だいこく噺 第八回「格闘ゲームとの出会い」

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「ストリートファイターV」トッププレイヤー兼プロゲーマーのだいこくが綴るコラム「だいこく噺」。第八回は、初心に帰って“なぜ、格闘ゲームをやり始めたのか”について語ってくれた。意外なエピソードはもちろん、あの伝説の一戦まで裏話満載。
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格ゲーとの出会いは兄の影響
みなさん、こんにちは。今回は初心に帰り、自分が“なぜ、格闘ゲームをやり始めたのか”、そして“どのような形でプロゲーマーになったのか”を書いていこうと思います。
格闘ゲームを始めたのは、兄貴の影響でした。
10代の頃に、兄貴が家庭用の「バーチャファイター4」「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」「アルカナハート」を購入してきて、ずっと一緒にプレイしていたのが原点です。当時は、黙々と2人で対戦していて、ただガチャガチャ動かすだけでも「格ゲーって楽しい!」と思っていました。
それから少し時間が経ち、「ストリートファイターIV」が稼働したタイミングからゲーセンに通い始めました。ですが、まだ気楽にプレイしていたほうで、そもそも当時はカードゲームをメインに遊んでいましたね。
そんなある日、某動画サイトに投稿された「せんとす」さんの格ゲーの動画を見て、「このジャンルやり込むとむちゃくちゃ面白そうだぞ!!」と思い、衝動買いのようにRAP(リアルアーケードPro.:ジョイスティック型コントローラー)を購入しました。今思うと当時の自分にとってはかなり高い買い物だったと思います。
RAP購入後は、そこそこにやり込んで数年くらいでPP(プレイヤーポイント)2,000まで到達するようになりました。
格ゲー仲間と大会初出場
転機になったのは、「スーパーストリートファイターIV アーケードエディション」の後期くらいに出会った、同じ配信者であり今でも友人の「いおり」の存在です。
生放送上で知り合った彼には、まだPP2,000だった自分を、PP4,000になるまでずっとていねいに教えてくれました。
それまで格闘ゲームは、家庭用でやっても、ゲーセンに行っても、ただなんとなく遊ぶものくらいにしか思っていませんでしたが、初めて格闘ゲーム関連の友人ができたことで、考えが変わりました。「どうやら格闘ゲームが今までやってきたゲームの中で一番肌に合うらしい」……そう感じたのです。
そんな考えが変わった数年後、「第三回 TOPANGAチャリティーカップ」が開催されます。
今まで知り合いと格ゲーの大会に出るなんて考えもしなかったのですが、物は試しでいおりを誘ってみたら、快く快諾してくれて一緒に出場することとなりました。これが大会初出場です。そういう意味では、自分のなかでは特別な大会でしたね。毎年出場していますが本当に楽しいです。
また、普段はネットの中だけで対戦していた人たちとも会場で初めて会いました。最初は緊張しましたが、いざ会うと格闘ゲームという共通の話題ですぐに打ち解け、初大会ながらもとても楽しかったのをよく覚えています。
大会経験後は、定期的にいおりの友人宅に集まり、いわゆるオフ対戦を繰り返すようになって「格ゲーが面白すぎる! もっともっとやりたい!」とのめり込むようになりました。若気の至りといいますか、当時の配信では過激な発言も飛び交っていましたが、今も仲良くさせていただいている方々はこのあたりから知り合いになっていきました。
知り合いも増えて、ますます格ゲーが楽しくなってきた最高のタイミングで、「ウルトラストリートファイターIV」が発売。当時はPP4,000程度でしたが、訳のわからない謎の自信に満ちあふれていて「俺は格ゲーで一番になってやるんだ!」という気持ちでした。
この頃からニコ生で配信していたのですが、30分配信してコメント0、来場者2という誰も見に来ない、いわゆる過疎配信者でした。
しかし、ある日、ゲーム配信のパイオニアである総師範KSKさんが「こいつ、30分間コメントもまったくないし、誰も見に来てないのにずっとしゃべってるんだよ。みんな見に行ってやってくれ」という煽りも交えて宣伝してくださったおかげで、100人くらい視聴者が増えました。
これには今でも本当に感謝していますし、何よりKSKさんが見てくれてたというのがとても嬉しかったです。
だいこく最大の転機となった伝説の一戦
自分を見てくれる視聴者ができたこと、友人ができたことなど、格闘ゲームそのものが特別なものになってきた折、ストIII3rd闘劇覇者でもある「井上」さんのTwitterを見ることになります。
井上さんは、俺がずっと好きなシリーズのスト4の不満点を漏らしていて、シリーズを愛していた自分はすこぶる腹を立てて、“喧嘩”をふっかけたのです。このときの一件は、割と記憶に残ってる方もいると思います。
今思い返せば、そのときの自身の発言内容もひどいものですが、どうしても許せなかったのでしょう。
そして、どちらが正しいのかを、ここは格闘ゲーマーらしく10本先取で勝敗を決めることになりました。いわゆる先に10回勝利したほうが勝利。勝ったほうが正義、負けたら罰ゲーム。このルールで勝負した結果は……10-1で自分の敗北でした。
このとき、格闘ゲームをプレイしてきて初めて心が折れました。
