FIFAで海を渡った男マイキーVBL参戦を勝ち取った“運命の一戦”

ハル飯田

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2019年10月、「FIFA」のドイツ国内プロリーグ「ヴァーチャルブンデスリーガ」(以下、VBL)のクラブチームFCニュルンベルクと、同タイトルで日本トッププレイヤーであるマイキー選手との契約が発表された。

国内どころかアジアでも初となるこの挑戦は、どのような経緯で生まれたのか。

日本の競技シーンにおいて常にトップを走り続け、また新たな舞台へ昇りつめたばかりのマイキー選手に話を聞いた。

偶然の一戦に偶然が重なりドイツ移籍へ

――ドイツに渡られてしばらく経過しましたが、現地での暮らしには慣れましたか?

マイキー:
そろそろ2ヵ月になるので、生活自体には慣れました。でも、未だにドイツ語についてはまったく理解してないですね。ただ、ドイツの人は優しいので片言の英語だったり、笑顔だったりでなんとかなっています。

――突然の移籍だったので驚きました。

マイキー:
僕も自分のことですが、急にいろいろなことが起こって、まだ頭がついていってない感じがします。

――改めて、今回のドイツ移籍はどういった背景があったのでしょうか。

マイキー:
まず、以前から強いプレイヤーの多い国に行きたくて「ヨーロッパのリーグでプレイしたい」と漠然とは考えていました。ドイツになったのは、お世話になっていた会社の本社がドイツにあったことがきっかけですね。

――そこで現在所属している「FCニュルンベルク」を紹介されたと?

マイキー:
いや、実はそれがちょっと違います。今回は新作の「FIFA20」の発売に合わせてドイツに渡ったんですが、ドイツ国内で発売を迎えてプレイしていたらトッププレイヤーのKurt選手が45連勝中のところにマッチングして、僕が勝ったんですよ。

そのときは知らずにプレイしていたんですが、Kurt選手は配信中だったので彼の視聴者から「お前、Kurtの連勝を止めたぞ!」ってメッセージが来るなど、ものすごく反響がありました。

しかも、その配信をたまたまニュルンベルクの担当者が僕のエージェントと電話しながら観ていたらしくて、僕が「勝ったよ!」とメッセージを送ったら「この配信でKurtを倒したのはうちのプレイヤーらしい!」と話題になったそうで、そんなに強いんだったらと声をかけていただいた形です。

――すごいストーリーですね……。

マイキー:
そうですね。ドイツでは僕のことを知る人なんていないので、Kurt選手の配信では「知らないヤツに負けた!」と話題になっていました。

本当は別のチームからオファーがあるかもしれないと聞いてドイツに来ていたので、正直ニュルンベルクと言うチームはまったく頭にありませんでした。ですが、もう「翌朝にもサインできる」という話をいただいて、それならニュルンベルクでやってみようと契約しました。

――では、そのKurt選手とのゲームが運命の一戦になったんですね。

マイキー:
そうですね。少なくともあのマッチングがなければ、今ニュルンベルクの一員にはなっていたどころか、VBLに参戦できていたかもわかりません。本当に、運命的な繋がりで今に至っています。

選手活動のためeスポーツビザ取得へ

――生活環境の方はいかがですか?

マイキー:
生活は普通にできていますが、とにかく日本人どころかアジア人がまったくいないので、どこに行ってもすごく珍しい目で見られますね。

困ったことといえば、最初に住んでいた仮住まいがかなり田舎で、ネット環境があまり良くなかったことです。ひどいときはオンラインでマッチングも成立しないので、そこはストレスがありました。

今はようやく新居が決まって引っ越し中なんですが、ドイツは家探しがかなり大変な国らしくて、本当に時間がかかりました。

――これからは練習もはかどりますね。

マイキー:
そうですね、新居の近くにゲーミングハウスがあるので。ドイツの中でも僕が住んでいるところはかなり田舎で、しかも右も左もわからない状況でしたが、Twitterを通じていろいろな方が生活についてアドバイスをくれました。

今回のゲーミングハウスも、実はそのTwitterを通した縁から紹介していただけたお話なんです。代表はドイツの方なのですが、めちゃくちゃ良い人で「あぁ、全然使っていいよ!」と。

