最後まで迷った就職か選手専業か――Worlds2018で変わったYutaponのキャリア

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■前編記事
両親や内定先からの声援を受け専業へ
――この春に大学を卒業して、いろんな選択肢があったと思うんですが、Yutaponさんの中で進路について迷ったりしたんですか?
Yutapon:
ちょっと……いや、結構かな。結構迷いました。
――というと、就職とか。もしかして引退の可能性もあったんですか?
Yutapon:
選手を辞めるっていう選択肢はなかったです。就職して仕事と並行して選手をやるか、就職しないで選手一本でやるかでかなり迷いました。で、最初は就職した上で選手を続ける方に気持ちが傾いてたんですよ。
――就職先もほぼ決まっていたという話を聞きました。
Yutapon:
そうなんですよ。でも、働きながら選手としてのパフォーマンスを上げていくことが本当にできるのかって考えて、それは絶対無理だろうと。それなら選手一本でやっていきたいという結論にたどりつきました。
ただ、就職先の会社には悪いことをしてしまって……。チームの人に一緒に謝ってもらって、「がんばってください」と言ってくれて。ほんとに申し訳なかったし、ありがたかったです。
――周囲の反応はどうでしたか?
Yutapon:
その会社の方も含めて、みんなとても優しかったですね。Cerosさんは「そりゃそうでしょ、お前が普通に仕事するとか想像できん」って言ってましたけど(笑)。
――(笑)。でも言わんとすることもわかります。Yutaponさん的に仕事をしながら選手をすること自体はどんなイメージだったんですか?
Yutapon:
やればできるんじゃないかなぁとは思ってましたよ。大学も結構忙しい時期があったけど、なんとかここまでやって来ましたし。
――Yutaponさんが高校を卒業するときにご両親が「大学と両立することが選手を続ける条件」という方針だったと聞きました。今回の決断についてはどんな反応でしたか?
Yutapon:
事前の相談もなく急に電話して「就職をやめて選手でいこうと思う」って父に伝えたんですけど、すぐに「わかった、いいと思う」って言ってくれて。あぁ応援してくれてるんだな、ってうれしかったです。電話するときはさすがに緊張しました(笑)。
――大学と両立した4年間で、LoLの選手をしていることへの家族からの温度感って変化を感じてましたか?
Yutapon:
んー、どうなんだろう……。割と早い時期から応援してくれてはいたんですけど、あらたまってそういう話をすることもなかったのではっきりはちょっとわかんないですね。
今考えると、最初から大学を卒業したらその後は好きなようにしたらいいと思ってくれてたような気がします。
――それにしてもギリギリまで就職を考えていたんですね。何か選手一本でやろうと思うきっかけはあったんですか?
Yutapon:
父に電話したのは、去年のWorldsが終わってすぐでした。
――やっぱりそのタイミングだったんですね。
Yutapon:
そうですね。WorldsでDFMは日本チームで初めてプレイインのグループを抜けたんですけど、その後に中国のEDG(Edward Gaming)と当たってボコボコにやられて……。
――あれは衝撃的でした。試合直後のインタビューで「このまま普通のやり方じゃ追いつける気がしないので、今後のことを考えます」と言っていたのを覚えてます。「Yutapon引退しちゃうの」って一瞬ざわつきましたけど(笑)。
Yutapon:
ありましたね(笑)。でも、あの試合は僕の中でかなりショックでした。ここまでやられるもんなのかって。確かに、EDGは格上だし強いことは分かってましたけど、練習ではそこそこ戦えてて、めちゃくちゃな差があるとは思ってなかったんですよ。それが試合になったら手も足もでない感じで。
――BOTの2対2で崩されて。
Yutapon:
そうですそうです、こっちがトリスターナ・スレッシュで向こうがカイサ・ノーチラスで。
――詳細に覚えてますね。それほどショックだったと。
Yutapon:
あのときに、選手一本でやってくって決めました。それで追いつけるかどうかはわからないけど、ゲーミングハウスに入って、集中してやっていかないと追いつける気配もなかったんで。
LoLだけに集中して、みんなでちゃんとチームとして戦っていけばもしかしたらチャンスはあるんじゃないかなって思ったんですよ。本気でやらないとチャンスもないと思ったので、「今後のことを……」っていう発言になったんだと思います。とにかく、このままじゃダメだと。
――あの言葉が「選手専業」を意味してると気づいた人は、ほとんどいなかったんじゃないかと思います。それにしてもあの試合、Yutaponさんのいるレーンがあれほど崩れるのは見たことがなかったので、多くのファンが驚いていました。具体的にはどんな差があったんですか?