しかし、井上さんは「罰ゲームはいりません。ただ、ストリートファイターには歴史があります。だいこく君が想像もつかないような熱量を燃やして人生を賭けたおじさんがいます。そんなおじさんが最新作に寄せる期待と裏切られた悲しみによる愚痴を、これからは少し許してください」……そう言ってくださったのです。
だいこく君。
罰ゲームは要りません。
ただ、ストリートファイターには歴史があります。
だいこく君が想像もつかないような熱量を燃やして人生を賭けたおじさんがいます。
そんなおじさんが最新作に寄せる期待と裏切られた悲しみによる愚痴を、
これからは少し許してください
— INO|井上 (@vs_ino) October 30, 2015
なにからなにまで自分の負けで本当に辞めたくなりましたが、ふと考えて「俺のやり込みって本当にやり込んでいたのかな」と同時に気付かされたのです。
第一線は退いていたとはいえ、井上さんはずっと格ゲー界で勝利してきた人。俺は自分なりにやってはいたが、いざ対戦してみるとテクニックはもとより、圧倒的に熱量が劣っていた。負けたのは言ってみれば当然……だったのかもしれない。
これに気付かされた俺は、これまでとは比較にならないほどにやり込みました。そういう意味では、自分の中での敗北が最大の転機。
朝起きると格ゲー仲間である「コサク(前:かっちブー)」「ぎょあ」「そぼろんぐ」「めろんそーだ」「うんす」「しんどいね」「ずんにい」たちとSkypeをかけて、寝るまで対戦やゲームを教えてもらうという生活をやり続けました。このときの出来事と経験がなければ、今の自分は絶対にありえないと思っています。
忘れられない時間をくれたゲーム
これまでとは違うやり込み、取り組み方をするようになったころ、ちょうど大会「西セガ 5on5」が開催されることになりました。
当時は、すでに次回作の「ストリートファイターV」が発表されていて、この大会でウル4は“卒業”という流れが世間にもあったと思います。
なので「ここが俺の、俺たちの、スト4シリーズの集大成だ」と本気で挑みました。
チームはいつも教えてくれていたメンバーたちも交え「だいこく、うんす、そぼろんぐ、しんどいね、ずんにい」で出場することになり、もうほかのことを考える暇もないほど、ただただ練習していました。
組み合わせが発表され、1回戦目はチーム「タイステ村」。このチームは、いわゆる一番流行ってるゲーセンのTOP5人が集まっていました。周囲の知り合いたちからは、戦う前から「おつかれ」「残念だったな」みたいなことを言われましたが、チームの5人の中であきらめていたやつなんて誰もいなかったです。
どうやったら勝てるかを皆で相談したり、いろんな方々に対策を付き合ってもらったり、実際に集まって猛練習したりと、最高の時間でした(実は、このときマゴさんにも教わりました。ありがとうございます)。
自分は中卒で部活なんて真面目にやったこともなく育ってきたので、思い返してみるとあのときは完全に青春していたと思います。恥ずかしい響きですが、今でも大切な思い出です。
本番当日は「今日はやってやるぞ!!!」という意気込みで挑みました。知り合いも筐体に集まって応援しに来てくれて、いよいよ試合開始。
みんなラウンドを取って追い込みはするものの流石のタイステ村チーム、猫舌さんのアベルに5タテされて1回戦敗退。
試合が終わった瞬間、今までの時間を思い出し「これで俺のスト4は終わったんだ」と思ったとき、筐体の前で悔しすぎて本気で泣きました。他のチームメンバーも泣いてたと思います。
試合が終わり、みんなで飲みに行って今までのことや今日あった試合のことをずっと話して出た結論が、「このままじゃ終われない」。この数ヵ月後に名古屋の5ONが開催されることになり、そこに挑むために変わらずやり込み続けました。
おそらくこの期間だけは、世界で一番ウル4をやっていたと自負します(笑)。
自分では気が付いていませんでしたが、もう完全に格ゲーマーになっていましたね。
今はもうウル4はほとんど触っていませんが、今でも大好きなゲームです。自分を格ゲーマーにしてくれて、かけがえのない友だちができて、忘れられない時間をくれたゲームに本当に感謝しています。
ここまでが俺が格闘ゲーマーになるまでの話です。
次回はストVの話からプロになるまで、なにをしてきたのかの話をしようと思います。青くさい文章だったとは思いますが、また次回も良かったら見てください。
だいこく:ウェルプレイド所属のプロゲーマー。強気な攻めと大舞台でも萎縮しない強靭なメンタルで戦うプレイヤー。豊富な実戦経験から繰り出される一撃で数々の強豪プレイヤーを沈めている。
名前:だいこく
Twitter:daikoku_GO
Openrec:WP|だいこく
Blog:配信者だいこくのブログ
大会実績(一部抜粋)
2017年 ThaigerUppercut Championship 2017 7位
2017年 Manila Cup 2017 9位
2017年 TWFighter Major 2017 5位
2018年 ストリートファイターV ARCADE EDITION 闘会議GP大会 9位
■成長を続ける男、「ストV」トッププレイヤー“だいこく”に迫る

Capcom Cupに出場するため、そして優勝するために海外大会を遠征している猛者がいる。その名も「だいこく」。ストリートファイターVにおいてトッププレイヤーであり、強気な攻めと大舞台でも萎縮しない強いメンタルで強豪プレイヤーたちと日々戦っている。