ネット環境も法人クラスのプランを複数組んでいて、オンライン環境もかなり良くなりますね。本当に幸運だと思いますし、楽しみです。

――ドイツの滞在にはビザの問題もあるとうかがいましたが。

マイキー:
そうですね、その件ではニュルンベルクの方にも大変お世話になりました。でも「ドイツってすごいな」と思う話なんですが、2020年3月から“eスポーツ選手用”のビザが発行されるという話が出ているんです。

なので、そのビザの発行は決まった際に取得できるように全力でがんばっている段階です。まだ細かい条件については確認している状況ですが、取得できれば心配はなくなります。僕がドイツに渡ってからこのeスポーツビザの話題が出たので、「僕のためのビザじゃん!」と思いましたよ。

実力で勝ち取ったチームメイトからの信頼

――それでは現在のチームに話を移したいと思います。運命的な加入となったニュルンベルクですが、チームとしては好位置(執筆時点で全22チーム中の4位)につけていますね。

マイキー:
本当に絶好調ですね。6位までに入れば無条件でグランドファイナルに進出できるので、そこが目標になります。正直、そこに入ることができれば素晴らしい快挙になると思います。

――実際にドイツで試合をされてみて、どんな点に日本との違いを感じますか? 技術的な面はもちろんあると思いますが。

マイキー:
技術的には、やはり圧倒的にドイツの方が人口が多いので上になるのは当然だと思いますし、レベルは違います。ドイツでサッカーゲームと言えば99%が「FIFA」ですから。

あとは技術的な面以前に、精神的な面が違いますね。VBLって日本の一番大きな大会とは比べものにならないくらいの大舞台なんです。でも現地の選手はそこで場数を踏んできているで、あまり特別には感じていませんし、当然のようにプレイしていると僕には見えます。

――マイキー選手にとってはまだ少し特別感がありますか?

マイキー:
そうですね、でも僕の場合は逆に海外に来てから「特別」の連続なので、段々と感覚がマヒしてきていて、あんまり驚かなくなってきました。違う時代にタイムスリップしたような感覚です。

――お話を聞く限り、ドイツはeスポーツの規模がかなり大きいですね。

マイキー:
ドイツは今、本当に景気が良いみたいで、ビザの件も雇用の促進という意図があるらしいですね。eスポーツ以外のさまざまな分野について、EU圏外からドイツで働けるようになる人が増えると思います。

僕にとってのドイツ語は、もう宇宙人の言語くらいわからないので、こちらに日本人が増えると嬉しいのですが(笑)。

――やはり言葉がわからないとコミュニケーションは難しいでしょうか。

マイキー:
そうですね。英語と違ってなんとなくもわからないですし、文字も違うので。

大文字のBみたいな字を指して「これはBなの?」って聞いたら「それはSが2つだよ!」って言われて。「じゃあSを2つ書けよ!」って(笑)。

でも、チームメイトは僕と話すときには英語も交えてなんとかコミュニケーションしようと、かなり気をつかってくれています。

――VBLのマインツ戦で劇的な決勝ゴールを決めた動画がアップされていましたが、あれを観ると結構馴染んでいるように見えましたが。

マイキー:
いや、どっちかといえばあの勝利でようやく馴染んだかなと思います。わざわざドイツ国外からコミュニケーションの難しい僕を雇ってもらっている以上は「助っ人外国人」みたいな立場ですから、結果を出す必要がありました。

チームメイトもみんな、口には出さないけど少し懐疑的に見ていた部分もあると思うんですが、あのゴールで僕の初勝利とチームのカード勝ち越しが決まったので、とてつもなく大きなゴールでした。

――あのマインツ戦もまた大きな一戦だったんですね。

マイキー:
どことなくチームメイトも接し方が変わったように思います(笑)。

eスポーツに限らず、勝負の世界で認められるためには結果を出さないといけないのは当然ですね。


単身ドイツに渡り、Kurt選手との一戦でニュルンベルク移籍を、そして公式戦でチームでの立場を勝ち取ってきたマイキー選手。

インタビュー後半ではさらなる海外挑戦秘話や、マイキー選手のルーツに迫っていく。

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マイキー選手のプロゲーマーとしての生い立ち、esports部顧問に就任した感想などを語ってもらった。また、世界を舞台に戦ってきたからこそ言える日本のサッカーゲーム事情など、興味深い話も聞くことができた。

記者プロフィール
ハル飯田
関西を拠点に活動するフリーライター。コンシューマー機のeスポーツシーンを得意分野にしており、スポーツとゲームが好きすぎてスポーツゲーム「パワプロ」のプロリーグでは解説者も担当。

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