Yutapon:
レーンでやられたのは個人技、単純な個人技です。中国チームは本当にそのレベルがすごい高くて。でも、個人技で負けるっていうのはLoLでは結構辛いんですよ。チームでどうこうとか戦術とか以前に、どうしようもなくなっちゃうので。
チームの全員が個人技でも世界のトップに負けないレベルにしないと、そこで押し切られちゃうんだなっていうことを痛感して、しかもそれは地道に練習するしかない。それがキツかったです。
世界で戦うために変化するDFM
――個人技の練習ってわかるようでわからないんですが、何をするんでしょう。
Yutapon:
スキル1つ1つの使い方でも、やっぱり上手い人は違うんですよ。「そこで使うのか」みたいな。
世界のトップクラスのBOTレーンの試合を動画で見て勉強して、チームの仲間と一緒に試して、本当に少しずつ積み重ねるしかない。あと、個人的にはメンタルがでかいと思ってます。
――メンタルですか。
Yutapon:
LoLって、どんなに上手くてもできることに限界があるじゃないですか。キャラの性能は同じだしスキルは4つしかないし。でも上手い人は、自分を強そうに見せてプレッシャーをかけてくる。それにどうしても負けちゃうんですよね。
――同じキャラなはずなのに、世界のトップ選手が使うと圧が違うと。
Yutapon:
なんかあいつら、自信満々で来るんですよ。特に中国の選手は「前に出てきたら負けるのはお前らだぞ」っていう雰囲気を出して前に出てきて。それをやられると、どうしても引かされちゃうんですよね。
――日本ではYutaponさんが圧をかける立場ですよね?
Yutapon:
それは確かにそうです。相手が格上でもそれが練習試合なら「お前らやっちゃうよ」って来られても「こっちもやっちゃうよ」って感じで張り合えるんですけど、本番はそうはいかないじゃないですか 。強気で来られると「負けたら困るな」ってこっちが思わされて、下がっちゃう。本番と練習試合のメンタルは結構違うんで。
――あのWorldsからちょうど半年が経ちました。「このままじゃダメだ」っていう感覚は消えそうですか?
Yutapon:
チームの意識としては相当変わりました。戦い方も、去年はEviさんのTOPレーンの強さに頼って、その周りでゲームを動かして勝つ1つのスタイルだけで戦ってたんですよ。
でも、今はアクションを起こせる場所が増えて、どこからでも相手を崩せるチームになってきてると思います。
――今シーズンのDFMで一番印象的だったのはその変化でした。意識的にスタイルを増やしてきたんですね。
Yutapon:
僕もメンバーも痛感したのは、LoLは1人が強いだけじゃ絶対勝てないっていうこと。しかも、4人が強くても1人が足を引っ張っちゃうと勝てないゲームなんですよ。
そう考えるとEviさんに頼るプレイスタイルってチームとして成立してないというか、そもそも間違いなんですよね。そうじゃなくて、全体で強くなる必要があることに気づいたことが最大の変化だったんじゃないかなと。
――興味深いです。逆に言うと、EDGに負けるまでは「全体を底上げしよう」っていう意識はそこまで強くなかったっていうことですか。
Yutapon:
そうですね。国内では1つの戦術で勝てたし、勝てるから止める理由がなくて、でも強いチームにあんな風に負けて。そこでみんなが限界を感じて、何かを変えなきゃいけないねって自然に意識が統一されました。
――国際大会の経験ってよく言いますけど、そうやってチームを成長させるんですね。ただそうするとちょっと気になることもあります。客観的に見て、DFMは国内で頭1つ2つ抜けた存在、他のチームと総合力で言えば差がある状態だと思うんですよ。まずこの認識はどうですか?
Yutapon:
実際、そうだとは思います。正直に言って、今のチームは過去最高に強いです。
――個人の足し算でもチームとしての総合力でも、1強に近い状態になっています。そうすると聞いてみたいのは、Yutaponさんのキャリアとしてさらなる成長を考えたときに、海外移籍とかを視野に入れてたりするのか、っていうことなんですが。
Yutapon:
現状のチームだと、海外はまったく考えてません。今のDFMはチームとして弱い部分がないんですよ。そういうチームでやれるのは本当に大きくて、全体の練度とか精度を上げていけば強くなる手応えがあるんで、ここで強くなっていきたいです。
――チームとして上積みを乗せていく土台ができている、と。
Yutapon:
チーム内で選手の強さにばらつきがあるのって結構問題で、強い人は不満を持つし、下の人は「俺はなんでできないんだろう」ってネガティブになって悪循環になっちゃう。今のDFMはそれがなくて前に進むだけなんで、ほんとそれはでかいです。
――自分が海外に飛び込んで武者修行というよりは、DFMで世界のチームに勝つためのレベルアップをしていく、国内は通過点として優勝する、と。
Yutapon:
それが一番いいと思ってます。
周りから天才と呼ばれるけど……
――ちょっと話は変るんですが、Yutaponさんってシーズン始まるのは楽しみな方ですか? SNSを見てると選手によって「早く始まれ」っていう人と「もう始まっちゃう」っていうのでタイプが別れるなと思ってるんですが。
Yutapon:
僕の場合は、オフシーズンにやりたいことがあるかどうか、ですかね。数年前はFPSも結構やってて、「CS: GO」とか「Overwatch」が出たときはちょっと「まだシーズン始まらなくていいよ」って思ったかもしれません(笑)。
そういうのがないときは「早くやろうぜ」っていう感じですね。
――結構いろんなゲームをやってる印象はあります。今はLoL以外で何かやってますか?
