべてのキャラクターを使用できるようにしたため、試合ではピックシステムでキャラクターを取り合うことで差別化されるようにしたわけです。

そして、ピックシステムでは先攻後攻で有利不利があります。ちなみに、基本的には先攻が有利な傾向にあるステージが多いです。

ピックシステム導入当初は抽選で先攻後攻を決めるケースもあったのですが、それでは公平ではないので、タイムアタックRoundを実施してプレイの結果によって先攻を勝ち取るチャンスがあるというルールにしました。

※モンスターストライク スタジアム:モンストのeスポーツ大会専用アプリ。無料でダウンロードでき、課金要素はなし。全員が一律で同じキャラクターを使用できるため、公平性が保たれている

――ピックシステムを導入したことで、今のタイムアタックRound+バトルRoundという仕組みに発展していったということですね。そういえば、試合で選手がピックするキャラクターを選択した瞬間にスクリーンにそのキャラクターが映りますよね。

青山:
去年のモンストグランプリから、選手卓にタブレットを設置して、それをポチポチ押してキャラクターを選択できるようにしました。その選択が画面にすぐに出せる仕組みを作っていて、ピック中のテンポ感の悪さを改善しています。

それまでは「1キャラクターめは何にしますか?」とMCから質問されて選手が答えると、裏にいる人がそのキャラクターを表示させるということをやっていました。

内田:
ピック職人と呼ばれるスタッフが裏にいて、選択されたキャラクターをパッと出していました。まさに職人技でしたね。

ピック時に表示されるキャラクター。思いも寄らないキャラクターが選ばれたりすると会場が沸くシーンでもある(【第1戦 東京】モンスト プロツアー 2019-2020より

選手を好きになって応援すればもっと楽しめる

――最後にモンストの大会に興味がある人に向けて、ここを見てほしいなどのメッセージをいただけますか。

青山:
やっぱり一度だけでもいいので、まずは現地でかつ生で観てもらいたいなというのはあります。

eスポーツだけでなくその他のスポーツも含めた競技ものは、結果を知っているのと知っていないのでは全然面白さが違っていて、知っていない状態で観るからこそ熱狂できるものがあると思います。なので、ぜひ現地で楽しんでもらいたいと思います。

一度現地で観戦してもらえれば、配信も現地で見た体験を投影しながら視聴できると思うのでさらに楽しく観ることができるのではないかと。

内田:
ぜひ自分の好きな選手を探してみてください。

私はプロ選手のみなさんと1年以上接してきているのですが、彼らもちょっと前まで一般の人であり、自分の生活があって仕事を持っています。その中でいろいろな葛藤をしながら戦っている姿ってアスリートだなって思うんですね。

そういう彼らを見てもらって好きになってもらう。そして、応援するということをぜひ会場に来る人たちに味わってもらいたいと思います。そうなったらよりいっそう楽しめると思います。

ゲーム内で実施している投票ミッションに参加するなど、この選手を応援するんだという目的を持って会場に来る、あるいは配信を視聴してもらえるとうれしいですね。

写真・大塚まり

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Mako(WPJ編集部)
スマホゲームの攻略サイト、情報メディアを渡り歩いてウェルプレイドジャーナルに流れ着いた超絶新進気鋭の若手編集者。イベント取材では物販やコスプレイヤーに釘付けになりがち。

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