Yutapon:
最近はDota2のオートチェスをみんなでやってるぐらいですかね? 他はそんなにない……と思いたいです。
――すいません、聞いちゃって(笑)。でも、シーズンが待ち遠しくなったりするんですね。プロゲーマーっていう仕事はやっぱり楽しいですか?
Yutapon:
楽しいですね、正直楽しくなかったらもうやってないですよね。こんな風に生活していけるのは、もうほんとありがたいというか。
――どの辺りがYutaponさん的には楽しいポイントなんでしょう。
Yutapon:
同級生の就職活動とかを見てても、仕事としてやりたいことを選択できる人って本当に少ないんじゃないかなと思ってて。そんな中で一番、本当に一番やりたいことをやって生きていけてるだけでありがたい、感謝って感じです。
――確かに、就職活動はしんどいですからねぇ。
Yutapon:
内定もらえたからその会社に行くしかない、っていう話も何人も聞きましたからね。ほんとに恵まれてるなというか、ありがたい話だなと。
――「楽しい!」っていう気持ちはどんなときに感じるんですか?
Yutapon:
集中して練習に打ち込めるのも最高だし、僕は試合をするのも割と好きな方で。あとは試合を見返したときに、自分のプレイに対して実況解説が乗ったり、見た人がいろいろ話したり盛り上がってくれてるのを見るのが結構好きなんですよ。
――おお、そうなんですね。割とポーカーフェイスな方だと思うんですけど、見られてることも楽しんでるんですね。
Yutapon:
そうですね、自分のプレイで人が盛り上がってくれるのは、うれしいっていうか面白い話だなって思うんで好きですね。
――ちなみに、自分が人を沸かすプレイをする方だっていう自覚はありますか?
Yutapon:
たまに変わったことを狙ってやるんですよね。なんていうか、「普通の方法でやらない」時があるというか。なんで、珍しいプレイになることはある方かなと。
――周りのプロ選手からも「Yutaponは何が見えてるかよくわからない」ってよく聞きます(笑)。ファイナルも1人だけ「勝ち確!」って叫んでたんですよね。
Yutapon:
フォーチュンはやりこんでて、何ができて何ができないかをよくわかってたんで。ファイナルの最後の集団戦も、途中で「あれ、これ絶対自分死なないじゃん」って気づいたんで、負ける要素ないかなって。
――タイプとして「天才」と呼ばれやすいだと思うんですけど、その称号はどうですか?
Yutapon:
それですよねぇ。正直、割と違和感はありますね。今の僕のプレイスキルとかって積み重ねなんですよ。本当にLoLはシーズン1からやってきているので、その経験値だと思うんですよね。
シーズン1から知り合いだった日本人プレーヤーも今はかなり減っちゃって。だから、「天才」とかそういうのじゃないんじゃないかなあと思ってますけどね。
――では、自分で特殊スキルだなって思うことはありますか?
Yutapon:
どうだろう、あやしいなぁ。あったとしても自分じゃわからないのかな? って感じですね。あるといいなとは思いますけど。
――こうやって喋るのはYutaponさん的にはどんな感じですか?
Yutapon:
あんまり得意じゃないですけど、ゲーミングハウスに入るときに、増えるだろうなぁって覚悟はしてきました(笑)。
――なんかすいません(笑)。
Yutapon:
プレイを見てもらって、それで盛り上がってくれるのはうれしいんですけどね。喋るのも何とかしたいと思います。
――今日は長時間、本当にありがとうございました。来シーズンも楽しみにしてます。
学生との二足のわらじから選手一本でやっていく覚悟を決めたYutapon選手。その結果が、2019 Spring Splitでの優勝や平均KDA1位という成績にも表れているかのようだ。
昨年のWorldsに引き続き、DFMはこれからも世界を相手にしていく。
頼れる仲間たちとともに、世界をあっと言わせる準備はできている。
写真・大塚まり
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